第八十二話【俺が二人になった場合…ってどうしてこうなった!?Ⅰ】
天使長にハチャメチャな事を言われ、週末に強制デートをする事なった行幸。しかし、そんな事よりも今はすっごい普通じゃない事が起こっているじゃないか!?えっ!?これってどうなるんだ!?
※ちょっとエッチ?な展開ですのでご注意ください。
俺は自分のアパートの部屋にいる。
あの騒動の後、気がついたら店の裏口に立っていた。
もしかしたら夢かと思ったが、俺を含む全員の記憶ははっきりしており、夢じゃない事がわかった。
その後、幸桜が俺のアパートへ泊まりに来ると騒いだが、俺は俺なりに結構やばい状況だったので、なんとか説得して自宅へ戻す事に成功。そして、そのまま解散になった。
その後、俺はいつものようにアパートに戻り、そして、いつものように暖房器具のスイッチをいれた。
そう、いつもと同じはず。
だけど、いつもと違う事。
それは……
目の前にもう一人の俺がいるという事だ!
俺の前に俺がいるんだ!マジだぞ?鏡があって、そこに俺が映し出されている訳じゃない。俺はそんなに痛い人じゃない。純粋に俺がもう一人いる状況。それも女の俺がいる。
天使長は俺を二人にしたままで人間界に戻しやがった!
気まずい…自分が相手でも何か気まずい…
狭い居間に座っている行幸二人。ここに戻るまで会話らしい会話は一切ない。
ずっと無言で、たまに交わすのは一言二言の日常会話。
そして、しばらく時間が経過し、あまりのピリピり感に行幸(男)が痺れを切らした。
緊張した趣でもう一人の自分(アニメキャラ【神無月みゆき】に似ている)に声をかける。
「な、なぁ…」
『な、何だよ…』
もう一人の行幸が面倒くさそうに言葉を返す。
とりあえずは、何かの話題をふった方がいいと考えた行幸(男)は、今の状況を話題にする事にした。
「えっと、お前さ、今回の件はどう思う?なんかもう、ハチャメチャになってると思わないか?」
『そうだよな。ハチャメチャだよな』
案外、もう一人の行幸も今の状況を話したかったらしく、すぐに会話に発展した。そして二人は先ほどの無言が嘘のように会話をする。
「なぁ、今まで俺がしてた事ってなんだったんだ?」
『俺がしてたって?恋愛対象者探しとかの事か?』
「そうだよ!なんだ、俺の言いたい事が解ってるじゃないか」
『馬鹿か?俺はお前だぞ?』
「あっ、そっか…」
『まぁ、確かに俺がこんな姿にさせられて、恋愛対象者を振るかひっつけば元に戻れるとか言われて頑張ったけど、結局は何だかわかんねー展開になったよな』
「そうだよ!俺達は恋愛対象者を探して、振る為に頑張って…なのに結局強引にデートをさせられて、強制的に恋愛対象者から一人を選べとか!?天使ってすっげー自己中だよな。俺らの都合なんてまったく考えてないと思わないか?」
『そうだな…俺もその通りだと思う』
「そうだ!お前はどう思う?幸桜とか、菫とか、あいつらは納得してたような事を言ってたけど、本当にこれでいいって思うか?」
『いいも何も、そうなっちまったんだし、仕方ないんじゃないのか?天使長が言ってたけど、俺ってさ、絶対に何かの切欠がないとあの二人から一人を選ぶなんて出来ないっていうのは本当だしな…だろ?』
「………た、例えそうだとしても、じゃあ、お前は今回の方法に納得って事なのかよ?」
『誰も方法に納得とは言ってないだろ?納得するしかないって言ったんだよ!』
「くそっ…なんだかんだって、俺達は結局は天使の言いなりじゃないか」
『仕方ないだろ…言いなりになるしかないんだから』
「仕方ないのかよ…」
そして会話が途切れた。
数分の沈黙。
また、沈黙に耐えれなくなったのか、今度も行幸(男)が先に口を開いた。
「おい」
『何だよ』
「よく考えたらさ、人間が二つに分かれるとかありえないよな?」
『そんなの、よく考えなくってもありえないだろ?』
そう言って溜息をつく行幸(女)。
自分が相手なのにすっげー話ずらい!なんて思う行幸(男)。
「でも、あれだよな?こんな事まで出来るって、マジで天使ってチートだよな」
『そうだな、チートだな。あいつらは基本性能が既にチートだからな。俺を女にしたり、二人に分けたり…でも、人の考えを読むのが一番チートだと思うんだ』
「ああ!あれは本気で卑怯だと思う。あれのお陰で隠し事が出来ないだろ?」
