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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第七十五話【俺に新しい朝がやってきた!】

ネクストステージ!って次の舞台ですよね?でも…次のステージが決して順風満帆で進める訳でもないし…えっ?

行幸みゆきの新しいステージにご期待ください!(おい)

 新しい朝が来た!希望の朝だ!

 どこかで聞いたフレーズですが、行幸みゆきにとっての本当に新しい朝がやって来た。


 ネクストステージに進行した行幸みゆきは今までの行幸みゆきとはちょっと違う。

 なんと寝坊をせずに早めに家を出てバイト先のパソコンショップへ到着していたのだ。

 しかし、こっそり寝不足っぽい。大きな欠伸あくびをして裏口のノブに手をかけた。

 ガチャリと回すが、ぴくりとも動かないドアノブ。


「早すぎた…まだ開いてないか…」


 普段の一時間も前に到着した行幸みゆき。店長はまだ来ておらず、裏口の鍵は開いていなかった。

 行幸みゆきは仕方無く、喫煙をするオーナー用に裏口の横に置いてある折りたたみ椅子を開くとそれに座る。

 椅子に座り、ふとビルの谷間から空を見上げる行幸みゆき

 東京の空はぶっちゃけ綺麗ではない。霞のかかったように薄く白い感じに見える空。そんな空を見ながら行幸みゆきは考えた。

 昨日の出来事。そして、これからの事。


 今の行幸みゆきのとっても最大の課題はすみれの事だった。

 実は、すみれに今日あった時にどんな会話をするか、まったくもって決まっていなかった。


 行幸みゆきは「うーん」と唸りながら考える。そして、すみれがフォロワードを殴った後のシーンを脳内でリピート再生する。


 あの時、俺と妹の関係を勘違いしたすみれは凄まじい勢いで俺の前から走り去った。

 俺は追っかけたけど、途中で転んで見失った。そして、それから音信不通になった。

 いや、連絡を取ろうと思っていたけど、シャルテの事とか色々あって取れなかっただけなんだけど…


 しかし…まさか俺が襲われるなんて思ってもなかった…それもシャルテにだぞ?

 移り気が多い行幸みゆき。考えが脱線してシャルテに襲われたシーンのリピート再生が開始され始める。

 再生中に視線を胸に向ける。すると、行幸みゆきの顔が真っ赤になった。

 脳内では完全再生が完了しているらしい。


 ば、馬鹿か俺は!何を朝っぱらから思いだしてるんだよ!違うだろ!今はこんな事を考えてる場合じゃないんだよ!


 行幸みゆきは両手で顔を押さえると、落ち着け落ち着けと念じた。

 すると、効果があったのか少し落ち着きを取り戻す。

 今はシャルテに襲われた事じゃない。すみれとどう向き合うかが重要なんだよ…あーまったく…まだ顔が熱い。


「おぅ!行幸みゆきじゃないか!おはよう。今日は珍しく早いな?」


 顔の赤さが取れない行幸みゆきの耳に、不意に男性の声が入った。

 ハッとして顔を向ける。そこには店長が立っていた。


 店長は、相変わらず爽やかな笑顔を振りまく。

 そして、冬かのに何故か半袖シャツだった。肉体派ガテン系男子は冬でも半袖なのか?


「て、店長、おはようございます」

「おう、おはよう。昨日は寝れたか?大丈夫だったか?ちょっと顔色が赤くて冴えない感じだな?気分が悪くなったら言えよ?お前が倒れたら俺が困るからな?」


 昨日は俺の事で一生懸命になってくれた優しい店長は、今日も変わらずに優しいモードが続行中だった。

 ちなみに赤いのはちょっと卑猥な事を考えたからです。


「俺は中に入るぞ?行幸みゆきは?」


 店長は鍵を開けながら行幸みゆきに向かって聞いた。しかし、行幸みゆきは椅子から動かない。


「あ、えっと…俺はすみれを待ってから入ります」


 行幸みゆきが苦笑しつつそう言うと、店長は「そうか?解った」っと一言のこして店内に入って行った。


 携帯電話の時計を見る。

 あと三十分で出勤のタイムリミットだ。また空を見上げる行幸みゆき


 すみれが来たら何を話そう。向こうだって構えてくるだろうし、ちゃんと作戦を練っておかないと駄目だよな…

 うーん…やっぱりあれか?「昨日はごめん…」って謝るとかどうだ?

