第五十三話【俺の妹の本気の行動】
幸桜が戻ってきて焦る行幸。そしてリリアは?
そして行幸と幸桜の運命は?
行幸は幸桜がいきなり戻ってきて動揺した。
「えっ? あ、お、おかえり」
慌てて幸桜に返事をすると、それと同時にふっと何かの消える気配を感じる。
行幸は慌てて後ろを振り返えった。
すると、先ほどまでそこにいたはずのリリアの姿が無い。
リ、リリア? どこ行ったんだ? まさか戻ったなんて無いよな? おい、出て来いよ!
懸命に思念を送るが返事はない。
「行幸どうしたの? さっきから一人で何か……ちょっと変だよ?」
見られていたのか!?
「えっ? あ、いや…何でもないよ? あははは」
行幸は空笑いをして微笑んでみた。
そして幸桜に目をやる。
幸桜はどうやら化粧直しをしてきた様子だ。
先ほど涙でぐちゃぐちゃになっていた顔が普段の様に……いや、普段よりもずっと可愛くってなっている。
「そっか…あの…ごめんね…すごく時間かかっちゃって…」
幸桜は申し訳なさそうにそう言う。そしてじっと行幸を見つめる。
「あ、いや、大丈夫だよ? あはは…」
行幸は幸桜と目が合った。そして思わず視線をはずす。
おい、何でいまさら意識してるんだよ!?
そんな行幸の行動を見ていた幸桜が、ちょっと嬉しそうな表情を見せた。
ちらりと見ると、その表情が行幸の視界に入ってくる。
やば、もしかして俺が意識しているのがばれてる!?
しかし、特に幸桜は何も言わなかった。そして、ご機嫌な表情で行幸の手を引っ張る。
「ねえ行幸、もう時間も遅いし、もうそろそろここ出ようよ?」
そう言われて行幸は店内の時計を見た。
すると、もう夜の九時じゃないか。
「もうこんな時間かよ!?」
「うん。明日から学校だし…お父さんもお母さんも心配してるだろうからそろそろ帰らないと」
「そうだな…そろそろ帰らないと駄目だな。よし、出ようか」
行幸は店内を見渡しながらレジに向かった。しかし、やはりどこにもリリアの姿はない。
急に消えやがって。まだ聞きたい事があったのに。
店を後にした二人は秋葉原駅へと向かった。
「……(ごくっ)よしっ」
幸桜は店を出ると勇気を出して行幸の手を握った。
行幸はそれを拒まない。そして逆にぎゅっと握り返される手。
嬉しさのあまり、照顔でちらりと行幸を見る幸桜。
行幸は思わず赤くなった。
可愛いじゃないか!? 何だこの可愛い生き物は!?
くっ……幸桜が妹じゃなかったら、俺が女になってなかったら、俺はこの後どんな行動をしちゃうんだろう? こんなエロゲ展開になっちゃって。
そして危ない(R18指定)妄想をしつつドキドキする行幸。
「行幸?」
「えっ!?」
「行幸の手、あったかい……」
「あ、うん、幸桜の手も温かいよ」
行幸は卑猥な妄想をしつつも幸桜と会話をしながら駅へと向かった。
話はすべて行幸に絡む事ばかりだった。そして話の合間でにこりと微笑む幸桜。
本気で妹じゃなかったら……。
行幸の中の【Z】が『血が繋がってないんだぞ?やっちまえよ』と叫ぶ。
いや、やらないぞ!?
しばらくして駅についた行幸と幸桜。
改札を通ってホームへと向かう。
大宮へ向かう京浜東北線ホームへと続くのぼり階段の前で行幸は立ち止まった。
そう、ここで幸桜とはお別れだから。
「幸桜、またな」
「うん…」
見るから寂しそうな幸桜。
名残惜しそうに手を離す。
「おい、そんなに悲しそうな顔すんなよ」
「だって……本当はまだ一緒にいたいんだもん」
くっ…なんて素直で破壊力のある台詞だ。
「だ、だめだって。明日は学校なんだろ?」
「うん」
「また逢えばいいじゃないか? 俺は別に逃げないから」
「うん……だよね」
「ほら、電車くるぞ?」
「あ、うん…そうだね…わかった…」
幸桜は、本当に寂しそうに小さく頷いた。
「じゃあ、気をつけてな?」
幸桜は小さく手を振ってから階段を数段上った。
だけど、すぐに立ち止まる。
そして、行幸の方を振りかえる。
「……っ!」
幸桜は行幸の前へと戻ってきた。
「おい、どうしたんだよ? 電車いっちゃうぞ?」
「いいの、次のに乗るから。それよりも行幸の前髪にごみがついてるんだもん。 気になっちゃって帰れないよ」
そういいながら行幸の前髪を指差した。
「んっ? ゴミ? どこだよ?」
行幸は自分の前髪に手を伸ばす。
「あ、動いちゃ駄目! そこじゃないって! もうっ! 私がとってあげるよ。髪が目に入るかもだからちょっとだけ目を閉じてくれる?」
「んっ? わかった…」
行幸は言われるがままに素直に瞼を閉じた。
すると幸桜の右肩に幸桜の手が触れる感触が伝わる。
あれ? おかしい。何でゴミを取るのに俺の肩に手を? 手? 手って!?
