第四十八話【俺の予想のしなかった展開Ⅵ】
行幸はついに幸桜が実の妹でない事実を知ってしまう。そして本気の告白。幸桜の告白に困惑する行幸。しかし本当の試練は今から起こる事をまだ行幸は知らない…そんな感じで続きをどうぞ!
問題がありすぎだよな……まさか幸桜に告白されるなんて。
くそっ、元はといば俺が原因なんだよ。
俺は何をやってんだ? これじゃもう引き返せないだろ。
行幸は自分が情けなくなりガクリと肩を落とした。
そして、テーブルの上に両手をつき項垂れると「ふぅ」と小さく溜息をつく。
引き返せない所じゃない、この先をどうするか考えないとダメだろ。
まずは幸桜をどうにかしないと。
行幸は乗り出した体をゆっくりと戻すと椅子に深く腰掛けた。
でも、どうすればいいんだよ! くそっ!
右手を額へ当てると体を反らして天井を見た。そしてそのままゆっくりと項垂れる。
床が汚いな。掃除はちゃんとしなきゃ駄目だろ……
そんなくだらない事をつい考えてしまう。
この汚れみたいに今までの事が消せないかな……夢だったりしないのかな?
もしも、今までの事は夢ですべてが無かったなら……俺は前までの平穏な日々を送れるんだ……
戻りたい……女になる前に戻りたい。
しかし、行幸がいくらそう思っても今起こっている事は現実だった。
そう、これは夢じゃない。
行幸は怪我をしている手を見た。意識をするとズキンと痛みが走る。
やっぱり夢じゃない。
行幸は困惑した。もうどうしていいのか解らなくなった。
そんな露骨に目の前で悩んでいる行幸の姿を見て、幸桜の顔は沈んでゆく。
「ねぇ行幸…」
「んっ? 何だよ……」
「やっぱり…私じゃ駄目なのかな?」
幸桜の声はとても弱々しく、そして自信のないものだった。
いつもの威勢の良い声はどこえやらである。
幸桜は勢いで告白してしまったから不安で仕方がないのだろうか。
行幸はゆっくりと顔を上げた。そして幸桜の表情をきちんと見た。
幸桜の少し潤んだ瞳。
申し訳なさそうな表情。
それでも頑張って行幸を見ている。
そう、俺に振られる恐怖。『お前じゃダメだ』と言われる怖さ。これはそういうものに襲われている表情だ。
行幸は思い出した。
そういえば、こういう表情をした美少女をゲームの中で何度も見た。
それはだいたいが攻略の最終局面。あとはその女の子とHをやるかやらないか。そういう場面で。
『私の事……どう思っているの? 私じゃダメなの?』
そこではほぼ必ず選択肢が出る。
OKするか、焦らすか、それとも断るか。
行幸はまずはその女の子とのHが出来る選択肢を選ぶ。そして、その子のH画像を見て音声を聞いて楽しむ。
それからは、ほぼすべてのプレイヤーが行っているゲームのプレイスタイルを取る。
それは、女の子とエッチをして、それからセーブしている場所からやり直すのだ。
そして、最後にはその女の子を振る選択肢を選ぶ。
それはフラグを立てるためだ。その女の子と関係を断つとその女の子とのフラグが消える場合の話だが。
そして、行幸は別の女の子をセーブポイントから攻略しなおすのだ。
そうなんだよ。ゲームならそれが出来るんだ。
何度でもやり返しが効くんだ。
セーブも出来る。そう、ゲームなら……
だけどそれはあくまでもゲームだ。これは現実。
今さっき告白をしてきたのは俺の妹。いや、俺が今までずっと妹だ思い込んでいた女の子だ。
その子は『私じゃダメなの?』と俺に聞いてきている。
そしてその女の子はじっと不安そうな表情で俺の方を見ている。
今現に幸桜が頬を紅色に染めて俺を見ている。
やばい、今日の幸桜は照れ顔、言動の一つひとつがすごく女の子になっている。
今までのあの乱暴な感じの妹はどこへ行ったんだよ。
これが現実の恋愛パワーなのか? 恋は女をこんなにも可愛くするのか? 男勝りだった妹を女にする力があるのかよ。
「ねぇ、行幸?」
幸桜こ声が少し震えている。
「な、なんだ?」
「やっぱり駄目なの? ねぇ…」
幸桜はじっと行幸の目を見て答えを待っていた。
行幸は思わず視線を逸らしてしまう。そして再び考え始めた。
そうだ、そうだよ、答え…答えだよな? 答えを出さなきゃダメなんだ。
これはゲームじゃないんだ。時間が止まる事なんて無いんだよ。
でもどうする? どう答える? 俺はどう答えればいいんだ? 選択肢なんて自動で出ないんだぞ?
