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9話 トロル討伐2

【イシュオラの涙】トレパの樹液、甲鉄蜂の体液、アカマダラの血が合わさった液体に多量の魔素が溶け込んだ劇物。甘い匂いで肉食獣を引き寄せる。引き寄せられた獣は極度の興奮状態に陥り死ぬまで暴れ続ける。その破壊の対象は動くモノ全てで、同族でも殺しあう。森系統の魔境では月に一回程度の頻度で自然に発生し、巻き込まれ命を落とす者が後を絶たない。人工的に作成することも可能だが、原料となる甲鉄蜂、アカマダラが共にCランクの魔獣であるため確保が困難。作成中の事故で滅んだ町や村もある。サジエラ領が属するサンシスコ王国では軍、研究機関等の一部例外を除き所持、作成は禁じられており、違反者は死刑に処される。

                     


             

 この前ぶっ潰した【山嵐】とかいった盗賊が隠しもっていた【イシュオラの涙】を〝たまたま“ギルドに申告するのを忘れしまい、またその危険物が〝偶然”荷物の中に入っていて、水を飲もうとしたら〝うっかり“間違えて取り出してしまい、〝びっくりして”思わず投げてしまったところ、〝不運“にもトロルを討伐して気を抜いていたパーティーのところで割れてまき散らされてしまった。


 不幸な事故である。不慮の事故である。


 幸いにも散布された【イシュオラの涙】は極少量だったから、精々半径500メートル程度の肉食獣が引き寄せられる程度だろう。採掘場からは十分に離れているため、被害を受けるのはトロル討伐パーティーくらいだろうし、彼らにしてもトロルに勝てるくらいの実力はあるのであっさりとこの局面を切り抜けることだろう。むしろ獲物の方から寄ってきてくれるフィーバータイムに感謝してるんじゃないだろうか。不幸中の幸いとは正にこのことじゃなかろうか。




「あああぁぁあががああっ」


「お、俺の手があああああああ」


「く、くるな。くるなくるなくるなくるな…うわーーー」


「いてーよいてーよ。た…すけ…」


「なんだこりゃっ。やめろ。どっかいってくれ。」


 な、な、なんということだ勇敢にもトロルに打ち勝ったあのパーティーが、自信に満ち溢れたあのパーティーが、俺に喧嘩を売ってくれちゃったあのくそパーティーが見るも無残なくらいに蹂躙されている。


 【イシュオラの涙】は肉食の獣の本能を刺激し攻撃的にさせるが、なぜか人間を優先的に攻撃させるみたいだ。獣どもは他の獣には目もくれず一直線に彼らに突撃している。


 うわ、生きたまま喰われるとかマジで勘弁。自分あんな耐えられないっす。


 蹂躙される彼らを助けてやりたい…しかしそれはできない。傭兵には、探索者に、狩人には掟がある、それすなわち「他人の獲物は他人のもの、決して奪うべからず」という古き悪しき慣習だ。今すぐにで彼らを助けてやりたいが、忌まわしき掟のため涙をのんで、指をくわえて見ていることしか俺にはできない。


ああ無情。




 奮戦虚しくクソパーティーは獣たちに食い散らかされてしまった。南無。

 集まってきたのはオオカミが8頭、跳蜘蛛が3匹、四ツ手猿が6頭、土トカゲが2匹にコボルトが7体。この中で優先的に狩るなら四ツ手猿だな。あいつらはすばっしこくて死角から攻撃してくるからムカつくんだよな。しかも素材としてもおいしくないし…さっさとぶち殺しますか。


 右手に魔力を込める。正確には握り込んだ厳鉄に。厳鉄は堅く、魔力への親和性が高い。俺が魔力を通せる数少ない物質の一つだ。大きさはパチンコ玉くらいで、形は少し歪だ球形だが投げるぶんにはまったく問題ない。そこそこの重量もあるし、魔力で身体強化した俺が投げればショットガンばりの威力が出せる。

 気づかれる前に先制攻撃といきますかっ!


「せいっ」


ボンッ パン ボンッ ボッボンッ パパン ボンッ ボンッ 


 厳鉄がぶつかった瞬間に爆竹みたいな音が鳴り響く。まあ威力は爆竹なんかの比じゃないんだけど。俺の唯一の遠距離攻撃魔法【静かな花火】。有効射程距離は約30メートルでそれ以上は込めた魔力が散ってしまいただの投石攻撃になってしまう。

 【静かな花火】の発動条件は強い衝撃を受けることで、一定以上の衝撃さえあれば不発ということはなく、なかなかに使える攻撃手段なんだけど、改善すべきところもある。体の外に放出された魔力のコントロールが苦手なため、一度魔法として発動してしまえば解除できない。つまり間違えて味方に当たってしまうと爆発するとういうことだ。ついこの前も誤爆で2人ほどが天に召されるという不幸な事故が起きてしまった…

 くらってしまった四ツ手猿の肉片が飛び散る。頭や胴体にくらった3頭が即死で、2頭が手足を失ってる。近くにいたオオカミも巻き添えで4頭が死にかけている。ラッキー。正直コントロールにはあんまり自信がなかったんだけど初手にはしてはかなりの成果なんじゃないかな。


グオオー フシュルルッ ギーギー


 まあ流石にばれるか。たいしたことない相手とはいえ敵意を向けられると少し怖いな…


 まあやりますか。


 迫りくる獣どもを迎えうつべく俺も突撃する。全身を魔力で強化し、突撃の勢いのまま左手で愛用の大鉈【カチ割り】を振るうと、ほとんど抵抗もなくコボルトの頭が、腕が落ちる。もう少し手応えがあった方が気持ちいいんだけどまあいいか。


 噛付こうと大口を開けて間抜け面をさらしている土トカゲには蹴りをくれてやり、後ろから襲い掛かってきた四ツ手猿には右手で裏拳をぶちかます。

 肉を殴る感触に戦意が高まる。トカゲは頭が潰れて目玉が飛び出し、猿は衝撃で首がちぎれてしまった。もろいな。


 金にならないオオカミには【静かな花火】をプレゼント。【カチ割り】を口にくわえて両手でスナップを利かせてのサイドスロー。放たれた厳鉄はだいたい狙い通りの所にとんでくれオオカミを蹂躙する。ボンッというかわいい音には似合わない破壊力でミンチができあがる。きたねぇ花火だ。


「うおっ」


 投げた後の隙をつかれて跳蜘蛛に組み付かれてしまった。流石にこの中の魔獣では最高のDランク、気配の殺し方、瞬発力ともになかなかのものだ。

 が、問題なし。力が弱すぎる。30キロくらいの体重しかない蜘蛛の突進なんぞ身体強化中の俺には軽すぎる。組み付かれたまま【カチ割り】で頭を叩き潰す。カニミソそっくりの脳ミソちゃんこんにちは、後で焼いて食べてあげるからね。


 獣同士でも殺しあってくれたおかげで残りはあと少し。さっさと片付けますか。

 


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