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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第三話 【俺は今日からみゆき?】

 事務所の中で行幸みゆきは化粧をされていた。

 店長は腕を組んでニヤニヤしながらその様子を見ている。


「おい店長、なにニヤニヤしながら見てんだよ。レジに誰も居ないんじゃないのか? いいのかよ、こんな所にいても」

「大丈夫だ、誰もいないが心配ない」

「待って! なにが大丈夫なんだよ! 心配だよ!」

「大丈夫だって言ってるだろ? 今はお客はいないし、チャイムが鳴ったらすぐ戻るから俺の事は心配するな」 

「別に店長の心配なんかしてねー! 店とお客の心配をしてるんだよ!」


 行幸みゆきが会話をしながら頭を動かしているとすみれに強引に顔の位置を戻された。そして『グギ』っていい音がした。


「痛てぇぇ!」 

「ちょっと、動かないでよ!」

「馬鹿、痛いじゃないか! 俺は別に化粧をしてほしい訳じゃなんだぞ! 強引にもどすなよ!」

「何よその言い方! せっかく親切でやってあげてるのに!」


 嫌がる行幸にとってまさに大迷惑な行為なのだが。

 菫は妙にテンション高く、楽しそうに行幸の化粧をしていた。


「お前、絶対に楽しんでるだろ!」

「おいおい行幸、文句言わずにちゃんとやってもらえよ。これも仕事の一環なんだぞ? バイト代が欲しくないのか?」


 またきたこれ三度目の脅迫だよ! そのうち訴えてやろうか!

 それになんでこんな事が仕事なんだよ。


「どうなんだ? バイト代が欲しいんだろ?」


 そう言われると文句がいえねーじゃねーかよ。


 行幸は所詮はバイトである。雇われとは言え社員に文句は言えない。


「く…くそ…わかったよ」

「わかったんだな? よし、それでいい」


 まったく納得していない表情の行幸だったが、ぐっと我慢した。


「そうだ行幸、ここで取り決めをしておこう」

「取り決め?」


 また頭を動かした行幸。そのせいで菫の手元がずれた。


「ちょっと店長! いい加減に話かけるの止めてもらえない? お化粧がちゃんとできないし!」

「すまんすまん。でもこれは重要な話なんだ。先に話しておいた方がいいかと思ってな」

「何だよその重要な話って。重要と言いつつもまた変な事でも考えてるんじゃないだろうな?」


 行幸はそれでも化粧を続ける菫をウザそうに見て、すぐに店長を睨んだ。


「おいおいそんなに睨むな。別に変な事を考えてる訳じゃないし変な事をさせようとも思ってない」


 行幸は自分の格好を見て眉間に血管うかせる。


「へぇ…この格好を見てなぜにそう言えるのかな? 現時点で十分変な事をされていると思うんですが? 違うんですかね?」

「それは仕事の一環だ」


 仕事だと言い切っただと!?


「これが仕事ですか? パソコンショップの店員がメイド服を着て化粧されるのが仕事だと? いやー俺が聞いていたバイト内容と違いますね?」

「あまり気にするな。バイトの内容は臨機応変に変化するものだ。と言う事で、これから先の行幸の扱いについて話をしておきたんだ」

「待て待て! 臨機応変なのはわかるけど、納得できない内容はダメだろ? それにこの先の事ってなんだよ?」

「あんたって馬鹿? あんたが女になったから今後どういう風に行幸を扱うかって今から相談するんでしょ? わかんないのかな?」


 すみれは呆れたという感じの表情でそう言った。


 何ですみれが店長の肩を持つ!?

 やっぱり今日の二人はいつもと違う。こんなに意見を押し通す奴らじゃなかったのに。


「ば、馬鹿って言うなよな……馬鹿って言う奴が馬鹿なんだぞ?」

「煩いなぁ、何をくだらない事でムキになってんのよ。小学生じゃあるまいし! 少し黙っててよ!」


 いや、ムキになってるのはすみれだろ。


すみれ、落ち着け。深呼吸でもしろ」


 すみれは店長にそう言われて数回深呼吸をした。


「行幸、ちょっと言い方悪かったわ。ごめんなさい。で、店長、どういう風に行幸みゆきを扱う気なの?」


 店長は腕を組むとハキハキした声で考えを話始めた。


「現状、今この時点では男である高坂行幸こうさかみゆきは存在していない。存在しているのは女になってしまった行幸みゆきだ。そして男から女になったんですなんて言っても普通の人間は信じる訳がない」

「確かにそうだよね」


 それはその通りだ。


「それどころか下手に信じられたらマスコミに取り上げられ、人体実験サンプルとして捕獲され、そして裸にされて散々体中を調べられた挙げ句に解剖されるはずだ」


 おいおい! それは何てエロゲだ! どのこ女スパイを捕まえた設定だ!


「店長、ちょっとそれは無いんじゃないのか?」

「だよな? 解剖されるのは冗談だ」


 解剖される箇所だけ修正ですか? って!


