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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第二十七話 【俺の選択ルートは正しいのか?】

行幸みゆきは決断した。そしてすみれは…お互いの想いは中々うまく噛み合わないもの。それが人間だよね。

 朝の電車。

 通勤ラッシュに飲み込まる人々。

 その人の波の中で揉みくちゃにされているすみれの姿があった。

 そしてその表情は沈んでいる。

 今日は行幸みゆきと初めてのデートのはずだった。

 しかしそれはすみれが勝手に思っていただけだった。

 相手の行幸みゆきはまったくそうは思っていなかった。

 だけどそれでも良かった。行幸みゆきと一緒にお出かけできるなら。

 だけどダメだった。そのお出かけ自体が中止になった。

 いや、正確には中止では無い。行幸みゆきすみれと一緒には買い物には行かない事にしたのだ。

 理由はすみれを暴走させたくないから。

 

 すみれは納得がゆかず、自分が暴走したらどうなるのかを聞いた。

 そして、その理由を聞いてからそれでも構わないと返事をした。

 「私は暴走しないから」と断言した。

 しかし、昨日の幸桜こはるの暴走を目の当たりにしていた行幸みゆきはダメだと強く言い放ったのだ。


 行幸みゆきにはすみれが暴走すると、どうなるのか解らなかった。

 だけど、妹が暴走した、あの昨日の出来事を全て説明するなんて出来るはずも無いし、幸桜こはるが横にいるのに説明が出来るはずも無い状況だった。


 結果、行幸みゆきは万が一を考えてもすみれと一緒の行動を避ける事にしたのだ。

 だから行幸みゆきすみれに『暴走すると俺を好きになるぞ!』と脅した。つもりだった。

 だが、ここで思惑の違いが生じていた。


 行幸みゆきすみれが自分の事なんて何も思っていない。俺の事を好きなる事なんて有り得ないと考えていた。

 すみれに『俺を好きになるぞ!』と言えば、十分な脅しになると考えた。

 だけど、それを聞いたすみれはその時点ですでに行幸みゆきを好きになっていた。

 だから『暴走すると俺を好きになるぞ!』は脅しにも何もならなかった。


 だからこそ『私は暴走しないから』そう言い切れた。

 それでも一緒に買い物へ一緒に行く事を拒む行幸みゆき

 そんな行幸みゆきを見てすみれは考えた。そして出た結論はひとつ。


 こんなに強く拒むって事は、本当に私の事を好きじゃないんだ……

 きっとこんな私になんて好きになって欲しくないんだ……


 だけど、行幸みゆきの本心は違っていた。

 行幸みゆきは本当はすみれの事は嫌いではなかった。

 なんだかんだと話も合うし、一緒にバイトをしてて楽しいと思う。そして何だかんだと言いつつも心の中ではすみれを女として意識をしていたのだ。

 そう、普通に考えてみれば嫌いな人間を買い物に誘うはずもない。

 しかし二人の想いはすれ違った。そんなやり取りをシャルテはただ黙って見ていた。

 

 電車の中で菫は激しく落ち込む。

 先ほどの件もその原因の一つだが、もう一つ原因があった。

 最高に落ち込んだ要因。それは行幸みゆきが男に戻るためにどうすれば良いかという説明の時に言った一言。

 

「今のMMOをプレイしてる奴の中に俺を好きになっちまったやつが二人いるらしいんだ。その男共やつらを俺は振らないと元に戻れないんだ」

 

 一瞬何の話なんだろう思った。

 冷静に話しを聞くと、ネカマである行幸みゆきを好きになった男が二人いるという話だった。

 そして何と、その二人と会うためにオフ会に参加して、そしてその二人と直接接触をすると言っていたのだ。


『接触の方法はどうするの? 相手が誰かわかるの?』と聞くと、俺のフェロモンが影響すれば相手から寄って来ると言っていた。


 すみれが心配だと言うと行幸みゆきは大丈夫だと言い返した。

 でも大丈夫なはずが無い。

 

 すみれには心配な点が二つ浮かんでいた。

 一つは行幸みゆきから出ているフォロモンの事。

 知り合いにだけ効果が出ると言っていたフェロモン効果。という事はオフ会に参加したメンバー全員に効果が出るという事になる。恋愛対象相手だけに効果がある訳じゃない。

 

 行幸みゆきって、まったくもって馬鹿! 馬鹿! 大馬鹿だわ!

 今まで行幸みゆきに好意を持ってなかった男でも、今の行幸みゆきの可愛さと巨乳を見てその場で好きになる可能性だってあるでしょ!


