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神様はいるのか

東日本大震災から半年後-


インターホンが鳴った。祐子は黙って玄関に向かい、覗き穴から外を見た。

男性が立っているのが見えた。

祐子はドアを開かず「はい?」と言った。


「あ、すいません。今、キリスト様のお話を…」

「ああ、うちは曹洞宗ですので!!」


祐子はそう言うと、その場を離れた。

…が、突然部屋から出てきた息子「勇人はやと」が「宗教の人か?」と言った。


「え?うん。」

「ちょっと聞きたいことがある。」

「え?」


勇人は玄関を開け、立ち去ろうとしていた男性に声を掛けた。


「ちょっと勇人っ!」


祐子は慌てて止めたが遅かった。自然に閉じた玄関のドアに耳を当て、息子の声を聞いた。


「どちらの団体の方ですか?」

「ああいえ、私は個人で布教しておりまして…」

「そうですか。俺、神様のことで聞きたいことがあって…」

「はい、何でしょう?」


祐子は一層強く玄関に耳を当てた。勇人の声がした。


「神様はいるんですか?」

「もちろんいますとも。」

「じゃぁ、どうして(東日本)大震災であれだけの人が死んだんですか?」


男性が一瞬黙り込んだのがわかった。だが、すぐに答えた。


「震災は…神様からの試練です。」


勇人が黙っている。しばらくして「わかりました。ありがとうございました。」という声がして、すぐに勇人が戻ってくる足音が聞こえた。祐子は慌てて、ドアから離れて中へ入った。

男性が勇人に呼び掛けているのが聞こえたが、勇人は何も言わずに入ってきて、ドアの鍵を閉めた。


「…話にならん…」


勇人は一言そう言って、自室に入って行った。祐子は息子の部屋のドアをノックしながら言った。


「ちょっと、何がしたかったんよ!ママに教えてや!」


勇人はドアを開けて、出てきた。何かむすっとしている。そして黙ってダイニングテーブルの前に座った。


「なんか飲むか?」


祐子がそう言うと、勇人は首を振った。祐子は勇人の向かいに座った。

勇人は黙って祐子を見ている。


「あんなこと聞いて、あんたどうするつもりやったん?」

「別に。」

「別にて…何もないわけないやろ?キリスト教の信者にでもなりたいんか?」

「俺、そういうの好きやない。」

「じゃぁ、なんでわざわざ、あの人を引き留めてあんなこと言うたんよ?」

「…神様がおるんかどうか…聞きたかったんや。」

「あのさ…。おる言うに決まってるやんか。向こうは「有神論」者やで。」

「わかってる。…でも、あの人…神様が地震起こしたようなこと言うた。」

「…それが?」

「俺が聞きたかったのはそうやないんや。地震は、地盤のプレートかなんかがどうにかなって起こったもんやと思ってる。…俺が聞きたかったのは…老人とか小さな子供とかが津波で流されて死んでいくのを、神様は黙って見てただけか…って聞きたかったんや。」

「!!!!」


祐子は驚いて目を見開いた。…何か(なるほど)と納得するものがあった。


「でも、あの人…「試練」やって言うた。…なんで小さな子供が試練なんか受けなあかんねん。」


その勇人の言葉に、祐子は腕を組みながら言った。


「…確かにそうやなぁ…。でもまぁあの人、個人的に布教してるって言うてたから、本当のキリスト教の人の考えとは違うかもしれへんよ。」


勇人は何か考えるようにうつむいている。祐子は急に思い出して言った。


「そう言えば、あんたって…赤ちゃんの時から不思議な子やったなぁ…」

「…え?」


勇人は祐子を見た。


「じいじの通夜の晩…あんた、2歳前くらいやったかな…。急に天井のかど指差して「じいじ!」って叫んだんや。」

「!?…俺が?」

「うん。じいじ、じいじって何度も叫んどった。でもママにはじいじの姿は見えへんかったわ。」

「…覚えてへん…」

「そりゃ、そうやろ。「覚えてる」て言われた方が怖いわ。」


祐子はそう言って笑った。勇人はまたうつむきながら言った。


「ママ、さっきうちは「曹洞宗」言うとったな。」

「そうや。」

「曹洞宗の人やったら、どう答えるんや?」

「知らん。うちのじいじもパパのじいじも、京都のお寺さんによく「禅」組みに行ってたけどなぁ。ママは行ったことないわ。だからわからん。」

「ふーん」

「でも、確か死んだ人は皆「仏」様になれるって誰か言ってたわ。仏教って皆そうなんちゃう?キリスト教は「神のしもべ」?やったっけ…になるけど、仏教はどんな人でも「仏」様になれるとかって。」

