12話 治療と魔具師
【帰還の玉】が発動し、一瞬で親玉が設置してある倉庫に転移する。かなり魔力をもっていかれたみたいで頭痛と倦怠感がやばい。ざっと確認するがコクオウも獲物も無事転移できたみたいだ。魔力量的にも倉庫の容量的にもギリギリだった。
「リョウか?
うわなんだこれは…トロル。へっ、ボ、ボストロルかこれ…なんちゅう数を。
リョウ大丈夫か?って大丈夫そうには見えないな…待ってろ、今フーじいを呼んでくるっ」
返事をする前にケミラスが一人で慌てて、一人で答えを出して行ってしまった。相変わらず慌ただしいヤツだ。まあフーじいさんを即行で呼んで来て欲しかったからいいんだけど。あいつもいい年で魔具師なんて商売してるんだから、もうちょっと落ち着いてもいいと思うんだけど。
そういえばあいつなんで俺が帰ってきたってわかったんだろ…
あーだめだ、痛みと疲労で頭が働かん。
コクオウそんな心配そうな顔をすんなよ、多分大丈夫だって。多分。
なんだかフワフワしてきた…あれ、これってやばいん…
「お、リョウさん目が覚めたネ、良かったヨ。かなり危なかったカラ。
臓腑が二つ破れてたネ。右手もグチャグチャに潰れてたけど、元に戻るヨ。よかったネ。
勝手にボストロルの肝と魔結晶使ったけど許して欲しいネ。あれないとリョウさん多分死んでたカラ。
運良かったネ、新鮮なボストロルの肝、最高の薬になるカラ。体力的にギリギリだったけど、目覚めたならもう大丈夫ヨ。
体痛いとこ、おかしいとこないカ?あれば教えてネ…
うんお腹減ったカ?わかった、今お粥もってくるヨ。
それからケミラスさんに感謝することネ。彼女が急いでわたしに知らせてくれなけばリョウさん死んでたネ。」
フーじいさんの話を聞いてわかったこと。
①どうやら俺は死にかけていたらしい。内臓が二つ破裂し右腕はおしゃか、そりゃ痛いわけだ。ケミラスとフーじいさんには大感謝。
②ボストロルの肝はかなりの回復を促す薬となるらしい。腕を生やしたり、失った内臓を再生させたりは流石にできないみたいだけど。【霊薬】ほどではないにしろ一般の治療薬とは比較にならない効能がある。
しかし優れた効果を発揮する薬を作るためにはいろいろ条件があるみたいで、新鮮であることや、適切な処置を施さねばならないなどいろいろ難しいみたいだ。今回俺を回復させたような効果ある薬はなかなか作れないらしい。
また、回復には相応の体力が必要らしく、体力がないものが服用すれば、薬の強さに負けて最悪服用者が死んでしまうこともあるらしい。まあ生きてるからいいけど。
③ボストロルやトロルなどの戦利品についてはケミラスがギルドに持っていき、依頼完了の処理、素材の売却等の諸手続きを終わらしてくれたとのこと。依頼料と素材の売却で合わせて金貨22枚と銀貨5枚。
内訳は、
ボストロル:討伐金貨1枚、素材金貨9枚
トロル:討伐(依頼)銀貨36枚(6体×6枚)、素材金貨8枚銀貨10枚
ボーナス:銀貨10枚
跳蜘蛛:素材銀貨14枚(2匹×7枚)
土トカゲ:素材銀貨10枚(2匹×5枚)
トロルから二つも魔結晶が手に入ったのはラッキーだ。銀貨15枚で金貨1枚になるので計算もばっちり合っているし文句はないな。素材の解体料をギルドから引かれてるんだろうけど、許容範囲だ。ボストロル素材や跳蜘蛛の肉なんかはこっちで使いたかったけど売ってしまったんならしょうがいない。
④完治には1月ほどかかるらしい。無理に動かせばせっかく繋がった腕の神経や骨や傷、塞がった内臓がダメになってしまうとのことだ。安静にして療養すること、つまり入院を勧められた。この機会に他の負傷箇所も治してしまいたいらしい。お代は占めて金貨3枚と銀貨8枚なり。けっこう痛いが命には代えられないので謹んでお受けする。
武具の整備やアイリとミリーへの状況説明、ケミラスへのお礼はフーじいさんに頼んで使いを出してもらった。武具を他人に預けるとか抵抗あるし、世話になった人には自分で挨拶なり状況説明をしたいところだけど無理してもしょうがないし、今回はポリシーを曲げることにする。
ハヅキとの関係はゴンズの親爺にしか知られていないので、親爺にはハヅキへの状況を説明する旨の手紙を出しておいた。あんまり心配かけたくないものだ。
ゴンズの親爺とハヅキへの手紙を書き終わると眠くなってきた。怪我人の仕事はしっかり食べて、寝ることだと言われたのでお勤めを果たすことにする。
おやすみ。
…ウ …ウ! …ョウ! 起きろバカリョウ!
