第五十八話【俺は思います。やっぱり犯罪は駄目です】
倉庫に飛び込んで男を倒して、女に抱き付かれて、おまけに抱き付いて寝ちゃった。女性は自分を知っているのだが、身に覚えが無いと思ったら、見覚えがあった!さてはてどうなるの?
今、俺は可愛くって胸の大きな女の子に抱き付かれてるんだ。
そしてな?この女の子は俺を知ってるんだ!
こんな子しらねーと思ったら、実はこの女の子に見覚えがあった…
って、読者に解説してる場合じゃないな。
行幸は考える。何処かで出合った気がする。
うーん…どこかで…
しかし、思い出せない。思い出せないものは仕方無い。という事で、思い出すのは後回しにした。
行幸は諦めるのが早い時はとことん早い。エロゲーのルートもわからなければ、すぐにネットで検索。ネタばれ歓迎です。※Ⅰ
しかし…生乳はやっぱりいいなぁ…自分のを見るよりもやっぱり本物の女の子の胸がいいよな…
いや、君も立派に本物の女の子です(作者)
じーっと見ていると触りたい症候群に襲われる。右手がぴくぴくと震える。
ガイアが言っている!俺におっぱいを触れと!
いや、言ってないですよ?しかし、勝手に中二的思考に陥り、女性の体を左手一本で支え、右手をゆっくりと胸に近寄らせた。くねくねと動く指がいやらしい。
そしてあえて言おう。その行為はそこの男がやってた事と同じで犯罪だぞ?
しかし、行幸は運がいい?ふと倒れた男が気になった。男は気絶して倒れている。
そこではっと我に返った。
そ、そうだよ!俺は何をしようとしているんだよ!
神よっ!私に何をさせようというのですか!
いや、さっきはガイアって言ってたじゃないか…神じゃないだろ?っと突っ込んでやってください。
うーん…この女性とあの男とはどういう関係だろう?エッチしてるのかと思ったけど、女性は怒らなかったし…
行幸は考える。
倉庫の中で女性が縛られていて…そして俺に縄を解いてと言った?助けを求めた?
こういうシーンが『強姦Ⅱ~堕ちる~』っていう七年前の傑作ゲーム(もちろんエロゲ)でもあったような…
でもあれって…あれ?え!?もしかして?
鈍感な行幸でもここでやっと理解する。というか、助けを求めた時点で気が付け。そのゲーム名で気が付け!
「こ、これって強姦未遂現場なのか!リアル強姦!?うああぁぁ!す、すぐに警察を呼ばなきゃ!」
慌ててバッグから携帯を取り出そうとする行幸。
「駄目…」
女性の声が聞こえた。
「えっ?」
よく見れば、薄っすらと目を開けて行幸を見ている女性。そう、シャルテは知らない間に目を覚ましていた。
行幸は慌てて離していた女性をぐっと抱き直す。抱いていたはずが抱いていないと怪しまれると思ったからだ。
「け、怪我は無いみたいだね。今、ちょっと確認をしていたんだ。別に変な意味は無いからね!あはは」
咄嗟に出た言い訳もしてみた。は、言い訳にしか聞こえないですね。
しかし、シャルテは何の文句も言わない。行幸は心の中でほっとした。
「警察は駄目だから…」
女性は小さな声でそう言う。ほっとしたのもつかの間、行幸はその言葉に驚く。ここまでされて警察を呼ばないなんて信じられない。
「何で?何でなの?襲われてたんでしょ?ちゃんと警察に届けないと駄目だって!」
しかし、シャルテは首を横に振る。
そう、シャルテは天使だ。警察に行く事によって色々と調べられると厄介な事になる。今は魔法も使えない状況で何かの策を練るのも難しい。
それに、行幸の監視をするのに警察に行ってしまうと、下手をすると監視も出来なくなる。
だから警察に行くべきではないと判断したのだ。
だが、シャルテは襲ってきた男を許すつもりは無い。天使に戻ったら罰を与えるとちゃんと誓っていた。
「いいよ。別に何もされなかったから…」
