第四十話【俺の決戦の結末④】
菫を見失った。そして探したけど…見つからなかった。とぼとぼと駅へと向かう行幸。そんな行幸の前に現れたのは!?
遂に四十話です! しかし記念は何もありません!
狭い路地を行幸は駅へと向かって歩いていた。
その表情は硬く、思い詰めているように見えた。
不意に立ち止まると、右手でワンピースをぐっと掴む。
手に滲む血でワンピースは赤く染まった。
どうしてこうなったんだ……
人気の無いビルの谷間で立ち尽くす行幸。
そして、何気なしにふと空を見上げた。
ビルの谷間から見えたのは都会の照明に染まる青白い空だった。ネオンや照明に照らされるビルの壁だった。
行幸は人目を憚らずに思い切り叫ぶ。
「リリアっ! シャルテっ! 出て来いっ! 出てこいよっ!」
行幸の叫び声はあっと言う間に色々な騒音にかき消されてゆく。
「いるはず無いよな……」
見上げていた顔をゆっくり下げる。そして『ふぅ』っと小さな溜息をついた。
行幸は右手をスカートから放すとじっと手のひらを見た。
血が滲んでいる。痛みがある。
そう、これは夢じゃない。現実なんだ。
今まであったことはすべて現実なんだ。
ぐっと手を強く握りしめる。同時に痛みが脳へと伝達される。
行幸は再確認をした。こえが現実なんだという。
再び歩き始める。
ゆっくりと歩み始める。
しかし行幸は数歩進んだ所で再び立ち止まった。後ろに何かの気配を感じたからだ。
もしかしてリリア?
緊張しつつゆっくりと振り返る。するとそこには紺のスーツに身を包んだ中年サラリーマンの姿があった。
何だよ……ただのおっさんかよ。
行幸は再び『ふぅ』と溜息をついた。
するとその中年サラリーマンが予告なしに行幸の側へと歩み寄って来た。
笑顔で歩み寄るおっさんに焦る行幸。いつでも逃げられるように構える。
そんな焦る行幸に向かっておっさんは大きな声で話しかけてきた。
「ようねーちゃん! おじさんと遊ぼうぜ!」
いきなりナンパかよ!?
「一人でこんなとこで暇なんだろぉ?」
なんというハイテンションなおっさんだ。
顔は赤いし息は酒臭い。酔っ払ってるって一目でわかる。
まだ七時にもなってないのに出来上がっているとは……奥さんに悪いと思わないのか?
「あのさ、俺はあんたみたいな酔っ払いとは遊ぶ時間は無いんだよ」
行幸が強めの口調でそう言い返すと、おっさんはなぜか笑顔になる。
呆れた顔で行幸がため息をついた。するとそのサラリーマンは再びにこりと笑顔を見せる。
「ねーちゃん。じゃあ、おじさんが酔っ払ってなかったら遊んでくれたのかな?」
おいまて、どうしてそう解釈になるんだよ!
更に呆れる行幸。
酔っ払いの思考は理解がたい。
「ええと、とにかく俺は忙しいんだよ。おっさんに付き合ってる暇なんて無いんだよ」
おっさんは今度は大声で笑いだした。まさに酔っ払い的な行動である。
「わ、笑うな!」
行幸は思わず怒鳴る。
「あははは! そう言いつつもおじさんの戯言に付き合ってくれてるじゃないか」
揚げ足を取られた行幸は顔を真っ赤にした。
ああ言えばこう言う! 酔っ払いの癖に生意気な!
「う、五月蠅い! もういいだろうが! 早く家に帰れよ! 奥さんと子どもが待ってるんじゃないのか?」
考えもせずに言った一言にサラリーマンはハッとした表情を見せた。
「おお、そうだそうだ。おれっちの奥さんと子供が待ってるんだったな。よぉし! じゃあおじさんは帰りますかね? あははは! じゃあな、お嬢ちゃん。また遊ぼうな~」
または無い!