 ………

 いや、謝っても駄目だ。

 だいたい、何に対して謝ってるのかわかんねーし…


 そうだ!すみれは天使の存在も恋愛対象者の存在も知ってるんだ。

 ここは正直にお前が対象者って言うか?

 ………

 いや、待て。

 すみれに俺が「実はすみれが俺の恋愛対象者なんだ」って言ったらどうなる?

 考えてみろ。すみれは俺が妹を好きだとか勘違いして逃げたんだよな?おまけにすみれも俺が好きだと解るような事を言った訳だ…

 そこで「すみれが恋愛対象者なんだ!」って言てもきっと信じてくれないだろ?

「嘘だ!私が恋愛対象者なんてありえない」なんて言うに気まってる?

 あいつはそういう性格だ。


 そうなると、幸桜こはるの件を話すべきか?

「昨日のあれは違う。俺は妹は好きじゃない。フロワードの告白を断る為に言っただけだ!」って弁解するといいのか?

 確かにあの時はそう思ってフロワードに言ったんだ。

 ……でも今の俺はどうなんだ?幸桜こはるの事を…


 行幸みゆきの微妙に心臓がドキドキと強く脈打ち始めた。


 やばい…血が繋がってないって聞いてから、俺は妙に幸桜こはるを意識してる。何だかんだって妹として見れなくなってきてる…

 くぅぅ!

 それもこれも、幸桜こはるがキスなんかするからだ!

 人生であんなに積極的に女性に言い寄られたのは始めてだったし、そりゃ意識するなって方が無理だろ…

 あーもう!


 両手で頭を抱えて俯きながら真剣に悩む行幸みゆき


 おい…もしかして、俺はすみれ幸桜こはるも好きなんじゃないか?

 じゃなきゃどっちかを選べるはずだよな?選べないって事は?

 俺は二人を傷つけたくない。でも…本心は、二人とも俺から離れて欲しくないって思ってるからなんじゃ?

 まさか…俺はハーレムを望んでいるのか?


 って…やっぱり駄目すぎだろ俺!何がハーレムだよ!今、この現実はゲームじゃないんだよ!

 く…くそっ!自分に腹がたつ!


 人生のパートナーは一人だ!一人なんだ!

 わかってるよ!そんなの解ってる!一人なんだろ?

 じゃあ、選ぶんだよ!

 だから、そんなのわかってるって!シャルテと約束だろ!

 うぐぐぐぐぐ!

 自分の大学進路を考えた時もこんなに悩んだ記憶は無いぞ!

 エロゲの限定版を買うか迷った時もこれほど悩んでないぞ!


 自問自答で悩みまくる行幸みゆき


「うおおおお!何でリアル世界にはセーブ機能が無いんだぁぁあ!」


 思わず空に向かって叫んだ。


行幸みゆき、おはよう…朝から何を叫んでるのよ…」


 空に向かって叫んだばかりの行幸みゆきの耳に女性の声が入ってきた。

 行幸みゆきは慌てて声の方向を見る。

 すると、そこにはいつものダボダボパーカーに赤縁の瓶底メガネ姿のすみれが立っていた。

 焦った表情の行幸みゆき


「えっ?い、いや…あ、あれば便利だよな?」


「朝から馬鹿な事を言ってないでよ。ほら、遅刻になるよ?」


 すみれは若干照れくさそうな表情でそう言うと、行幸みゆきをチラ見しながら店内に入って行った。

 それを見ていた行幸みゆきは眉を歪める。


 おかしい…何か違うだろ…違うぞ?俺が考えていたすみれと違う。

 何であんなに普通なんだ?何事も無かったように挨拶してこれるんだ?