「無いって!何もされなきゃいいっておかしいから!」
「ううん、いいの。いいから…」
シャルテはそう言うと冷静に気持ちを落ち着かせる。
もう大丈夫だ。既に体も震えも完全に止まっているし、恐怖心も払拭されている。
何で行幸が助けてくれたのか解らない。だけど、行幸のアパートに潜入するのにこの状況を利用しない手は無い。
すごく酷い目にあったにも関わらず、真面目に任務を遂行する方法を考えるシャルテ。
確かに酷い目にあったけど、これが行幸と一緒にいられる口実になった。
待って?あまりにも出来すぎてないか?これじゃ、まるで仕組まれた様な感じじゃないか。
もしかして…まさか、今までの事ってリリア姉ぇが仕組んだ事だったのか?行幸と接点を持つ為に考えた事?僕も騙した?それが本当だとすると…
悔しい…でも、確かに僕に教える訳にはゆかないよな。
そうか、リリア姉ぇが助けにきてくれなかったのは…行幸が助けてくれると解っていたからなんだ。偶然じゃなかったのか…
シャルテは勝手にそう思い込んだ。必ずしもそうだとは限らないのに。
シャルテは行幸の顔を見る。心配そうに自分を見ていた。
もしかして、本気で心配してくれてるのかな?
そう思ったシャルテには解っていた。行幸は本気で心配してくれている事。
僕は行幸を女にしちゃうとか、その場の感情に任せてとんで無い事をしてしまったのかな…
でも、行幸はMMOで人を騙していたんだ。高額のアイテムを騙し取ろうとした。そして女だと嘘もついた。
そうだ、ここは割り切ろう。罪は罪なんだ。でも…行幸には早く男に戻ってもらう。僕はその手伝いをする…そう、早く菫と恋人関係になってもらおう…
【ズキッ…】
うっ…痛いっ…何でまた?
だから…僕は駄目なんだって…僕は行幸が誰かと結ばれないと…
【ズキッズキッ…】
くっ…何でだよ?僕は行幸が誰かと結ばれるのが嫌なのか?
僕は天使だぞ?行幸を幸せにするのが僕の役目だろ!
強くそう思うシャルテ。しかし、余計にシャルテの胸は苦しくなった。
警察には届けなくてもいいと言われた行幸は再度確認をする。
「本当に警察に届けなくていいの?届けた方がいいよ?ねぇ?」
だが、反応が無い。シャルテに行幸の声は届いていなかった。
何かを考え込んでいる。そしてその表情はとても辛そうだ。
もう一度行幸は声をかける。今度は少しだが体を揺する。するとやっと女性は反応した。そして女性は顔を上げる。
行幸と女性の目が合った。そして、避けるように視線をはずすシャルテ。行幸は動揺しり。
えっ?もしかして避けられた?何で!?なんて焦る行幸だが、実際は…
な、何で僕は視線を外してるんだよ!だ、駄目だろっ!と心の中で思い、シャルテは顔を赤くしていた。
シャルテの心臓がここに来て【ドキドキ】と強く鼓動を始める。行幸を強く意識してしまう。しかしシャルテはそれを押さえ込むように唾を飲んだ。
駄目だって…僕は天使で、行幸は人間…本当に駄目だって…
そ、そうだ…と、とりあえず何か言わなきゃ…
「え、えっと…わ、私…色々あって…警察はまずいんです…」
動揺したおかげで、言葉がいきなりギクシャクとする。
「で、でも…」
そのギクシャクさを、本当に駄目だからなのかなと思い込む行幸。
「本当にまずいんです!」
シャルテは話を切る為に怒鳴った。
その態度を見て、行幸はこれは何かすごい事情があるだと思い込んだ。シャルテの作戦通りの反応だ。
「わ、わかりました。でもどうするの?これから…」
行幸は女性を見た。服はズタズタ。そしてビショビショ。こんな酷い格好で電車とか乗れないだろう。なんて心配する。
シャルテは気持ちを押さえ込み、行幸のアパートへ潜入する事をだけを考える。
今は僕のやらなければいけない事だけを考えるんだ。
