第六十六話【俺はこの先どうすれば良いのですか?神様おしえてください!Ⅱ】
行幸が自分の不甲斐なさと駄目さに打ちのめされている時、シャルテもまた心を痛めていた。
な、なんでこんなにシリアス展開!これってラブコメディーじゃ!?
いえ、えっと…だからジャンルは…もう言わないでっ(ぶわっ
という事でお待たせしました!続きをどうぞっ!(H25年5月14日時点での書き込みです)
高速道路の下の水路横にある小さな公園。中央にある街頭が公園をほのかに照らしている。
そんな人気の無い小さな公園の入口にシャルテの姿があった。
「痛っ…」
シャルテは苦痛の表情で右足を上げて足の裏を見る。足の裏はアスファルトを素足で走ったせいで血まみれだった。
しかし、そんな痛みよりももっと痛いものがある。それは心。シャルテは今にも押しつぶされそうな心の痛みに襲われていた。
「僕は何をしてるんだよ…天使なのに…何してんだよ…」
シャルテは半泣きのしかめっ面で右足を引きずるよう公園の中心に向かってあるいた。
そして街頭の横にあるブランコまでたどり着くと鉄製のチェーンを持ちながらゆっくりと腰掛けた。
「はぁ…」
ブランコに座ったシャルテは大きな溜息をついて俯く。
思い出す。自分が逃げている時に懸命に追いかけてきていた行幸の姿。
僕があんな酷い事をしたのに行幸は僕を追っかけて来ていた。
もしかして…行幸はまだ僕を探しているのか?もう探してなきゃいいけど…
行幸の事を考える度に『ぎゅ』と胸が締め付けられる。
行幸はもう子供じゃないんだ。無闇やたらと僕を探して回っているなんてないだろ。もうアパートに戻ってるよな。お願いだ…戻っててくれ…
また胸が痛む。そして、シャルテはぐっと右手を胸にあてた。
そして、今度は突然行幸のあの朦朧とした姿を思い出す。思い出したく無い出来事なのに、すごく鮮明にお覚えている。
シャルテは頭を抱えた。
何でだよ…何で僕までフェロモンの影響が出るようになってたんだよ…
『ズキッ』と何かを刺されるような痛みがまた胸に走る。
「痛っ…」
ああなったのも僕の責任なんだよな…そうだよ…僕のせいなんだよ!
あは…あははは…僕が人間に好意を抱くなんて!何してんだよ!天使じゃないのか?それも恋愛を司る天使だろ!本来は見守る立場の天使が…何で…何で…
本当に僕は大馬鹿天使だ!
シャルテは自分に腹が立った。もうどうしようもなく悔しかった。その悔しさを右足にかける。
ブランコに座ったまま大きく右足をあげると、傷ついた足の裏をブランコの下の土へと『どん』っと勢いよく叩きつけた。
激しい痛みがシャルテの脳へと伝達される。しかし、そんな事をしても決して忘れる事は出来ない。
何度足を地面に叩きつけても、決して忘れる事は出来ない。
「あははは!あはははは!はは…」
シャルテは声を出して笑う。
「くっ…」
そして俯き両手で両目を押さえた。
シャルテは恋の辛さを知った。絶対に叶うことの無い恋をした人間の辛さを。
『シャルテ…』
気持ちが沈ずみきったシャルテの背後に、いつのまにか一人の女性が立っていた。
シャルテは聞き覚えのある声に反応するとゆっくりと振り向いた。すると、そこにはメイド服姿のリリアの姿が…
「リリア姉ぇ…」
急に現れたリリアに対してシャルテは驚く事も無く、ただ意気消沈した趣で見る。
『シャルテに伝えたい事があります…』
「伝えたい事…はは…そんな格好で僕に何を伝えたいって言うのさ…」
『慌てたのでこの格好で来た訳で、決してそういう趣味がある訳ではありません』
「へぇ…そっか…そっか…」
シャルテは涙を拭うとゆっくり立ち上がった。涙を拭い、今度は怒りを露わにするシャルテ。肩が震えている。
「リリア姉ぇ!」
シャルテは瞳に涙を浮かべたままリリアの胸ぐらをぐっと掴んだ。
そんなシャルテの行動にリリアは驚く事なく、ただ申し訳なさそうにシャルテを見る。
「酷いよ…酷いじゃないか!なんで僕が…何で僕までフェロモンの影響をっ!影響を…受ける…」
途中で言葉に詰まる。そして涙が溢れて止まらない。
「僕は行幸を襲ったんだ…もう少しでむちゃくちゃにする所だった…ねぇ、何で?何で僕がフェロモンの影響を受けるようになっていたんだ?僕の気持ちを…気持ちをリリア姉ぇは解ってたはずだろ…」
『…』
「こうなるって予想が出来たんだろ!出来たはずだろ!」
シャルテの手が震える。本気で怒っているシャルテの顔。しかしリリアは無言で聞いているだけだった。
