熱
「…一ついいかな?」
「何?火渡さん」
暗く、冷たく、いろいろな物がゴチャゴチャした空間。
「私ね、あなたにずっと伝えたかった事があるの」
人気が無く、僕は用事があるから、とこの場に連れてこられた。
「なに、かな」
僕は暗闇の中で彼女の顔を見た。頬は朱に染まり、その目からは「言おう」という強い意思を感じる。僕は、彼女が何を言おうと受け止める覚悟で、言葉を待った。
スッと息を吸い、ついに、その時が来た。
「何でこんな状況でそんな平然としてられるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「一度死にかけてるからじゃ無いかな?」
ここは体育館倉庫。彼女は激昂し、今は頬どころか顔全体を真っ赤にし、怒りをあらわにした。
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・・
・・・
最近の火渡さんは
「火渡さーん!ここ教えてー!」「こんな問題もできないの?バカなの?」「あははー。否定できない」「あ、俺にも教えて火渡さーん!」「自分で考えなさいクズが」「じゃあヒントくれよ!自分でも頑張るから!」「火渡さん。僕にもさっきの罵倒を…ぐふふ」「変態がいるぞー!」「火渡さん!近づいちゃダメ!」「好き好んで近づかないから!?」「ねえ火渡さん。ここの問題…」「あんた空気読みなさいよ!?」「空気?空気に何か書いてるの?」「そういう意味じゃ無い!雰囲気を感じ取れって言ってんの!」「ごめん。僕にはシックス・センスとか無いから感じ取れとかできな」「わざとでしょあんた!?顔が笑ってるからね!?」「火渡さーん僕とも絡んでー」「私も私もー!」「ずるーい!私もー!」「誰かこの状況を何とかしてええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
…とてもクラスに馴染んでいた。先生の中にも、
「火渡ー。このプリント整理しといてくれー」「断ります。自分でやって」「誰か火渡とプリント整理してくれー」「はいはーい!やりまーす!」「やるやるー!」「姫がやるとあれば俺がやらないわけにはいかない!」「と、いうわけだ。頑張れよ?」「こんんんんんんんの!鬼畜教師がああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」「はっはっはー!若いうちに友達と仲良くするんだなー!」
随分フレンドリーだった。さらに、
「よお火渡!俺の妹の蒼だ!」「蒼です。よろしくメス豚」「あ、蒼…?」「紅くん?あなたの妹さんは随分失礼ね?」「ま、待て火渡…」「兄は関係無いでしょう。私はただ、“個人的に”あなたが嫌いなだけです」「そう。それはよかった。私もあなたが大嫌いだから“おチビ”ちゃん?」「…なんですって?」「…何か?」「お、おーい?」
…ふ、二人はかなり“仲良く”なれたんだ!ほら!喧嘩するほど仲がいいとも言うしね!だから仲がいいの!異論は認めません!
