第五十四話【俺と妹が電車に乗ったんだけど、お互いに色々あるな】
幸桜と行幸はお互いに帰路についた。そして電車の中で起こる事件?さてはてふふー(古い)
今回はちょっと短めです。
行幸は電車に揺られながら流れるずっと夜景を眺めている。
さっきから脳裏に浮かぶのは幸桜の事ばかりだ。
幸桜の笑顔、泣き顔、そして裸、裸、裸。ハダカ!
まて、裸の比率が異常に多くないか?
だが、これは仕方ない。だって行幸は健全なる男子である!
とは言いつつも、行幸にとって死活問題があった。
幸桜の告白はかなりの衝撃だった。
おまけに駅の構内でキスまでされ、イベントの破壊力は十二分。
そして、トドメに今まで何も気にしていなかった幸桜が、よく見れば可愛い女の子だったという事に気がついてしまった。
リアル妹が可愛いなんて思う兄貴なんて、この世の中にはいないと思ってたが。
まさかこの俺がそう思ってしまうなんて。
行幸は頭を抱える。
いや、待てよ? そうだ、幸桜は血が繋がってないんだぞ? リアル妹じゃないんだぞ?
だからこそ俺は意識をして幸桜を見た訳だし、あいつを可愛いと思ったんだよな?
それって幸桜を妹としてじゃなくって女として意識してるって事じゃないのか?
また幸桜(妄想)が脳裏に現れた。
そして妄想の中では幸桜は裸である。今回は裸エプロン姿だ。
や、やばい! 幸桜の裸が脳裏にこびりついて離れないじゃマイカ! おまけに自分で色々なコスチュームの幸桜を妄想してる!
うおぉぉ……何だこのもんもんとするこの気持ちは!
義理とはいえ、妹の裸を妄想して、そしてこうエッチぃ気分になる俺は変態の素質があるのか!?
※その前からその素質はありますよ?(リリア談)
行幸は下を向く。そして股間のあたりをじっと見た。
何か違和感があると思ったら、ここで本当だったら元気になるはずの場所が今の俺には無いもか。
というかなんだろう? この下腹部のなんと言い表せない熱さ……。
行幸は両方の拳を握り、上を向いて震えた。
やばい、すごいムラムラしてる。処理したくなってる。
だけど、よく考えたら、このエッチぃ気持ちをこの体で処理するにはどうすればいいんだ?
やっぱり自分でどうするしかないのか?
やばい、俺は女の自慰のやり方なんてしらねーぞ? っていうか……まともに…さ、触った事もないな。
いや、お手洗いではあれか、少しは触った事もあるけど。
興味はあるんだぞ? だけどやっちゃうと一線を越えちゃう気がするんだよな。
だけど、やっぱり濡れた『ピーーーーーーーーーーー』
【掲載禁止な内容につき中略します】
や、やばい、もっとムラムラしてきてしまったぁ!
と、とりあえず胸を触るとどうなんだろう?
行幸はそっと自分の胸に触れてみた。
ぷにゅっと弾力のある胸。
触った感覚は柔らかくって『女の胸だっ!』て感じなんだけど、この触られてる感覚が邪魔だなぁ。
自分で服の上からだとどうもイヤラシさが失われるな。
もにゅ…もにゅにゅ…と両手で胸を揉んでみた。
うーん…やっぱりいやらしさが足り無い。
手に伝わる下着を触った感触も邪魔だし、下着の上から触られてる感触もいまいちだし。
行幸は何を考えたのか、自分の右手を服の中に突っ込んだ。
するするっと手を伸ばして下着の下からダイレクトに触ってみる。
直に触ってみたけど、何かこれって違うんだよな。というか、触りずらいな。この触り方には無理があるか。……えっ?
ここでやっと気がついた。周囲の男共の視線が行幸の胸へ集中している事に。
行幸は慌てて手を抜く。そして身を小さくした。
こっそりやってたつもりなのに、どんだけ見てるんだよ!
