第三十五話【俺の決戦の日~正しい選択枝とは?④】
フロワードと行幸の攻防戦?の最中、ついに菫が…行幸はフロワードを振れるのか!? そんなこんなの恋愛バトル継続中。
二人の沈黙が続く。
あまりの居心地の悪さに行幸が息を呑んで俯いていると、ついにフロワードが動いた。
「ミユキ……」
フロワードの緊張した聞こえた。
その声に反応して行幸はゆっくりと顔を上げた。
その時、フロワードの声とほぼ同時に橋に設置してある電灯が灯る。まるでフロワードの告白のタイミングに合わせたかの様に。
行幸はふと周囲を見渡した。気がつけば周囲はすっかり暗くなり、そして人気も無くなっていた。
そして再びフロワードの表情を確認する。
電灯の灯りに照らされたフォロワード顔は凛々しく、そして男の顔になっている様に感じた。
来る……
行幸はごくりと唾を飲み込むと覚悟を決める。
「ミユキ……ミユキは俺の事を嫌いか?」
行幸の予想とは少し違い、フロワードの言葉には『好き』という単語は入っていなかった。
そっか、俺に気を使って遠まわしに聞いてるのか。でも、これはやっぱり告白だよな。
ここで俺が好きと言えばカップル成立か。しかし嫌いと言えば……
心の中でフロワードへ対する気持ちを再確認する。
でもさ、嫌いじゃない相手に嫌いなんて嘘をついていいのか?
俺は嘘をついたから女にさせられたんだよな?
いや、良いんだよ。考えてみろ、俺は男だ。本当は男なんだ。
今のこの格好が嘘なんだ。だから俺はフロワードの恋人になんて100%なれない。
あと、俺は女のままでいる気なんてないんだからな。男に戻るって決めているんだからな。
真剣な表情で自分を見ているフロワード。行幸の胸がチクリと痛んだ。
べ、別に嫌いって言わなくてもいいじゃないか? 普通にちゃんと断われればいいだろ?
今のフロワードならきっと解ってくれるはずだ。こいつはそういう奴だ。よし……
行幸! 今こそ意を決する時だぞ!
自分にそう言い聞かせると、行幸はフロワードに笑顔を返した。
「フロワード、ちゃんと返事するよ……」
緊張しつつも笑顔で返すフロワード。
ここに来て行幸は妙に落ち着いてきていた。
先ほどまではどう答えればいいかパニックしていたのに、今ではまったく緊張をしていない。
断ると決断した行幸は気持ちにちょっと余裕が出来たのだろうか?
確かに余裕は出来た。そう、その余裕が出来たおかげでフロワードの姿格好が今更になって目に飛び込んでくる。
フロワードは身長175センチ位の紺のスーツ姿で黒髪短髪の男性だった。
MMOプレイヤーらしくない凛々しい感じの人。
そう、簡単に言えばイケメンでだった。
なんだよ……フロワードって良くみればカッコいいじゃないか。
こんなにカッコいいんだから、俺に振られてもきっとちゃんとした彼女を見つけれるだろ。
何だかちょっと安心したな……よしっ!
「ごくり」と唾を飲み込むと行幸は覚悟を決める。
「俺はな……」
フロワードは緊張した趣で行幸の顔をじっと見る。
「フロワードは嫌いじゃない」
その言葉にフロワードの緊張が緩む。そして柔らかい笑顔になる。
「でもな?」
その言葉で再び緊張した顔へと変化する。
「……でも?」
ここまで来て、行幸が再び緊張に襲われる。
突然言葉が出なくなる。
おいおい、今になって言うのが怖くなったのか? でも言わないとダメなんだよ! わかってんだろ!
