結
「さて、どうする?」
『…………………………』
まさかのノープラン。
・・・
・・
・
前回、私は泣くに泣いて泣ききって、やっとか落ち着いた。その間、紅くんと蒼ちゃんはずっとそばにいてくれた。
私が泣き止んだ。そして、冒頭だ。
「く、紅くん。私が言うのもなんだけど、ノープラン?」
「のーぷらん?何だそりゃ?」
そういえば何だろう。前にお父さんが使ってたのを聞いて、意味を聞いたら、何も考えて無いこと、と言われそのまま納得したんだよね。
「ノーとは英語でNo。否定の意。プランは英語でplan。計画などを示します。No plan、つまりは無計画、何も考えてないと言う事ですよ」
「なるほどなるほど。えいご、て何だ?」
そこから?
「簡単に言えば、日本以外の殆どの国で国際的に使用できる言葉です。“日本”語、とあるように、他の国では~語と別の言葉を使います。英語はその代表です」
「へー。こくさいって」
「もういいんじゃ無いかな!?」
どこまで掘り進めるんだね。いいことだけど。
「そうですね。お兄様はバカでいいのです。そのままの方が美味しくて…じゅるり」
この子危ないよ!?
「バカたれ。後、お兄“様”言うな。さっきまで普通だったろ」
「わかりましたよお兄ちゃん」
「あ、愛されてるんだね」
私はこんな愛され方は嫌だけど。
「当たり前です。世界の基準など知りませんが、私にとってはお兄ちゃんが一番なのです。世界がお兄ちゃんを敵にするなら、私はお兄ちゃんを守る盾と剣となり、世界を滅ぼしてみせます」
私は瞬間的に思った。
どんなにうざがられても、虫のように扱われても、嫌われようとも、
…この子の敵にはなるまい
と。
「あ、蒼ちゃん?」
「何ですか晶お姉ちゃん」
「お姉ちゃん!?」
何か女になってる!?
「お兄ちゃんが『これから助けるのは晶って言う“女の子”だ!』と申してたので」
「私は男だよ!」
「そ、そうなのか?わり」
とても驚いた顔で謝られる。
「いや、だってさ。いつも女子とばっかいるし、男にしては髪長いし、男子連中からもダントツでお前が一番人気だし」
「見事に美少女の立ち位置ですね」
「…………………………」
私、そんなだったんだ。
「…性別ぐらいは覚えていて欲しかった」
「す、すまん」
つい、泣きそうになってしまう。紅くんも急いで謝る。
「少し、いいですか?」
「あ、ご、ごめん」
「よし!蒼、言ってくれ!」
「では言います」
こうして、私は丁度良く仲裁に入り、さらに案まで出してくれるという蒼ちゃんの活躍により、その場は解散することとなった。
…実行は明日という事を伝えられ。
・・・
・・
・
「よー!晶!昨日何をやってたんだ?」
「こ、紅。えーと、昨日は…」
昨日、蒼ちゃんが提案した作戦は、相手の本音を聞き出す、題して、
【本音を聞き出そう作戦】
さすが小学生の頭だね!私も加わったわけだけど!
