第六十八話【俺はこの先どうすれば良いのですか?神様おしえてください!Ⅳ】
あれから数十分後…シャルテは…という事で続きをどうぞっ!
公園のブランコがキィキィと音を立てて揺れている。
先ほどまで賑やかだった公園にはすでにリリアの姿は無かった。シャルテに全てを伝えて終えると天界へと戻っていったのだ。
『シャルテを信じています』
こう言葉を残して。
公園に一人残されたシャルテは考える。自分の事を、そして行幸の事を。
フェロモンの影響が消えたにも関わらず、行幸の事を考えると胸が締め付けられる。
幸桜が恋愛対象者になったと頭で再確認すると、胸がすごく痛む。
そして、本当に行幸を好きなんだと再度自覚する。
ブランコを止めると星の見えない夜空を見上げた。そして、そんな空に向かってシャルテは呟いた。
「僕は行幸が好きだ」
「行幸とずっと一緒いたいって思っている」
「もっともっと行幸の事を知りたいし、もっと行幸の側にいたい…」
「僕も…行幸の恋人になって二人で幸せになりたいな…」
「だから…僕は人間になりたいんだ…」
「……くぅ」
「うぅぅ!」
「あぁぁぁ!もぅ!」
先ほどまで優しい笑みを浮かべていたシャルテの表情がだんだんと怒りの表情に変わる。
心の中で何かがあったらしい。そして怒鳴るように叫んだ。
「腹が立ってきた!僕にこんな事を言わせるなんてなんて酷い男なんだ!」
「最悪だ!最低だ!ゴミだ!ゴミ虫だ!ゴミ虫以下だ!細菌だ!ウイルスだ!死滅しろよ馬鹿行幸!」
「MMOでネカマして人を騙し腐って!フロワードという健全な男を恋愛対象者にしやがって!」
「男は妄想する生き物なんだよ!行幸だってそうだろ!優しくしてもらって、その気があるように振舞ってきたら、気があるのかなとか思うだろ!お前を好きになる奴だって出るって思えよ!」
「おまけに言葉巧みに恋愛に初心だった菫を無意識に拐かしやがって!片思いさせやがって!乙女はな…行幸みたいな自然な優しさを出す男に弱いんだよ!気が付けよ馬鹿!あと、菫の好意にも気が付けよ!」
「それとな、昔から想いを寄せていた妹から急に距離を置きやがって!乙女は恋愛感情増幅機能を搭載してるんだよ!いつもいた想い人が側にいないと余計に想いは増幅されるんだよ!おまけに想い出は美化されるんだ!あとな、血縁とかそうじゃないとか、ちゃんと理解しておけよ!馬鹿!」
「あぁぁあ!馬鹿!馬鹿!馬鹿…馬鹿…行幸の馬鹿…本当に馬鹿だ…」
「……」
シャルテは再び柔らかい表情へと戻った。
「でも…」
「僕は…そんな行幸が大好きなんだよ…」
シャルテは『きゅん』っと痛む胸に右手を当てる。そして、しばらく空を見上げていた。
「…決めたよ」
シャルテは小さく頷いた。
「僕は…自分の未来を決めたよ」
「なぁ行幸…これがきっとリリア姉ぇのいう正しい未来なんだよな?」
「だから…行幸…僕は…」
シャルテは「ふぅ」と溜息をつく。そして自分に言い聞かせるように口に出した。
「僕は…行幸を忘れる事にする…忘れる!」
口に出す事で自分に言い聞かせた。そうしないと自分の気持ちを覆してしまいそうだから。
そう、僕は行幸の事を忘れる…恋愛対象者にはならない…
本来、僕が恋愛対象者になる事自体がおかしいんだ…天使の癖に…そう思うだろ?行幸も。
「あ…あれ?」
今度こそ絶対に泣かないって決めたのに…
シャルテの瞳からは涙が溢れる。
「くそー!絶対に…行幸は…許さないからな…ほんっとに…辛いんだ…ぞ…」
「でも…僕は行幸を忘れちゃうから…怒れなくなるんだけどな…」
シャルテは両腕で涙を拭うと項垂れた。
今の僕は恋愛対象者の気持ちがよくわかる…
菫も、幸桜も、フロワードも…みんなが行幸を本当に大好きなんだ。
みんなが行幸の恋人になりたいと思っているんだ。そして…僕と同じように心を痛めているはずなんだ…
フロワードと幸桜には申し訳ないけど、僕は菫を応援する事にするよ。そして、行幸には二人で幸せになって貰う。
それにしても…天使長も何を考えてるんだよな…
天使の癖に人間の恋人だって?そんなのまるであのエロいゲームじゃないか。そんな事はフィクションでしかあり得ない事だろ?