「ママは神様おると思うか?」

「さぁなぁ。魂はあると思うけど、神様はどうやろな。…あんたはどうや?」

「俺は、元々「無神論」者や。」

「ほお!その根拠は?」

「神様がいるんやったら…大震災で、何の罪もない人があんなに死ねへんはずや。」

「…うーん…こういう話聞いたことがある。」

「?」


祐子はテーブルに身を乗り出すようにして言った。


「神様は何でもできるけど、何もできへんのやって。」

「…どういう意味や?」

「例えば、ライオンが小鹿を襲おうとしているとする。私らからしたら、小鹿が可哀想やから助けたいと思う。でも神様はライオンが小鹿をしとめへんかったら、そのライオンの子どもが飢え死にしてしまうことを知ってる…」

「!…」

「神様は、どっちにも手ぇ出されへんという訳や。…でも、震災の事はどうやろなぁ…。神様にも事情があって、何もしてやれんかったんとちゃうやろか?」


勇人は腕を組んでうつむき、考え込む様子を見せた。祐子は慌てて言った。


「ああでも、これは「神様がいる」と仮定してママが考えた話やで!個人的には、ママも「無神論者」や。」


勇人は目だけを上げて、祐子を見た。


「さっき、仏教では「死んだ人は皆「仏様」になる」…言うたやろ。」

「うん。」

「ママもそっちの方の考えや。死んだじいじやご先祖様が「仏様」になって、ママ達を見守ってくれてると思ってる。」


勇人は黙っている。


「なぁ、コーヒー入れるけど飲む?」


祐子はそう言って立ち上がった。


「…うん、飲む。」


勇人が言った。祐子は微笑んで、コーヒーメーカーを棚から下ろした。


(「阪神淡路大震災」の時に腹ん中いた子が、こんな生意気な口を利く子になるとはね。)


祐子がそう思った時、あやめの「ただいまー」という声がした。祐子は慌てて玄関に向かい、疲れた顔をして靴を脱いでいるあやめに言った。


「おかえりっ!!会社の面接どうやったっ!?」

「まぁまぁやない?」

「まぁまぁて…。」

「やることはやったわ。ちょっと寝る。」

「うん。…コーヒー入れるけど…いらんよな?」

「いらん。」

「わかった。ほなお休み。晩御飯に起こしたるわ。」

「うん!」


あやめは自室に入っていった。祐子がダイニングに戻ると、勇人がコーヒーメーカーにコーヒーの粉を入れてくれていた。


「ごめんごめん!やるわ。」

「ええよ。俺がやる。」

「そお?サンキュー!」

「あやめ、どうやったって?」


勇人は小さい時から姉を名前で呼ぶ。あやめも別に気にしていないようだ。祐子は椅子に座りながら言った。


「まぁまぁやったってさ。」

「そう…。受かってるでたぶん。」

「え?」

「…あやめ、受かってる。」

「…!…」


祐子は目を見開いて、息子を見つめた。


……


その日の夕方…学校から「あやめさんの採用が決まりました」という電話があった。

勇人の予言が当たっていたのである。


…祐子は、夜中遅くに仕事から帰ってきた守にその話をした。そして興奮気味に言った。


「勇人こそ、神様かもしれんっ!!」

「あほか。それよりあやめの採用が決まったことを喜べよ。」

「!…あらやだ。ほんまやわ。」


祐子は口に手を当てて言った。守は、あきれたように笑った。


(終)

お読みくださった皆様、ありがとうございました。そして「お気に入り小説」にご登録いただいた方、ありがとうございました。そして「しっかり読ませていただきます」とコメントいただいたライツさん!いつもありがとうございます。…こんな中途半端な終わり方になり、申し訳ありません。


こちらのサイトは1か月以上連載が滞ると警告みたいなものが出るそうなので、今あるレポートをとりあえずすべてアップし、ここで一旦終わり…とさせていただきました。ですが、今後も何度か書き直したり、お話を追加しようと思っています。そのため、現段階で中途半端なものになってしまったことをお詫びいたします。


実は、俺がこれを書きたいと思ったのは、祐子さんのご子息「勇人はやと君」がフリーの宗教家に「神様はいるのか?」と疑問をぶつけた話を聞いたことが発端で、同時に祐子さんが「阪神淡路大震災」を体験されたことを聞き、当時のことを思い出していただきながら書き始めたんです。(つまり本当に見切り発車だったんです(^^;)申し訳ありません。)

祐子さんによると「勇人君」は小さいころから他の子とは何か違う感性を持っていたのだとか。…俺的にはすごく興味があるんですが、ご本人の許可が取れないのでレポートにはできなさそうです(;;)


ちなみにその「勇人君」、今でも布教に来た何人かの宗教家に議論を吹っかけているとか…その話の1つを番外編として、最後のお話として載せています。…正直、哲学的な話にまで発展しているので、俺がついていけてませんが(--;)思春期の少年ならではと言える、彼の世界をどうぞご堪能ください。


西条基樹

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