第三十六話【俺の決戦の日~シャルテの想い】
行幸がフロワードと恋愛バトル中ですね。そしてシャルテはと言うと? 天使なのに…僕は…シャルテは自分の気持ちに気が付いた!? そして…
まったく、行幸は何処に行ったんだよ!
こんなに探してやってんのに! まったくもう!
シャルテは心の中で叫んでいた。
しかし、シャルテが実際に行幸を探し初めてから、実はそれほど時間は経過していなかった。
ただ、天使の能力を使用して行幸を探せなくなり、面倒でイライラしていたのだ。
今は人間にされてしまったシャルテ。人間になってしまうと天使の能力は使用不可になる。
ぶっちゃけ探すのが面倒なだけだった。
そんなシャルテは川辺の狭い道を周囲をキョロキョロとしながら歩いていた。
まったく! ほんっと何処に行ったんだ?
シャルテ何度も立ち止まると、イライラしながら周囲を見渡した。
しかし、辺りはすっかり暗くなってしまい、遠くまで見えない状態だ。
うーん……見えない。
おまけに人間になったシャルテは、視力が良くなかったという事実。
視力があまりよくないというシャルテのベースになったアニメキャラ設定を忠実に再現されていた。
人間ってマジで不便すぎる!
シャルテは目を細めて再び歩き出した。
くそーどこ行ったんだ?
間違いなくこの近辺にいると思うんだよな。
オフ会という名のコンパで行幸はフロワードとあまり会話をしてなかった。
行幸はフロワードを振るためにこのコンパに出席した訳だよな? という事は、フロワードと接触しないで終わるっていう事は考えずらい。
やっぱりどこかでフロワードと行幸とフロワードが接触している可能性が大きいな。
流石は天使である。冷静に行幸とフロワードの行動を予想し、見事に的中。
行幸はフロワードと何処かで接触しているとして、菫の行動とリリア姉ぇの行動も気になるな。
菫はリリア姉ぇの担当だしな……
どこでどういう行動に出るのかは解らないけど、何かしてそうだよな。
それにしても、リリア姉ぇは何で僕に行幸の行動を教えてくれないんだ?
僕は天使の能力は使えないけど、リリア姉ぇは使えるはずだろ。
僕に連絡を取るなんて簡単だろう? ……まさか?
シャルテの怪訝な表情に変化する。
もしかして、リリア姉ぇは僕を行幸に近寄らせたくないのか?
いや、でも行幸を監視しろって言ってたよな?
現に、オフ会に強引に参加させたんだぞ?
リリア姉ぇは何を考えてるんだ? 僕には言えない事なのか?
何だか嫌な予感がするぞ……早く二人を見つけないと。
シャルテは歩くスピードを上げる。
うん? あれ? そうだよ、リリア姉ぇは何で僕の天使の力をすべて封印したんだ? なんでわざわざ人間にしたんだ?
監視しろって言うのなら、せめて行幸の行動を監視できるくらいの力を残してくれてもよかったじゃないか?
人間に化ける程度でもよかったんじゃないのか?
本当の人間になると、天使の力が無いから行幸が何も出来ないだろ。
やっぱり何かがオカシイだろ!?
でも、仕方ない。今は確認できなし取りあえず、行幸を探そう。
小走りのシャルテをある違和感が襲った。それは今まで感じた事のない振動。
んっ……なんだ? この違和感は?
シャルテはその違和感の原因と思われる部位を見る。
そして、視界に飛び込んだのは豊満な胸だった。
うわ…揺れてる!?
見事に自分の胸がぽよんぽよんと揺れているではないか。
胸があるとこんな感じなのか!? 邪魔だけど……でも……まぁ我慢しないとな。
そう言いつつも、今まで経験した事の無い感覚にニヤけるシャルテ。
天使に戻ったら、天使長様にもう少し大人の体にしてもらおうかな。
だいたい、何で僕はあの姿なんだ?
