1-1:最初で最後の失敗
この話は暇があれば更新していきたいと思います
ですが、好評であれば頑張って更新速度を上げていきます
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この地球という星には、表の世界と裏の世界がある。表の世界が平和であればあるほど、裏の世界が酷くなっていくのがこの世界の仕組み。
表では優しそうに振る舞い、裏では誰かを憎む。
彼らは裏の世界に住む殺し屋を雇い、気に入らない人間を消していった。
そんな世界にとある男がいた。その男は殺し屋を生業としていた。
彼の事を裏の世界で知らない者はいない。その彼と同じ世界に住む人間に彼の事を聞くと、皆口を揃えてこう言った。
“奴に殺せない人間はいない”
彼が今まで請け負った仕事の数はもはや数えるのが無理なくらいだ。その内失敗した数は0である。
つまり1746件全て殺しそこねる事がなかったのだ。
男に名は無かった。いや、誰も知らなかったと言うべきか。しかし、誰も素顔を見たことがなく、仕事は完璧。闇に紛れ、影に潜み、音も無く殺す彼を人はこう呼んだ“暗殺者”と。
そんな彼が受けた依頼……最後の仕事は自分の息子の殺害だった。
表の世界で彼は神桐影人という名前を持っていた。彼には妻も子供もいる。子供は1人でそれが最後の依頼の対象だった。
神桐影人は自分が殺し屋である事を家族に隠してはいない。むしろこう言っているくらいだ。
“私は依頼されれば家族でも殺す”
明らかに異常な考え方、しかし彼の家族は誰も彼の下から去ることはなかった。
妻はそれを知っていながらも夫を愛しているからと言い、息子はもし殺されたならそれも運命と言った。
彼は自分の息子に自分の持つ暗殺の為の技術を教えた。それは息子が殺されないように願っての事。
しかし、依頼されれば息子でも殺す、この事に変わりはない。
◆◆◆◆◆
とある夜の街で屋根の上に立っている男がいた。彼は神桐影人、またの名を“暗殺者”という。
「………時間だ」
今は午前0:00、今日は私の最後の仕事というのに、私の気分は晴れない。それもそのはずだ。何故なら今回の依頼は自分の息子の殺害なのだから。
だが、私は親である前に1人の殺し屋。既に家族を持つ前から決めていた事だ………そう思ってはいるものの、やはり思うところはある。
私は殺し屋をやるにあたって3つの決まり事がある
1つ目は依頼は絶対に受けること
2つ目は絶対に撤退はしないこと
3つ目は依頼に失敗したら自ら死ぬこと
つまりもう私には息子が死ぬか、私が死ぬかの2つの選択肢しかないのだ。
彼はしばらく俯いていたが、顔を上げ、何かを決意した後フードを被る。ナイフなどの装備品の確認を終えた彼は、屋根伝いに夜の街を駆ける。屋根から屋根に飛び移り、足音一つ立てないで息子が眠っているであろう我が家を目指す。
(今夜限りで妻ともお別れだな……)
別れると言っても彼は妻まで殺すつもりはない。単に離婚するだけだ。妻がどれだけ私が殺人をすることを気にしないと言っても、流石に自分の息子を殺されたらそんな事は言えないだろう。
妻と結婚してからも私は依頼を受け続けている。だが、その事に妻が何も言わないのは対象が赤の他人だからに過ぎない。
まぁ今更そんな事を考えても意味はないのだがな。
そんな事を考えながらも、物音1つ立てずに自分の家の扉の鍵を開ける。そして扉を静かに開け、すぐさま2階にいるであろう息子の部屋を目指す。
2階に上がる階段は、踏むとやけにギシギシと音がするので手すりの上を慎重に歩く。
息子の部屋の扉の鍵をピッキングで開けて、ゆっくりとドアノブを回し開ける。
部屋の中に物音を立てないよう静かに侵入してから周りを見た。
どうやら息子は布団を被っていているがよく見えない、恐らく寝ているであろう。
影人は腰にあるナイフホルダーからスペツナズ・ナイフを取り出す。
これは刀身を射出する事が出来る特殊なナイフで、勿論普通のナイフとしても使用出来る。
スペツナズ・ナイフをクルリと反転させ逆手に持ち、ベッドに眠っているであろう息子目掛けて振り下ろす。
(………手応えがない!?)
刃は根元まで深く刺さっているというのに、まるっきり手応えがない。感触が無いわけではない、だが、人を刺した感触と違う。
不信に思った彼が布団を剥がすと、そこには丸めた毛布があるだけだった。それに気付くと同時に、自分の背中に何かが刺さったのを感じた。
「……ゴプッ……まさかお前にやられるとはな」
「教えてくれたのはアンタだ………“父さん”」
「そう……だったな」
彼を刺した人物は息子であった。
息子は最初から分かっていたのだ、自分は狙われているしかも父親に。今まで父親より教わってきた事が皮肉にも自身が狙われていると気付かせたのだ。
夜遅くに出掛けていった父親を見てから、息子はまだ死ぬわけにはいかないと、罠を張って父親を待った。もしかしたら中止してくれるかもしれないと淡い期待を持ちながら。
そして布団で毛布を隠して、自分はクローゼットの中で息を潜めて待っていたのだ。
「どうして………どうして俺を殺そうとしたんだよ!?」
「依頼を受けた………カフッ……ただそれだけだ。私は……父である……前に………殺し屋だ…から………な!」
彼はそう言って、手に持ったナイフを自分の胸に突き刺す。放っておいても直に出血多量で死ぬだろう。
だが、依頼が失敗したら自らの手で死ぬと決めてあるからだ。それに少しでも息子の罪の意識を軽くする為にあえて自身の手でトドメを刺したのだ。
「父さん───まだ───い────」
息子が何か言っているが、もうよく聞こえない。恐らく私の命は後1分ももたないだろう。
だが、私はもうじき死ぬというのに不思議と恐怖はなかった。
最早私は助からないだろう。しかし、私がいなくても妻と息子ならきっと大丈夫だろうな。
私は依頼を失敗して死んだら、誰があの2人を守るのだろうとずっと考えていた。だが、それも心配なさそうだ。
老いたとはいえ、そこらの殺し屋に遅れをとる私ではない。その私を息子が返り討ちに出来るくらい強くなった。これならきっと……いや、絶対に妻を守ってくれる。
薄れゆく意識で、彼は満足そうに目を閉じた。
その日、神桐影人は最初で最後の失敗をした。
今回はプロローグです
駄文ではありますが、宜しければ感想など書いて頂ければありがたいです