「まったく、行幸は本当に馬鹿だね。普通に聞いてて冗談だってわかるでしょ?」

「いや待て! 店長は解剖される事だけが冗談だって言ったんだぞ? マスコミに取り上げられて、人体実験サンプルにされて、裸にされて調べられるとかないだろ!」


 すみれの表情が一気に真っ赤になった。


「えっ?」

「ううん……あ、あるかもしれないじゃん!」

「いやいやいやいやいやいや! 無い! 普通に無い! あるのはエロアニメかエロゲ位だろ?」

「何よ! 世の中は何があるか解らないでしょ! 元男の女の子が陵辱される展開だってありえるかもしれない!」

「ちょ、ちょっと待て! おまえ何を言っているのかわかってんの!?」

「こら! 喧嘩するな! 俺の話を真面目に聞け!」


 どう聞いても喧嘩には見えないが、とりあえず店長は二人に向かって怒鳴った。


「あ、うん、ごめんなさい」


 しかし、すみれは素直に謝った。

 いつも謝らない人なのに今日はやけに素直な部分もある。


「いいか? これは重要な事なんだから聞けよ? えっと、何処まで話したっけな? ああ、そうだ、それで女になったお前はこれから先は高坂行幸のいとこの高坂みゆきになれ。同姓同名だがここは日本だ。同性同名なんてよくある話だ。だから大丈夫だろ。名前には漢字を使わなければ十分に女の名前だと思えるし、行幸みゆきだって名前変えずに呼ばれた方が違和感ないだろ? 設定は、今日から男の行幸みゆきの代わりに働き出した従兄弟でどうだ? 男の行幸みゆきは私用で田舎に帰った事にしよう。よし、これでいこう。あ、年齢も誕生日もそのままでいいぞ? そこまで一緒なんてすごいと思われるだけだろうしな」


 店長はどうだ! と言わんがばかりの表情で、要するにはドヤ顔で行幸みゆきたちを見た。


「いいんじゃないかな? 別にその設定でいいかな。私はそれでいいと思うけど」

行幸みゆきはどうなんだ?」


 そうだな、確かに男の俺は存在してない。

 俺は別に元男だった行幸みゆきだと皆に言ってもいいのだが、どうやらあまりばらさない方が得策らしい。

 ここは俺もちょっと同意するポイントだが。


「俺の実家って大宮だけど?」


 ぶっちゃけ田舎はないんだけど?


「距離など問題ではない!」


 店長は満面の笑みで言い切った。

 なんで? 会話が成立してないじゃないか。そしてめんどくさくなってきた。


「もういいよ。わかった。俺もそれでいいから」


 行幸は納得できないがもう面倒になったので同意する。そして、ため息を漏らすと唇をへの字に曲げた。


「よし! じゃあお前は今日の今から高坂みゆきだ。俺は店ではみゆきちゃんと呼ぶ事もあるからな?」

「え? 何それきもい! ちゃんとかつけるのかよ? 冗談はやめろよ」

「お前は女の子なんだぞ? ちゃんくらい普通だろ? その程度は我慢しろ。あと口調もなんとか直せ。今は女なんだぞ?」

「え? マジで? それは無理だ! ちゃん付けは我慢しても口調を直せとか無理」


 行幸みゆきが右手を挙げて左右にナイナイと顔の前で振る。


「やってみるだけやってみなさいよ? あんたはネットゲーではネカマやってんでしょ? 女の話方とか知ってるんじゃないの? 正直、今の口調のままだとその容姿とのギャップが凄まじいんだよね」

「確かに俺はネカマをやってる。でもな? チャットで入力するのと実際に話すのじゃまったく違うんだよ。店長もすみれも俺が女言葉をつかったらきもち悪いって思わないのか?」


「今のお前なら違和感はない」

「店長と同じ意見ね」


 即答だった。


「くそ…で、でもさ、こういう口調の女だっている……」

「似合ってない」

「店長と同じ意見ね」


 まだ全部言ってないのに……。

 くそーこうなったら俺の女口調がどれほど似合わないか思い知らせてやる!


「えっと……私がね? こういう話方をするのって似合ってないと思いませんか?」

「すごく似合ってる」

「店長と同じ意見ね」


 うわああああああああ! 逆効果だったぁぁ!


「諦めろ、今のお前はメイドの格好をした可愛い女の子なんだ」

「うん、その通りだと思う」


 駄目だ、これ以上何を言っても無駄だ。ここは仕方ないからやり過ごそう。


「わかったよ……努力はしてみる」

「「がんばれ」」


 店長とすみれがまたハモりやがった。

 なんでこういう時には二人の意見が一致するんだろう? いつもはそれほど仲良くない癖しやがって。


「という事だからな。この事は三人の秘密だ。わかったな?」

「はいはい、私はわかった」

「わかったよ……」


 その時、ピンポーンと来店のチャイムが鳴った。


「あ、店長、お客さんかな? 誰か来たみたいよ」

「お? この時間だしお客さんか?」


 そう言うと店長は店内を映している防犯モニターを確認した。

 そのには男性の人影が映っている。


「お客さんだな。じゃあ俺はお店に戻るから、すみれは化粧の続きを宜しくな」


 店長はそういい残すと店内へと戻って行った。


 

 ☆★☆★☆★☆★


 

 もう十分も経ったぞ? そろそろおわんねーのかよ。

 行幸が貧乏ゆすりをしながら我慢して化粧が終わるのを待っていると、すみれの手がやっと止まった。


「よーし完成!」


 すみれの完成コールが事務所内に響く。 


 やっと終わったのか。でも、何でそんなに嬉しそうなんだよ。

 俺に化粧をするのがそんなに楽しかったのか?

