第四十三話【俺の予想のしなかった展開Ⅰ】
ご無沙汰の更新です。実は何度も書き換えてたりします。途中まで書いてしばらくして書くと、何か直したくなりますよね? そう、行幸だって人生やり直したくなってると思いますよ?(え?)【公開当時の書き込みです】
おい、リリア?
リリアは唇を軽く噛むと行幸から視線を逸らす。
おい、リリア? 何で視線を逸らしてんだよ。
行幸がストレートに問うがリリアは答えない。
答えてくれないのかよ? いきなりどうしたんだよ。
しかしリリアは反応しない。
ふぅん、無視かよ? なるほど…へぇ…
行幸は表情を強張らせて自らリリアの視界へと入っていった。
すると流石のリリアも視界に入ってきた行幸をついつい見てしまう。しかし再び視線を逸らす。
その行動にちょっとイラッときた行幸。
眉間にしわを寄せて強い思念をリリアへと送った。
リリア! 何で無視すんだよ! お前が菫が心配かって聞くから心配だって答えたんだろ?
それにお前らの目的は俺と恋愛対象者がカップルになるかならないかハッキリさせる事なんだろ?
しかしリリアは反応しない。
お前が菫の居場所を教えてくれれば俺は今から菫の所に行く。そうすれば俺と菫の決着がつくかもしれないんだぞ?
フロワードも俺を諦めて終わったんだろ? 菫が終われば全部が終わるんだろ? だから、今すぐに菫の居場所を教えろよ!
その思念を受け取ったリリアの表情が険しく歪む。
そして、行幸の脳裏へとリリアの思念が飛んできた。
『とても乱暴な思念ですね』
乱暴? 乱暴なな思念にさせたのはリリアだろ!
『そんな短気なだと菫さんに嫌われますよ』
ほっとけよ! それより早く菫の居場所を教えろよ。
『菫さんの居場所ですか?』
そうだよ。
『申し訳ありませんが、私は菫さんの居場所を教えることは出来ません。これは天使として関与できない部分なのです。諦めて下さい』
関与できないだと? 何だよそれ。だから無視したのかよ?
『…いえ、そういう訳では…』
じゃあ教えてくれよ。
『駄目なのです。ルールはルール。破る訳にはゆきません』
へぇ、俺を女にするのはOKなのに、菫の居場所をちょっと教える程度が駄目なのか? まったくもってケチなルールだな。
『ケチではありません。だいたいシャルテに女性にされたのはもともと貴方に原因があるのではないですか? どうなのですか?』
『俺が女にされた原因は……うっ…ぐ』
行幸は言い返せなくなってしまった。
確かに俺はネカマで嘘つきで、そのせいでシャルテに女にされた。
だけど、ネカマなんて何人もこの世の中にいるし、俺よりもっと酷い事をしてる奴だっているはずだ。
今になって考えると何で俺だけこんな目に逢うのかわからない。理不尽だ!
『行幸さん。私は貴方が女性になった事はシャルテのやりすぎた行動だと思っています』
なっ!? また勝手に考えを読みやがったな! でもそうか、リリアもそう思うんだな?
『はい、そう思う所はあります。ですが、貴方は女性のふりをしただけではなく人を騙してしまった。貴方に恋を抱いている相手を。それがシャルテには許せなかったのでしょう』
恋を抱いている相手を騙した……かよ。
行幸はふとフロワードを思い出す。
嘘をついて高額な課金アイテムを買わせた事も。
確かに、俺はフロワードには悪い事をしたかもしれない。
俺はリリアの言う通りで嘘をついた。そして高額な課金アイテムを買わせた。
それについては、俺も悪かったって反省はしてる。
さっきはフロワードも暴走していて謝まるどころじゃなかったけど、今度MMOの中でちゃんと誤ろうと思う。
あの買ってもらったチート性能な課金アイテムも使ってないからあいつに返す。
もし、あいつが俺がネカマだって知って、お金で返せって言われたらどうしよう。
でも、それでも俺が悪いんだし、分割でもいいから返すべきだよな。
そうだよ。確かに俺が悪かった。リリアの言う通りだ。でもな…
それは俺がリリアに菫の場所を教えて欲しい事とはまったく関係ないんじゃないか?