リリア姉ぇとかすっごい胸も大きいし、スタイルも抜群なのに僕は生まれた時から幼女体型!
まさか、僕を作った神様が幼女趣味!?
いや、無いよな? リリア姉ぇも同じ神様に作って貰ったんだし……
でも、人間にされて何も良いことないなーって思ったけど……
もう一度、自分の胸を見る。思わずニヤけるシャルテ。
やっぱり女だったら胸くらい無いとなっ!
あっ、行幸って胸の大きい女が好きなのかな?
それとも無い方が好きなのかなぁ?
なんて、無意識に考えるのであった。
そうだ、好きと言えばフロワードだ!
シャルテは自分の担当であるフロワードの事を考え始めた。
多分フロワードは行幸と接触しているか、接触前なはず。
まだフロワードは行幸のフェロモンに侵されてないはずだよな?
もし、フロワードが行幸のフェロモンに侵された場合はどうなる?
フロワードの一番強い感情は何だろう? 行幸を彼女にしたいか?
多分、フェロモンの影響は行幸に対する感情に作用するはずだ。
だから、フロワードはガンガンに行幸にアタックするはずだ。
ここでシャルテは脳内でシミュレーション。
ま、まさか、押しに負けて行幸がOKするなんて無いよな?
あはは、まさかね? 行幸がOKを出すはずない。
そんな結果もシミュレートしてしまっていた。
でも、無いと思うけど……確立的にはゼロは無いんだよな。
……
い、急ごう!
ダッシュをするシャルテ。
行幸、まさか無いよな? フロワードとひっつくなんて無いよな?
そんなのは僕が許さないからな?
そりゃ、女のままでフロワードと恋愛してもいいような事も言った気もするけど……
でも駄目だ! 僕がフロワードの担当でもその結果は許さないからな?
ふとシャルテは冷静になる。さっきから何を考えているのかをもう一度思い出す。
すると走っているシャルテの顔が耳まで真っ赤になった。
って何だよ!? 担当しているフロワードが想い人と引っ付くのが嫌とかなんだそれ!?
恋愛を司る天使が何を言ってるんだよ? 担当の恋愛を全力で応援するのが役目だろ?
でも……したくない? 応援したくないのか?
まさか僕は行幸を? って、違う! そんなのない!
そ、そうだよ! 行幸はネカマだから恋愛の応援なんてしなくっていいんだよ!
男と男が引っ付いても面白くないし、フロワードが可愛そうだ。
シャルテの胸がキュンと痛んだ。思わず右手で胸を押さえる。
違う……これって……この応援したくなっていう気持ちは何かが違う……
あれ……胸が苦しい……なんで? なんでだよ……
シャルテは右手で胸を押さたまま走った。自分の手の平に伝わる心臓の鼓動。
胸を押さえつけられるような心の痛み。溢れてくる想い……
く、くそ-! まったく僕はっ!
シャルテはこの痛みの理由に実は気が付いていた。
しかし、だからと言ってそれを認める訳にはゆかなかった。
いや、認めてはいけないのだと自分に言い聞かせていた。
何故なら自分は天使なのだから。天使がこんな気持ちを人間に抱くなんてありえない……
そう言い聞かせて気持ちを落ち着かせようとした。
大丈夫だ、問題ない……
これは行幸と接触する時間が長かったから……
そうだよ、ちょっと情が移っただけなんだ。
ラブとライクならライクの方だ。
き、きっとそうだよな。そのうち消えるよな。きっと何でも無くなるはずだよ。
だが、シャルテの思いとは裏腹に鼓動は強さを増した。
シャルテが自分の気持ちを否定すればするほど、強さを増した。
と、とにかくフロワードと行幸を探さないと。
二人の捜索に完全に遅れを取っていたシャルテだったが流石は天使、感覚を研ぎ澄まし、そして最短経路で行幸へと一気に迫る。
はぁはぁ……行幸、何処だよ!