「僕に内緒にしてたんだな!勝手に天使長と話を進めたんだろ!僕は実験台だったのか?酷い…酷いじゃないか!」
リリアは申し訳なさそうな表情で口をやっと開く。
『すみません…今回はいろいろと事情があったのです』
しかし、まさかシャルテの試練だとは言えないリリア。
「色々って何だよ…僕には教えちゃダメな事だったのか?」
『…ダメな事でした』
「…」
天使には色々とルールがある。そして、リリアがダメな事だと言うのならば、それは絶対にダメな事だ。そう、下級天使であるシャルテは上級天使であるリリアから秘密といわれたら、それは絶対に秘密であり、知る権利はない。
「リリア姉ぇは…きっと間違った事はしてないんだ…それは解ってる…」
何も言い返せないリリア。
「だって…今までずっと…僕が生まれてからずっと、何十年もリリア姉ぇは正しい事をしてきた…」
黙って唇を噛むリリア。
「だから…今回の事も何か理由がある…そのくらい僕でも解る。でも…でも…解りたくない!理解したくない!」
シャルテは左手を握ると、自分のおでこにあてた。
「僕は…たとえこれが正しい事だったとしても…認めたくないんだよ…解るだろ…」
リリアは小さく溜息をついた。そう、リリアにとっても今回の事は決して許される事だとは思っていなかった。しかし、命令は絶対。従わないわけにはゆかない…いくら葛藤しても仕方なかった。
「行幸が可愛そうだ…このままじゃ…」
シャルテがそう言うと、リリアはやっと口を開いた。
『シャルテ…お話というのは…天使長様が行幸さんのフェロモンを解除しても良いと言ってくれました』
シャルテの顔がハッとする。
「えっ?フェロモンを解く?行幸を男に戻してくれるのか?」
『フェロモンは解けます…しかし、男性に戻すのま…そこだけは…無理なのです』
「くっ…無理なのかよ…」
『はい…』
数秒の沈黙。そしてシャルテは少し笑顔をつくった。やっと冷静になった様子だ。
「そっか…でもフェロモンを解除してくれるのか…それだけでもよかったかもな…」
『はい、私もそう思っています』
「本当にあのままじゃ、行幸はいつか誰かにボロボロにされる…そんなの僕は見てられない」
『そうですね…私も嫌です』
シャルテは胸ぐらを掴んでいた手を放す。そして、チラリとリリアを見た。
「……あれなんだな。今更だけど、リリア姉ぇもやっと拘束が解けたんだな」
するとリリアは優しく微笑んで返事をした。
『はい。私が不特定多数の人間の中で人間化していただけで身体拘束など…天使長様も酷いですよね』
※秋葉原で店長にメイド服を渡した時の事です。
「でも、それはルールだろ?仕方ないよ。リリア姉ぇが先に報告すればよかったんだ」
『そうですね…しかし、数日間は音沙汰無しで放置されていたのですよ?大丈夫だと思っていたら突然の拘束でびっくりしました…天使長様はまったく…』
「僕もびっくりしたよ。でも、リリア姉ぇは思念体が使えるし、思念対で殆どの事が出来るから普段の行動にさして影響はないだろ?」
『しかし、やはり不便なものですよ…魔法は使えませんし』
「そうだな。思念体のままじゃ魔法は確かに使えない。でもいいのか?また人間になってここに来ても」
『大丈夫です。今回は天使長様の許可を得てます』
「そっか…それならいいけど…」
そして会話が途絶える。
急に無言になったシャルテ。そしてシャルテは頭を抱えたまま左手で胸を押さえる。瞳には涙が浮かんでいる。
シャルテの側にリリアは歩み寄ると、シャルテの左肩に手を置いた。
『シャルテ…恋をしたのですね』
その言葉にシャルテは『ビク』っと体を震わせた。しかし、すぐにシャルテは答えを返した。
「した…」
その答えにリリアはにこりと微笑み返す。
「まったく…僕が人間を好きになるとか…本当に笑いもんだよ」
『…どうでしたか?恋は』
「…辛かっただけだよ」
『そうですね、私もそう思います。恋はとても辛いものです…』
「でも…」
『でも?』
「恋をしてよかったと思う…」
『よかった?本当にそう思っているのですか?』
「うん。そう思ってるよ」
『シャルテの恋は決して実らない恋です。そう、一方通行の片思いです。行幸さんはシャルテが好きな事を知らない。そんな恋なのにですか?』
シャルテは小さく頷く。
「それでもよかったと思う。そういう恋だからこそ僕は恋の辛さを理解できた…人間の一方通行の恋の辛さが、片思いをする気持ちが理解できた…」
シャルテは涙を浮かべならが微笑む。