サラリーマンは手をふりふりと振ると、そのまま俺を追い抜いて駅へと向かって歩いて行った。
視界からサラリーマンが消えたのを確認すると、行幸はほっと一息つく。
何だったんだ……まったく。
行幸は溜息混じりに歩き始めた。
すると、数歩進んだ所で後ろにまたしても人の気配。
またおっさんか? そう思いながら後ろを振り向くと誰もいない。
あれ? 確かに誰かがいるような気配があったんだけど?
行幸は今度は上から気配を感じた。はっと上を見上げる。
すると、視界に飛び込む白い人影。それは上空より舞い降りてきていた。
「え? もしかしてリリア!?」
しかし確認しようにも真上すぎて顔が見えない。
だが、普通の人間が空中から現れるはずはない。そうなればリリアかシャルテと考えるのが普通だろう。
そして、降りてきているのは大人の女性みたいだ。シャルテは子供。という事はリリアとしか考えられない。
見上げているとスカートの中がちらちらと見えそうなのに気が付いた。
え? み、見えそうじゃないか!
ふわふわと揺らぐスカートからは、あと少しで……
な!? み、見ちゃダメだよな? と思いつつも見てしまう。男の性である。
顔は下げたが視線だけはスカート中をロックオン。
やっぱ天使も穿いてるのか?
あっ…………
そっか、天使も穿くんだな。
結局はしっかり見てしまった。
天使も下着をつける。変な事に感心する行幸。
行幸の横に柔らかい笑顔で降り立ったのは、やはり天使リリアだった。
優しい笑顔の白い美しい天使リリアは下着の色も綺麗な「白」だった。
「白か」
余計は一言。その一言を聞いたリリアから笑顔が消えた。そして顔が真っ赤になる。
『え、ええと?』
「えっ!? いや、な、なんでもない!」
しかしもう時遅し。慌ててスカートを抑えるリリア。本気で遅いです。
『ま、まさか? 私の……』
耳まで真っ赤になったリリアに妙なドキドキ感を覚える行幸。
いや、今はそれどころじゃない。
「あっ、えっと……」
『み……見たのです……か?』
ここは見ましたと正直に言うべきなのだろうか? ちょっと悩む行幸。
しかし隠してもどう考えても後でばれそうだ。なんせ相手は天使だ。
「はい、見ました」
素直に答えてみた。
『………』
カーーーッ!
アニメや漫画でしか見れないんじゃないかって位に全身が赤くなるリリア。
リリアはスカートを押さえたまま恥ずかしそうに体をくねった。
しかし、顔を赤らめてスカートを抑える姿が異常に可愛いジャマイカ。
前からリリアは綺麗だとは思っていたけど、まさか可愛い要素まで持っていたとは……
目の前のリリアはゲームの中のヒロインそのものだった。
いや、下手なヒロインよりもずっと綺麗で可愛い。
行幸は思わずリリアに見とれてしまった。
先ほどまでのリリアに対する怒りはどこへやらである。
『ええと…その…すみません…変なものを見せてしまいまして……』
「いえいえ、こちらこそ御馳走様でした……」
『な、何ですかその言い方は!?』
「そのまんまだけど……」
『行幸さんったらもうっ……』
リリアは照れた表情でちらりと行幸を上目づかいで見る。
やばいほどに可愛いい!
行幸はリリアを思わずじっと見てしまった。視線はまずは照れている表情へ。そして、自然とその照れた顔から胸へと移ってゆく。
これが世の男の視線黄金移動パターン。仕方ない事です。
※個人差あり
なるほど……リリアって形もよくって大きめなんだな。
天使はスタイルが抜群なのがデフォルトなのか?
いや待てよ? でもシャルテは貧乳だったな。
まぁ俺は貧乳が嫌いな訳じゃないが……
あれか! そうか! シャルテはまだ子供だからか! 成長中なのか?
でも、俺はやっぱりでかい方がいいなぁ。
そして再び行幸の視線はリリアの胸にロックオン。
柔らかそうな胸だな……くぅう!
今度は自分の胸とリリアの胸を比較検討。
でも今の俺の胸も今は結構でかよな? 柔らかいし。
行幸は無意識に自分で自分の胸を揉んでいた。
前は幸桜に邪魔されたけど、せっかく女になったんだ。今度は絶対に女体の神秘を堪能してやるからな!
