俺は美人部に恋なんてしないっ! 『中谷さん家のクリスマス』
12月24日。それは世界七不思議ともいえる人物――――サンタクロースが一年間良い子にしていた子供達にプレゼントを配ってくれる日。その日に俺――中谷 幹は心待ちにしていた。
「ママ! もうすぐサンタさん来るかな?」
「そうね~幹が寝れば来るんじゃないかしら?」
「そうなの? なら、今日は俺すぐに寝るよ!」
「そうしたほうがいいわよ」
小学校五年生の俺は食べ終えた食器をシンクに置いて、母――未麗に洗い物を頼む。今年頼んだのは、最近発売されたばかりで入手が困難なゲームだ。だが、サンタなら必ず買っている筈だ。何せ人間を超えた力と足を持っているのだから。
時刻は20時。姉や兄と父はリビングでゆっくりしている。彼らは残念ながらサンタクロースが来る事はないらしい。可愛そうである。
食事前に風呂に入っていた俺は、さっさとベットに入り眠る事にした。そうすれば、きっとサンタが来てくれるだろう。
◆
「か、可愛いっ!」
「しッ! 美鈴、静にしなさい!」
「それにしても幸せだよな、幹は」
「満ッ! あんたは黙ってなさい!」
「姉貴怖いな……」
「満は引っ込んでなさい!」
「母さんもかよ……」
現在時刻午前0時。中学三年生のあたし――中谷 美鈴は最愛の弟である幹にクリスマスプレゼント(本人はサンタから貰っていると思ってる)を枕元に置く。
気持ちよさそうに眠る幹はまるで天使だ。布団に入って今からモギュモギュしたい。いや、もうクリスマスだからいろんな事をしても良さそうだ!
「ダメよ。美鈴」
「え? なんで考えてる事がわかったのよ!」
「顔に書いてあるわよ」
「なんて?」
「今から幹の童貞を奪います。ぐへへへッ! って」
「失礼な! 私の処女を渡すだけですよ! ぐへへへへっ!」
「一緒じゃない!」
だって可愛いんだもの。いや、かっこよくもある。まさに理想の男性=マイブラザーだ。あ、満は無理ね。近づかないで欲しいもの。
近親相姦? ふん、弟だけど愛さえあれば関係ないよねっ!
「ていうかさ、むしろお母さんだってお父さんとハッスルするんでしょ?」
「ええ、もちろんよ。でなきゃお父さんが回復できないもの」
「じゃあ、あたしが幹の事を舐めまわしても問題ないよね?」
「何言ってるの美鈴。私がいなきゃお父さんを回復させてあげられるパーティがいないでしょ?」
「え、ごめん、一瞬で何言ってるのか分からなくなった」
「ド○クエの話よ」
「聖なる夜にゲームの話かいっ!」
そんなわけで、あたし達は幹にプレゼントを渡したのだけど、幹可愛過ぎ。もう部屋に持ち帰って監禁したい。今は小学生だから無理だけど、いずれ高校生になったら彼から純潔を奪いとるとしますか。
だが、弟は一体何歳までサンタを信じるのだろうか。
うーん謎である。
◆
――――現代の美人部。
「美樹はサンタを信じるか?」
「はい? 今冬どころか春ですけど」
「そうなのだが、美樹はどうなのだろうと思ってな」
放課後の美人部の部室。今は設立したばかりの美人部だから麗と俺しかいない。
話す事がなくなったわけじゃないんだけど、麗は突拍子もなく質問を振ってくるからな。
「はい、信じてますよ。だって毎年プレゼントをくれますから」
「やはりそうなのか? うーむ……私のところにはなぜか来ないのだ……」
「え? じゃあ麗は良い子じゃないんです?」
「かもしれん……サンタがプレゼントをくれなくなってから早三年。そろそろサンタのぬくもりが欲しいのだ」
「っていってもまだ、四月ですけどね」
「ああ、今年は良い子にしていようではないか!」
「私は毎年貰っているので関係ないですけどね」
「なぬ? 美樹は毎年貰っているのか!」
「はい、二つほど」
「二つも!? よっぽど美樹は良い子なんだな……」
俺が良い子? よくわからないけど、まぁそういう事なのだろう。頭は大変デキが悪いけどね。
まぁ、今年も二つサンタは俺にくれる為にやってくるだろう。毎年寒いけど、窓を開けるのを忘れてはいけないな。
そんな事を考えながら、ファッション雑誌を開いていた。
「ですが、なんで早く寝なきゃいけないんですかね?」
「うーむ……」
「家族はもっと早く貰えなくなってたのが不思議なんですよね……」
麗はしばらく考え込む。
俺の長年の疑問を考えてくれているのだろう。
考えたのち、麗は口を開いた。
「多分だぞ? もしかしたら、サンタはきっと美樹以外の人が嫌いなのではないか?」
「あっ、なるほど! だから、私のところにばっかりプレゼントが来るんですね!」
「ああ、美樹はサンタにも愛されているんだな!」
「ええ、麗の元にもプレゼントが来るように祈っておきますね!」
「今年は楽しみだ!」
「はい!」
彼女らはサンタの正体が家庭の人間だという事実を微塵も疑っていなかった。