その瞬間、行幸は悟った。
いや、こういうシーンがエロゲにもあったのを思い出した。
目を閉じて肩に手って!?
このシチュエーションはこの前やったあのゲームのあのフラグ成立シーンと同じじゃないか!
「こはっ……」
行幸は咄嗟に瞼を開いた。
しかし時すでに遅かった。
瞼を開いた瞬間、言葉を放とうとしていた行幸の口を幸桜が塞いでいた。
行幸の唇に柔らかいものが触れていた。
「!?」
秋葉原駅の構内。そして、周囲には帰宅する人が沢山行き交っている中。
そんな人ごみの中で行幸は幸桜に唇を奪われた。
しばらくして、幸桜の唇がゆっくりと離れてゆく。
行幸は幸桜を見る。
本当に嬉しそうな、そして照れつつも優しい表情で幸桜は言った。
『大好きっ』
そして、そのままゆっくりと行幸に抱きついた。
おかしい、俺は抵抗しようと思えば抵抗できたはずなのに抵抗が出来なかった。いや…しなかった?
俺は自分の意志で幸桜のキスを受け入れてたのか?
でも何で? どうしてだよ?
キスをしていたのは数十秒くらいだろうか。だけど、凄くすごく長く感じた。
「ねぇ、私たち……キスしちゃったね…」
幸桜の言葉でハッとする。そして、とんでもない事をしてしまったと後悔する。
「お、おい! 何してんだよこんな所で!」
行幸は幸桜を引き離すと思わず強い口調で怒鳴ってしまった。
別に幸桜が悪い訳ではない。それでも行幸は怒鳴ってしまった。
その怒鳴り声に怯えるように肩を竦める幸桜。
「だって好きなんだもん! 行幸が好きだから! キス……したかったんだもん……」
幸桜から素直に出た台詞だったのだろう。
これじゃ本気で怒れない。いや、怒る権利なんてない。
「で、でもな? 流石にここではまずいだろ?」
今も周囲は人が行き交っている。
「まずいよね」
きっと何人もの人が二人のキスを目にしている。
「わかってるなら何でこんな場所で?」
「だって……」
幸桜は唇を噛んで俯いた。体が震えている。
「幸桜? おい…」
「だって、私は本当に大好きな行幸とキスがしたかったんだもん……我慢できなかったんだもん」
俯いたまま幸桜が震える声で言った。
周囲の人の動きが止まった。視線は俺達二人に釘づけになっている。
行幸はそんな視線に戸惑いながらも幸桜に言った。
「だ、だからってこんな場所で……」
目を潤ませた幸桜が顔を上げる。
「だって私がキスしてって言っても行幸はキスしてくれないでしょ? 私の事なんて、本当は今でも妹としか思ってないんでしょ?」
胸に突き刺さる言葉。そして言葉を返せない。
「ほら答えられない……」
「いや、えっと……あれだ、血が繋がってなくてもな、俺にとってお前は妹なんだ」
ぶるっと幸桜が震えた。
「や、やっぱりそっか、妹かぁ…そっか…そっか…」
幸桜が右腕で涙を拭う。そんな幸桜を見ていると罪悪感に襲われる。
「ごめん。でも、今はさ、まだ幸桜は妹なんだよ」
幸桜はぐすぐすと涙を流しながら笑顔で行幸を見つめる。
「うん、いいよ。仕方ないよね? 行幸は私と血が繋がっていないって今日しった訳だし」
「ごめん」
「でもね? だからね……だからキスしようと思ったんだよ? キスをすれば…キスさえすれば私を女の子として見てくれるかなったんだ。…思っちゃったんだ」
幸桜はにこりと微笑んだ。頬に涙がつーっと流れる。
何だこれ? 何だよこれは!
どんなアニメだ? どんなゲームだ?
どうして? なんでこんなに俺は幸桜に好かれてるんだ?
こんな台詞ってゲームの中でくらいしか聞けないと思ってたぞ?
現実に妹が、幸桜が俺に向かって言いやがった。
だけど……やばい、痛い。
胸を打ちぬかれる感覚。
このままじゃ俺は幸桜の事を……くっ。
行幸の心臓はドキドキと鼓動を早めた。
妹相手に俺は何を考えてるんだよ!