混乱してる…俺はいま迷ってる…ちゃんと考えられない…
「行幸…ねぇ…」
「ちょっと待って、今の俺は混乱してるから」
行幸は思わず今の自分の状態を暴露してしまった。
あっと気がつき、行幸が言い直そうかと考えていると、それを聞いた幸桜はこくりと小さく頷き、顔を右斜め下へと逸らす。
「うん…そうだよね、混乱するよね…」
「えっと…ああ、ごめん…別に変な意味じゃなくってだな」
「いいの。別にいいの。だって、私もこんな話を急にされたら混乱してたと思う」
「えと…」
「行幸だって女の子にされて男に戻らないといけないのに……なのに私は自分勝手に急にこんな話をしちゃってごめんなさい…」
幸桜の瞳からぽたりと涙が床に落ちた。
それを見て行幸の心臓が跳ねた。
な、泣いた!? ちょ、ちょっとこれはダメだろ俺ぇ!
「いやいや、俺の事は別にいいから! 俺のは自業自得だし、幸桜は俺を助けてくれようと頑張ってくれてる訳だし、だから泣くなって」
しかし幸桜は泣き止まない。
「もっと……もっと考えて告白すればよかった……私も何をムキになっちゃってるんだろ……ほんと馬鹿みたい」
「馬鹿じゃない! 幸桜は馬鹿じゃないって!」
「でも…私…でもね…うぅ…」
幸桜は声を詰まらせた。
「解ってるよ、大丈夫だ。幸桜が何を言いたいのかは俺もわかってるから」
「行幸……」
「ちょっと待ってくれ。絶対に答えは出すから」
幸桜は涙を手で拭うと顔をあげた。
「うん、わかったよ……もう大丈夫だよ。私、待つから……考えてちゃんと結論を出して欲しいから」
「うん、ありがとう」
とは言ったもののなぁ……
行幸は目を閉じて椅子にもたれかかった。
どうするんだ? こんな事を言ってしまって俺はどうすればいいんだろう?
言うだけ言っても本当にいざとなると結論を出せない。だから俺は駄目なんだよ。
またもや自己嫌悪に陥る行幸。
答えか…俺はどう思っているんだ? 幸桜をどう思っているんだ?
好きなのか? 異性として好きなのか? まずはそこだよな。
ふと思い浮かべる妹と過ごした日々。
幸桜は何かと俺にちょっかいを出してきてたよな。
何かあればすぐに文句も言ってきたし。
でも……
幸桜はバレンタインには絶対にチョコをくれた。
誕生日にも絶対にプレゼントをくれた。
チョコは毎年手作りだったし、誕生日も結構いいものを貰ってた。
冬にはマフラーを貰った時もある。
『兄妹だから仕方なくだからね!』とか『どうせ誰にも貰えないんでしょ?』とか『特別だからね!』とか……
あはは……そっか。そうなんだ?
幸桜はずっと俺の事が好きだったって事なんだな。
そうだよ。じゃないとこんなに色々してくれるはずないよな。なんか納得した。
で、どうなんだ? 俺は……
うん、そうだ。俺はそんな妹が、幸桜がやっぱり好きなんだ。
でも、確かに好きだけど、これは本当の恋愛感情なのか?
行幸は悩んだ。兄妹愛と恋愛の区別は何なのかを。
……ええと。そうだよな……なんだかんだと俺は幸桜を妹として好きだったんだよな。だからこれは恋愛感情じゃない。
今はまだそうとしか思えないだけかもしれないけれど。
だけど、俺は妹は妹として好きだった。
今日、急に本当は血縁じゃないって言われても、『はいそうですか。それじゃあ恋人同士になりましょう』なんて答えを出すのは無理だ。
昨日まで妹だった女の子をいきなり一人の女として見るなんて出来るはずが無い。
どう考えても俺にとっては幸桜=妹なんだ。
だから、妹の裸なんて見れるはずもない………いや、見たな……
で、でも妹とキス何て無理だし……いや、したな……
いやいや、だからって妹とエッチとか出きるはずも無いよな? うーん、結構瀬戸際だったような……
やばい、俺って実際は幸桜の裸を見て興奮してたかもしれない。
もし、もしも、あの時の俺が男で、幸桜があのまま暴走してたら?
そうしたら俺はそのまま幸桜を……
行幸はHな妄想中です。しばらくお待ちください。
読者の皆様は【とても綺麗なお花の絵】を想像してください。
数分経過。妄想終了
うおぉぉぉ……(心の叫び)
俺は流され易いのか? 俺は襲われたらもう駄目かもしれない……
ま、まさか妄想の中で……妹と最後までいくなんてっ……
※妄想の内容はご想像にお任せします。(答え出てますけど)
「行幸? 顔がすごく真っ赤だよ? 大丈夫?」
「へっ? あっ、だ、大丈夫だから!」
落ち着け! 落ち着け行幸! もうそういう妄想はやめろ!