「そう、僕が恋愛の天使として欠けていた事はこれだったんだ。今までずっと恋愛っていうものを甘くみていた。恋愛をさせるのもただの作業だと思ってた。でも…自分で恋をするとわかったんだ。それは違ったってね…今更だよな…天使の癖にこんな事にも気が付かないなんて…だから僕はいつまでも見習いだったんだ」
リリアは小さく頷いた。
『とても成長しましたね…シャルテ』
シャルテは右手で涙を拭う。
「でも…正直、フェロモンの影響は受けたくなかったな…行幸を襲いたくなかったよ…そのお陰で僕は恋に気が付いたのに…でも…やっぱり嫌だった…」
『……シャルテ』
「………」
『もし…もしもの話しですが、そのまま人間でいられるとすれば…シャルテが行幸さんの恋人になれるとしたら…シャルテはどうしますか?』
シャルテは目を見開いた。何を言ってるんだ?という表情でリリアを見る。
「な、何を?えっ?人間?行幸の恋人?」
『そうです…行幸さんの恋人です』
「冗談はやめてくれよ」
そう言いながら、シャルテは首を振った。しかし、リリアは真面目な表情で言う。
『冗談ではありません』
シャルテはリリアの瞳を見る。じっと見る。そして…シャルテは首を横に振った。
「例えそれが事実だとしても…僕は天使だぞ。僕が人間の、行幸の恋人になんてなれるはずがない」
『私は天使長の許可を得てますので伝えます。シャルテが望めばシャルテは人間になり、そして行幸さんの恋人になる事も可能なのです』
その一言にシャルテは動揺した。目が泳いで焦点が定まらない。
「な、何を言ってるんだ?あは…ここで嘘を言って、また僕を陥れようって魂胆なのか?あははは…リリア姉ぇも天使長もどこまで僕を弄れば気が済むんだよ…」
『別にからかっている訳でも、弄っている訳でもありません。貴方が純粋に人間として恋愛対象者になれるという真実を伝えているのです』
「な、ない…ないない…僕は天使だぞ?」
『私がこんな事で嘘を言って、何の得があるのですか?私は…天使長様がシャルテに伝えるようにという命令が無ければ、逆に隠し通したかった事です…』
リリアの表情は真面目だった。嘘は言ってない。シャルテにはすぐにわかった。
だからこそ、シャルテは再び激しく動揺した。心臓はすさまじく鼓動を早める。
僕が行幸の恋愛対象者になれる?僕が行幸の恋人に?僕が行幸と一緒になれるのか?僕の夢が…夢が現実になるのか?
本気で夢のような事。天使と人間が一緒になれるなんて聞いた事も無い。これが事実なら…僕は…
シャルテは一瞬だが行幸と一緒になる事を考えた。しかし、その瞬間に菫やフロワードの顔が思い浮ぶ。
いや待て!僕は…僕は行幸にどうなって欲しいんだ?僕は今の恋愛対象者から行幸を奪ってまで恋人関係になるとか違うんじゃないのか?そ、そんな事…してもいいのかよ…でも…でも僕はっ!
シャルテが息をぜぇぜぇと苦しそうにする。それ程に悩んでいた。
そんなシャルテにリリアは優しく声をかける。
『シャルテにかかっているフェロモン効果を受ける魔法が、考えの妨げになっているかもしれませんね。魔法を解いておきましょう。フェロモン効果で精神が不安定だと、本当の考えが思いつかないかもしれません…』
リリアはそう言うとシャルテの頭上に手を当てる。
シャルテはゆっくりと顔を上げた。リリアはニコリと微笑むと魔法を唱えた。するとシャルテの気持ちが一気に落ち着いてくる。溢れ出る何かが収まる。
フェロモンの効果が切れたとシャルテにも解った。
『これで影響は消えました。どうですか?それでも、行幸さんが好きですか?』
リリアがそう聞くと、シャルテは無言のまま何も答えなかった。しかし、リリアには理解できた。否定しないという事は、そう、それは肯定だから。やはりシャルテの気持ちは本物。
『やはり…本当に好きなのですね』
シャルテは両手で目頭を押さえる。
「くそっ…フェロモン効果が切れて…余計にハッキリと解ったよ…ダメだ…どうしてこうなったんだよ…」
『…それは貴方が一人の女性だからです…喜怒哀楽のある、人間と同じ気持ちを持った女の子だから…』
「はぁ…くぅ…最低だ…ほんっと…あんな奴を好きになるなんて…」
『シャルテ…貴方はどうなりたいのですか?行幸さんの恋人になりたいのですか?』
「………」
『……』
「それは…」
『はい…』
続く
しばらくというか、この先はシリアス展開?っぽさが漂ってます。それにつけてもおやつはカールですね。(無意味に思い出して書いてしまった…
(しまった!公開時間を間違ったっ!)