 俺がこんなに悩んでるのに、あいつだって泣きながら俺から逃げたのに、何であんな態度が出来るんだ?

 …わざと?あいつはあつなりに考えて普通っぽくしているのか?

 もしかすると、仕事中に昨日の話題も出るかもしれないよな?そうだ。その可能性が高いぞ。

 と考えると、ここは待ちモードだよな?下手に俺から切り出すと上手く対応できなくなりそうだし。

 よし…そうしよう。


 行幸みゆきは自分を納得させると店内へと入って行った。


 そして…時間は刻々と経過する。十時、十一時、十二時。

 仕事中のすみれはマジで普通だった。

 いつものような会話。いつものような仕事ぶり。そして、いつものような雰囲気だった。


 一時、二時…そしてあっと言う間に午後三時。

 もう二時間で行幸みゆきの今日のバイトも終わりだ。

 行幸みゆきは倉庫整理をしつつ、マザーボードを整理するすみれに視線をやる。


 すみれは何で昨日の事を聞いて来ないんだ?おかしい…なんで?


 行幸みゆきはエロゲーを整理しながら悩む。

 ふと手にとったエロゲーにヤンデレ女の子の絵が描いてあった。それを見てすみれを見る。


 そういえば、きのうすみれは俺のフェロモンの影響で二段階の暴走をしたんだよな?

 二段階目はヤンデレモードになったんだ。しかし、あれはすごかった。

 ヤンデレなんて、ゲームの中でしか有り得ないと思っていたが、現実に見れるなんてな。

 あの、どこを見ているのか解らない死んだ目は本当にすごかった。

 死んだ目ってリアルで見たのは初めてだったし、マジであんあに死んでるとは思わなかった…

 ………なんて感心してる場合じゃないだろ!


 エロゲを両手で持ってずっと考え捲くる行幸みゆき

 傍から見るとエロゲーを見ながら悩んでいる怪しい女だ。


 でも、こんなに普通に出来るっていう事は…まさか?昨日の記憶がない?

 いや、フェロモンでは記憶が消えないはずだ。だから、あの時の事は100%覚えているはずだよな。じゃあ何故?何故だ?


「おい、行幸みゆき…そろそろ、そのエロゲーを棚に戻せよ…」


 店長の声でハッと我に戻った行幸みゆき。エロゲーを慌てて棚に戻した。

 そして、行幸みゆきが頭を痛めたまま五時になった。


 も、もう五時かよ…


 五時になった事を確認した行幸みゆきは事務所へと入る。


「おう、行幸みゆき、お疲れ」


 事務所では店長がパソコンに向かいながら挨拶をしてきた。


「本気で疲れました…」


「何だ?もしかして、ずっとすみれの事でも考えていたのか?」


 不意に店長が聞いてくる。行幸みゆきの顔色が瞬時に変わる。


 へっ?オイマテ!店長は何でこうも俺の心の内が見える?まだ何も言ってないだろ?


「え、えっと?何で解ったんですか!?」


「はっ?何だよ…当たりだったのか?言って見ただけだったんだが?」


 行幸みゆきはハッとして口を押さえた。

 ヤラレタ!カマをかけられただけだった!っていうか自爆した!


「え、えっと…いや、ほら…すみれが元気ないなーって…思っただけです」


 慌てて言い訳を言う行幸みゆき

 そんな動揺する行幸みゆきを見て、店長はパソコン入力の手を緩めるとフッと笑みを浮かべた。


「何だ?お前はすみれの事が気になるのか?」


 椅子をくるりと行幸みゆきの方へ向ける店長。


「へっ?な、何を言ってるんですか!」


「何って?そのままだろ?すみれが気になっていたから、お前は今日一日ずっとすみれを見てたんだろ?」


「えっ?な、何を言ってるんですか」


「何をって?ずっと見てたろ?」


 正解だった。

 行幸みゆきは今日はずっとすみれを見ていた。自覚はある!


 て、店長に見られてた!?

 行幸みゆきの顔は動揺と焦りと照れで一気に真っ赤になる。

 やばい…顔が熱い。また赤くなってる!?