行幸は目を閉じて深呼吸をした。
よし…少し落ち着いたぞ…
考えるんだ。普通に考えるんだぞ?
幸桜を一人の女性として好きなのか? 恋人として付き合えるのか? だぞ?
幸桜と楽しくデートなんて……出きるかもしれないな。
だけど、やっぱりキスとかエッチとか無理だろ? くっ……そう思いたい。
自分のダメさ加減を実感する行幸。
幸桜にもう一度襲われると俺はやっちゃうかもしれない。これは否定できない。だけど、現実に男女の関係というのはやっぱり想像出来ない! というのは嘘だけどしたくない! じゃないだろ? しないんだって!
妹はやっぱり妹なんだよ! 血が繋がってようとなかろうと!
行幸は幸桜をじっと見た。
幸桜は視線が合うと恥ずかしそうに頬を赤く染めた。そして照れて視線を逸らす。
か、可愛いじゃねーか! 俺の妹は可愛いじゃねーか! やっぱり恋人も一考した方が……じゃない! そうじゃない!
そう、血だ。俺と幸桜が血縁じゃなかったのが今回の重大な問題なんだ。
知ろうとしなかった俺が悪かったのか? 聞く耳を持たない俺に強引にでも教えてくれなかった両親を恨むべきか?
いや、後者はないか。
ふぅ……この年齢まで知らなかったのは家族の中でも俺だけという事だよな。
まったく、どうなってるんだ俺の家庭環境は。こんなにも複雑だったのかよ。
「ねぇ。行幸、横に座ってもいいいかな?」
「へっ?」
行幸は慌てて正面を見る。幸桜がすでに居ない。
横を見ると幸桜の姿がある。
何時の間に!?
「え、えっと? 横? 横って俺の横?」
「それ以外に何があるの?」
「え、いや…と、横の席とか……」
ちらりと横の四人テーブルを見る行幸。
「そっか、やっぱり行幸は私が嫌いなんだね……」
悲しそうな声で幸桜が唇を噛んでしまった。
し、しまった! 今はシリアルな……じゃない! シリアスな場面ジャマイカ!
「ごめん! 今のは嘘だから! いいよ、座っていいから」
「本当に?」
「う、うん…本当に!」
「わーい、嬉しいっ!」
あれ? なんだこれ? これでいいのか?
幸桜は俺の横へ座った。
ちなみに、俺の座っているイスはソファータイプなので、真横にぴったりと座る事が可能だ。
まさか腕を抱いたりしてこないよな?
「行幸…」
幸桜が甘い声を出したかと思うと、ぎゅと行幸の腕を抱いた。
「ちょ、ちょっとおい!」
胸があたる! 胸があたってる! とは言えない……
「なぁに?」
「なぁに? じゃなくって、腕とかまずいって! ほら、あまりあれだろ?」
「いいじゃん。今は女の子同士なんだから」
こういう時にだけそういう事を言うのか!
「いや、それは見た目上であって、本来俺達は……」
「……駄目なの?」
また悲しそうな顔になる幸桜。
「だ、駄目じゃない! 駄目じゃないよ?」
行幸の完敗でした。
そんな行幸が「ふぅ」と溜息をついていると、幸桜は行幸の耳元にそっと口を寄せた。
そして、小さな声で優しく言った。
「私は何があっても行幸が大好きだからね……絶対に諦めないからね?」
思わず右横にいる幸桜の顔を見てしまった。
ニコリと微笑む幸桜。
近い! 目の前すぎ! ちょっと動けばキスが出来そうな距離ジャマイカ。
幸桜はじっと行幸を見詰めた。
このまま行幸が勇気を出せばキスも可能だ。
馬鹿か! 俺がここで幸桜にキスしてどうする!
しない! 絶対しない!
「ねぇ、キス……する?」
幸桜が小声で聞いてきやがった。
「ちょまっ!?」
マジで待って! ほんと待って!
まだ俺は幸桜に答えを出してないのに何を言う!?
も、もしかして既成事実を先につくる気なのか!?
「ば、馬鹿ヤロウ!」
「もしかして本気にしたの? あはは、冗談だよ」
そう言って幸桜は体を引いた。
しかし、引く間際に幸桜が小さな声で言った言葉。ちゃんと俺には聞こえていた。
「して欲しかったのに……」
いや待て!
続く
もはや幸桜は行幸の虜っ!
ここまで来たらいっそ幸桜を恋人にしちゃえば?
なんて声も聞こえてきそうなこの小説も終盤に…あれ? おかしい…やけに終盤が長すぎる(汗
そんなこんなでまだ続きます…宜しくお願いします。