第四十一話【俺の知らない場所で菫が立ち直ってたし①】
決戦で決着が付かず、延長戦に入りました? さて、ここからは後半戦です。後半戦にしたいです。しかし、まだ続きますが…ふふふ。
寒い…体が寒い…
「菫…」
あれ? 誰かが私を呼んでる?
「菫、大…? ね…返…」
また誰かが呼んでる? この声は聞き覚えがある。愛ちゃんかな?
「ねぇ…きて!」
わかったよ。ちゃんと起きるからそんなに叫ばなくてもいいよ。
まったく愛ちゃんはもう……
菫はゆっくりと目を開いた。
すると視界に入ってきたのは険しい顔をした愛。
どうしてそんな顔をしてるの? あれ? 私は何で愛ちゃんに抱えられてるの?
「菫!」
「愛ちゃん……」
「やっと気がついた…よかった。ほんと良かったよ…」
今にも泣きそうな愛が菫をぐっと抱く。そして顔を菫の胸元へと寄せた。
吐息が感じられる程の近さ。そして愛の震えが背中から伝わった。
「愛ちゃんどうしたの?」
菫がそう聞くと愛は顔を上げる。そして驚いた表情で菫を見る。
「えっ? 何? 覚えてないの?」
「覚えて無いって何を?」
「菫がすごい勢いで私にぶつかってきて、それで道路に倒れたかと思ったら気を失ったんでしょ? もう! もう! 忘れちゃったの?」
「え?…あ…あれ? 私が愛ちゃんにぶつかって気を失った?」
混乱する菫。そう言われるとそんな気がしてきた。
菫は懸命に何があったのかを思い出そうとする。
愛ちゃんにぶつかった? 何で?
「本当に覚えてないの? もしかして記憶喪失?」
「いや、待って…ええと? うーん」
脳の奥底からゆっくりとイメージが沸いてくる。
菫はぼんやりとだが思い出して来た。
「どう? 思いだした?」
「あ、うん…ちょっとだけ」
「あれかな? もしかするとぶつかったショックで少し記憶が混乱してるとかかな?」
「っていうかさ…愛ちゃん、ここはどこ?」
再び愛は驚いた表情で菫を見る。
「秋葉原よ! 秋葉原! それも忘れたの?」
「秋葉原?」
「そう! 秋葉原! っていうかさ、ほら、人がいっぱい見てるから……恥ずかしいから移動しない?」
愛は本当に恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。そしてキョロキョロと周囲を気にしていた。
大声を出していたのは愛なのに。
「あ、うん」
菫は愛に抱えられるように起き上がる。
するとその瞬間、右手首に痛みが走った。
「痛いっ」
手首を押さえる菫を見て愛は心配そうに声をかける。
「どうしたの? 手首が痛いの? 大丈夫? 病院とかいっちゃうレベル?」
「ううん、大丈夫だと思う……ちょっと捻っただけだし」
「捻ったの? ってどこで? さっき私とぶつかった時?」
菫は首を捻った。
「え? どこでって?」
「さっき転んだ時に菫は手はついてないはずだよ? だってパタンって感じで倒れたし、見てたし」
「え? じゃあ……あれ? いつ捻ったっけ…痛いっ」
再び痛みが体を走る。
そして体を伝わる痛みと同時にふっと脳裏に浮かんだのはフロワードの顔だった。
「フロワード!?」
「フロワンド? って何!? 武器?」
愛の天然ボケを軽くスルーしながら菫は思い出す。
そして、はっきりとフロワードを殴った記憶が鮮明に脳裏に蘇った。
わ、私がフロワードさんを殴った?
痛めた手首を見る。
うん……殴った……でも何で殴ったんだろ?
そして、まるでここで思い出す事が設定されていたように次々と記憶が思い出される。
そうだ、行幸がフロワードさんと一緒にいてっ!
