第三十三話【俺の決戦の日~正しい選択枝とは?②】・
某漫画の様にゲーム感覚でどうにかすればいいなんて思っても甘い!
そんな現実がやっとわかった行幸。
フロワードとの壮絶では無い恋愛バトルが今始まる!
カップル成立なるか!?(え?
目の前に立っているのはどう見てもフロワード。
な、何でここにフロワードが居るんだよ!?
心の中でそう叫びながら行幸はあわてて周囲を見渡した。そして気が付いた。
そう、ここはフロワードと待ち合わせをしていた橋の上だった。
いつの間にか待ち合わせ場所にちゃっかり到着していた行幸。
焦りが見える行幸を見て、フロワードは困惑気味の表情をうかべた。
「えっと、ここが待ち合わせの場所だよね?」
フロワードの言う事は正しい。ここが待ち合わせ場所だ。
「あ……うん」
とりあえずそう返事をする。しかし動揺が収まらない。手のひらから汗がいっぱい吹き出る。
携帯の時計を見ると待ち合わせの十五分前だ。
律儀に15分前から待っていたフロワードの顔を見て思わず苦笑する。
結局はフロワードを上手く振る方法を考えつく前にご対面である。
フロワードはもう目の前。今さら振る方法を考えるからちょっと待って! なんて言えるはずもない。
行幸は唾をごくりと飲み込むと話を始めた。
「は、早いね? まだ十五分前だよ?」
「そうかな? でも遅いよりはいいだろ?」
「あ、うん……そうだね」
「ギリギリがよかった?」
「あ、いや、そういう訳じゃないんだけど」
ギコチナイ会話が続く。
「ええと……何かあるなら言って欲しい。もしかして困ってる?」
「え?…いや…うん」
困ってる、困っているよ。貴方をどう振るか困ってる!
しかし、そんな事を言えるはずもない。
「……」
そして沈黙。行幸は中々言葉が出て来なかった。
下手な事を言ってフロワードの機嫌を損ねても困るし、俺が好きだと勘違いさせる訳にもゆかない。
行幸は言葉を選んで話そうとする。しかし選ぶ言葉が出て来ない。
「……」
気まずい空気。
せ、選択肢だよ! 早く出て来いっ! ゲームならここでピョコって選択肢が出るだろ?
しかし、これはゲームではない。
リアル。現実。
よって選択肢なんて出てくるはずもない。
困った行幸はゆっくりとフロワードの瞳に目をやった。
行幸と目が合うとニコリと微笑むフロワード。思わず目を逸らす行幸。
ば、馬鹿か俺……何で目を逸らしてるんだよ? 別に逸らさなくてもいいだろ!
思わず目を逸らしてしまい、急に恥ずかしさが込み上げる。だんだんと熱くなる顔。
顔が熱い……やばい…顔…赤いかも…
自分でも解る、顔が赤くなっている。
これは良くないだろっ! 目を逸らす女が顔を赤くするって、絶対に好意があるって思われるだろ? 勘違いされるだろ?
俺なら絶対にそう思うし……
そう考えてつつも、何度も菫の照れた顔をスルーしている行幸である。
「え、えっと……可愛いね…ミユキって」
フロワードから突然の可愛い宣言。
「えっ!?」
さらに動揺する行幸。
「あっ…」
するとフロワードは慌てて口を押さえて顔を赤くした。
実はフロワードは思った事を無意識に口走ってしまっていたのだ。
みるみる顔が赤くなるフロワード。その横で今も真っ赤な行幸。
傍から見れば初心なカップル。リア充爆発しろ状態だ。
しかし、実はすでにフロワードにもフェロモンの影響が出ていたのだ。
そう、行幸のフェロモンの影響はオフ会の時から効果を発揮していたのだ。
そんな事には気がつかず、『可愛い』という言葉に動揺している自分を、懸命に落ちつかせようと頑張る行幸。
お、落ち着け…落ち着いて冷静になるんだ。
俺は女だ。可愛いんだ。だから可愛いって言われたんだ。
でも何だよ……逢っていきなり可愛いとか言うか? 言うか普通?