くそ、俺にはわかるぞ。
新聞を読むふりをして、その隙間から。
寝たふりをして、目を細めて。
ガラスの反射でこっそりと。
色々な方角から、色々な方法で俺は見られているジャマイカ!
行幸の顔が一気に熱くなる。真っ赤になる。
って言うか、電車の中で俺、何やっちゃってんの!
恥ずかしくてたまらない。行幸は思わず俯いた。
その頃、京浜東北線の電車の中。
幸桜は深刻な顔をして座席に座っていた。
車両にはほとんど人気は無く、ほぼ独占状態。
幸桜はゆっくりと目を閉じる。
冷静になればなるほど、今日、自分がやった事が悔やまれる。後悔してしまう。
私は何してるんだろ。
大きな溜息が出る。
行幸には今までずっと好意を行動で何度も見せつけたのに、妹としか見てくれてなかった。
そりゃ、血縁だと思っていたんだし、それはそうなのかもしれない。
だけど、でも、実の兄妹であっても一緒に買い物に行くような仲良しの友達だっている。
考えてみれば、私にはそういうのもなかったなぁ。
高校になってからかな? ううん、中学の頃からか。
行幸は私とは一緒にどこにも行ってくれなかった。
私が行幸を異性として意識をしはじめてから、どんどんと行幸は距離を置いていった。
そう、私は相手をされてなかった。
多分…無理だ。
私は行幸の彼女になんてなれない。
幸桜の心を暗闇が覆う。
いくら告白をしても、好きだと言っても、キスをしても……。
私はやっぱり妹の枠を出る事は出来ないんだ。
それに恋愛対象者があの菫さんなんだよね? 勝てるはずない。勝てないよね。
駄目だとわかってるのに、私は何で告白なんてしたんだろ?
幸桜の瞳からは涙が溢れた。
やだ……何でまた泣いちゃうのかな?
電車が某駅に到着する。『プシュー』とドアの開く音。
そして、酔っ払いが乗り込んで来た。
「なんだよ! がらがらじゃねーか! か・し・きーーーりーーーわー」
ご機嫌なよっぱらい。そして煩い。
よっぱらいは幸桜が泣いているのを見ると、いきなり目の前に仁王立ちした。
「おい! おいおい、おい、おいおいおい、お嬢ちゃんは何で泣いてるんだぃ?」
いきなり人の触れてはいけない領域に踏み込むよっぱらいの親父。
幸桜は驚いたが、ここで反応したら駄目だと思い、無視を決め込んだ。
「無視かよ? 無視かよ! 俺様が心配してやってんのに! 無視かよ? って俺がむしがよすぎる? あひゃひゃ」
声が大きすぎるし、親父ギャグがいらつく。そして余計はお世話!
幸桜はむっとして下を向いた。
「んー? もしかして男に振られたのかぁ? そうだろ? あたりらろ?」
幸桜はぴくんと反応した。それを見た酔っ払いはドヤ顔。正直うざい。
「なるほど! サラン○ップ! ひゃはひゃ」
何でこんな酔っ払いに私が絡まれなきゃいけないのよ。
「でもあれだよな? 振った男も馬鹿だな? おおばか! こーんなに可愛いのによぉ。ほんっと俺なら即日お持ち帰りだぞ?」
幸桜はちらりと酔っ払いを見てしまった。そして目があった。
しまったと思ったが遅い。親父は有無を言わさずに幸桜の横に座ってくる。
幸桜は慌てて座席を横に移動する。
「あれれのれ? おじさんは嫌われちゃったかなぁ? おじさん嫌い?」
そういう問題じゃない。
幸桜はキッっと睨んだ。
「睨まれたよ? 怖いなぁ、最近の子は怖いなぁ。でもおじさんは負けないでちゅー」
早く負けて失せてよ!
