第七話 【俺に訪れた悪夢①】
今回は菫視点でスタートです。
※『どうしてこうなるんだ!』ではこういう事は今後もあります。
行幸は店長の一言を聞いた後に、突然生気が抜けたようになったしまった。
そして放心状態になってそまま床にがっくりと膝をついちゃった。
そのまま前のめりに倒れそうになった行幸だったけど、それはなんとか耐えたみたい。
でも、床に四つん這いという状態。
メイドがお尻を突き出して四つんばいとか、エッチいわね。
「あれ? 行幸? どうしたんだ?」
店長は先ほどの一言に対しては、悪気などまったくないみたいだ。
首を傾げて四つん這いになった行幸を見ているし。
店長はそんなんだから彼女の一人も出来ないんだ。
今日になって本当の店長を知ってよくわかった。っと…今はそうじゃない…行幸ね。
私も正直、行幸の声と表情と反応があまりに女性らしかったから、つい本当の女になったんじゃなんて言っちゃったけど。
でも行幸は体は女になってるけど、中身は男のままだ。うん、行幸はまだ男なんだよ。
でも、何で私は行幸の胸をあんなに揉んだんだろう?
そうよ、何で?
そりゃ少しは触ってみたかった。触ってみたいなーって思ってた。
あんなに激しく触りたい訳じゃなかったはずなのに…何で?
知らない間に体が勝手に動いてた? いっぱい満足するまで揉んでいた。どういう事?
でも、今は行幸の胸にはまったく興味がなくなってるし。
私が冷静になったからあんな気持ちじゃなくなったのかしら?
そして目の前では行幸が撃沈している。
行幸がぜんぜん動かなくなった。
やっぱり、さっきの店長の言葉でかなりのショックを受けてるんだろうな。
菫はしゃがみ込んで行幸の表情を確認した。
行幸の目が白くなっていた。まるで死んだ鯖のようになっていた。
うわ……目が完全に死んでる。
「行幸、大丈夫?」
声を掛けてみるもまったく反応なし。
どうしよう……行幸がこんなになっちゃうなんて。
「行幸、ねぇ? ごめんね、私もちょっと言い過ぎた」
ダメだわ。
「菫? 行幸の具合はどうなったんだ?」
「どうなんだじゃないです!」
私は店長を睨んでやった。ほんとうに今日の店長はおかしすぎる。
「な、なんだ? 何でそんなに怖い顔をしてるんだよ?」
「店長! 店長のせいで行幸がこんなになっちゃったんじゃないですか! わかってんの?」
「何を言ってるんだ? 俺は女の子らしい反応をしたから行幸に女の子だと言っただけだ。その前に菫も胸を揉みなくった挙句に、心も女になったとか言ってたじゃないか」
確かにそうだ。私も言うつもりがなかったのに言っていた。でも!