言ってしまえば、私の心の支えがあることをアピールし、相手の本音を聞き出し、後は匿名で先生に送っちゃおう、というものだ。
心の支えはつまり、私と仲がいい生徒であり、その生徒に紅がなる!ということだ。(どうせだったら友達になるというところも含まれている。個人的にもそれは嬉しい)
で、仲良しアピールをするために、私たちは今、下の名前を呼び捨てで呼び合っているのだ。
「こ、紅」
「ん?どうした?」
クラスメイトの男子が話しかけてきた。
「やばいって。お前は知らないかもしれないけど、今こいつに近付いたら」
「晶と仲良くするとどうなるんだ?」
「そ、それは…とにかく危ないんだって!」
「っ!」
その時、私の胸に痛みが走った。
「…おい」
「…紅?」
そして、紅の顔つきも厳しくなった。
「こいつが何かやったか?お前らの迷惑になるようなことしたか?」
「それは…」
「俺は正義の味方だ。誰かを切り捨てることはしない。お前らともいつも通り付き合う。晶とも付き合う。それが嫌なら話しかけるな。不愉快だ」
紅の厳しさと優しさが入り混じった言葉。思わず泣きそうになった。
「お、俺だって!好きでこんなことやってんじゃ無い!」
「じゃあ、何でこんな事をやる?」
「そ、それは…言えない」
「何でだ?」
「い、言えないものは言えないんだ!」
そう言って、自分の席へと戻ってしまった。
「全く、どこの誰だか知らんが、本当恨むぜ」
そう、紅は呟く。
たしかに、許せない。でも、行動に移すのが怖い。だから、行動に移せる紅が本当に羨ましかった。
木嶋 奈央が、こちらを強く睨んでいた。
・・・
・・
・
あれから一週間。蒼ちゃんとも良好な関係を作れていた。…良好といっても敵対はしていない感じだけど。
日に日に木嶋 奈央からの視線、というか睨みは強くなっていた。きっと、蒼ちゃんの作戦が上手くいってるのだろう。
紅も、今じゃ本当の親友だ。そのおかげで、今は最初ほど辛くは無かった。
状況は変わっていた。いい方向へ。だけど、私だけが、変わってない。私だけが、何も、変わってない。何も。
今行動しなきゃ、きっと私はこれからも紅たちに頼ってしまう。
それは…嫌だ。
親友なのだ。対等でいたい。並んで立ちたい。
だから、私は、
「なに?自分が動くまで俺たちには動くなって?」
「うん」
「そりゃまた何で」
「それは…」
一言で変わりたいから、と言っても微妙だ。どう変わりたいのか、全く考えてない。
というか、正義の味方の紅だと手伝うとか言いそうだ。
「お兄様」
「様やめろ」
「お兄ちゃん。多分、晶さんは変わりたいのですよ」
「そうなのか?」
「う、うん」
蒼ちゃん、何でわかるんだろう。
「その、いつまでも紅たちに迷惑ばっかりかけても悪いし、いつまでも守ってばかりいられるのはちょっとね」
「別に迷惑じゃ無いんだがな。あ、なんなら手伝おうか?」
やっぱり。
「お兄ちゃん。こういうのは個人の問題です。それに、あっさり解決してしまったら、お兄ちゃんを便利屋として使いますよ?お兄ちゃんは良くても、私は迷惑ですし、いい機会だと思いますよ?なのに、お兄ちゃんが手伝ったらそれもダメになります」
「そ、そうか」
「蒼ちゃんありがと。そういうことで、私は一人で立ち向かってみたい、いや、立ち向かうんだ」
「うーん」
紅が悩む。ありがたいけど、今は紅の協力を仰ぐわけにはいかない。
「わかった。でも、危険になったら助けるぞ」
「わかった。ありがとう」
「よーし!それじゃ行くぞ!」
と言って、紅は行ってしまう。蒼ちゃんはそれを追いかけようとする。
…のを止める。
「蒼ちゃん待って!」
「…何ですか」
…わお。一気に氷点下だ。
「急いでるんですけど」
「えーと、た、頼みがあるんですけど?」
「私に命令及び頼み事ができるのはお兄様のみです。不愉快です。私は行きます」
お兄“様”に戻ってるよ!
…とは言えなかった。
でも、頼まないわけにはいかない。
「お願いします!紅や、他の人には頼めないんだ!」
「…………………………」
すっごい悩んでる。
「しょうがありません。お兄様の親友で私もそこそこ優しくしてもらいましたし、私にできることなら何でも一回だけ頼める事を認めます」
「ありがとう!」
き、奇跡だ!蒼ちゃんが私の頼みを聞いてくれるなんて!
「さっさと言ってください。一分一秒が惜しいです」
「うん!えとね」
そして、私は頼みを言った。
「…わかりました。承りましょう。後悔しないでくださいね」
「しないよ。絶対」
力強く、そう言った。
「…そうですか。それでは学校に行きましょう。放課後、検討を祈ります」
「うん。まあ、今日かはわからないけどね」
そして、学校に向かった。
・・・
・・
・
そして、今日もイジメのオンパレードを受け、現在放課後。
「それじゃ、バイバイ」
「それでは」
「じゃあな!」
私たちは別れた。まあ、ついてきてくれるけどね。
「…………………………」
どういう事か、一人の帰り道はなんか怖い。カラスの鳴き声、建物の影、夕日、全てが不気味だ。
一歩、また一歩と、とても時間がゆっくりと感じられる。
どれくらい経っただろう?家まであとどれくらいだろう?もう今日は無いんじゃないか。
だが、その時はきてしまった。いや、きた。
「随分遅かったわね」
「木嶋、奈央」
そして、取り巻きが4人。
「あなたごときが私を名前で呼ばないで。不愉快よ」
「そんなの、知らない」
「ふん。だいたい、折角孤立させてあげたってのに、紅くんなんかたらしこむなんて、最低ね」
「たらしこむ?」
「その顔、わかってないようね。いいわ、教えてあげる。騙して従わせることよ」
え!?