 すみれは心の中で叫んだ。 

 もう一つ心配なのは行幸みゆきの恋愛対象の相手は男だと断言している事だ。

 天使の話だと、カップルが成立するか完全に振れば良いとか言っていた。

 確かに相手が男だったら行幸みゆきも拒むだろうけど……

 

 すみれはずっとMMOをやっている。

 行幸みゆきのケースのように、プレイヤーがネカマの場合だって多々ある。

 ちなみに、ネカマかどうかの判断は話方や話題なんかが基準になる。

 行幸みゆきのプレイしているMMOをすみれもこっそりプレイしていて、こっそり同じ同盟に所属までしている。

 行幸みゆきがINしていない時にこういう話題があがった事があった。

 

 《MIYUKIって男なんじゃね?》

 

 実は行幸みゆきの知らない所でネカマ疑惑をかけられていたのだ。

 一部のプレイヤーからは行幸みゆきはきっとネカマだって思われていたのだ。知らぬは本人だけ。

 

 《別にいいじゃん。あいついい奴だしさ》

 

 それでも同盟でのMIYUKIの評価は高かった。


 《私、もしMIYUKIさんが男性なら逢ってみたいな》


 同じ同盟の女性プレイヤーからもこっそり人気があった。

 実際、MIYUKIを男性だと思い込んでいて、好意を抱いている女性がいてもおかしくはない。

 いや、今の女性の行幸みゆきに対して好意を抱く女がいてもおかしくない。世の中にはBLやGLが現実に存在するのだから。

 すみれの頭には最悪のシナリオが思い浮ぶ。


【ここからすみれの最悪のシナリオ】

 

 行幸みゆきがオフ会に参加をした。

 帰り際にふと後ろを見るとさっきオフ会で一緒だった女の子がついて来ている。

 そして、その女の子に言われる。

 

「ちょっと……お時間いいですか?」

 

 そして、その子が実は行幸みゆきの恋愛対象。

 二人の間に繰り広げられる楽しい会話。

 

「私、MIYUKIさんって男だと思ってました」 

「え? それって?」

「本当に女性だったんですね……ちょっとだけ残念かな」

 

 それを聞いた行幸みゆきは思い切って事実を告白をする。

 

「俺は本当は男なんだよ」

 

 驚く彼女。そして行幸みゆきがさらに言う。

 

「でも僕は君と恋人同士になれば男に戻れるかもしれない」

 

 その女の子はフェロモンの効果もあって覚悟を決めたかのように言うの。

 

「……私……貴方の彼女になる……」

 

 行幸みゆきは男に戻れるし、彼女も出来たし、その嬉しさで即OKの返事をする。

 そして別れ際に恋人になった証として二人は熱い口づけを交わすのであった……


【妄想 完結】


 こ、こ、こんなの絶対に!

 

「嫌ぁぁぁぁ!」

 

 満員電車の中にすみれの声が響き渡った。

 周囲の人々からは何があったんだ? やら、痴漢じゃないのか? 最後には大丈夫ですか? と声までかけられる始末。

 すみれは思わずタイミング良く電車が到着した秋葉原駅で降りた。

 

「恥ずかしい……」

 

 すみれは両手で顔を覆いながら、真っ赤な顔のまま駅のベンチへ腰掛けた。そしてまた行幸みゆきの事を考える。


 このまま行幸みゆきを他の女に取られるなんて許せない!

 私の方がずっと前から行幸みゆきの事を好きだったんだから!

 絶対に恋愛対象とかいう二人と行幸みゆきはカップルにさせないからね!

 そして行幸みゆきは私が守る!

 最後に私…私がっ!

 

「リ、リア充になるのよぉぉぉぉ!」

 

 すみれはまたしてもやってしまった。

 行き交う人々がベンチでぐっと拳を握り締めた女の子が「リア充になる宣言」をしているのを見て、苦笑を浮かべながら横を過ぎる。

 すみれはまたしても顔を真っ赤にしてその場から立ち去った。


 秋葉原駅のホームを早足で移動するすみれ

 恥ずかしさを堪えながら、しかし決断をしていた。

 そう、すみれは決断したのだ。

 今週の土曜日に開催されるオフ会への参加をすると。

 

 

 ★☆★☆★☆

 

 

 そして行幸みゆきのアパート。

 

「本当に男に戻れるの?」

「ああ、俺がさっき説明した恋愛対象である二人の野郎を振れば戻れるはずだ」

「そうなんだ……ふーん」

「何だよ、ふーんって」


 行幸みゆき幸桜こはるが居間に座って会話をしていた。


「ううん、別に? いや、二人もネカマの! ネカマの! ネマカ! の行幸みゆきを好きなったんだなぁってね」

 

 幸桜こはるはネカマを三度繰り返した。

 大事な事だから三度言ったのか!?