目を閉じて行幸は小さく深呼吸をした。そして目を開いてそのままの勢いで言い放った。
「俺はフロワードとは付き合えない! ごめん!」
行幸はハッキリと言い切ると再びゆっくりと目を閉じた。
緊張している自分の心臓の鼓動がバクバクと体中に伝わる。
でもこれで終わったんだという安心感がその緊張をほぐしてくれる。
終わったよ……これでフロワード編はミッションコンプリートか。
流石に恋愛ゲームみたいにうまくはゆかなかったけれど、でもまぁうまく出来た方かな?
あと残るはもう一人の恋愛対象者か……
ふぅ……今回だけでも相当疲れたし、やっぱり俺はこういうリアル恋愛とか苦手だな。
でも取り合えずはよかったよかった。マジよかった。
行幸はゆっくりと目を開き、そしてフロワードの表情を確認した。
すると……そこには先ほどまでのフロワードはいなかった。
目の前にいたのは怒りに震えるフロワードだった。
「えっ!?」
表情を見た瞬間に行幸に緊張が走る。
そう、行幸の考えは甘い! 甘かったのだ!
まだまだ! まだ終わってはいなかったのだ!
「何でっ! 何でだよ!」
険しい顔で行幸に迫るフロワード。
有無を言わさずに行幸の両肩をガッシリと掴む。行幸の肩に痛みが走る。
しかし、フロワードはまったく意識をしていない。乱暴な言葉で行幸を問いただしていた。
「何でかって聞いてるんだよ!」
「い、痛っ! 痛いから! そんなに強く持つなって!」
声を出して痛みを訴えるも、フロワードは手加減をしてくれない。
「何でだよ! 教えろ! 俺のどこがダメなんだよ!」
怒鳴るように怒りの形相で行幸にさらに迫るフロワード。
がくがくと前後に揺らされて焦りの表情に変化する行幸。
「フ、フロワード?」
「答えろって言ってるだろうが!」
行幸は自分の体が無意識に震えているのに気がついた。
ガタガタと体が震える感覚が行幸に伝わる。
こ、怖い……
それでも頑張ってフロワードの顔を見る。やはり目の前にいるのは先ほどまでの穏やかなフロワードでは無い。
ど、どうなってるんだよ!? フロワードはどうしたんだ!?
まさか、これも俺のフェロモンの影響なのか? これってもしかして暴走なのか? いや、でもさっき俺のフェロモンの影響を受けていたのを克服したんじゃ?
フロワードのあまりの変貌に動揺する行幸。
「ま、待って! 落ち着けって!」
「だから何で俺と付き合えないんだよ! 理由をちゃんと教えろ!」
やばい、体の震えて止まらない。
このままじゃ危ない……そう体が反応しているみたいだ。
「お、俺だって……い、色々あるんだよ!」
震える声で頑張って言い返すが、フロワードも負けじと言い返して来る。
「色々って何だよ! こんなにミユキが好きなのに! 何でだよ! 俺よりミユキを好きな奴がいるのか? それともミユキは好きな奴がいるのか!」
本当に行幸は甘かった。
自分のフェロモン効果がいかに凄い影響をもたらすかを幾度も経験したにも関わらず、フロワードはもう大丈夫だろうと甘く考えていた。
効果の発動が遅いという事は、暴走の危険も高いという事をすっかり忘れていた。
そして、フロワードは何度がフェロモンの影響に耐えていた。
その我慢したいた反動がここで爆発した。
そう、これは幸桜に近い感じ。精神力が高い人ほど暴走した時は大変な事になる。
結論、フロワードは精神力が高かった。そして耐えていた。一度は影響を受けたフェロモン効果を無意識に押さえ込んでいた。
しかし、行幸に断られた事によりついに暴走した。
や、やばい……これって振るとかそういう問題じゃないだろ!?
ここは逃げるか? いや、無理だろ……
まずは、この肩を抑える手をどうにかしないとダメだ。
それに……足が……体が震えて……くそ…なんでこんなに震えてるんだよ!
自分で押さえ込む事が出来ないくらいに行幸の体が震えていた。
どうする……どうする俺!
