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それからは、よく覚えていない。

とてもとても早く時間が過ぎていった。

苦しい時間は忘れようとした。何も考えはしなかった。多分、私は死んだ魚の目をしてたと思う。

されるがまあ。流されるがまま。

だけど、一つだけわかった事がある。

調子に乗った犯人は自分から動いて来たのだ。堂々と。

やっぱり、と言うか、主犯は木嶋 奈央。

れいじょう、とかいう立場を使ってみんなを脅してたらしい。取り巻きも加わり、間接的なイジメは、直接的な“暴力”へと変わった。

親には相談しない。できない。必死に取り繕う。

だけど、心は、もうボロボロだった。

だから、だから、


「…死のう」


そう決意した朝。


・・・

・・

イジメが始まり二ヶ月。

親は何度も学校に連絡を入れてくれた。

だけど、学校がイジメを認める事は無かった。


「晶、もう無理して学校に行かなくていいんだぞ?」


「転校も考えるわ」


「ダメだよ。強くなれ、て言ったのは父さんだよ?私は大丈夫」


とても晴れやかな気分だ。覚悟を決めると、心から重みが消えた気がした。


「それじゃ、行って来ます」


今までありがとう。


・・・

・・


内靴が無かった。


「…………」


僕はゴミ捨て場へと向かった。


「…あった」


単純だと思う。もう、経験でわかってしまう。こんな経験したく無かったけど。


「ははは…」


ご丁寧にバナナが大量に詰められている。

私は、その内靴を持ち、水道で念入りに洗い、ランドセルからタオルを出して拭いた。


「あら、氷野さんじゃありませんか」


僕は洗った内靴を履き、教室へと向かっ


「待ちなさいよ」


……。


「…なに。木嶋さん」


「どう、気分は」


気分か。


「…スッキリしてるよ」


そう言うと、木嶋さんは驚いた顔になり、私はそれを無視して教室へと向かった。


・・・

・・


朝の時間:クラスメイトからの無視。


一時間目:使用する教科書がボロボロになっていた。ノートにもきちんと落書き済みだった。


休み時間:延々と脛を蹴られる。


二時間目:移動教室だったが、トイレに閉じ込められ、移動に遅れる。先生から叱咤を受ける。


休み時間:便座に顔を突っ込まれる。男子トイレに女子が入ってくる事にもはや不思議とは思えなくなっていた。


三時間目:何故か木嶋さんの教科書が私の机に入っていた。返そうとするが、授業が始まり、先生が来たところに木嶋さんが声を上げ、盗難疑惑をなすりつける。


休み時間:机の中の物をばら撒かれた。


四時間目:後ろの木嶋さんの取り巻きより、延々と消しゴムの欠片を投げられる。勿体無い。


休み時間:脛を蹴られる。


給食:先生がいない時に、牛乳をご飯と味噌汁にかけられる。


昼休み:花瓶で殴られ、花瓶が割れる。私に罪がなすりつけられる。頭の血に先生は気づかない。


五時間目:三時間目と同じ。芸が無い人だ。それにはまる私も私だけど。


帰りの時間:特になし。


掃除:木嶋さんの手により、みんなが帰り、私だけが教室で掃除する。


・・・

・・

都合がいい。これで、私を止める人はいない。

紅くんの事が気になったけど、もうどうでもいい。


「逝こう」


ランドセルも持たず、僕は屋上へと向かった。


・・・

・・


「見晴らしがいい」


凄く綺麗だった。今まで一回も来たことが無い屋上。一度は来てみたかった。


「うわあ」


とても得した気分だ。同じ学年でも、この景色を知ってるのは僕だけだ。…紅くんはパトロールとか行って来ていそうだけど。


「…凄い。本当に凄い」


だから、死のう。もう、いい。最後に得したんだし、十分だろう。

私は屋上の縁に移動し、見下げる。


「地面が遠い」


とても不思議だ。今日は得して、不思議な事も知れた。いい日だ。


「…バイバイ」


予兆など無い。ただ、私は、落ちた。

瞬間、先程まで穏やかだった心が急に固まった。

死への恐怖。今更になってこみ上げて来た。

そこからはスローモーション。

一秒一秒がゆっくりと流れていく。

そうまとう、て言うんだっけ?頭の中に短かった僕の記憶が流れてた。


「これで、私は」


解放される。

とは、言えなかった。

何故なら、


「正義の味方とーーーーじょーーーーーう!!!」


一人の男の子が、躊躇なく、飛び込んで来た。


「えええええーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?」


驚いた!凄く驚いた!何故か知らないけど、こっちに向かって勢いよく飛んできた!