次々に蘇る記憶は菫をどんどん追い込む。顔色はみるみる悪くなり両手を胸に抱える。
痛めたはずの右手でそっと口を覆う。自然と震える体に気が付く。
「す、菫?」
愛はこれはただ事じゃないと悟って、それでも菫に優しく声をかける。
「菫どうしたのよ? 何があったのよ?」
菫は脳裏に蘇った記憶を信じたくなかった。
記憶の中の自分はいつもの自分じゃなかったからだ。
あの時、私は自分でも信じられない事ばかりをした。
【後悔】そんな言葉じゃ収まらないくらいに最悪の状況。
声が出ない。『どうしよう』という文字だけが頭を廻る。
「菫? ねぇ、ちょっと?」
愛の言葉にも耳を傾けない。いや、完全に自分の世界に入っている状態になってしまう。
菫の状態を見て愛はかなり深刻な事があったんだとだけ理解する。
ふと周囲を見れば、いつのまにか注目の的になっている。
行き交う通行人が足を止めるくらいに。
やばい、あんまり長いは出来ないわ。ここは早期撤退をせねば。
愛はそっと菫の肩を抱いて立ち上がった。
「移動するわよ? いける?」
質問しておいて、愛は返事む聞かずに半ば強引に歩きだした。
しばらく歩くと小さなカフェを発見する。
エレベータを使用して三階にあるという所のが怪しいが、付近に喫茶店はない。そして早く注目を反らしたい。
愛は仕方なくというか、素早くビルの中へと消えた。
エレベータを降りると店の前。店構えが更なる怪しさを醸し出している。
このお店、ちょっと怪しいけど……
ここまで来たら引ける訳がない。ガラス扉の向こうには笑顔のウェイトレスが身構えている。
くっ! ここは突入よ!
愛は店内へと突入した。
まずは、ハスキーボイスのウェイトレスの出迎えを受け、その案内で店の中を進んだ。
夕方だからなのか、店内にはお客が少なかった。
そして、なぜか店内が少し薄暗い。やはりというか、ちょっと怪しい雰囲気の喫茶店だ。
「菫、ほら座って」
菫を座席に座らせると愛はコーヒーを二杯注文する。
「ええと、菫? 何があったの? もしかして女になった彼氏と何かあったの?」
菫は顔を上げると一瞬だが愛と目が合う。そして表情を強張らせてすぐに視線を下げた。
「どうやら的中みたいね。で、どうしたの? 浮気でもされたの? まさか女になったから男に走ったとか? その浮気現場を菫が発見して修羅場とか?」
菫は再び顔を上げる。そして『えっ? 何で知ってるの?』と言わんがばかりの驚きの表情で愛を見た。
「え? まさかこれも的中なの?」
返事は無いが否定もされなかった。
菫はまたしてもがっくりとうな垂れている。
「で? その浮気相手の男を殴って右手首を捻ったとか?」
菫は三度顔を上げた。そして『えっ? 何でそこまで知ってるの?』と言わんがばかりの驚いた表情で愛を見た。
そして、またうな垂れそうになった時。
「ストップ! いちいち落ち込まないで!」
ピタっと菫の頭が静止した。
「はい、頭をあげて、話を聞かせてよ。私はあんたの味方なんだからさ」
菫はそこでやっと口を開く。
「でもね? 別に浮気をされた訳じゃないというか、私と行幸はまだ付き合ってる訳じゃないし、別になんていうか……でも、男と会ってたというのは当たってて……で、殴ったのも当たってて……」
愛は眉間にシワをよせながら表情を強張らせる。
「ちょっと待って……ええと? 纏めるわよ? 菫の好きな彼氏が、女になってるのよね? で、その彼氏が男と会ってて、その現場に菫が【偶然】出くわして、そしてその相手の男を菫は殴ったのね?」
菫はぶんぶんと首を振った。
「ま、待って! ちょっと違うよ! だって偶然じゃないもん!」
その言葉に愛は一瞬引いた。頬肉がひくっと動いた。
「ええと……【偶然】じゃないって事は【必然】なのかな?」
「えっと、必然というか……私は行幸を探してて、そうしたらその男と一緒にいて、何だかそれで、取られたくなかったのは事実かな」
「でも殴るのはどうなの?」
「聞いて、あの時は私が私じゃなかったの! もう何て言うか、私がおかしくなってて、私でも何でフロワードを殴ったのかわかんないし! それに……」
菫はそこまで話すと、再び俯いた。
愛は困惑した表情で額に手を当てる。
じわっと滲んでいる汗。別に暑い訳でもないのに。
なんか重い空気になってるし……菫ってどんな修羅場を体験してきたのよ?