そしてついにシャルテは行幸を発見する。
あっ! 行幸!
前方に見える橋の上に男女の二人組。
それは、間違い無い。行幸とフロワードの姿だった。
やっぱりフロワードと接触してたのか! 早く行かないと!
シャルテは小走りで橋へと向かう。
その途中で二人の様子がおかしい事に気が付いた。
何だ? フロワードの様子がおかしいぞ?
もしかして、幸桜のフェロモン効果でおかしくなってるのか?
何か言いあっている様にも見えるけど、会話が聞こえないし……
よし、無理かもしれないけどやってみるか。
シャルテは両手を胸の前でクロスするように組んでから目を瞑る。そして何かの呪文を唱えた。
………
しかし何も起きなかった。
やっぱり無理か……
リリア姉ぇ、こんな強力な魔法をかけやがって!
シャルテは人の心を読む呪文を唱えていた。しかしやはり無理だったのだ。
仕方ないと再び走り出すシャルテ。
しかし、シャルテの体が突然に硬直した。いや何かに縛られた。
「うぐっ!?」
体が動かない!? これは束縛魔法!? もしかして!?
硬直したシャルテの目の前に降りて来たのはリリア。
「シャルテ、もうこれ以上二人の近くへ行っては駄目ですよ?」
「リリア姉ぇ!」
「ここは行幸さんたちにお任せしましょう。もうすぐ面白い事も起こりますから」
「面白い事? それってどういう事なんだよ!」
「あっ、ほら、丁度その時ですね」
束縛されたシャルテの視界に飛び込んで来たのはフロワードに抱きつかれる行幸の姿だった。
もがく行幸をフロワードが強引に抱え込む。
その姿を見てシャルテの胸がグサグサと痛む。
「ちょ、ちょっと待て! 行幸が無理矢理にっ!」
暴れるシャルテ。束縛魔法が歪む。
「流石は私の妹ですね。天使の力を奪ったのに自力でここまで来れるなんてすごいです」
「そんな話はどうでもいい! だから早く! 早く束縛を解いて! でないと二人がっ!」
「二人がどうかしましたか? 抱き合ってるだけではないですか?」
「無理矢理だろ! 行幸が嫌がってるじゃないか!」
「あら? 本当ですね?」
「助けてやらないと!」
「助ける? 何を言っているのですか? 我々天使は人間の恋愛行動に関与してはいけないのですよ?」
「うくっ……でも、無理矢理は良くないだろ!」
「何故でしょうか? 無理矢理であってもそこから恋愛感情が生まれる可能性だってあるかもしれませんよ?」
「いや、でもあれだろ? フロワードはリリア姉ぇの担当じゃないし、だから僕が……」
「あら? そこは大丈夫ですよ? もう担当変更はしておきました。シャルテは気にしなくとも大丈夫ですから」
「え? 担当変更!?」
「はい、フロワードさんも、菫さんも、両方とも私が担当です」
それを聞いて、シャルテの顔が真っ赤になる。
「待って! 勝手な事をしないでくれよ! 僕はまだ了承してないよな? いくらリリア姉ぇでも怒るぞ!」
「あらあら……確か先日、フロワードさんは私に任せてと言いましたよね?」
「え? でも、それって完全な担当変更っていう意味だとは……」
シャルテは困惑した表情で言葉に詰まった。
「完全な担当変更です」
無言でリリアを睨むシャルテ。そしてさらにシャルテに追い討ちをかけるリリア。
「さて、シャルテにはこの場から退場して頂きます。あ、ですがこの後にアパートに戻った行幸さんを監視をする役目があります。ですので、そっちを考えておいてくださいね?」
「ま、待って! 退場ってどういう事だよ? 行幸を監視するのは解った。だけど、僕がここにいちゃ駄目なの?」
「あら? 逆に、シャルテは何故ここにいたいのですか?」
「そ、それは……」
「それは? はっきりと言ってください」