『そうそう、マジであれのお陰で何度俺のライフがゼロになったか…』
「なったな…」
二人は同時にずずずとお茶をすすった。
「しかし、あれだよな。まさか自分と面と向かって話す日がくるなんて考えたもしなかったよ」
『俺だって考えた事もなかった。それも俺が女で、男の俺と話すとか、想像できるはずないよな』
「そうだよな。でもあれだな…こうやって見ると…」
『見ると何だよ?』
「お前、俺の癖に可愛いよな…」
不意にそう言われた行幸(女)は、今までの冷静さが嘘の様に真っ赤になる。
『な、何だよイキナリ?そんなの当たり前だろ?お、俺はアニメキャラなんだぞ?』
「にしても、こうやって見るとやっぱり可愛いなぁって…」
『ば、馬鹿か!?俺を褒めても何もでねーぞ?っていうか、自分に褒められても嬉しくもなんともねーってんだよ!』
と言いつつもついに耳まで真っ赤になった行幸(女)。
「何だよ?もしかして恥ずかしいのか?」
『……!』
「真っ赤な顔しやがって」
『くっ…くそ馬鹿な男の俺!恥ずかしいにきまってんだろ!悟れよ!俺なら悟れよ!』
行幸(男)は行幸(女)を再びじっと見る。
『だから見るなって言ってるだろ!?お前だって女だったんだろ?今更そんなに見ても仕方ないだろ!』
行幸(女)は何故かテンパッていた。
そんな行幸(女)を見て、これ以上ちょっかいを出すと可愛そうかな…と話題を反らす事にした行幸(男)。
テレビのリモコンを手に持った。
「そうだ!これからどうする?暇だしテレビでも見るか?」
『か、勝手に見ればいいだろ!』
「じゃあ…適当につけるぞ?」
行幸(男)はテレビのスイッチを入れた。
それから、二人は無言でテレビを見た。
ちなみに横にあるパソコンの電源は入っていない。
普通なら帰宅すれば即パソコンをしているが、流石にこの状況では二人ともやる気になってなかったのだ。
しばらくすると、クイズ番組が始まる。結構問題が難しいと有名なクイズだ。
お互いに答えを言い合うも、一問すら解けなかった。なんて俺は馬鹿なんだろう。なんて自覚する。
そして、このクイズ番組で二人が驚愕する事があった。なんと答えが9割以上同じだったのだ。お互いにやっぱりこいつは俺なんだと、こっちも自覚する。
難しいクイズ番組が終わってドラマが始まった。
二人はチャンネルを変えず、普段は見ない恋愛ドラマを観はじめる。
一人の男性を巡る、ヒロイン二人の争奪戦のようなドラマ。
そんなコテコテの恋愛ドラマも終盤に入り、テンプレート通りにヒロインが男性に告白されるシーンになる。そして、ヒロインが告白に答えようとした時にドラマは終わった。
『続きは来週』とテロップが流れてエンディングに入る。
いいところで終わらせるのもテンプレどおりだ。
エンディングが流れている最中に行幸(女)は行幸(男)の方を向いた。
『なぁ…』
行幸(男)は『ん?』っといった表情で声に反応して顔を向ける。
『ぶっちゃけさ、お前は幸桜と菫のどっちが好きなんだよ?』
恋愛ドラマの告白に触発されたのか、行幸(女)はそんな質問をした。
「へっ?何だよいきなり?」
『いや、お前は男に戻ってるからさ…女の俺とは考えが違うのかなって…』
「ちがわねーだろ?さっきのクイズだって殆どの答えが一緒だったじゃないか」
『でも、一問だけ違った』
「た、確かに…」
『で…どうなんだよ?』
男の行幸は天井を見上げた。
「……そう言うお前こそどうなんだよ?」
『えっ?俺?』
「そう、お前だよ」
女の行幸も釣られるように天井を見上げた。
『…わかんねぇ』
「わかんねぇ?」
『ああ、どっちが好きかなんてわかんねー』
「………そっか…男でも女でもそこは変わらないんだな。俺もどっちが好きかわかんねぇ…でも、二人とも好きなのは間違いないんだけどな」
二人はゆっくりと顔を下げる。
「お前は俺だから解るだろうけど、俺は彼女が出来るとか、恋愛が出来るとか、そんなの無理だろうなって思ってたんだ。そりゃ、菫の事は前から気になってたし、やけにチョッカイ出す奴だな?俺に気があるのか?なんて思ってたけど、まさかマジで俺を好きだなんて思ってもなかったし、幸桜も昔から俺にはツンデレっぽい対応をしてたから、俺の事が好きなのか?なんて少しは思ったけど、それがマジ恋愛フラグだったなんて思ってもなかった…まぁ、結局は俺は鈍感だったって訳だ」