「ちょ、ぐふぉ!?」


「キャーーーーッチ!」


わからないけどキャッチされた!

でも、このままだと二人とも死…!?


「おりゃああああああーーーーーー!!!」


すると、男の子は教室の空いてる窓へ向かって、ポケットから出したフックを投げた。


「引っかかった!」


「ええ!?」


なになになんなの!?

と、パニックになってる間にも、ドンドン落ちて…

いなかった。どうやら、フックにはロープが繋がってるらしい。


「大丈夫か?」


と、壁に足をつけて言う男の子。ここに来て紅くんと認識。

そこで、思い出す。


「な、何で死なれてくれなかったの!?もう辛いだけなんだよ!もう死なせてよ!」


「ああー、自殺者かー。だが諦めろ!俺の目が黒い内は死なさせん!」


「ええ!?」


何で?何でここまで必死になれるの?


「君には関係無い!」


「関係なく無い!俺は正義の味方だからな!」


全く関係無いよ!

そこで、


「…あ、やば」


「…どうしたの?」


さっきまで強気な少年がいきなり不安気な声をあげる。


「ロープが切れそう」


「…ざまあみろ」


自分でも無意識に悪口が出ていた。だが、偽らざる本心だ。

ブチッ、という音と共に落下が再開された。


「もう離してよ!僕は死ぬの!」


「へ!死なせてたまるか!」


「でもこのままだと二人揃って死ぬよ!?」


「大丈夫!蒼おおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


誰!?

そう思った矢先、謎の人影が着地点に向かって高速で移動してくる。


「こいつは任せた!」


「了解ですお兄ちゃん!」


と言うと、紅くんは私を投げた。


「きゃああああああああーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?」


死ぬ以上に怖すぎる!

そこで、私は蒼なる人物にキャッチされた。紅くんは近場に上手に着地した。


「救出成功!」


「ですね!」


…何なの。この人たち。


「あ、そうそう。お前、何で死のうと思ったんだ?」


「…辛かったんだよ」


「は?」


「辛かったんだよ!友達は無視するし!先生は何もしないし!親には迷惑かけられないし!私は、辛かったんだよ」


今になって、心に亀裂が入り、泣きそうだ。

心のダムが、今にも壊れそうだった。

そこに、追い打ちをかけるような言葉を投げかけてきた。


「お前は何かしたのか?」


「…したよ」


「何をしたんだ?」


「先生に言ったり…」


「そんだけか」


イラついた。私の気持ちなんか、知らないくせに!わからないくせに!


「だったら!私に何ができるの!?私一人で頑張ったって、何もできないよ!」


「…つまり、一人じゃ無きゃいいんだな?」


「…え?」


「なら!俺と蒼が今からお前の味方だ!」


「ガッテン承知!」


「…え?え?何を言ってるの?」


意味がわからない。


「だから!俺たち二人が味方だ!」


「誰の?」


「お前の!」


「わ、私?」


ど、


「どうして?」


「決まってるだろ?」


フッ、と鼻で笑い、紅くんは言った。


「俺が正義の味方だからだ!」


………涙が出た。


「あ、あれ?」


涙が出た。苦しい時に出なかった涙が、今、出た。


「な、何で」


…ああ、嬉しかったんだ。

ずっと続く暗闇の中、自分の味方ができた。

とても安心した。ここまで、晴れやかな気分になるのはいつぶりだろう。


「う、えぐ…うぐ、うわああああああああああああああ!!!!」


久しぶりに泣いた。その涙は優しく、流れるごとに私の心の闇を払っていった。

紅くんも、蒼ちゃんも、泣き止むまでずっと一緒にいてくれた。

今の僕は、とても満たされていた。

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