「あっだっ…ってケミラスか。
俺、重傷で今療養のため安静にしてるとこなんだけど、わかってる?
ってかなんで殴られて起こされたの?」
「それはわたしがお前に用があるからだ。なんだ、命の恩人の来訪を嫌がるようなヤツなのかお前は?」
「そんなことないけど、もうちょいやりようってものがあるんじゃない?
で用ってなによ?」
「つまらんことグチグチと言うな、男が下がるぞ。
それで用件だが、なに簡単なことだ、破損した倉庫の修繕費、ギルドへの報告及び諸手続き代行の手間賃、そしてわたしへの慰謝料、占めて金貨7枚さっさと払ってくれ。」
「はっ!?
金貨7枚だ。ちょっとそりゃ高すぎるんじゃない。
って慰謝料ってなんだよ、慰謝料って。
倉庫の修繕、ギルドへの報告の手間賃とかならまだわかるよ。
でも慰謝料ってなによ?俺、お前に何かしたか、慰謝料を払わなけりゃならない何かを!?」
「ああしたぞ。というか無自覚なのか。やれやれ恐ろしいことこの上ないな。
よしわかった、いいだろう。それではわたしが、被害を受けたわたし自らが説明してやる。しっかり傾聴するように。」
なんだその持って回した言い回しは...女優かなにかですかあんたは?
「まず一つ目、お前が物量も考えず転移してきたおかげで、わたしが父から譲り受けた、大切な、思い出がつまった家屋が破損してしまった。たしかに金さえかければ修繕は可能だろう、しかし思い出のを傷つけられたことには変わらない。
わたしのか弱い心は大変に傷ついた。
二つ目、お前が運んできた獲物についてだ。なんておぞましいものを見せてくれたんだ、わたしは戦闘とは無縁の一般人なんだぞ。なんだあの醜悪な顔のトロルは、おまけにただでさえおぞましい顔なのに目玉飛び出していたり、鼻が潰れていたり…あれを見てから夜中にトイレに行くのが怖いんだ。もし漏らしでもしたらどうしてくれるのだ。
そして最後に三つ目、これが一番わたしに衝撃を与えてくれた。リョウ、断っておくがわたしは女だ。それも男を知らないまごうことなき乙女だ。そんなわたしになんてモノを見せつけてくれたんだ。治療のためフーじいがお前の服を脱がしたんだが、なぜお前の一物はそそり勃っていたんだ、バカなのか。わたしは初めて見たんだぞ。正直大好物だったマレ茸を今後食べられる気がしないどうしてくれるんだ。お前のマレ茸をみてから、寝ても覚めてもマレ茸が頭から離れない、本当にどうしてくれるっ!
以上の3点をもってわたしはお前に慰謝料を請求する。」
えっ…ケミラスって処女だったの…じゃなくてなんで俺おっ勃ててたの。あれか、命に危機に瀕すると人間子孫を残しやすくなるようにっていうあれか…もし本当に俺のマレ茸がエレクトしてたんならちょー恥ずかしいんですけど。治療中ってことはフーじいさんにも見られたってことか、なんかケミラスに見られるより恥ずかしいんだけど。
「そ、そうだったのか。それは大変申し訳ないことをしたな…
わかった、金貨7枚払おう。命の恩人に変なトラウマをあたえてしまうことは俺も本意じゃない。金で解決できることじゃないけどこれでその傷ついた心を少しでも癒してくれ。
それと厚かましいようで申し訳ないが、【帰還の玉】を一つと…」
慰謝料といっしょに今回消耗した魔具プラスαの代金をケミラスに渡しておく。なんか金を渡すとき手が触れるとケミラスが顔を若干赤らめてたけど気のせいだよな。
ケミラスは金を受け取ると「養生しろ」と言い残してさっさと帰ってしまった。なんだかんだ俺の体調を慮ってくれたみたいだ。金にうるさくて、皮肉屋で、理屈屋で不愛想だが、ふとした時に見せる優しさのせいで憎めない。折角かわいい顔してるんだからもっと愛想よくしてりゃいいのに。そうすりゃすぐにでも男の一人や二人できるだろうにもったいないやつだ。