俺は罰だって受けて女になってる。ちゃんと嘘をついた代償は払っているはずなんだ。
そして、俺がリリアに聞いてたのは菫の居場所。
別に今すぐに男に戻せって言ってる訳じゃない。なのに、居場所を教える事がお前らのルールに引っかかるほど悪い事なのか?
『いえ、本当であれば行幸さんに菫さんの居場所を教える行為は悪い事ではありません。いえ、私は悪い事ではないと思っています。私も早く結果が出れば良いと思っていますし』
だろ? だったら菫の居場所を教えてくれよ。
『それは駄目なのです。教える事は適わないのです』
どうしてもか?
『どうしてもです……』
頑なに断るリリア。先ほどとは違う、本当に申し訳なさそうな表情。
リリアの思念のトーンからも嘘は申し訳ないという気持ちは伝わってくる。
これ以上は何を言っても無駄か……行幸は悟った。
わかった。もうリリアには頼まない。
行幸がそう思念を送ると、リリアは悲しそうな表情を浮かべた。
『私だって…お教えしたいのですよ? 本当に本当に…できる事ならば』
とても寂しげな感情が行幸の心へと入り込む。
ズキっと痛む胸。これはリリアの胸の痛みか?
解ったよ。リリアは嘘はつけない優しい天使だって俺は知ってるからさ。
ふわっとリリアの表情が緩んだ。すこし瞳が潤んでいる。
『ありがとうございます……そして申し訳ありません……天使のルールは絶対なのです。ですので、天使である私はそのルールを破る事が出来ない。それをご理解いただけたのでしょうか?』
行幸は唇を噛んだ。
ああ、理解したよ…
リリアはその思念に小さく頷く。
さて、どうすっかな…菫の奴、今どこにいるんだよ。
『あの…』
ん? 何だよ?
『人間の通信機器を利用してみてはいかがでしょう? そう、携帯電話とかいう機械で連絡を取ってみるのはいかがでしょうか?』
行幸はハッとした。
なんだと? 携帯だと?
『はい』
行幸がその存在をすっかり忘れていたのは内緒である。
『菫さんの電話番号をご存知でいらしゃいますよね?』
…ま、まぁな。
『私の力に頼らずとも、それで連絡を取る事が可能では無いでしょうか?』
そ、そうだな。
『では、連絡を取ってみませんか?』
あ、ああ。
行幸はバッグの中から携帯を取り出すとアドレス帳を開いた。
ディスプレイには菫の電話番号が表示される。あとはボタンを押せば発信できる状態。
しかし、行幸は画面を見たまま硬直する。
リリアは首を傾げて行幸の顔を覗きこんだ。
『行幸さん?』
な、何だよ。
『電話を掛けないのですか?』
か、掛けるから待ってろ。
しかし、実は行幸は緊張して発信ボタンがなかなか押せない。
心臓がドキドキと激しく鼓動を始める。顔はどんどん熱くなってゆく。ついには携帯を持つ手がブルブルと震えだした。
口では掛けるなんて簡単に言えるが、いざとなると行動が出来ない意気地なし男。その典型的な例である。
そう、行幸は『へたれ』である。
『あの…行幸さん?』
リリアは行幸の携帯のディスプレイを覗き込んだ。
『ほら、あとは発信ボタンを押すだけではないですか』
そうだけど……
『押さないのですか?』
だから、今押そうかと思ってたんだよ!
赤い顔で強がる行幸。リリアはしつこく思念を送る。
『早く押した方が良いと思いますが?』
わかってるって!
