完
「はっ!」
「甘い」
時刻は5:30。近くの体育館で朝早くから棍術の稽古をしていた。
「踏み込みが遅い!地をちゃんと蹴っていない!そんなんじゃ」
「うわあ!?」
足をかけられひっくり返る。まともに受け身もとれず、その場で蹲ってしまった。
「~~~っ!」
「はあ。昨日も同じ風にやられたな。やる気があっても、これじゃあ空回りだ。…もういい。今日はこれまで。家に帰るぞ」
「っ」
上手く息を吐けず、声らしい声は出なかった。が、ここで僕が「まだやれます!」と言ったところで何も変わらないだろう。
今は、ひたすらにヒントを模索するのだった。
・・・
・・
・
「おい晶。大丈夫か?」
「うん。もう慣れたよ」
学校では、いつものように、紅が離しかけてきた。…まあ、この後すぐパトロールに行っちゃうんだけど。
パトロールは最初は僕も同行させてほしい、と頼んだのだが、僕の体の調子を見て休むことを強要された。
でも、紅は僕を心配してくれての強要だったし、僕としても休む時間は欲しいので従っている。
「じゃあ、行ってくんな」
「うん。頑張ってね」
と言って紅は行く。
…たまに“ませがき”とか言う奴らが冷やかしてくるが、問答無用で叩きのめすのは日常の一コマだ。今ではからかってくる奴はいない。“ませがき'”てどういう意味なんだろう?
そんなどうでもいい思考を頭の隅っこで考えながら、日々は過ぎて行った。
何も変わらない日々が。
変わると決めて、何一つ、変わっていない。
状況は良くなったけど、本当に今のままでいいのだろうか?僕が強くなりたいのは、紅に憧れた、自分を守るため、だけでは無い。紅の隣に、立ち続けたいからだ。
強く、ならなきゃ。
・・・
・・
・
「今日はみんなに新しい友達を紹介するよー。さ、入って来て」
朝の時間、どうやら転校生が来るようだ。いったいどんな子だろう。
そう思ってると、入って来たのは赤い髪に目の女の子だった。
何故かはわからない。でも、僕はその女の子に少なからず興味を持った。とても明るい色合いの外見とは裏腹に、とても冷めた目をしていたからだ。
先生は黒板に女の子の名前を書こうとすると、女の子はチョークを奪い取り自分で書き始めた。
“火渡 焔”
そう書かれた。
…ひ、ひ、…読み方がわからない。
そんな事を考えていると、女の子は声をあげた。
「火渡 焔。あんたらバカには興味ない」
女の子のあまりの言いように、ざわざわと声を出すクラスメート。でも、僕は声が出せなかった。だって、ほんの一瞬、女の子の目は寂しそうにその明るい赤色の目を、濁らせたのだから。