まさかここで助けてーって大声を出す訳にいかないし、まさにピンチすぎるだろ!
こういうイベントは勘弁してくれよな……
行幸はそれでも考えた。ここでやれる事はないかと。
も、もう一度ハッキリ言うしかない。フロワードの暴走が収まるかはわからない。でも言うしかないよな?
「痛っ!」
両肩に痛みが走り行幸は表情を歪める。フォロワードが力任せに両肩を掴む度に痛みが走る。
くそ……すこしは手加減くらいしろよ。お前は俺が好きなんだろ?
なんて思っても無駄である。
こうも人が変わるなんて、俺のフェロモン効果抜群すぎだろ。
なんて関心している暇もないよな……
ふと、行幸の脳裏に昨日の幸桜の暴走が思い出された。
待てよ? このままだと、昨日の幸桜みたいに強引に襲われる可能性もあるのか?
そ、そんな事になったらシャレにもならないだろ!? 何せ今回の相手は正真正銘の男なのだぞ?
どう考えても力で敵うはずないよな? もしかすると、強引にホテルにでも連れ込まれて!?
背筋がぞっとした。まさに貞操の危機である!
身の危険を感じた行幸は息を荒くするフロワードに懸命に言い返した。
「お、俺はフロワードが好きだ! だけど、それは人としてだ! 恋愛感情じゃないんだよ! 今まで通り、良い友達でいたいんだよ! 解ってくれよ!」
「でも! でも嫌いじゃないんだろ?」
「嫌いじゃない! だけどこんな事をするフロワードなんて嫌いになる!」
「俺は嫌いにならない!」
「馬鹿か! 俺が嫌いになるって言ってるんだよ!」
「俺は絶対に嫌いにならない!」
言い争いにの間にも行幸は表情を歪めた。
フロワードの指が食い込みそうなくらいに肩に食い込む。
「そういう問題じゃないだろ!」
何だよ、これじゃ小学生の言い合いじゃないか。くっそっ!
「だから俺は嫌いにならない! ミユキが大好きなんだよ!」
「だから、そういう問題じゃないって言ってるだろ! まずはこの手を離せよ!」
行幸は体を左右に振って、フロワードの両手を懸命に外そうとした。しかしまったく外れない。
くそっ! なんて非力なんだよこの体は!
そんな行幸に、だんだん精神的にも肉体的にも疲労の色が見え始めた。
「ミユキ、まず付き合おう! 俺と付き合えばきっと俺の良さがわかる!」
「どうしてそうなるんだよ!」
「そうしたいからだ!」
「自分勝手すぎるだろ!」
「ミユキが俺の気持ちを理解してくれないからだろ!」
「理解してるじゃないか! 理解した上で付き合えないって言ってるんだよ!」
「じゃあMMOの中で気があるそぶりなんて見せるなよ!」
「え? み、見せてないだろ!」
「そっか、ミユキってそういう女だったんだな? いわゆる八方美人っていう奴か?」
「な、何だよ……俺は、別にそんな……」
そう言えばフロワードはMMO内で交わした俺との会話をよく覚えていたよな。
それで、その会話を調べたのか、後で俺にいろいろと一方的に話してきた。
あの事はこう言ったよね。この時はこうだったよなって。聞きたくもない情報を事細かく説明してきた。
そして、それを聞いていて俺は何気なく受けそうな返事を返してた。
そうだよ……確かにフロワードだけじゃなく、俺は男PCだと思える奴にはちやほやされるような言動をしていた。
そう、俺はちやほやされたかったんだ。女のフリをして優遇して欲しかったからだ……
だから男共に好かれるキャラを演じたんだ……
でも言えない……事実そうであってもこいつには言えないだろ……くそっ!
「で、でも! それはフロワードに嫌われたくないからだろ!」
「……」
急に肩を持つ手から力が抜けた。
そしてフロワードは怒りの形相からとても寂しい、そして悲しい表情へと変化した。
あれ? 暴走? 終わったのか? フロワード?