まったくなぁ…そんなの現実になる訳ないし、なっちゃ駄目なんだよ。
……だよな?行幸…
そうそう、僕は行幸のフェロモン効果を解いた時に行幸の事を忘れるんだってさ…
綺麗さっぱり行幸を好きだった事も忘れちゃうんだってさ。
まぁ行幸にとってもいい迷惑だよな?僕が行幸を好きとかありえないだろ?
だいたい、行幸は僕が好きだって気が付いてないだろ?僕の恋は一方通行の片思いなんだから…
だから…僕も忘れるのが一番なんだよ。敵わない恋なんだからな。
よーし!さっさと行幸に逢って、フェロモンを解いてやっか!
でも…ちょと恥ずかしいけど…まぁ…忘れる前の思い出には丁度いいかな…
僕の初めてなんだ…行幸め、有りがたく思えよ?
行幸…今までありがとな…早いけど…さよならだよ。
その時だった、『グサッ』っと何かがナイフのようなものが胸に刺さるような痛みが脳へと伝達された。今までで一番つよい痛みだった。
シャルテは胸をぐっと押さえながら体を丸める。
涙が止まらない。地面に落ちるいくつもの雫が落ちて、そして吸い込まれる。
最近の僕は泣き虫すぎだろ…
シャルテはぐっと左手に拳を握り力を込めた。
くそっ…行幸の奴…本当に絶対に許さないからな…
幸せならなかった日には…持ってるエロいゲームのディスクを全部魔法でブランクディスクにしてやる…
エッチな本を全部真っ白の白紙にしてやる…いや、男の裸に差し替えてやる!
MMOのデータも消してやるからな…いや、新キャラでネカマっていう職業にしておいてやる。
そうだ!浮気とかしたらまた女にしてやるからな…絶対にしてやるからな…してやるんだ…
……くっ…痛っ…あは…あはは…痛いって…
行幸ぃ…苦しい…苦しいよぉ…
でも…わかってるよ…これを乗り越えないと駄目なんだよな…
僕も頑張るから…行幸が本当に大好きだから…
だから、行幸…絶対に幸せになれよ…約束なんだからな…
でも…あとちょっとだけ想い出に浸ってもいいかな?少しでも長い時間…行幸の事を好きでいたいんだ…
想い出って言っても少しだけしかないけど…でも、しっかりと味わっておきたいんだ。
落ち着いたらフェロモンを解きにいくからな…
僕が最後に行幸にしてあげられる事だから…
☆★☆★☆★☆★☆
少し時間を遡り深夜十二時の浅草橋付近。駅横を自転車で爆走する一人の男がいた。
うなる自転車!煙を吐くタイヤ!直角コーナーをドリフト走行!
知らない間におまわりさんに追っかけられていたが、自転車は止まらない!いや止まれない!止まったら捕まるから!
ふふふっ!俺に追いつけるやつなんてこの世にはいない!
っと思ったら捕まった。
ロスタイム、十二分!
店長は無謀運転の注意をうけた後に再び走り出した。向かっているのは行幸のアパートだ。
少し走った所で店長は再びスピードを上げる。先程のおまわりさんの注意などもう店長の頭には無い。いや、あるけどね?無いって事で…
「キキキッー」と再びタイヤが鳴り煙が出る!すさまじい勢いで行幸のアパートへ向かう。
「うぉぉぉぉ!」
叫びながら自転車を漕ぐ店長。
行幸の奴、弱気になりやがって!何があったんだ!何かあったら相談くらいしろってんだ!まったく!
心の中でそう叫びながら自転車を懸命に走らせた。
先ほどの電話は行幸からだった。
電話の向こうで行幸は泣いていた。泣きながら明日から当分休みたいと言っていた。
俺がが理由を聞く前にあいつは電話を一方的に切りやがった!後で何度も電話したがまったく出やがりやしねーし!おまけに菫にも電話をしたが電源が入ってない!行幸の妹にも電源が入ってない!こういう時に繋がらないなんて、あいつらはタイミング悪すぎるだろ!くそが!
行幸の奴、馬鹿な事を考えてないだろうな?
店長の脳裏に不安が過ぎる。
そして行幸のアパートへ到着した店長。
「キキキーー!」と激しいブレーキ音と共に自転車は止まる。そして、店長は自転車を投げ出して階段へ向かった。
急いで鋼鉄製の階段を駆け上がるとドアノブに手をかけた。躊躇せずにノブを回す。
ノックなしの突撃潜入だ!中で何があっても覚悟は出来てる!よし!行くぜっ!
ガチャリとノブが回った。
鍵はかかってないか…
店長はドアを「バン」と開けてアパートの中に入った。だがそこには行幸の姿はなかった。
しかし、電気はつけっぱなしだ。そして人がいた形跡もある。玄関には女性もののパンプスが几帳面に置かれていた。
これは誰のだ?行幸のか?いや…違うな。
店長はそのパンプスに違和感を感じた。行幸のじゃないと直感で解った。しかし、今はそれどころじゃない。
あいつ、どこ行きやがったんだ!