「えっと、でさ、じゃあ何であそこで私にぶつかったのかな? なんであそこにいたの? それに、菫泣いてたよね? なんで?」
菫は俯いたままなかなか答えない。
「まぁいいよ……話したくないなら。まぁ大けがをせずに済んだんだし、よかったって事にしようか。うん、そうしよう!」
愛は腕を組んで、納得したようにこくりと頷く。すると注文していたコーヒーが出て来た。
「ご注文の品は以上でしょうか?」
ハスキーボイスのウェイトレスは笑顔で愛の顔をじっと見ている。
それにしてもこの声質って……
愛は何かを感じた。そして周囲を見る。
【逞しいウェイトレスさんがいらっしゃいました】
察したわ……そういうお店なのね。
「あのぉ? 以上で大丈夫でしょうか?」
愛はじっとウェイトレスの顔を見た。
ちょっと……あれだった。さらに察した。
「だ、大丈夫です」
愛がそう答えると、ウェイトレスは伝票をさっとテーブルの端へ裏返しに置く。
そして笑顔で色々と語りかけてきた。
しかし愛はその笑顔や会話には影響されない。申し訳ないが早々に退却してもらった。
ウェイトレスが去った後、愛は頭を抱える。そしてぼそりと一言。
「ここって女装喫茶かよ……」
周囲は見事なまでに女性の服を纏った男性陣が存在していた。
「しっかしレベル低すぎだろ……」
突然ハッとする愛。そしてメニューを手に取る。値段を確認。
『コーヒー八百円!?』
見てはいけないものを見たかのように、メニューをそっと裏返すと元の位置に戻した。
そして愛は再び頭を抱えた。
終わったよっ! 明日のお昼代が終わったぁぁぁぁ!
そんな逞しい女装喫茶の一番奥の席には二人の女がずーんと沈んでいる図。
しかし、ここはポジティブだけが売りの愛だ。
え? ポジティブだけじゃないだろ?
いえ、それだけです。身長と貧乳は売りじゃないらしいので。
その愛が見事な復活を果たす!
「そうよ! 後悔してもシカタナイじゃない! やっちゃった事はもう終わった事だ!」
自分に言い聞かせる。力強い一言である。
そして、何故かその言葉に菫が反応して顔を上げた。
「そうだよね……」
その意見に同意する菫。
えっ? いや、菫に向かって言った訳じゃないんだけど…と思いつつも結果オーライである。
ここまできたら、ガンガン行こうぜ! 状態になる愛。
「そうよ菫! で、何があったのよ? 恋愛経験豊富な、この愛お姉さんに話してみなさい」
すると、やっと菫はゆっくりと話しを始めた。
「ええとね、今から言う事は嘘じゃないからね? ちゃんと聞いてね」
「もちろん! だいたい、男から女になった事だって信じてる私よ? そして、いつか白馬の王子様が私を迎えに来てくれるって、そして身長が低くなる薬が開発されて、胸が大きくなる薬も開発されるって……私は信じたい!」
「愛ちゃん、それでね……」
な、流されただと!? しかしここは流されて動揺してはダメだっ!
もはや何モードが不明である。
「さぁ! 大丈夫、信じるから話して!」
菫は今日の出来事を愛に話し始めた。
続く
愛です。私は結構マニアです。
正直に言います。彼氏いません。
空想彼氏がいます。でも百合もちょっと興味あります。
彼女でもいいかもしれません。でも結婚願望もあります。色々やってみたいです。
でもその前に…ちっちゃくって、もうちっと胸のある女の子になりたいです(切望)
作者です。それは無理なお願いです。愛は貧乳をステータスにすべきです。
諦めが肝心という言葉をごz……ごふっ
その後、作者を見たものはいない。