「わかってるよ……」
先ほどの怒りに任せた怒鳴り声が嘘のようにフロワードの声のトーンが下がった。そして声が震えている。
「フ、フロワード?」
「そんなのわかってるよ……でも……わかってても好きになっちまたんだよ……仕方ないじゃないか! お前が好きなんだよ……」
行幸の心に何かが突き刺さった。グサリと痛みが走った。
フロワードの言葉に行幸は何もいい返せなくなった。
そして、行幸を嫌悪感が襲う。
なんだよ、最低じゃないか……フロワードが俺を好きになったのは俺の責任なのに……本当に最低な奴だよ……くぅ……
行幸の気持ちがどんどん沈んでゆく。
フロワードも先ほどまでの暴走が嘘のように沈黙した。
薄暗くなった橋の上で言葉をなくした二人。
激しく言い争った二人に再び沈黙が戻ったのだった。
★☆★☆★☆
「どこ? フロワードはどこにいるのよ?」
ブツブツと呟きながら菫は秋葉原の街を歩いていた。
その上空を天使リリアがふわふわと飛んでいる。
『もう少しですよ、菫さん』
リリアの言葉は菫には届かない。それでもリリアは声をかける。とても優しく。
菫はリリアの言葉に誘導されるように、フロワードや行幸のいる橋の近くまで来ていた。
もうすこし先のビルの角を右に折れれば、そこには橋がある。
その橋の上には行幸とフロワードがいる。
「どこよ……」
ゆっくりと、確実に二人に近づく菫。
そして遂にその時がやってきた。
……! ……!
………!?
遠くから僅かに聞こえる男女の声。何を話しているのかは解らない。
しかし、菫はすぐにそれが行幸の声だとわかった。
「行幸!」
小走りで声の聞こえた方へと急ぐ。すると見えた。男女の姿だ。
ゆっくりと近づくと激しい騒音の中なのに二人の会話が聞こえてきた。
「フロワード?」
「そんなのわかってるよ……でも……わかってても好きになっちまたんだよ……仕方ないじゃないか! お前が好きなんだよ……」
それは普通だと聞き取れない声の大きさだった。
それにも関わらず、菫にはハッキリと聞こえていた。そう、リリアの魔法によって聞こえるようにされていたのだ。
『菫さんには会話を聞く権利があります。さて、私はちょっと邪魔者を排除なきゃいけません。がんばってね、菫さん』
そう聞こえない声をかけるとリリアはふんわりと飛んで行った。
菫は発見した。橋の上に佇む男女の姿を。
何で? 何で行幸とフロワードが一緒なの? 何でなの?
さっきの会話……もしかしてフロワードが行幸に告白したって事?
何それ……私の方がずっと前から行幸が好きだったのに……何で私より先に告白する訳?
意味わかんないわ……あーもうムカツク!!
その時、菫の視界の中で行幸がいきなりフロワードに抱き寄せられた。
真っ赤な顔で抵抗する行幸の姿が見える。
その瞬間、菫の中の何かが切れた。
拳が怒りに震える。そしてその振るえは体全体に広がった。
「な……何してんのよ……何してんのよぉぉぉぉ!」
両拳にぐっと力を込めて菫は走り出した。
「ルールはちゃんと守ってよね!」
菫は走る! 直線で約五十メートル。
「横取りはMMOのルールでタブーだよね? フロワードはその程度の事も解ってないの?」
まるで獲物を見つけた女豹のように走る!
「馬鹿じゃないの? 思い知らせてあげるわ! 私を怒らせるとどうなるかを!」
走りながら右の拳にぐっと力を込めて振り上げた。
続く
フロワードとの恋愛バトルもそろそろ終止符が?
そして次回はシャルテも登場します! お楽しみにねっ!
※決して手抜きではありません(汗