「フ、フロワードと行幸がどうなるか……天使としてちゃんと見たいだけで……だけだ」
表情を引き攣らせるシャルテをリリアは悟ったような笑顔で見詰めた。
「ふふふ、もしかしてシャルテはフロワードさんに対して嫉妬してるのですか?」
「し、嫉妬!? 何で僕が嫉妬なんて!?」
「私は知ってますよ? シャルテが……」
リリアの言葉をかき消すようにシャルテが怒鳴った。
「言わないでっ! 解ってるから! そんなの解ってるから! だから言わないで! 言わないでよ……」
シャルテは顔を真っ赤にして唇を噛んだ。
リリアもシャルテがここまでの反応をするとは思っていなかったのか、笑みは消え、シャルテを心配そうに見ている。
「シャルテ……あなた……」
「僕が人間に対して嫉妬するなんてある訳が無いだろ?」
「……」
「僕は行幸の事なんて何とも思ってない……」
「……」
「……そうでありたい。そう思っていたかったんだ……だけど……」
リリアの目の前にいるシャルテは、いつもの強気のシャルテでは無かった。
肩を震わせて、今にも泣きそうな顔になっている。
そんなシャルテをリリアは黙って見ていた。
「ごめん、大丈夫だから。僕は天使だから……人間に特別な感情なんて抱いたりしない……この気持ちは消してみせるから……」
シャルテは瞳を潤ませて笑顔を作った。どうみても無理な笑顔を。
「解りました。私はシャルテを信じていますね」
「うん……」
その時、シャルテの視界にある人物が飛び込んできた。それは菫の姿だ。
菫は凄まじい形相で拳を振り上げ、そしてフロワードへ向かって走るじゃないか。
「す、菫? リリア姉ぇ! 菫が行幸たちの方へ向かってる!」
しかし、リリアは冷静に頷く。
「はい、解っています」
シャルテは唖然とリリアを見る。
「もしかしてリリア姉ぇが菫を誘導したのか?」
リリアはにこりと微笑んだ。
「だから言ったでしょ? ここは貴方の出番じゃないんですってね」
するとシャルテは再び怒鳴った。
「リリア姉ぇ! リリア姉ぇこそ人間の恋愛に干渉してるじゃないか! 誘導なんてしたら駄目なはずじゃないのか!?」
「今回は特別に許可を頂いてます。シャルテを人間にする事と一緒に天使長へ許可を頂きました」
「待って? それってどういう事だよ?」
「それはシャルテであってもお話できません」
行幸を好きな二人と同時に接触させる? 何でだよ?
とてもじゃないけどプラスに働くなんて思えないじゃないか?
リリア姉ぇは何を考えてるんだ?
「詮索しても無駄ですよ?」
シャルテは言葉を失った。
「これだけは御願いしておきますね? シャルテが目が覚めたらちゃんと行幸さんのアパートへ行くのですよ? そして行幸さんを監視して下さいね」
「待って、いま目が覚めたらって?」
「はい、シャルテには眠って頂きます」
「ちょ、ちょっと待って! 何で僕が眠らないといけない……」
リリアは杖をシャルテの頭の上に乗せると軽くぽんと頭を叩いた。するとシャルテの意識は一気に刈り取られていった。
「み……行幸……」
地面に倒れて動かなくなったシャルテの頭をリリアはそっと撫でた。
「シャルテ、がんばるのですよ……これが本当の天使になる為の試練なのですからね」
リリアはゆっくり立ちあがると、再び杖をシャルテの体の上へのせる。そしてぽんと叩くとシャルテはその場から消えた。
「さて、私も行きましょうか」
リリアは背中にある大きな白い翼を広げてゆっくりと空へと舞い上がった。
続く
何かこう入り乱れてきております。
恋愛の決着はどうなるのか?
作者のお気に入りは、こっそりシャルテです。
愛ちゃんも捨てがたいのですがね。
そう言えば…店長ってどこ行ったんだだろう?