幸桜は親父を無視して目を閉じた。すると親父は独り言を言い始める。
「俺もいっぱい振られらぞ? ひゃははは! 最ごうで同じ女に八回も振られたんだろ! あははは! すごいだろ? へーへーへーへー、四へーくらいだろ?」
幸桜はイライラと身震いを始める。
「おい、聞いてるかぁ? 俺様はな? 一番大好きらった女を九回目でやっと落としたんらぞ? わかるか? 九回目らぞ? 中学校一年から告白を始めて、高校三年でやっとらぞ? 苦節三年っ!」
いや、三年以上でしょ? っとつい親父に突っ込んでしまう優しい幸桜。
「ひゃふっ! 俺は苦労したっ」
そう言って酔っ払いは幸桜に寄ってきた。
幸桜はついに座席を立ち上がる。
こんなよっぱらいの話しになんて聞いてられない! 私とおじさんの苦労はぜんぜん違うの!
立ちあがった幸桜に向かって酔っ払いは強い口調で言った。
「おい、おりょう(嬢)ちゃんがな? その男にろうして振られたかしらねーけど、どうで一回だろ? そうだろ!」
「……」
「どうで、もう無理だとか思ってるんだろ? だろ? だろぉ?」
「……」
「相手に彼女でもいるのか? いるのかよ? 確認したのか? したのかよ?」
「……」
「おや? 立ち去らないって事は、おじさんの話しを少しは聞いてくれてんのかな? かなーなんてな? でも、本当にあんたって可愛いな?」
幸桜は頬を赤くする。そしてその場から移動しようとした。親父は幸桜を呼び止める。
「待て! ちょっと待て!」
何故か素直に立ち止まる幸桜。
「お前がその男を好きだったらな! どんどん攻めろって! 断られても断られても攻めろ! 攻撃! 攻撃! 攻撃だー! 一回や二回ふられたくらいで諦めるんじゃねーってんの! 電車の中でうじうじ泣きやがって! 悲劇のヒロイン気取りか? そうか? そうなのか? まぁ、おじょーちゃんは可愛いからヒロインでもいい! いいけどな! 現実はドラマじゃねーんだぞ! 自分の思ったとーりに事が運ぶと思うなよ? なんだかんだってな? あんたの考えが甘いんだよ!」
幸桜の瞳からは再び涙が溢れる。
「おい、また泣くのか? 泣けばいいってもんじぇねーぞ! わかってんのか?」
そこへ、やり取りを見かねていた男性乗客がやってきた。
そして、その親父に文句を言う。するとたちまち口論になる。
さらに乗務員までやってきた。もはやてんやわんやの騒ぎだ。
結果、よっぱらいの親父は次に停車した駅で強引に引きずりおろされていった。
そして、最後に怒鳴るように幸桜に言葉を残す。
「おい! 諦めんなよ? おまえさんはすげー可愛いから大丈夫だ! きっと上手くいくってな? そうそう、九度の告白でゲットしたのが今のマイハニーだ! すごいだろ! あははは! っておいまっちょ! 俺が降りる駅はここじゃな……」
プシュー…バタン
電車のドアが閉まった。外から聞こえていた騒がしい声がだんだんと遠のく。
ドアの窓から外を見ると、ホームで二人の駅員に制止されている酔っ払い。
酔っ払いはこっちに向かって笑顔で両手をぶんぶんと振っていた。
そして何故だろう? 声は聞こえないのに、酔っ払いのおじさんが『頑張れよ!』って言ってるのがわかった。
幸桜は涙を拭いながら思わず笑みを浮かべた。
しばらくして、車内は静かになった。先ほどの騒ぎが嘘のように。
さっきの出来事は幸桜にとって最悪だった。だけど、その出来事は幸桜の気持ちを大きく変えた。
行幸は今でも私を妹だと思ってる。だけど、さっき、一瞬だけど女の子だって意識してくれた。
そうか、私はまだ諦めなくっていいのかな?
そうだよ、私は誰よりも行幸が大好きなんだよね?
菫さんよりなんかよりもずっと行幸を前から知ってるんだよね?
私が負けるはずないよ! ううん、絶対に負けないから!
幸桜は右手の拳を握ると、じっと見詰めた。
菫さん! 私、負けませんからね!
続く
次回は本編とは関係ないものです。
読みたく無い方は飛ばしてください。
その次の次からシャルテ編がスタートします!(たぶん!)