第46話 忘れろーーー
何か声が聞こえる。
「……………………ナ…………………」
どこかに運ばれていく。
どこか柔らかい所に寝かせられる。動けない、いや動きたくない。この世界に来たときから何時かは人を殺す覚悟はしていた、けどダメだ引き金を引けない、いや引きたくない、もっと言うと動きたくない。このまま、動かなければいいのではないだろうかそんなことが頭をよぎる。また声がする。今度は聞き取れる。
「おいタナカが目を覚まさない、医者ならどうにかできるだろ」
「それが今回の件で人手が足りないんです、命の危険がある人が先です」
誰かに揺さぶられる。
「タナカ、目を覚ましなさいよ、タナカ」
「イリヤさん、もう少し落ち着いてください傷に響きます。タナカさんは大丈夫ですから」
「急患が入ったので動かします、手伝ってください」
「わかりました」
どこかに動かされる。
今度は何か液体を注ぎ込まれる。
「おいタナカには、ポーションは」
「これは通常のポーションの濃度を高めた医療用ポーションです、どんな人にも効果があります。ただ効果がありすぎるから気軽に接種できませんが」
何も変わった感じはしない。
「……………おい何も変わらねぇじゃねえか」
「少し時間がたってから効くんですよ」
何もしたくない。
「効果がない、魔力を確認しろもっと濃いのがいるかもしれない」
「わかりました」
「あの検査結果が出たのですが」
「魔力がないだと、間違いじゃないのか」
「いえ何度も確認しましたし、ギルドにも確認とりましたがない可能性が高いと言う結果に」
「じゃあ彼を治療する事は」
「ねえタナカは助かるの、ねえ」
「……………残念ながら、後は本人の意思次第です」
何もしたくない。
何もしたくない。動いたらまた誰かを撃たなくちゃいけなくなるかもしれない。それが怖い。だからこそ、何もしたくない。
「ねえタナカ、タナカはさ平和で人を殺さない世界から来たんだよね。なら人を殺すのは初めてかもしれない」
あのときの光景が思い出される。人に穴が開き、腕が飛ぶ。思い出したくない。
「私達、いや私だって殺したことはあんまりないけど怖いのはわかる」
怖い、怖い、怖い。次はアルフやリズ、イリヤがあんな風になるかもしれないし、自分かもしれない。そう思うと怖い。人の命を奪える物を気軽に扱う人が、自分が怖い。
「私だって、魔術で人を殺した時魔術を怖いと感じた、使いたくないと思った」
もう銃なんて持ちたくない、触りたくない、見たくない。
「けど、その時も今回も誰かがそれをやらなければ助からなかったかもしれない、死んでいたかもしれない」
この世界に来て、初めの頃を思い出す。リズと出会った時、彼女を守るためにアルフを殺そうとした。
ふとこんな言葉を思い出す。「武器と言うのは誰かを傷つけるためにあるのではない、誰かを守るためにあるのだ」どこで聞いたか読んだかは覚えていないが結局そうなのだ、自分は誰かを守るために他人を傷つけようとしていたのだ。誰も傷つけずに誰かを守れるだけの力はない、なら自分の守れる範囲で守っていくだけなのだ。だからと言って積極的に誰かを傷つけたいとは思わない、自分の力を見極め無理をせず守り守られ生きていくだけなのだ。
「だから、誰もタナカを攻めないよだから、起きてよタナカ」
目を開ける。大分寝ていたのか体が重い。気にせず起き上がる。
「………………何タナカ、起きてたの………………まさかさっきの話聞いてた……………聞いてたよね、忘れて忘れてーーー」
「おはよう、イリヤさっきので目が覚めたよ」
「…………………忘れろーーー」
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