「その言い方はないんじゃないですか? 確かにいっぱい揉んだし、そういう事も言ったけど、で、でも店長の余計な一言でこうなったんじゃない!」
とどめは店長が刺したし。
「待て待て、だから何で俺が菫にそんなに怒られなきゃいけないんだ? 取り合えず言えるのは俺にも菫にも非があるって事だろ?」
確かにそうだ。そうだよ。なんか今日は気持ちが高ぶりやすいわ。おかしいな。
「そ、そうですね」
「だろ? しかし、行幸はどうなってるんだ?」
店長は放心状態になって固まっている行幸の表情を覗いた。
そして、うわぁ…という感じで眉間にしわをよせている。
あい変わらずあの表情と目のままなんだろうな。
「私の予想だけど、さっきの自分から女っぽい喘ぎ声を出してしまったのと、私と店長に女だと言われたショックで意識が飛んじゃってるんだと思う」
「何だそれ? あれしきの事で意識が飛ぶのか?」
「うん、そうだと思う。だって目が死んでるし、放心状態で固まってるし」
「なんて弱い奴なんだ」
「でも、思った以上に女になった事を気にしてたみたいだし、やっぱりハッキリ言われたくなかったんじゃないかな?」
「俺は自分が女になっても全然平気だけどな」
「何それ? 私は店長の女になった姿とか見たくもないわ」
「ん? もしかすると結構かわいいかもしれないぞ?」
「うわーないない、私は怪物筋肉女しか想像できない」
「おいおい、それって偏見だろ? 行幸だって元の姿からまったく別人になってるじゃないか」
「まぁそうね。確かに別人だわ」
「だろ? だったら俺も可愛いアニメキャラになるかもしれないだろうが」
「え? っていうか、店長ってもしかして女になりたいの?」
「……」
店長が頬を赤くして私から目を逸らした。
こ、これは危険だわ。
「店長ってそういう願望があったんだ?」
「ち、違う! 俺は女になってみたいなんてこれっぽちしか思ってない!」
「………思ってるんだ」
「い、いや、あれだ。男はだれしも一度くらいは異性になってみたいと思うものだぞ? そういう菫だって男になってみたいとか思わないのか?」
「思わない。コスプレで十分」
「……」
「何か言いたい事でもある?」
店長は挙動不審に店内を見渡すと行幸に目をやった。
「とりあえずこの放心状態になった行幸をどうにかしないといけないな」
「話を逸らしたわね」
「違う! 話を逸らした訳じゃない! こんな場所で放心状態になった行幸を放置出来ないだろ」
どう考えても話を逸らしてるけど、まぁいいや。
「まぁ確かにね。レジカウンターの中とは言え、メイド姿の女の子が四つん這いになって放心状態っていうのは頂けないわよね」
「そうだろ? 今はお客さんがいないからいいが、お客さんが来たらびっくりするぞ?」
「そうね、でももう五分くらい経ったし、そろそろ自動的に立ち直ってくれるかもしれないわよ?」
しかし、かなりの時間店長とやり取りしていたけど行幸は放心状態のままぴくりとも動かない。
「動きそうもないな」
「そうね……よし、私がもう一回呼んでみるわ。反応するかもしれないし」
「そうだな、やってみてくれ」
「うん」
菫はすこし大きめな声で行幸を呼んだ。
「行幸! 大丈夫? ねえ、みゆき!」
「……」
全然反応がない。もう一度呼んでみようかな。
「行幸! しっかりしてよ! みゆき!」
すると、ぴくりと行幸が少し動いた。
「行幸!? 気がついたの? あれ……また動かなくなった。一瞬動いたのに」
「菫、もう一回呼んでみたらどうだ?」
「そうね」
私はもう一度大きな声で行幸を呼んでみた。
「行幸、みゆきー! み・ゆ・き! みゆきぃぃぃ! げほ…げほげほ」
むせた。
「おい、菫、大丈夫か?」
「はぁはぁはぁ、ちょっと噎せただけよ」
「そうか、しかし、まったく反応がないな」
「そうね」
思わず溜息がでてしまう。
困ったなぁって思っていたら、店長が突然四つん這いの行幸の両脇を掴むと強引に持ち上げてびっくり。
「え? ちょ、ちょっと店長!? 何をする気?」
「少しハードだが、こういう場合は揺らせば起きるだろ」
「え? 揺らすって?」
「いわゆるショック療法だ!」
「え! 何それ!」
「呼んでも意識が戻らないんだから仕方ないだろ?」
「で、でも…揺らすとか…そっとしておいてあげようよ?」
「どうもこうも無い! こんな時は実行あるのみだ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
しかし、店長は菫制止を聞かず、目の前でみゆきを上下左右に激しく揺らし始めた。
☆★☆★☆★☆★
ここは行幸の閉鎖された思考空間。
俺はなんで女にみたいな喘ぎ声なんか出してるんだよ?
それも意識して出したんじゃない。自然と出たし……。
や、やばいだろこれ?