店長は『戻ったら電話しろ』とコンビニのレシートの裏に書き、それを置手紙をすると部屋を飛び出した。
そうだ、行幸のさっきの電話…そういえば車の音が聞こえてたな。それもザーって感じ。
高速か?あいつは高速の近くにいるのか?ここから近い高速は…
辺りを見回すと西に見えるのは首都高速六号線。
店長は西へ走って首都高速六号線の下へと向かう。そして六号線の真下の隅田川沿いをひたすら南へと走った。だが行幸の姿は見えない。
今度は首都高七号線の近くに道路をひたすら東へと進む。そして進んでゆくと清洲通りへとぶつかった。
行幸はどこだぁ!
「行幸ぃ!行幸っ!」
叫びながら突き進む自転車。
店長は清洲通りを過ぎて錦糸町方面へと突き進む。
何分走っただろうか?かなり走った気がする。そして、しばらく進んた所に公園を見つけた。
公園か?ここに居たりしないか?
店長は自転車を置くと公園を覗き込む。するとブランコに一人の女性が座っているのが見えた。
後姿なので行幸がどうかはわからない。だが、どこかで見た事のある青いスウェットを着ている。そして冬なのにかなりの薄着だ。
もしも部屋を飛び出したとすれば、可能性のある姿だな。行幸なのか?
店長はその女性に近寄る。するとその女性は店長の気配に気がついたのか後ろを振り向いた。
顔を確認する。違う…行幸じゃない…
それは見た事のない女性だった。ただ、不思議なのは見た事の無いはずなのに、どこかで見た事のある顔と、靴を履いていない事だった…
まさかな…
店長は女性に怪しまれないように横を通過すると、高速道路の下の水路に向かって叫んだ。反対岸にも届く程の大きな声で。
「行幸!何処だ?いないのか?」
「えっ?」
先程の女性が店長の声に反応して思わず声を漏らす。そして店長は驚いて振り返った。
何だ?この女、今俺の声に反応した?もしかして行幸を知っているのか?まさか…
店長は女性の足を見る。靴を履いていない足。そして、右足付近の土に血が滲んでいる。
怪しいな…この女…行幸と関わりがあるのか?よし…
「すみません、ええと…ちょっとお伺いします。高坂行幸を知っていますか?」
店長はその女性にストレートに聞いた。するとその女性は顔を強張らせるが、何も答えない。
その態度をみて店長は感じ取った。この女性はやはり行幸を知っている!
「おい、行幸を知ってるのか?知ってるなら今どこにいるの教えてくれ」
店長がそう言うと、その女性は驚いた表情で店長を再び見る。
「正直に言うぞ?あいつ、行方不明なんだよ!俺は行幸を探してるんだ!知ってるなら本当に教えてくれ!」
女性は驚いた表情で店長を見るとやっと口を開いた。
「…行方不明?って?行幸が行方不明…なのか?」
「そうだ、あいつ何処かに消えたんだ。アパートにいなかった。一時間半くらいに電話がきて、あいつ泣いてたんだよ」
「泣いてた?何で?」
「わからない。ただ、何かあったんだよ。あいつに何かがあったんだ」
女性、いや、シャルテは自分の胸を押さえた。ドキドキと強く鼓動する心臓。
行幸が行方不明ってどういう事だ?何で?
僕のせいなのか?僕が行幸を襲ったから?アパートを飛び出したから?逃げたから?
「知らないようだな。わかった。俺はまた探す。だから見つけたら部屋に戻れって言っておいてくれ」
店長はそう言うと立ち去ろうとした。
行幸を探さないと…早くフェロモンを解いてやらないとっ!でないと行幸が…
シャルテはいきなり立ち上がる。そして「行幸を探す!」と言って公園から飛び出した。
「おい待てよ!」
店長の制止も聞かずに、シャルテは立ち止まる事なく道路を走る。
しかし、シャルテの足の裏は暗闇のアスファルトを歩きすぎたせいで血だらけだった。痛みでうまく走れない。店長はそれに気が付く。
「おい!足の裏から血が出てるじゃないか!乗れ!俺の後ろに乗れ!」
「いい!僕は一人で探す!」
シャルテはそう言って苦痛の表情で走る。
「いいから乗れよ!行幸を探すんだろ?目的は一緒だろ!だから乗れって!」
だけど…僕は…フェロモンを解く為に…
「早く乗れよ!」
…くっ!
シャルテは自転車の後ろへ飛び乗った。
続く
リアル両国付近を知っていると、ちょっと地図が思い浮かぶかも?
そんなこんなで続きは来週以降になる予定です。
しばらくお待ちください。