第五十六話【俺が思うに十二月に雷雨とかないだろ】
シャルテを追う黒い影。懸命に逃げるシャルテだが…うわぁぁ!何でこんなシビアな展開になっちゃうの!という感じです。
宜しくお願いしますねっ!
激しい雷雨の中を黒髪の女性が懸命に走る。
彼女の名前シャルテ。人間の姿に変身している天使だ。
「はぁはぁ…」
シャルテは息を切らして雨の中をひたすら逃げていた。
雨は強さを増し、視界をどんどんと奪う。ただ、幸いな事にそれほどの寒さは無い。濡れても寒さで動けなくなるような気温ではなくなっていた。やはりこの雨はちょっとおかしい。
しかし、そんな事を考えている暇は無い。後ろからの追ってから逃げるのは今は先決なのだ。
ジャバジャバと水を踏む音。歩道には雨水がまるで川のように流れており、シャルテの走りの邪魔をする。
それでもシャルテは走った。そして。数十メートル走った所でシャルテの左手を何者かが触れる。
シャルテは焦り、振り返る。その瞬間、手首をぐっと掴まれた。
「くっ!」
掴んだのは黒ずくめの男だった。先ほどまでさしていた傘はもう持っていない。どこかで捨てたのだろう。
シャルテは男を顔を確認する。しかし、周囲は暗く、表情が伺えない。自分よりも大柄だという事はわかった。
「こら離せっ!」
シャルテは怒鳴ると懸命に男の手を振り切る。手首が濡れていたせいもあり、男の手をなんとか振り切る事に成功。
そして再び雷雨の中を逃げて懸命に行幸のアパートへ向かう。
足音に混じり、バシャっと何かが落ちる音が聞こえた。
振り返ると、水溜りには白い紙が落ちている。手に地図がない。どうやら地図を落としたらしい。しあかし、行幸のアパートへの道順はもう覚えている。
大丈夫だ、問題ない。
そのままシャルテは走った。
懸命に逃げるシャルテだったが、思った以上に男の足は速かった。そして男に追いつかれる。
今度は後ろから両腕を巻き込むように抱きつかれた。
その瞬間、男の体重がグッと背中から全身に圧し掛かり、シャルテは前向きに倒れそうになる。
そこをぐっと堪えて踵で思い切り男の足を踏んだ。
男の苦痛の叫び声が後ろから聞こる。その瞬間、男の力が緩んだ。
それと同時に、するっとしゃがみ腕を抜ける。そしてぐるんと大足払い攻撃!
「ゴス」っと鈍い音がして男は倒れた。
よし!今のうちだ!
シャルテは立ち上がり再び逃げる!懸命に逃げる!しかし再び追いつかれた。
しつこいな!
男の位置を確認してから、今度は左裏拳!しかしガードされる。
「それで止めたと思うなよ!」
シャルテは拳をガードされた姿勢から上段回し蹴り!
ガンっと音がする。男の頭に見事にヒット。男は片膝をついた。
まるで格闘ゲームのような攻防戦が豪雨の中で繰り広げられている。
そして、再びシャルテは逃げる。逃げる!
しかし男はすぐに立ち上がる。そして再び追いかける。
くそっ!本当にしつこい奴だ!
もしシャルテに天使の力を使えたなら、この男はいとも容易く撃退できたはずだ。
しかし、今のシャルテは普通の人間の女性。力も無ければ魔法も使えない。
追いつかれる度に幾度も攻撃を仕掛けるシャルテ。しかし体格の勝る男にシャルテの連続攻撃すらあまり効いていなかった。
「人間はなんて非力なんだっ…」と険しい表情のまま、シャルテは何とか行幸のアパートへ通じる小道へ逃げ込んだ。
ここを過ぎれば行幸のアパートだ。アパートに着けば行幸がいる。
そこまで行けば流石にあいつも…
行幸…行幸っ。
無意識に心の中で行幸の名前を連呼するシャルテ。
しかし、小道へと駆け込んだシャルテだったが、ここで油断した。
小道へ入った瞬間に足が水溜りに取られた。視界が悪く、足元の注意を怠ってしまった。
そしてそのまま足は縺れて、ダイビングするかのように前のめりに水溜りの中へと倒れてしまった。
水溜りはシャルテの体が隠れる程に深い。下手をするとおぼれる位に。
シャルテは水溜りから懸命に起き上がろうとする。そこへ男がやって来た。
男に気がついたシャルテは自分から仰向けになり男を蹴り上げる。しかし男は素早くよける。そして覆いかぶさろうと体を寄せてきた。
シャルテはそこへ右拳を突き上げた!見事にカウンター成功!男の左頬にヒットした!しかし男はそのままシャルテの腕を掴む。
くそっ!効いてないのか!?