もしかして菫の言う通りで俺はマジで心まで女になったのか?
いや、それはない! ない! ないない! そんな事は絶対にない!
意識の中で自問自答を繰り返している。
でも、よく考えてみろよ?
菫に胸を揉まれて思わず声はでた。
だが、出た声はちょっと喘ぎ声ぽかっただけだろ?
【みゆき本体】そうだ! 俺の中の俺! そう思うだろ?
【みゆきA】そ、そうだ…そうだ! その通りだ!
【みゆきB】そうだ! それだけの事だ! 気にするな! お前は男だ!
【みゆきC】そうだ! お前は男なんだ!
でもあれだよな、男は胸を揉まれても喘ぎ声なんで出さないよな!?
【みゆきABC】そうだ! その通りだ! 出さない!
【みゆき本体】待て! 全員で同意するんじゃねーよ!
……。
……。
ま、まて! よく考えろ? さっきはどうだったんだ?
俺は胸を揉まれてたらだんだんと変な気分になっていった。
それも何て言うか、男の時には感じなかった変な感覚だった。
ちょっと気持ちが良かったって言うか、そのままもまれ続けたい…………って! うわぁぁぁぁあ! 俺は何を考えてるんだ!?
ダメだ、今はこれ以上何も考えるな!
よーし、落ち着け。
ああ、今のこの現状が夢ならいいのに。
夢?
そ、そうか! きっとこれは夢だ! これは夢なんだ!
俺が女になるなんて有り得ない!
現実的に考えろよな? 男が女になる? そんな事が現実に起こるなんて無いだろ?
あはは……そうだ、そうだよな?
なるほどな、これは夢だったのか。しかしリアルな夢だな? でもってこれが悪夢っていう奴か?
「ゆき?………」
ん? 誰かが俺を呼んでる?
「…………ゆき!」
誰だ? 俺を呼んでるのは?
俺をこの悪夢から覚ましてくれるのか? 早くこの悪夢から目覚めさせてくれ!
その瞬間、ふわっと体が軽くなった。
ん? 何だ? なんか体が宙に浮いてるような感覚が。
と思ったその瞬間だった。
自分の体が震度八の地震でも直撃したのかという位に激しく揺れ始めた。
え? 何だ!? どうなってんだ!?
「こら! 起きろ! うおおおお!」
店長の叫び声にも似た大きな声が聞こえる。幻聴?っていうかこれは本物の店長の声だ。
行幸はあまりにも激しい衝撃で我に返った。
な、何だ? 何で俺の両脇ががっちりと掴まれて店長に持ち上げられているんだ!?
何で店長が大声をあげながら上下左右に揺すってるんだよ!
な、なにやってんだよ店長は!
く…しかしこれはきつい…激しすぎる!
頭が、頭がぁぁ!
行幸は何とか脱出しようかとジタバタと動いてみたが、激しく揺すられてる上に空中に持ち上げられてるせいもあって体の自由がきかない。
な、何で俺は店長にこんなに激しく揺すられてるんだよ!
まさか、俺が女になったのは夢じゃないという現実を俺に教えたいのか?
とか考えてたら死ぬ!
うぇ……なんか目が回ってきた。
気持ちも悪い……と、取り合えずこの状態から脱出しなければ。
行幸は再び体を動かそうとがんばったが。
ダメだ……やっぱり動けない。
両脇の下を掴んでいる店長の手をなんとか振り払おうとしたが揺れすぎているせいもありうまく両手も動かない。
おまけにがっちり掴みすぎ!
やばい、まじで目が回るぅ……。
こ、こうなったら仕方ない。認めたくないけど。
「店長! 認めるから! 俺は女だから! 認めるから揺らすのやめてぇぇ!」
これできっと大丈夫!
しかし、揺れはまったく収まらない。
じゃなかったーーー!