まあ、そんな日常が普通になってきた今日この頃。
「何なの!何で私に普通に話しかけれるの!」
「あはは…」
火渡さんは怒っていた。
「だいたい、冷たくされたら普通は敬遠するでしょ!頭おかしい!」
「紅がいるクラスだからね」
「紅くんはどんだけ影響力あるの!?」
でも、火渡さんの怒ってる顔はどことなく楽しそうで、そこまで怒ってるようには見えなかった。
「ふふっ」
「あーなーたーはー!何を笑ってるの!」
「面白そうだなーって」
「そんなわけ!」
「でも、ちょっと笑ってるよ」
「………」
難しい顔をする火渡さん。笑顔を抑えてるようだけど逆に笑ってることがわか
「あー、火渡さんよー」
「あー、あの“性悪焔”のー?」
…あれは隣のクラスの女子か。
「火渡さん?」
火渡さんは俯いてしまう。次、顔を上げた時は元の、最初に会った時の顔に戻ってしまった。
「あれが、普通の班のよ」
拒絶。だけど、どこか寂しそうな顔。
「晶くーん!そんな子ほっといて私たちと遊ぼーう!」
「こっちの方が絶対楽しいよー!」
「ほら、あっちに行ってきたら?」
「…うん。そうだね」
そう言うと、火渡さんはとても悲しそうな顔をした。そんな顔を見たくないから、これ以上そんな顔にしたくないから、僕は言うんだ。
「ごめーん!君たちみたいな“ブス”とは遊ばないんだー!」
『…は?』
ふう、スッキリした。
「じゃあ行こうか火渡さん」
「え?え?」
「ちょっとちょっとー!?」
「それどういう事!?」
「性格ブスって知ってる?君たちみたいに性根が腐ってる人たちのことらしいよ?」
「だったら火渡さんの方が絶対性格ブスでしょ!」
「悪口言いまくってるらしいじゃない!」
「火渡さんは僕らのクラスでは人気者だよ」
「はあ?ありえな?」
「さ、行こうか」
「おい女顔!調子乗らな」
その言葉は続かなかった。
「がふっ!」
『……………』
「…誰が、女顔だって?」
僕がぶん殴ったからね。
毎日稽古つけてもらってる分、運動能力は同年代だとかなり高い位置に属している。父さんも、「力は使うことに意味がある。無闇に使っていいわけでは無いが、譲れないものを守る時は存分に使え」と許可を得ている。ついでに、僕が譲れないのは三つ。
1.女扱い
2.大切な人が傷つけられる
3.目の前で襲われている
だ。
今回の場合、1、2が該当する。
「言えよ。誰が女顔だ?おい!」
「ひっ!?」
「どうした?さっきまであんなピーチクパーチク言ってたろ?同じように言ってみろよ?ああ!?」
「ご、ごめんなさい~~~っ!!!」
他愛ない。
「じゃ、行こうか」
「待て待て待てーーーー!!!今のなに!?」
「え?イラついただけだけど?」
「この女子は!?」
「放置でいいっしょ」
「…あんた、時々冷たいわね」
「虐められた過去があるからね。ある程度は割り切れるよ」
「…そう」
何か諦められた感じがする。
「クラスの人は知ってるの?」
「当然。でも、その上で彼らは仲良くしてくれるし、信用もできる。火渡さんに絡んでくるのも純粋に火渡さんが面白いからだよ」
「…私のどこが」
あ。
「今笑った!」
「っ!もうそのネタはいいから!」
「え?やだ」
「何で!?」
「事実言ってるだけだし」
「……………」
「ねえ火渡さん」
「今度はなに!」
「僕たちはどこに向かってるの?」
「今更聞くなああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
僕たちは体育館倉庫に向かう予定だったそうです。何か整理を任されて、その時に暇そうにしてた僕を誘ったと。火渡さんから声をかけてくれた事に喜んで忘れてたね。
その後は簡単だ。体育館倉庫に行き、整理してた。奥の物を整理してたらいきなり重々しい音がしたんだ。確認したらドアが閉まってて、鍵もかかってね。クスクス笑い声がしたから別クラスの女子の仕業だろう。多分、適当に情報操作もされるだろうから先生たちもしばらくは気づかないだろう。
と、説明したところで冒頭に戻る。
・・・
・・
・
「もーっ!信じられない!」
「まあ、助けがくるまでにさっさと仕事を終わらせようよ」
「何でそんな平然としてられるのよ!」
「うーん…暇だから?」
「暇だと平然としてられるの!?」
「いやー、過去が僕を強くしたんだ」
「あなたが言うと言葉の重みが違うわねえ!?」
「それほどでも」
「褒めてない!」
「…でもさー。実際のところ、何かして気を紛らわさないと、この先大変だよ?」
「何でよ!」
それは決まってる。時間でも無く、場所でも無く、状況でも無い。
それは、
「今日が、土曜日だからね」
「……………」
僕たちは少し気が向いて偶然学校に来た不幸者。さらにこの学校、部活動は週末の土曜日は休み。
体育館倉庫に来る者は、誰もいない。
僕と火渡さんの、長い長い一日が始まった。