体を水溜りから浮かせた状態のパンチには体重がのっていない。ただでさえ力が弱くなったシャルテだ。そんなパンチが男に効くはずもなかった。
男はそのままシャルテの右手を道路へ押さえつけた。
シャルテの背筋がぞっとする。男との攻防で始めて恐怖に襲われる。
「は、離せよこの馬鹿!」
強がるシャルテ。しかし、体は恐怖で震える。
男はシャルテの上に馬乗りになった。
「ジャバン」と水音かして、シャルテの体が水の中へ沈む。
「や、やめろ!僕に何の恨みがあるんだ!」
「恨み?俺を散々殴ったり蹴ったりしやがっただろ」
「お前が俺を追っかけてくるからだろ!」
「悪いのか?お前が逃げるから追っかけたんだよ」
「お、お前おかしいぞ!お前は狂ってる!」
「狂ってる?ああ、俺は狂ってるけど何か?」
男はケタケタと笑うと、今度はシャルテの頭をグッと抑えつけた。シャルテの頭は水溜りに沈んでゆく。
「ごふっげっほほ」
雨水が容赦なくシャルテの顔を覆う。口に、鼻に、目に、耳に、どんどんと水が入る。
シャルテは暴れた。苦しい…しかし、男はまったく動じない。
「俺の勝ちだな。さて何をしようかな?ははは!」
狂った男はそう言うと息を荒くする。それがシャルテを更なる恐怖へと追い込む。
「お前さ、さっき公園でいやらしい声を出してただろ?へへ」
その一言にシャルテは動揺する。
えっ?公園って…ま、まさか…
男はシャルテの胸ぐらをぐっと掴むと自分の方へと引いた。
「ジャバ」と音がして水溜りからシャルテの上半身が浮く。
「お前さ、溜まってるんだろ?へへへ…」
男はいやらしい笑みを浮かべる。
「な、何を言ってる!そんな訳ないだろ!」
「大丈夫だよ。俺が相手してやんよぉ」
「ふ、ふざけるな!」
「何がふざけるなだ淫乱女が」
男は力任せにシャルテを水溜りへと押し倒した。「バシャン」と激しく水しぶきがあがる。
シャルテの体はぐるりと反転してうつ伏せになる。男がシャルテの体を回転させたのだ。
うつ伏せになり、水溜まりに顔が沈んだシャルテはもがき苦しんだ。
最初は暴れていたシャルテも、だんだんと動かなくなる。
そして、男は大人しくなったシャルテの顔をぐっと上げる。そして水溜りから引きずり出すと、今度は両手をぐっと持ちあげると無理やり両手首をロープで縛った。
シャルテは抵抗しようにも力が出ない。
くぅ…やばい…このままじゃ…助けて…誰か…
ついにシャルテの心は折れそうになる。今までの強気の態度が一気に消える。
「やめろ…放せ…」
やっとの思いで出したシャルテの声は震えている。
「やだね」
男はそう言うとシャルテを馬鹿にするように笑った。
何で?何で僕がこんな目に遭うんだ…僕は何も悪い事なんてしてないのに…
リリア姉ぇ助けて!今の僕は人間なんだぞ?弱いんだぞ?助けてくれよ…
しかし、周囲からは何の反応も感じ取れない。誰も来ない。
何で助けに来てくれないんだよ…本当は見てるんだろ?
それとも本当に居ないのか?僕を見捨てたのか?くっ…
「最初から大人しくしてりゃここまでしなかったんだぜ?」
男は自分勝手な台詞を吐くとシャルテを再び仰向けにした。
「やめろ…って…言ってるだろ…」
弱々しい声でシャルテはそう言った。
「俺の相手をしてくれれば離してやんよ。でもここは目立つな。こっちに来い!」
男はシャルテを強引に立たせると裏路地に連れ込んだ。
裏路地を無理やり歩かされるシャルテ。すると、路地の奥には倉庫が見えた。
倉庫?まさか…ここに?
そのまさかだった。シャルテは行き止まりにある小さな倉庫へと投げ込まれた。
男は倉庫へ入ると入口を棒で開かないように細工をする。これで完全な密室。
この男はここに倉庫がある事を知っていたのか?これは計画的な犯行?
あまりの手際のよさにシャルテはこの男は最初から自分を狙っていたのだと悟った。
シャルテは折れかけて弱気になった心を奮い立たせようとする。自分で自分に言い聞かせる。
シャルテ、お前は天使だろ!何を弱気になってるんだよ!こんな奴の好きにさせちゃ駄目だろ!人間にとっても害にしかならないような奴なんだぞ!諦めるな!心を強く持て!まだ抵抗はできる!
くそっ!好きになんてさせてたまるか!