『………いや、鈍感とかそういう事じゃないと思うぞ?人間なんて所詮はそんなもんだろ?ゲームみたいに選択肢が出る訳でもないし、相手の考えが表示される訳でもない。だから、ゲームみたいに恋愛が出来るはずないんだよ。セーブだって出来ないしな。だから、リアルの恋って慎重になるのが普通じゃないのか?そして気がつかない場合だってあるんじゃないのか?』
「……そっか…そうだよな」
『それでもな…』
「ん?」
『それでも、俺は恋愛しなきゃ駄目だって思ってるんだ。俺は別に孤独が好きな訳じゃないし、彼女だって欲しいって思う。いつまでもネトゲとかエロゲをしてる訳にもいかねーし。だから、何だかんだと今回の件は俺に色々と考えさせてくれる良い機会になったじゃないのか?この件がなきゃ、俺は幸桜と血の繋がりがない事すら気がつかないままだったらろうし。今が俺の人生における転機なんだよ…きっと』
「なんだよ?俺の癖にやけに哲学的だな?女だからか?」
行幸(女)はニコリと柔らかく微笑んだ。
『うん。ちょっとそれはあるかもな?あと、男になったお前を見てて、もしこのまま二人に分かれたままで、俺はずっと女だったらどうなるんだろう?なんて考えてたりもするんだ…』
「えっ?そ、そんな事ってありえるか!?俺とお前が分裂したままとかナイだろ?同じ世界に同じ人間が二人存在するとかありえないと思うんだけど?」
『そうだよな?でも、今現在二人じゃないか?』
「あっ…そ、そうだな…」
『でも、あまり深く考えすぎるのって良くないかもしれないな?どうせ、考えてもわかんねーんだし…』
「でも、もしも本当にお前が女のままでずっといる事になったらどうするんだよ?」
行幸(女)は腕組みをして『うーん』と少し考える。そして、しばらくしてニコリと微笑んだ。いや、ニヤリと不気味に微笑んだと言ったほうがいいかもしれない。
『そうだぁ…戻らなかったら、俺は店長の彼女になって…将来は店長と結婚でもすっかな?』
それを聞いて行幸(男)は驚愕する。まさかの店長!?
「ちょ、ちょっと待て!それは無いだろ?いくら俺でも店長はナイ!」
『ナイ?何で?店長って…隠れていい男だと思うんだけど?』
「で、でも、ナイだろ?店長だぞ?」
なんて反論しつつも、店長の良い所をどんどん思い出す行幸(男)。
『まぁ、戻らないって事はないから。それにしてもお前、俺なのに店長が嫌いなのか?』
「い、いや…嫌いって訳じゃないけど…っていうか、あれか?戻るよな?」
『そうそう!このデートが終われば戻れるって。あと、成せば成る。成さねば成らぬ、なんとやらって言うし、そうなったら考えればいいし。って、あーもうこの話は終わりだ!』
行幸(女)はそう言いながら背伸びするように仰向けに倒れた。
「お前…女のままなのにやけにポジティブだな?」
同じ自分なのに、やけにポジティブな自分に感心する行幸(男)。
『そっか?よしっ!なんかパソコンもする気にならないし、風呂にでも入って来るか!』
「あ、ああ…」
行幸(女)がすくっと立ち上がると、いつもの様に居間で服を脱ぎ始めた。
普通に何事もなく下着姿になる行幸(女)。
ブラのホックへ手をかけた時、何か熱い視線に気がついた。
ゆっくりと視線を右斜め下へと向けると、行幸(男)がガン見してるじゃないか!
『な、なに見てんだよ!』
行幸(女)は思わず脱いだ服を手に取って胸を隠した。
「はっ?なにって、あれだろ、スタイルが良いなーって自分の着替えを見てただけだろ?」
『み、見るなよ!』
「見るなって、自分の体を自分が見て何が悪いんだよ」
『馬鹿か!今の俺は女だぞ!』
行幸(女)の顔がみるみる真っ赤になってゆく。
「待て待て!お前は俺だろ?元は男だろ?こんな事でいちいち騒ぐなよ。何で顔を真っ赤にしてんだよ!」
そう言って行幸(男)は立ち上がり、行幸(女)が持っていた服を剥ぎ取った。
『な、何するんだよ!』
顔を真っ赤にさせて、剥ぎ取られた服をもう一度取り返す行幸(女)。その行動は本当に女性と言っても過言じゃない。
「何だよその態度?俺もつい数時間前までお前と同じ女だったんだぞ?隠したって意味ないだろうが!」
もう一度服を剥ぎ取る。そして、勢い余って思わず胸まで触ってしまう行幸(男)。
すると、行幸(女)は『きゃぁぁ!』とまるで女のような悲鳴をあげてぺたんとその場にしゃがみ込んだ。