そんな男らしい? 事を考えている行幸。っていうか女性の前で自分の胸を揉んでいる行幸へリリアが表情を強張らせて語りかけた。
『ええと……お取り込み中すみませんが、ちょっと真面目なお話しをさせて頂いても宜しいでしょうか?』
「へっ? あっ!」
慌てて胸を揉むのをやめた行幸。
自分の事や行幸の行動を見て、照れが残っているリリアが、すこしもじもじしながら行幸をちらちらを見ている。
そんなリリアを相手に話しなんてしたくないとか否定できるはずがない。
「べ、別にいいけど?」
『あ、ありがとうございます』
リリアは頬をピンク色に染めたままぺこりと頭を下げた。
「ええと? で、何の話しだ?」
『恋愛対象者のお話です』
恋愛対象者? ええと菫? そうだ! 菫!
すっかり忘れた! 俺はリリアに言う事があったんだ!
「リリア! そうだ! 俺はリリアに言いたい事があったんだよ!」
行幸の声が辺りに響く。
リリアはちょっと慌てた様子で口元にひとさし指を立てると、静かにしてくださいの合図を送ってきた。
『行幸さん、声が大きいですよ。私の姿は人間には見えませんし声も聞こえませんが行幸さんの姿は誰にでも見えますし声も聞こえるのです。他の人に変に思われない為にも声を出すのは控えてください』
リリアにそう言われて行幸は周囲を確認する。すると数人の通行人が自分の方を見ていた。
なるほど、俺がここでリリアと話していても、周囲には独り言を言ってる怪しい女だと思われるだけって事か。
『申し訳ありませんが、宜しくお願いします…』
仕方ないな。
行幸はこくりと頷いた。
くそ、文句を言いたいのに声を出せないのかよ。
『ええと……フロワードさんの件で、お話しをさせて頂いても宜しいでしょうか?』
え? 菫じゃなくってフロワード?
そうだ、言われて思いだした! すっかりフロワードの事を忘れていた!
『あのぉ? まさか忘れていたなんて事は無いですよね?』
ずばり的中され、行幸は怪しい汗を拭いながら首を横に振った。
まさか忘れてた何て言えない……
『それなら良いのですが』
すまんフロワード! すっかり本気で忘れてた!
そういや、あの橋に放置したままだったよな?
あいつ大丈夫なのか? やばい……気を失ってたし、フロワードの所へ行くべきなのか?
まさか大怪我なんてしてないよな? まだ気を失ってるのかな?
行幸が困惑した表情でおどおどしていると、リリアが行幸に優しく語りかけた。
『大丈夫ですよ。フロワードさんは意識を取り戻しましたし、怪我も大した事はありません』
行幸はハッとリリアの顔を見た。リリアはにこりと微笑んでいる。
意識を取りもどしたのか? そっか、なら良かった。
でも、フロワードはあの後どうなったんだろう?
あの時の事とか覚えてるのか? 暴走は終わったのかな?
『もちろん、覚えていますし、暴走も終わっていますよ』
「……!?」
あれ? え? リリアは俺の考えてる事に答えてる?
まさか俺の思考を読んでるなんて無いよな?
まっさかー? ゲームじゃあるまいしっ!
しかし、
『読んでいます』
「!?」
カーッと急激に真っ赤になる行幸。
お、おい! 何だそれ!
『我々天使は人間の思考を読む事が可能です』
そ、そっかー! 天使は心が読めるのか!
そういえば前も心を読まれたような記憶があるなっ! って、違うそうじゃない! これって……
じっとリリアを見る行幸。
と言う事は、まさか……さっき俺がリリアを見て思っていた事も既にばれてたりするのか?
俺がフロワードを忘れていた事もばれてるのか?
『はい』
即答だった。
そして、リリアは自分の胸をじっと見る。
『私の胸は……行幸さんのご期待に添えるものでは無いかもしれません……今の行幸さんの方が立派な胸をされていますし……』
うわぁぁ! 完璧に読まれてたぁ!
ごめんなさい! すみません! 変な妄想ばっかりしてました!