でもやっぱり俺って可愛いし……言われても当たり前なのかな……ってそうじゃない! そうじゃないだろ!
ここはどうする?「可愛くなんてないよー」とか言い返すか?
いや、もう一回「いや、可愛いよ」なんて言われて無限ループに入りそうだし。
ここは素直にお礼を言うべきか? そ、そうだな…
「あ、ありがとう…」
「あ…いや…うん…」
複雑な表情のフロワード。
「……」
言葉が続かない。そしてまた沈黙。
気まずい空気が周囲に流れる。
やばい…場の空気がよくない。
まずここはどうすればいいんだ? まずは何を話すべきかを考えろ……
まず、俺からフロワードを呼び出したんだぞ? 俺から話をするのが普通だよな?
でも何を話せばいいのかわかんねーし……
くそ…やっぱりゲームみたいにうまくいくはずないよなぁ……まったく言葉の選択肢が頭に浮かんでこない。
くそっ! 導入部分でこれかよ!
………とりあえず……あれか? 最初は世間話か?
いや、オフだった訳だし、ゲームの話の方が盛り上がるんじゃないのか?
何て考えていた行幸に攻撃を仕掛けたのはフロワードだった。
「あのさ、俺を呼び出した理由って何かな?」
ストレートに聞かれたっ! って当たり前だよな。
呼び出されたんだから理由は聞くよな。ここはどう答える?
やっぱり親密になる必要もあるし、ここは世間話だよな。
「ええと、ほ、本題に入る前にちょっと話しようよ」
よくあるよな。こういうシーン。こういう会話って。
「え? あ、いいけど?」
よしっ! 乗ってきた!
こうなると世間話の話題を考えないと……あっ、そうだ!
「フ、フロワードって社会人なの?」
スーツ姿のフロワードにはこの質問だな。だよな?
「ええと、そうだね。社会人だよ? 前にも話ししたよね? MMOの中でさ」
「え? あれ? そうだったっけ…」
流石俺だ! いい質問だと思ってたけど、よく考えればMMO内で聞いてたし!
緊張で普段のチャット内容をすっかり忘れている行幸である。
「ミユキって物覚え悪い系なの?」
まぁおかげでフロワードの緊張は緩んだ様子だ。笑顔になった。
結果オーライ? なのか?
まぁ会話の切欠も出来たし。よかったとしよう。
「いや、そんな事は無いよ? スキルコマンドは忘れた事はないしねっ!」
「待って、あのゲームは格闘ゲームじゃないし、コマンドないだろ?」
「じょ、冗談ですからっ! そこは察してください!」
なんて和気藹々な会話が始まった。
よしっ! このままうまく話しをして仲良く………なっちゃだめだろ!?
振る方法を考えながら話そう……
「あはは、ミユキって楽しいな」
「ゲームの中でもかわんないでしょ?」
「まぁそうだな、中でも楽しいよな」
「そうそう、フロワードってさ」
その瞬間、フロワードが行幸の手をいきなり持った。
「え!?」
行幸は思わず驚きの声をあげた。そして成すがままに手を引っ張られる。
それと同時にキィイイ! と後ろからブレーキ音。
フロワードの「危ないっ!」と言う声。
ぐんと勢いよく動いた行幸の体は何かにしっかりと受け止められた。
「ご、ごめんなさいっ!」と見ず知らずの女性の声が後ろから聞こえる。
しかし、今の行幸の耳にはまったく入って来ない。
あ、あれ? これって……なんでフロワードの胸の中?
行幸は確認する。
フロワードの左腕は行幸をしっかりと抱き寄せていた。
だ、抱かれ…てる…えぇぇ!?