「そんなことしてない!」
「どうだが。あの正義の味方さんに頼んだんじゃないの?」
「紅は親友だ!」
「…気に食わない」
「…え?」
「気に食わないのよ!あんたのことが!全部!」
「なんで…私、何もしてない」
「あんたにその気は無くても!こっちは迷惑してるのよ!」
「そんな!」
何もしてないのに!
「…まあいいわ。今日のストーリーを教えるわ。あなたは足を滑らし川に落ちる。運悪く足を攣り、あなたは溺れて死ぬ。見事な事故死」
「そ、そんなことしないよ!」
「当たり前よ。“させるんだから”」
「なっ!?」
「さ、あなたたち。やりなさい」
「う、うわああああああーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
純粋な悪意が私に襲いかかる。
紅side
「離せ蒼!晶を助けるぞ!」
「ダメです。通せません」
「何でだよ!」
今、晶が襲われている。ピンチのはずだ。いや、ピンチだ!だから助けても問題ない!なのに、
「通せません」
蒼は、頑なに道を閉ざす。
「今、晶が襲われてるんだぞ!?」
「晶くんが言ったのです。『紅は絶対に私を助けようとするから、止めてくれ』と」
「な!?」
何でそんな事を…
「お兄ちゃん。“助けるだけ”が正義ではありません。“導くこと”だって正義です。助けてばかりでは相手がダメになります。あちらがいい、と言うまで手を出してはいけないんです。何故なら、それは相手の“変わるチャンスを奪うこと”だからです。…わかってください。これは晶くんの“覚悟”なんです」
「…そんなこと言われたって、俺にはわからない」
「お兄ちゃん!」
「だけど!」
だけど、
「それが、晶のためなのか?蒼」
「…はい。保証します」
「…ああ!くそ!さっさとやっちまえ晶!」
晶side
「痛い!痛い!」
「もっと苦しみなさい」
わからない。何で、こんな目に!
「冥土の土産に教えてあげる。イジメの理由」
「え?」
理由?
「それはね、あんたが人気だからよ」
「…は?」
今も攻撃は受けている。服は敗れ、たんこぶだってできてるだろう。なのに、さっきまでの痛みはその意味不明な言葉で吹き飛んでしまった。
「あなたが男子の中で一番の理由だからよ!私は常に一番でありたいの!なのに、なのに!あんたのせいで一番になれない!」
「…そんな理由で」
何だろう。凄くくだらない理由だった。
「そんな理由とは何よ!あんたはいいご身分よね!男子にチヤホヤされて!私の好きな人も、あんたに、あんたに夢中で!」
「…………………………」
イラついた。私はそんなこと意識してなかった。なのに、そんな理由でイジメ?ふざけるな。それに、男子にチヤホヤされて?そんなの、ぜーんぜん嬉しくない!
「言葉だって一人称が“私”!?狙ってるとしか思えないのよ!」
それは昔からの習慣だ。そんなこと、人にとやかく言われたくない!
だから、私は言う。一人称がおかしい?なら変えればいいの?
「…………だ」
「何よ。文句あんの?」
文句しかない。
今までの苦手意識とか全て吹き飛んだ。
「………こだ」
「女っぽい。弱々しい。それで男を惹く気なの?」
ああー、この周りの取り巻きにも怒りを覚えれいた。ウザい。
男を惹く?そんなことあってたまるか。
私は、私は、
“僕は”!