「店長、聞こえてる? ストップ! 日本語だと止まれだから!」
ぜんぜん止めないじゃねーかよ! 今は女だって認めたのに! ストップって言ったのに。
「うぷっ」
うぇ……かなりやばい。気持ち悪いしマジで目が回って涙まで出てきた。
「行幸! 気をしっかり持て! うおおおおぉおぉ!」
な……何を言ってやがるんだよ……今の俺は気をしっかり持ってたのに……。
や、やばい。このままだと…マジやばい、き、気をしっかり保てなくなる。
「や、やめろ店長……吐くっ、酔う! 死ぬ!」
懸命に叫んだが目が回ってるせいか声がほとんど出ない…
そしてやはりというかまったく揺れは収まらない。
う…やば…気が遠くなってきた。
「お願いだから店長ぉ……やめてくださいよぉ……」
やばい涙いっぱいでてきた。
「やめ……て」
やっぱり聞こえてないのかよ……。
もう目が回ってほとんど声もでねぇ。
「……ぅ」
ああ…ダメだ完全に声も出なくなった……。
何で? 何で俺がこんな目に遭うんだよ?
あー頭の中が真っ白になってきたぁ……真っ白だぁ……どうしてこうなったぁ?
ガク……。
行幸はあまりの揺れの衝撃でつうに意識を失った。
☆★☆★☆★☆★
店長に激しく揺すられた行幸は目の前で意識を取り戻していた。
それをしっかりと菫は見ていた。が、しかし。
「店長、行幸が気がついたわ!」
「こら! 起きろ! うおおおお!」
店長は揺するのをまったく止めない。
「え? 店長?」
その時、行幸が何かを言ったのか、口がもごもごと動いた。
それでも店長は躊躇無く行幸を揺らし続けている。
「店長! ちょっと待って! 私の声まで聞こえてないの?」
目の前では行幸の顔色がどんどん白く変化してゆく。
店長は目を閉じて揺らすのに一生懸命で私の声すら聞こえていない。
何してんのよ! 行幸はもう気が付いてるのに! 何で揺らすのに夢中なのよ!
このままじゃ行幸が危ない。
「ちょ! ちょっと店長! やりすぎだって! ストップ!」
菫が大声で店長を制止しようとした。しかし店長は揺するのを止めない。
まるで暴走してしまった機械のように動き続けている。
菫が咄嗟に行幸の様子を確認する。
するとさっきまで揺れに抵抗しているように見えた行幸だったが、今はされるがままにブラブラと頭と手足を揺らしていた。
口からは涎、目からは涙が出ていた。
「み、行幸っ!」
菫の表情が一気に青くなった。
壊れた操り人形みたいに手足をぶらぶらとしている行幸を見て焦りまくる。
このままじゃ行幸が死んじゃう!
「店長やめてよ!」
菫は背後から店長におもいっきり抱きついた。
続く
おまけ? 作者と対談その0
作者「今日のお客様は行幸さんです」
行幸「作者…これは何だ?」
作者「いやー後書きの内容を思いつかなかったからつい…」
行幸「で?俺は何をすればいいんだ?」
作者「えっと…じゃあ…質問するので答えてください」
行幸「え?えっと…了解」
作者「えっと…彼女居ない歴は何年ですか?」
行幸「聞く必要ないだろ…」
作者「えっと…彼女は欲しいですか?」
行幸「そりゃ…多少…」
作者「へぇ…そうなんだ…」
行幸「な!何なんだその言い方は!」
作者「いや…何でもないですよ?彼女を作る為にはまずは男に戻らないとね」
行幸「今すぐ戻せよ」
作者「えーそうしたらこの小説終わるじゃん」
行幸「いいよ終わっても」
作者「一応は終わりまでもう考えてあるんだよね」
行幸「おお!そうなのか!じゃあ俺は男に戻れるんだな!」
作者「おっと…次話を書かないと…それじゃ!」
行幸「ちょ、ちょっと待て!答えてから行け!」
って何よこれ