 こんなメイドみたいな格好をさせられて、おまけに化粧までされてさ、俺は見た目こそ女だが中身は男なんだよ! まったく。

 本当に情けなくて涙が出そうだよ。まさか女になって初日でこれとは想像もしてなかった。

 でもバイト代を貰う為だ。ここは我慢しかないよな。


 行幸は自分で自分を納得させた。


「じゃあ終わったんだよな? じゃあ俺は店に行くからな」

「待って!」 


 行幸がさっさと椅子から立ち上がるとすみれが引き止めた。


「何だよ? もう終わったんだろ?」

「えっとさ、行幸のために頑張ったんだからさ、鏡でちゃんと確認してよ」


 なぜか女の子みたいにモジモジとするすみれ

 あっ、女だった。


「何で自分の化粧済みメイド姿を確認しないといけないんだ? 別に見たくねーし!」

「逆に何で? こんなに可愛く仕上がったのに、行幸は女になった自分がきらいな訳? いやな訳? それに何よさっきからその口調。さっき直すっていったじゃない」

「あのな? 俺は男なんだよ! なんで女の自分を好きなならなきゃいけねーんだよ! それに口調は直す努力はするって言ったがすぐに直すなんて一言もいってねーだろうが!」

「何それ? いいわよ! 別にみゆきが自分の事をどう思ってたって、口調を直さなくったって私には関係ないもの! でもね? 折角私がお化粧してあげたんだから見るだけ見なさいよ!」


 そう言うとすみれはむっとした表情で手鏡を行幸みゆきの顔の前に差し出した。

 手鏡の中に写し出される化粧をした行幸みゆきのメイド服姿。


 だ、誰だよこいつ。


 行幸みゆきは思わず手鏡を覗き込んだ。

 そこには朝に鏡で確認した女の時の顔とはまったく別人がいた。


「お、おい! すみれ! 何だこれ? どうなってるんだ!?」


 行幸みゆきが鏡を見て驚いているとすみれはニヤリと笑みを浮かべた。


「化粧っていうのは化けるって事なのよ? みゆきはすっぴんでも良い感じだったし、マジで化けると思ったのよね」


 マジでこれが化粧!?

 しかし怖いな、マジで朝の俺とは別人すぎだろ。

 化粧ひとつでこんなに可愛くなるとは想像してなかった。

 こんな可愛い子だったら俺はマジ付き合ってもいいくらいだよ。

 マジで可愛いな、すっげー可愛いなぁ。俺、すげー可愛いじゃん。 


「なんかニヤニヤしてる行幸を見てて腹がたってきた」

「はっ!?」


 そうだよ、何を俺は自分と付き合ってもいいとか、可愛いとか馬鹿な事を思ってるんだ!?


 顔を真っ赤にして頭を抱える行幸。


「どうしたのよ? 今度は真っ赤になっちゃって」 

「な、何でもない!」


 やべ、マジで顔が真っ赤じゃないか!

 自分を見てほれぼれするとか、おまけにドキドキしてるし、駄目すぎだろ俺!


 横を見ると、すみれが険しい表情で首を傾けていた。


「うーん、何処かで見たことあるのよね? その容姿」

「ん? 何だ? 俺を見た事ある?」

「気のせいかなぁ? でも見覚えあるような気がするなぁ」

「気のせいだろ? 俺は今日女になったんだぞ?」


 まさかこれがかの有名なデジャブ? って無いよな。


「そうよね? 気のせいだよね? よし! 店長が待ってるからお店に出よっか!」

「おいすみれ、俺はマジでこの格好で出ないとダメなのかな?」

「当たり前でしょ? その格好で店頭キャンペーンしないと今日のバイト代が出ないんじゃないの?」

「そうだったな。なんか色々考えたいけど、今は深く考えるのは止めておこう」

「そうそう、あまり考えない方がいいよ? 初めてのコスプレだと思えばいいじゃん」

「なるほどな……始めてのコスプレか」


 コスプレイヤーのすみれの言われると、妙に納得できるな。

 そうか、初めてのコスプレだと思えばいいのか。

 でも、初めてが性転換コスプレというのどうなんだ?


 行幸は胸の膨らみに手を当てて、その弾力と感触を確認した。


 やっぱマジで女だなこれ。


「ほらほら! いくよ?」

「あ、ああ」


 二人は事務所を後にしてお店へ向かった。

後書きミニ情報①(今回は人物紹介ではない)

ストレートには書いていませんが高坂行幸こうさかみゆきの住んでいるのは墨田区両国で働いているのは秋葉原です。そして自転車通勤で雨の日は電車です。ちなみに住まいは1Kのアパートで首都高の下で日当たりは最悪の部屋らしいです。

どうでもいい情報でした。

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