「僕は、男だ!」
手近の木の棒を振るい、攻撃し返す。
「な、何よ急に!一人称変えたぐらいじゃ変わらないわよ!」
「うるさい!何でイジメられてたのか聞いてみれば!僕は男だ!男を惹く?気持ち悪いってのこのブス!」
「ぶ、ブス!?この私に向かって!」
「ああブスだね!僕の好みじゃ全くない!というか性格悪過ぎ!というか頭おかしいよ?病院行けよブス!」
こんなに悪口を言ったのは初めてだった。だけど、今までの不安とか、絶望とか、こんなことの為に死のうと思ったのか、と思うと、はっきり言って言い足りなかった。
だが、
「っ!」
体が、痛い…。
「…ふ、ふふふ、ダメージがあるようね。もう満足に動けないでしょ。やってしまいなさい!」
「く…そ!」
諦めるか!
その時、
「随分と変わったじゃん。見違えたぜ」
「そうですね。言いたいこと言ってスッキリしましたか?」
全員一斉に吹き飛んだ。
そして、理解する。
「紅、蒼ちゃん」
「ん~、正義の味方、紅 紅!見参!」
「よく頑張りましたね。後は任せてください」
「あ、あなたたち!どうして」
紅たちの登場に明らかな恐怖の表情を浮かべる木嶋さん。
取り巻き4人も苦痛で顔を歪める。
「観念してください。あなたたちの会話はここに全部録音してます」
『…な!?』
全員が驚く。
「これを学校、PTA、教育委員会に持ち込めば、どうばるかはわかるでしょう?」
「や、やめて!お願い!…あ、そうだ。お金、お金あげるから!」
最後はお金。悪役お嬢様と同じだ。
「…金、か」
「そ、そうお金!いくらでもあげるから!」
「…紅?」
吊られないよね?
「…何処かの誰かが言っていた。『人生は金が9割、人付き合いが1割』てな」
「それ、うちの作者だよね?」
大丈夫?
「まあ、それは置おといて、たしかに、金は大事だな。だがな、今回ばかりは金よりも人付き合いを俺はとる。何故なら!晶は、俺の親友だからだ!」
「私のご友人でもあります」
「紅、蒼ちゃん」
ついに蒼ちゃんから友達認定されました!
「これ以上晶に何かやってみろ!叩きのめす!」
「まあ、これ以上何かしなくてもトドメはさしますが」
「い、いやああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
少女の絶叫が街中に響いた。
こうして、凄く呆気なく、イジメ事件は終わった。
・・・
・・
・
あれからの変化を話そうと思う。
まず一つ、僕の一人称が僕になった。
…わかりにくいね。元々の一人称が私。で、これを境に僕に変わった。
次に、紅たちは本当に匿名で録音したものを学校、PTA、教育委員会、さらには学校の放送にまで流してしまった。凄く恥ずかしい。
でも、そのおかげでまた昔のコミュニティが戻りつつあった。でも、やっぱり一番長く一緒にいるのは紅だ。
僕も紅の力になりたくて、校内パトロールに参加したのだ。不思議なことに、紅が「戻るぞ」と言ってから教室に行くと、時間ぴったしで戻れなるのだ。不思議。
木嶋さんたちは停学処分となった。だが、停学期間が過ぎ、何日かは学校に来たがその後不登校。最終的に転校した。だが、もうどうでもいいことだ。もうどうしようも無い。
一つ一つがこうやって変わっていく日常。紅が変えてくれた日常。だから、僕は今の日常が好きだ。
そんな僕の中で一番変わったことと言えば、
「お父さん!お願いします!僕に棍術を教えてください!」
お父さんに弟子入りしたことだ。
「…理由を聞こう」
「…親友の、紅の隣に並んでいたいから」
きっと紅はこれからも人を助ける。正義の味方をいつまで続けるかはわからない。でも、紅はきっと、そういうの関係無く、これからも人を助け続ける。だから、僕も強くならなきゃいけないんだ。
隣に立ち続ける為に。
「…そうか。いいだろう。親友の為にその力を使うは良し。教えてやる。ついでにその力で女扱いする奴を倒してやれ」
お父さんはからかいで言ったのかもしてないけど、女扱いする奴をのめすのは、もはや習慣となった。
こうして、僕と紅は出会った。これからも関係はつづくだろう。でも、僕はこの繋がりを守り続ける。
僕の、最高の思い出。
ーThe Endー