シャルテは懸命に気持ちを奮い立たせた。しかし、体の震えが止まらない。体が動かない。
それは恐怖からくるもの。気持ちだけではどうしようも無いものだった。
くそ…何でだよ…体が動かないじゃないか。おい、動いてくれよ…動けよ!
「何だ?怖いのか?震えちゃって可愛いなぁ」
男はいやらしい声でそう言うとシャルテの体を触りだした。
頬、首、腕、そして胸から腹、内腿、足…
触られる感覚が脳へと伝達される。
人間はなんて下等な生き物なんだ…こんな事をして何が楽しいんだ…
「おやおや?服が濡れちゃってるね?俺が脱がしてあげようね」
男は用意してあったのであろう懐中電灯をつけた。
閉め切られた倉庫は懐中電灯のわずかな灯りに照らされて微かに中が確認できる状態になる。
シャルテは灯りに照らされた倉庫の中を見渡した。中には何もない。そう、何も無い倉庫だった。
やっぱり確信犯か…武器になる物も置いてない…
ガシャーン、ドカーンと落雷の音。
雷光が入口の隙間から差し込む。外は雷雨になっているらしい。
シャルテは震える体をなんとか動かそうとする。そして気合で身構える。
男がシャルテのコートに右手をかけた瞬間、出せる力を出し切って男の急所を蹴り上げる!
『バシュ』と鈍い音が聞こえる。手ごたえはあった!しかし、男の叫び声は聞こえない。
「まったく最近の女はつえーなぁ…まぁ予想はしてたけどな!あははは」
男の余裕の笑い声。男は左手でシャルテの足をがっしりと掴んでいた。
「う…嘘だ」
そして、シャルテが大ピンチな頃、行幸はアパートまであと少しという場所まで来ていた。
そこで行幸は自分の目を疑う。
「おいおい…何だよこれ?」
いつもは道だった場所が道じゃなくなっているじゃないか!
そう、普通の日だと道だった場所。しかし、今日は激流が渦巻き、歩けない状態になっていた。
「これは無理だな…」
行幸は仕方なく回り道をする事にした。
「まったく…これで五分以上ロスだ」
文句を言いながら迂回する行幸。雷雨は容赦なく襲い続けている。
「本気でムカツクなこの雨は!雷まで鳴りやがって!マジでうざい!」
もはや傘はぼろぼろな状態。いや、ぶっちゃけもう壊れている。
ワンピースは既にずぶにれ状態で、顔に雨がかからない為に傘があるような状況だった。
「百円が九分しか持たないとか…」
行幸は役目をほぼ果たしていない傘を差し前へと進む。そして、アパートへ続く小道へとやっと到着した。
そこで凄まじい雷光!爆音!近くに雷が落ちた?その瞬間に吹く突風!いや暴風!
「うわぁあ!」
ボロボロの傘がまるでパラシュートの様に開く!そして傘は風を受けて行幸の体を宙に浮かせた。
「な、何だと!?ありえねぇぇぇぇだろぉ!」
叫ぶ行幸。しかし、叫びは豪雨と暴風にかき消される。そして、行幸は風に飛ばされて狭い路地へ強引に移動させられる。
そして驚く事実。なんと傘は壊れていない!
「おい傘!俺のアパートはこっちじゃない!っていうかお前はもう邪魔だ!もういらねーし!ってちょちょ!え?袖に絡まってる!?」
壊れたビニール傘を捨てようとしたが、袖におもいっきりひっかかている!
そしてぶわっと再び突風が吹いた!傘はまたバッと開いて風を受ける!
今度は完全に体を持っていかれる。
まるで漫画のように体が空中を舞う!両足が空中に浮いている!しかしそれでも傘は壊れなかった。
「何で壊れないんだよ!お前は最終話の初代○ンダムか!」「やぁぁぁぁ!」
悲痛の叫び?が嵐の中で響く…ことなくかき消された。
行幸はジタバタと、なんとか右足を地面につける。しかし、ここでまた突風!
ホップ、ステップ、ジャンプ!
三歩で路地の奥まで到着!
「まて!まてまて!俺はカリオストロの城のルパンか!」
オリンピックの三段跳びならきっと金メダルが取れるレベルの飛距離だ。
そして目の前に倉庫が現れる。どう見ても鋼鉄製の扉が目の前に迫る。当たると相当痛そうである。
「わぁ!やばい!ぶつかる!ぶつかるー!」
行幸は咄嗟に両腕を顔の前でクロスに組んだ。
そしてそのままの勢いで路地の奥の倉庫へとフライングクロスチョップ!…みたいな格好で激突した。
続く
ちょっとネタが古い気がするのは気のせいですかね?
という事で続きます。
ええと…最近は後書きのネタがないのです。ネタください。
質問でもいいので…(切実