『ええと、それは仕方がない事です。だって、行幸さんは男性なのですから。ですから、女性の体に興味を持つのは普通です。そうですね、行幸さんに言わせれば女体の神秘ですか? ご自身の体を……わ、私は止めませんよ?』
あぁぁ! 天使に言われるとすごく罪悪感に襲われるぅぅ!
それにしてもなんてチート機能なんだっ! 人の心を読めるなんてありえない!
『あのですね、どの天使でも人の心は読めますので……』
そ……そうなのか?
『はい』
何も返す言葉はない。
『ええと……お話の続きをさせて頂いても宜しいでしょうか?』
あっ、ああ…フロワードは大丈夫って事なんだよな?
『はい、そうです』
だけど、俺はフロワードをちゃんと振ってない。それでも大丈夫なのか?
『大丈夫です。フロワードさんは行幸さんの事を諦めると思います』
そう言った後のリリアの表情は少し寂しげだった。
そりゃ、喜ぶ事でもないからな。しかし、フロワードには本気で悪い事をしたな……
俺はネカマで気ばっかり持たせて、あんなに高い課金アイテムまで買わせておいて、結果がこれだ……
『行幸さんにそういう気持ちがあるのであれば、フロワードさんも少しは報われると思います』
そんなもんか? そう思っていいのか?
『……そう思うしかないでしょう』
なるほど、そうだな。いくら俺がフロワードに対して悪かったって思っても、恋人同士になる事は出来ないんだ。
俺は男に戻りたい。だからここは割り切るしかないんだよな。
『そうですね…でも…』
でも?
『プレイされているゲームの中でも良いので、きちんともう一度振ってあげてください。暴走状態ではない時にちゃんとお返事をしてあげて下さい』
ああ…わかった。ちゃんと返事はする。
『あと、今度は菫さんの事なのですが』
そうだ、菫だ。菫の事はどうなるんだよ?
『行幸さんの考えの通りで、二人目は菫さんです』
そんなの言われなくても解ってる!
そういう事じゃないんだよ。今知りたいのは菫はどこにいるかって事なんだよ。どうなってるのかって事なんだよ。
リリアなら解るだろ?
あいつ、俺の事を勘違いしてんだよ! 俺が妹が好きだとか……
あいつが冷静だったら、普通の状態だったら、俺が妹を好きだなんてありえないってわかるはずなんだ。
でも、あいつは暴走しててきっと理解してない。
だからもういっかい逢いたいんだ! 逢って説明したいんだよ。何処にいるか教えてくれよ!
『行幸さんは菫さんが心配なのですか?』
当たり前じゃないか!
『……』
続く
本日は四十話記念としてリリアさんに来て頂きました!
み:こんばんは!
り:こんばんは。
み:リリアさんは天使なんですよね?
り:はい。天使です。
み:ちょっと質問しても宜しいですか?
り:はい。お答えできる事であれば答えさせて頂きます。
み:ありがとうございます! では早速! 匿名のPさんからの質問です。リリアさんは何でリリアという名前なのですか?
り:……え? 名前の由来ですか?
み:はい、そうです。
り:ええと、それは作者様、貴方様が私の名前をリリアにしたからではないでしょうか?
み:……あ? ええと……はい。そうですね(汗
り:それで、なぜ私に名前はリリアなのですか?
み:いえ……○ースとかいうゲームが昔あって、そういう名前のキャラがいてですね……
り:まさか、そのキャラが女神だったとか?
み:……ふーふーふー(口笛がふけない
り:安直ですね……
み:ごめんなさい……
り:適当ですね?
み:そ、そういう事じゃないんです! ほら! あのキャラは私の大好きな女神ですから! きっと君にも似合うかなーって思って!
り:昔すぎだった彼女の名前を子供につける感覚ですか?
み:えっ!?
り:作者様、わたくし、そろそろお暇させて頂きます……
み:ちょ、ちょっとまって! まだ出番があるからっ!
り:それでは失礼します……今日までありがとうございました。
み:ちょっと! リリアぁぁ!
という事で、リリアという名前はすごく安直に決めました。
すみませんでした!
(リリアはちゃんと今後も出ますよ?)