「おいおい、顔が真っ赤だぞ?まったく、解りやすい奴だな?まぁ、でもあれだな?これですみれも報われるのか?」


「はっ?報われる?それってどういう意味ですか?」


「まったく…お前は本当に鈍感だよな?すみれはずっと前からお前を…っと…まぁ俺が言う事じゃないか」


 そう言うと店長はポリポリと頭をかく。


 っていうか!それってあれだろ?すみれが俺に気があるのを店長は前から知っていたって事だろ?

 もうなんていうか、すみれの好意に気が付いてなかったのは俺だけだった系?

 やっぱり俺はリリアや店長の言う通りで鈍感なのか!?


「お疲れ様です」


 行幸みゆきが顔を真っ赤にして動揺中。そんな中ですみれが事務所に現れた。

 ハッっとすみれを見る行幸みゆき

 そんな行幸みゆきと視線があってしまったすみれ。すると、すみれまで顔が真っ赤になる。


「じゃ、じゃあ、私は先にあがります!お疲れ様でした」


 すみれは慌てて視線を外すと、そそくさと事務所から出て行った。

 それを見ていた店長が再び声を出して笑う。


「今日は本当にわかりやすいな。すみれもお前もな」


「え、えっと…」


行幸みゆきは全然気が付いてなかったろ?」


「な、何をですか?」


「今日な?すみれはお前が見ていない時、ずっとお前を見てたんだぞ?あははは」


「マ、マジですか?」


「こんな事で嘘をついてどうする?」


「いや…そうですけど…でも…」


 店長はニヤニヤしながら行幸みゆきをじっと見る。

 行幸みゆきは顔を赤くしたまま視線をそらした。


「で…行幸みゆき


 いきなり店長の声のトーンが変わる。何か真剣な感じの口調になった。

 行幸みゆきがチラリと店長を見ると、店長は椅子から立ち上がって事務所の入口まで行く。そして、事務所の中からガチャリと鍵をかけた。


「えっ?何で鍵を?」


 店長は鍵をかけ終えると、くるりと方向転換をして行幸みゆきの前までやってくる。

 そして、足元から顔へとゆっくりと視線をあげていった。


「な、何をするつもりですか!?」


 行幸みゆきは真っ赤な顔のまま、思わず胸を隠した。


「馬鹿、変な事を想像するな。俺はお前に聞きたい事があるだけだ」


「嘘だ!いま俺の全身を舐めるように見てたじゃないですか!」


「普通に見ただけじゃないか。お前、視線に過敏になってないか?」


「えっ?」


「何かあったのか?誰かに視姦しかんでもされたのか?」


「え…いや…」


 行幸みゆきはフェロモンで暴走した店長を思い出していた。

 個室で二人というシチュエーションからシャルテに襲われた事も思い出していた。

 無意識に行幸みゆきは自己防衛の為に敏感に反応していたのだ。


 これってフェロモンの後遺症なのか?


 ちょっと不安そうな顔になった行幸みゆき

 そんな行幸みゆきの頭を店長は優しく撫でた。

 撫でられた瞬間に行幸みゆきは肩を竦める

 しかし、店長の言葉がそんな行幸みゆきの緊張を紐解いていく。


行幸みゆき。俺を信じろ。俺はお前に手は出さないし、逆にお前を守ってやるよ。何かあったら昨日みたいに駆けつけてやるから」


 行幸みゆきは店長を見上げた。その瞳の奥から信頼を感じた。見詰めていると心から安心できた。やっぱり店長は大人だと思った。

 行幸みゆきの心の中がちょっと温かくなる。


「お前は俺にとって大事な後輩なんだからな」


 そんな店長の優しい言葉に「キュン…」っと胸が痛んだ。

 ……えっ?

 ま、まてー!今のは何だ?ちょと胸が痛かった…って!何で俺が店長に胸キュンしなきゃいけないんだよ!ナイナイナイナイ!

 また顔を真っ赤にする行幸みゆきだった。


 続く

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