『連絡がつけばよいですね』
……うぐぐ。
『あのぉ……やっぱりおかしいです。どうかされたのですか? 顔色が優れないようですが』
行幸は真っ赤な顔でリリアを見た。そして何を考えたかパタンと携帯電話を折りたたんだ。
『行幸さん? 菫さんに連絡を取りたいのではなかったのですか?』
リリアは首を傾げながら聞いた。
真っ赤な顔の行幸は携帯を握りしめたまま黙る。
くそ、リリアの奴…煩いな…
わかってるんだよ。でもな、あれなんだよ。色々あるんだよ。
まずあれだよ。菫が電話に出た時に俺は何て話せばいいんだ?
【あ、菫? 実は俺もお前の事が気になってたんだ!】って軽すぎるだろ?
【菫か? 俺はじっくりお前に逢って話がしたんだ。今どこだよ?】って聞いてもあいつが素直に教えるか?
まさか、今も暴走モードな訳はないだろうけど……
でも、ここで選択肢を誤るととんでも無い事になる気もするしな。
や、やっぱりあれだろ。直接あって話す方がいいよな! って…リリアは居場所を教えてくれないしな…ううぅーん…
ああああっ! 緊張する! 何で俺がこんなに頭を悩ませないといけないんだよ! 俺、ヘタレなのに恋愛とかどうしろってんだっ!
『なるほど…行幸さんなりに色々考てらしゃるのですね。ヘタレって大変なのですね…』
天使のチート機能が炸裂。へんな所まで読まれたっ!
行幸は深刻なダメージを受けた!
リ、リリア?
『大丈夫ですよ。信じて行動すれば結果は必ずついてきます! ヘタレでも!』
グサグサグサっと胸に何かが突き刺さる。
行幸は胸に手を当てて険しい表情になった。
リ、リリア? 俺は大丈夫なので…お願いだから黙ってて貰えますか?
思わず敬語になる行幸。そして携帯を持つ手が先程より震えている。
『ふふふ。行幸さんは思ったよりも意気地なしなんですね?』
リリアはニコリと笑顔をつくるとそんな思念を飛ばした。
そして、その思念は今の行幸にはかなりきつい。
そう、【ヘタレ】イコール【意気地なし】だからだ。
緊張を解いてもらおうというリリアの計らいだったが、逆の意味で効果抜群だった。
行幸の顔が更に赤くり、気持ちはかなり凹んだ。
『も、申し訳ありません! 私ったらハッキリと言いすぎたみたいです…』
悪気が無いからこそ、たちが悪いリリアの言葉。
ほっといていいから! 俺はどうせ意気地なしだから! へたれだからっ!
度胸があったら今頃は彼女の一人や二人できてるよ!
『そうですね。しかし二股はダメですよ?』
そこを突っ込むかっ!?
『頑張って下さい、私は応援してますよ。二股以外は』
いや、もう、それはもういいから、素直に菫の居場所を教えてくれよっ!
『駄目です』
ケチ……
『ほら、頑張って! 私がついてますからっ!』
ついてるだけじゃないか。
右手を額にあてて、かなり参った感じの行幸。
そして、数分が経過したが、なかなか電話を掛けないのでリリアはちょっと不満そうに思念を送った。
『行幸さん……行幸さんは菫さんと本当に逢いたいと思っているのですか? 本当に今すぐ逢いたいのなら行動に移せるはずです。もしかして、心の中では逢いたくないって思ってるのではないですか?』
行幸は何も言い返せない。そう、行幸は躊躇していた。
菫に逢って話しをすべきだと思っている。でも、菫に逢ってもどうすればいいのかまったく解ってない。
逢いたいけど逢いたくない。
だけど理解していた。このままじゃ駄目だという事は。
わかってんよ…このままじゃダメなんだ……
「カチャリ」っと再び震える手で携帯電話を開く。
掛ければいいんだろ! やってやるよ!
行幸がアドレス帳から菫の番号をもう一度探し出した。
ディスプレイに表示された菫の携帯番号。
掛ける! 掛ける! ここで掛けなきゃだめなんだよ! 俺なら出来る!
意気込む行幸。そんな行幸の肩を誰かが叩いた。
続く