行幸の心が、そして気持ちが揺らぐ。
しかし、行幸は【へたれ】だ。
このまま妹をいくら血が繋がっていなくとも彼女に出来るはずもない。
結局は何だかんだと理由をつけて妹を遠ざけ、そして保身に入ろうとする。
「で、でも、お前は妹だ」
「やっぱり嫌だったの?」
「そ、そういう事じゃないけど……」
「じゃあ良かったの?」
「馬鹿か! そ、そういう意味でもない!」
行幸がそう言い返すと、幸桜は微笑んだ。
「あっ、行幸の顔がまっか。もしかして私を女として意識してくれてたりするかな?」
行幸は幸桜の笑顔に負けそうになる。
やばい。もしかして俺は幸桜をマジで女として意識し始めてるかもしれない。
自分の胸に手をあてる。心臓が張り切れそうにバクバクしてる。
「行幸……緊張してるの?」
「そ、そりゃ緊張するだろ」
「私だって恥ずかしかったんだよ?」
「じゃあするなよ」
「ヤダ!」
「ヤダじゃない!」
幸桜が行幸のパーソナルスペースへ再度侵入してきた。
「行幸、私は嬉しかったよ?」
「う、嬉しかったって?」
そしてそのまま再び抱きついてきた。
「ちょっと待て! 流石にここじゃまずいって!」
「もうキスはしないから……」
「ば、馬鹿! そういう意味じゃなくって」
幸桜は抱き付いたまま、行幸の耳元で言った。
「嬉しい…」
「な、何がだよ」
「ドキドキしてるんだもん。行幸がドキドキしてくれてるんだもん」
「そ、そりゃ当たり前だろ……女の子に抱きつかれてるんだぞ? どんな男だってドキドキするだろ」
「えっ? み、行幸? 今……私の事を女の子って……それって?」
しまったと思ったがもう遅い。幸桜の表情はもうなんとも言い表せない幸せな表情になっていた。
「えっと……いや、妹でも女の子だし?」
懸命に言い訳をする行幸。
「それでもいい! 行幸が私を少しずつ意識してくれるのなら。私にドキドキしてくれるなら!」
神様! 俺のHPはもう0です! 簡便してください!
何だこれ! 何だよこれ! ゲームじゃこの後にHシーン突撃じゃないのか?
やばい、なんかルート選択を間違った?
いや、今は過去を振り返ってもどうしようもないだろ。
ええと、こういう場合の対応はどうすればいいんだ?
ここで下手な事を言うとまた変なフラグが立つかもしれない。
そうだ、ここは流すんだ! この流れを流すんだ!
行幸はそっと幸桜を自分の体から離した。
「も、もう時間だろ? 早く帰らないと母さんが心配するぞ?」
「あっ…うん……」
「今回は……大目に見るてやる。でも、突然キスをするのはもう禁止だからな?」
「うん、今度から許可を取るね」
「そういう意味じゃないから! 許可なんて出さないから!」
「えっー? ケチ!」
「ケチじゃない!」
「あはは! いいよ? また私から勝手にするもん」
「や、やめろって」
「大丈夫だよ。嘘。もうしない」
「本当か?」
「本当だよ? 次はね? 次は行幸の本当の彼女になったときに……する」
「ぶっ!?」
幸桜はニコリと微笑むと階段を駆け上がった。
そして一番上の段まで上がった時、振り返ると大きな声で言う。
「さっきの! 私のファーストキスだったんだよ! じゃあ、おやすみ!」
こ、声がでかい! って…やばい…視線が。
取り残された行幸はまたしても周囲の視線を独占していた。
恥ずかしさで、いまさらながらに顔を真っ赤にする行幸。
しばらくして視線もなくなった所で移動を開始する。
か、帰ろう!
俺も家に帰るぞ!って…待てよ?
そう、総武線もこの階段を上がらなければいけなかったのだ。
行幸は京浜東北線が出発したのを確認してから階段を駆け上った。
そして幸桜がホームにいない事を念入りに確認する。
確認し終えた行幸は総武線ホームへと階段を駆け上がって行った。
「ふぅ……」
ホームに辿りついた行幸の顔はまだ真っ赤だった。
先ほどのキス。そして周囲視線を思い出す。
キスもあれだったけど、マジで視線すごかったよな。思い出すだけでも恥ずかしい。
そして行幸はホームに入ってきた電車に乗り込んだ。
車中流れる景色を見ながら行幸は考えた。今日起こった色々な事を。
そして、正面のガラスドアに自分の姿が映し出されているのに気がつく。
映し出されているのは一人の可愛い女性。
そして先ほどキスをしたきれいな唇。
ファーストキスか……この前のあれをノーカウントにすれば俺もだな。
行幸は右手でそっと自分の唇に触れた。
唇に残る余韻。この前とは違う。触れたのではなく重ね合わせた。
頭の中では幸桜の事ばかりが浮かんでは消えてゆく。
この前は事故でキスをした。だけど、今日は本当にキスをした。
もしかして俺と幸桜は結ばれる運命なのか?
だが、行幸はすぐに首を振った。
いや、ないない。ない!
俺たちは家族なんだぞ? 幸桜は妹なんだぞ?
だいたい親父達がいいって言うはずない。 妹とそういう関係になれるはずがない。
しかし、その思いとは裏腹に再び胸が苦しくなるのだった。
続く
幸桜編は一応ここで終了です。
次回からはシャルテ編が始まります。
思ったよりも長くなってますが、まだ続きます。
宜しくお願いします。
又、ご意見やご感想や評価など、お待ちしております。