ゆっくり顔を上る。そこにはフロワードの顔。
まさにどうしてこうなった! 状態だ。
「大丈夫かい?」
心配そうなフロワード。
「だ、大丈夫です!」
行幸はそう答えると、慌ててフロワードの胸から脱出した。
胸に手を当てる。柔らかい感触、そして激しい胸の鼓動が伝わってくる。
自分でわかる。すごく動揺しているという事に。
やばい……何だこのイベント的なものは!? いつフラグが立った?
いきなりフロワードの胸に飛び込むとか想定外すぎだろ……
「本当に大丈夫? 胸が苦しいの?」
本当に心配そうに声を掛けてくるフロワード。
「え、あ…いや、違うから! 俺は別に……あっ!!」
しまったっという表情で、思わず行幸は口を押さえる。
やばい、俺とか言ってしまった!
思わず頭を抱えて溜息を漏らす行幸。
しかし、そんな行幸にさらに優しく声をかけるフロワード。
「どうしたの?大丈夫?」
「う…うん…」
「もしかして…そうか、今、君は俺って言ってたよね? それを気にしてるのかな?」
「えっ?」
「俺って言ったからしまったとでも思ったんじゃないの?」
ずばり的中されてしまった! でも…何だろう? 反応が悪くないぞ?
「そっか、そうなんだね。じゃあ今まで無理して話してたんじゃないの?」
「え、えっと…そういう訳じゃないけど…」
「別に気にしないから。俺っていう女の子も可愛いと思うし」
「そ、そうかな?」
「個性的でいいよ思うよ?」
満面の笑みを浮かべるフロワード。
しかし行幸は困っていた。
予想の出来ない展開が続き、この先の展開がまったく予想できなくなった。
ここからどうする? フロワードとは普通に話せるようになったし、好感度もかなりあがった。だけど重要なのはここからのルートだ。
ぶっちゃけ、このままフロワードの彼女になるのが一番楽な気がしてきた。って無い! 無いから!
口調はもういいや……ここは開き直ろう。
それに、口調を気にしないでいいなら俺にも余裕が出来るか。
これで少しは対応を考えながら会話も出来るだろう。
「でも、ごめん……女性に対していきなり引き寄せるとか、やっぱまずかったよね」
右手を自分の頭の上に乗せて気まずい表情になるフロワード。
「別にフロワードは悪くないし」
「でも…やっぱあれだな……」
フロワードはちょっと照れくさそうに行幸を見る。
「ちょっと強く引きすぎた…ごめんね」
なに気に抱きかかえた事を気にしている様子だ。
「いや、いいよ…フロワードは俺に気を使ってくれたんだからさ」
「まぁそうだけど」
「だから気にしないでいいよ」
行幸が笑顔でフロワードに語りかけていると、フロワードの表情がいきなり硬くなった。いや、真剣になった。
「……俺さ」
「ど、どうしたの?」
フロワードの表情の変化に焦る行幸。
「俺さ、ミユキが怪我したら嫌だて思ったんだ…」
「そ、そうなんだ。ありがとう」
「だって……俺はミユキが好きだからさ」
「……えっ?」
苦笑しながら首をカクリと傾ける行幸。
「俺はミユキが好きだ!」
「…………ひゃん!?」
告白がイキナリきた!?
待て! どうして? 何でイキナリ告白なんだよ?
まだゲームで言えば序盤だよな!?
「ミユキを見てたらさ、気持ちが抑えられなくなったんだ。だから伝える! 好きだ! 好きなんだ!」
これって俺のフェロモンの影響なのか!?(正解)
く……うぐぐ……ここはどう返事をすればいいんだよ? ここで間違うと最悪だよな?
落ち着け、考えろ……こんなシーンだからこそ落ち着くんだ。
行幸は深く深呼吸をした。
続く
行幸とフロワードが話をしている間にも、菫とシャルテは確実に歩みを進めている。
そして、リリアもまた一緒に行動をしていた。
イキナリ告白(今日四回目)された行幸。
フロワードとの関係は!?そしてこの先の展開は!?
なんてちょっと予告的に書いてみました。