僕のこの気持ちはきっと一時的なのもの。時間がたてばきっと解決する。
そしてシャルテは行幸の家に潜入作戦を開始した。
「この服をどうにかしたい…」
「そ、そうだよね?そのままじゃマズイよね」
「うん…だから…ねぇ…」
「はい?」
「行幸の家は近いの?」
「えっ?お…私の家?」
「近いの?」
「えっと…ち、近いかも?」
「じゃあ…行幸の家に連れていって欲しい」
「えっ?えぇぇぇえ!私の?」
「うん…」
「で、でも…私の家って、ほら、あまり綺麗じゃないし…」
「この格好だと…帰れない」
「そ、そうかもだけど…」
「行幸、お願い…」
「うぅ…」
「行幸…お、ね、が、い…」
シャルテはそう言いながら抱き付く手に力を入れる。
行幸の顔は真っ赤になる。
女の子にお願いされちゃった!?どうしよう!?う、うーん…
本当に困っているようだし、無下に断れないよなぁ…
でも、えっと…そうだ!この女の子は本当に誰だっけ?面識はある気はするんだけど…
行幸はじっと女の子の顔を見る。じーと見た。じっくり見た。視線が合う。すると女の子は視線を反らす。そして、あまりに見すぎたのか、女の子の顔が真っ赤になっていた。
な、なんでそんなに顔が赤いのさ!?
それを見ていた行幸も恥ずかしくなった。
しかし、そのお陰?か、やっと思い出す事が出来た。
そう、この女の子は…
「も、もしかして…オフ会に来てた?」
行幸がそう言うと女性は頷いた。
「やっぱり!でも何でここにいるの?」
「それは…」
「家が近いとか?」
「近くない…」
「じゃあ…用事があった?」
「無い…」
「じゃあ何で?」
「ねぇ…その話は後にしようよ。あの男が目を覚ますと怖いから早くここから出たい…」
早く出たい割にはかなりの時間ここにいる二人。しかし、行幸はまったくそこは気にせずに同意した。
「あっ!そ、そうだよね!」
確かに、男が目を覚ますと危険だな。なんて軽く考えて、シャルテを支えながら一緒に立ち上がる。
そして、近くにあったグレーのコートを取ると、それをシャルテにそっと掛けてあげた。
「無いよりマシだよね?これで前をかくして…」
行幸は頬を染めて余所を向いた。そして、なるべく下着を見ないように努力した。
さっきまであんなにじっくり見ていたのに、女の子が起きたらこの態度である。
しかし、行幸さん。それって男のとる態度ですよ。あ、男か。
「ありがとう…」
シャルテは破れたコートをぐっと胸の前に重ね合わせて胸を隠した。
倉庫から出ようとした時、シャルテは男の方を振り返る。
釣られるように振り返る行幸。
「ちょっと待って…」と女性は言うと、おもむろに男の方へと歩み寄った。
「な、何をするの?」
行幸が心配そうに声をかけると女性はロープを持ってニコリと微笑んだ。
実は、後で罰をと思ったシャルテだったが、やっぱりこの男が許せなかった。
「ちょっと待ってね」
なぜか笑顔。そしてその笑顔が怖い。
「えっ!な、何をするの?危ないって!目を覚ましたらどうするの!?」
「大丈夫。すぐ終わるから」
シャルテは男の両手と両足を、自分の手を結んでいたロープでぐるぐると縛る。かなりしっかりと縛る。おまけに猿轡までしている。最後に、もぞもぞとコートが動くのが見えた。
「これでよしっと」
パンパンと手をはたくとシャルテは行幸の横へ戻ってきた。
「じゃあ、行こうか」
「あ、う、うん…」
行幸はガッチリと縛られた男を見ながら倉庫を後にした。
強姦魔さん、ご愁傷様…
続く
たまには解説モードです。
※Ⅰ「ネタばれ」
ゲームをする上で、先の重要な情報などをプレイする前に知ってしまう事。
攻略本を買うのもある意味でネタばれである。
小説でいえば、いきなり犯人を言っちゃう事。




