3-2:面倒事
やっと家以外の場面ですよ……
家族に見送られシュノールは、王都ダレスに向けて出発した。これからは一人だな、なんて思いつつ馬車の中を見ると、そこには荷物と一緒にメイドのルシアもいた。
「………どうしてここにいるんだ?」
あの日以降敬語や丁寧語を使うのをやめた、というかやめさせられたシュノールがルシアに聞く。
それを聞いたルシアは、何言ってんだコイツ的な顔をしながらこう言った。
「私はシュノール様のメイドです。なので付いて行く必要があります。」
「いやいや、そんなこと────」
「あります。」
「いや、だから────」
「あります。」
「はぁ……勝手にしろ。」
「はい♩」
これ以上は言っても無駄だと判断したシュノールは好きにさせる事にした。
シュノールが馬車の中で、コイツは一体いつの間に忍び込んだんだ、などと考えているうちに最初に寄る予定の小さな街が見えてきた。
◆◆◆◆◆
「はぁ、やっと中に入れたな。」
シュノールとルシアが乗った馬車が、街の入り口な並んでから約一時間が過ぎて、やっとの事で街の中に入ることが出来た。
小さな街だが他と交流が盛んなのか、街の入り口には商人と思われる人が乗った馬車が沢山並んでいた。
その所為でシュノール達が街の中に入るのが遅くなったのだが。
取り敢えず街の中に入れた事だし、まずは宿の確保からだな。それから少し遅いが昼飯を食べるとするか。
こんな風にこれからの予定を建てて行動を開始するシュノール。
馬車は使用人の一人に任せて、まずは宿を捜す所から始めた。
この行動が後にあんな事に巻き込まれるなどと、この時のシュノールに分かるはずもなかった。
◆◆◆◆◆
「はぁ、完全に迷ったな。」
「はい……申し訳ありません。もっと私がしっかりしていれば……」
宿を捜しつつ、どこか昼飯を食べれる場所がないかと街の中をキョロキョロしながら歩いていたシュノールとルシアは、気付けば迷子になっていた。しかも迷子になったのが自分達が全く知らない街なので、どうしたものかと絶賛悩み中である。
しかし、そこで立ち止まっていても状況は何も変わらないので、取り敢えず歩き続ける事にした。
それから歩くこと十分。状況は更に悪化していった。やはり慣れない土地で当てずっぽうに道を選び歩いていくのはまずかったのだろう。
シュノール達は柄の悪そうな人達や、痩せ細った子供達がいる、所謂貧困街、スラム街と呼ばれる場所に来てしまっていたのだ。
「………明らかにここは違うな。」
「そうですね。」
来た道を戻ろうかと考えたが、この世界の貧困街に興味を持ったシュノールは、少し歩いて見て回ろうと考えた。
貧困街を歩くこと五分。飢えに苦しむ人々が、食べ物を求めてゴミ溜めこような所を漁っていたり、路地裏では略奪などが平気で行われていたりしている。しかしシュノールからすれば対した事ではないので全て無視しているが。
シュノールは田舎から出てきているとはいえ、着ている服などは貧困街の人々からすれば十分高級品に見えるので、当然狙われるのだが、地球で身につけた暗殺者としてのオーラ、絶対的強者の覇気のようなものを本能的に感じ取った彼らは、手を出すことが出来なかった。
「キャァァーー!!」
「……なんだ今の声?」
そんなこんなで歩いていると、突然女の叫び声がシュノールの耳に入った。少し気になったシュノールは声のする方へと歩いていく。
建物の陰から様子を伺うと、そこには自分と同じ位の歳の子が二人組の男に捕まっていた。
「嫌っ!離してよ!誰か、誰か助けてっ!」
「くっ!このガキ!大人しくしろ!」
「面倒だ、商品が少し傷つくが気絶させろ!」
………今の会話を聞いてから察するに、この女の子は奴隷にでもされて売られるのか?
今の男二人組の会話からこう考えるシュノール。この様に考えたのは地球でも同じ様な場面に何度も出くわしたからだ。特に治安の悪い所はこういった事がよく起きていた。
だがそんな事を考えている間に女の子は片方の男に腹を殴られ気絶させられていた。
「シュノール様、助けないのですか?」
「特に関係ないし助けなくてもいいんだが………まぁ今は暇だし助けてやるか。」
ルシアの問い掛けに割と雑な回答をするシュノール。彼はこういう時に人を平気で見捨てることが出来る人間である。それに殺し屋なんて仕事をしている人間が情に深いとは考えにくいが。
とにかく今回シュノールに助けられる少女はとても運が良かったと言える。これが他の者なら確実に見捨てられていただろう。基本的にこの世界の人間はこういう時に助けるという行為をしない、その者が自分にとって大事な者なら話は別になるが。
全てそういう状況になったのは自分の責任という感じになるのだ。
(なんでこんな面倒な場面に出くわしたのか………見捨ててもよかったが、ルシアの前でそれをするわけにもなぁ)
この世界の仕組みなどまだ知らないシュノールはルシアの手前そういう行動を取れなかった。
シュノールは先程した言い訳を思い出した小さくため息をついた。本当は見捨てる気満々だったのだが、ルシアがいることを思い出し慌ててあんなあからさまに取り繕った言い訳をしたのだ
「……【ブースト】」
言ってしまったものは仕方ないと割り切り、小さな声で魔法を唱えた。
この魔法は身体能力の向上というシンプルな魔法である。使用する魔力の量で向上する量が変化する。
取り敢えず二倍くらいで十分だろうと考え魔力を使った。
「さっさと終わらせるかな!」
言い終わると同時にシュノールは飛び出していった。
次回やっと戦闘シーン………だと思います。
たぶん………恐らく……きっとです。