 

「おい、ネカマって連呼すんな!」 

「だってネカマだったんでしょ!」

 

 その通りである。しかし行幸みゆきは反抗してみた。

 

「煩い! 聞け! 男はネカマ願望がある生き物なんだ! 女になってみたいって憧れが心の中には必ずあるんだ! だがそれは現実には無理だ! だからどうすればいいのか? そう、だからネットの中で俺は女になった! 女になりきったんだ!」

 

 と行幸みゆきが熱弁をしている中で、幸桜こはるは『何この人?』と言わんがばかりの冷たい視線で見ていた。

 

「でもさ、結局はネカマで人を騙して、それが原因で女にされて、それでもって男に好かれて、そしてその男達を振らないといけなくなったんでしょ? それって単なる馬鹿じゃん」

 

 またしても、まさにその通りの一言を言われてしまった行幸みゆき。それも実の妹にだ。

 

「う…ぐう…だ、だけどな」

 

 行幸みゆきが何か言い換えそうとすると、幸桜こはるはそれを打ち消すように話を続ける。

 

「でもいいや。行幸みゆきが元に戻れるなら。そうだ! 補足で説明してたあれ、その、行幸みゆきが男とカップルになってもいいよとか言ってたやつ。あれって行幸みゆきが女のままで男と一緒になって、男には戻らないって事でしょ? それだけはやめてよね! 私も嫌だし、お父さんやお母さんにも説明つかなくなるからね!」


 おっしゃる通りです。


「大丈夫だ。なんで俺が男と引っ付くんだよ? 俺は確かにネカマはやってたが心まで女にはなってない! そんなの想像するだけでも気持ち悪い! だから絶対にない!」

 

 行幸みゆきが自信満々にそう言い切ると幸桜こはるは玄関の方へと視線を移した。

 そこは先ほどまですみれが立っていた場所だ。

 

「話は変わるけど……ねぇお兄ちゃん……よかったの? すみれさんを追い返しちゃっても」

 

 幸桜こはるが心配そうに行幸みゆきに向かって聞いてきた。

 実は、行幸みゆき幸桜こはるに聞かれる以前にすみれの事は気になっていた。


 あいつ、おれのフェロモンの事について説明したのに……それでも一緒に買い物に行くとか言いやがった。

 だからこそ俺はフェロモンの恐ろしさを説明した。いや脅した。

 フェロモンの影響を受けて暴走すると『お前は俺を好きになるんだぞ!』って言い切った。

 俺にとっては最強の脅し文句のはずだっ。それなのにすみれは『私は暴走しないから!』と言い返しやがった。

 でも俺は昨日の夜に暴走した幸桜こはるを見てる。

 ダメだ、絶対に一緒になんて行けない。暴走するすみれは見たくない。


 行幸みゆきすみれを想うばかりに、だからこそ強引にアパートから追い出した。

 しかし行幸みゆきはここで盛大なる勘違いというか、思い込みをしていた。

 行幸みゆきのフェロモンは感情を高める力があるだけだ。

 行幸みゆきを好きにさせる効果は無い。そして暴走する確立も決して高いものではない。

 だが、昨日の幸桜こはるの暴走があまりにもインパクトが強すぎてすっかり効果を勘違いしていた。

 

 行幸みゆきは勝手に想像した。すみれが暴走した姿を。それも全裸で迫る姿を。一人で脳内で妄想し興奮していた。


 ダ、ダメだ! 暴走でそんな事になったらダメなんだよ! それに俺、今は女だし何も出来ない……


 そういう問題じゃないだろと突っ込み満載のいやらしい事もしっかり考えていた。


 や、やっぱそういうのはお互いが好きあって始めて成立するものだよな?


 と、変な妄想ばかりしていたが、行幸みゆきはすこし冷静になって考えなおす。


 そうだよ、俺はすみれは嫌いじゃない。って事は……いいのか?

 いやいや……だけどあいつは俺が嫌いなんだよ。

 フェロモン効果でエッチとか、そんなの強姦と同じだろ。

 こんなんじゃダメダメ、余計にダメだ。絶対にダメだ!


 冷静になったはずだが、結局は再び変な妄想をしてしまった。

 結局変な妄想は止まらなかった。体は女になったがやはり中身は男だ。

 

「い、いいんだよ。あいつには迷惑なんてかけれないからな」

 

 行幸みゆきは顔を真っ赤にして呟いた。

 

「まぁ…そうね、迷惑はかけれないよね」

「だよな?」

「うん」

 

 行幸みゆきはそそくさと着替えを始める。そんな行幸みゆきの表情を見ていて幸桜こはるは思った。

 

 迷惑をかけれない……か。

 なんだか言いながら行幸みゆきお兄ちゃんはあのすみれっていう人を気に掛けているのかな。

 それにすみれっていう人は絶対に行幸みゆきお兄ちゃんに好意がありそうだった。これは女の感だけど。でも多分そうだ。


 そうだ、なんで行幸みゆきを好きな人が、そう、恋愛対象者が二人とも男なんだろ?

 すみれさんが恋愛対象ならまだよかったかもしれないのに……


 そうは考えたものの、幸桜こはるの胸がちょっと苦しくなった。


 ま、まぁ……相手が男よりは何倍もいいよね?


 幸桜こはるは視線を行幸みゆきに向けた。


 行幸みゆきすみれさんの事をどう思っているんだろ。

 買い物に一緒に行こうとしたんだし、嫌いじゃないんだよね?

 もしかすると……すみれさんの事を?


 しかし幸桜こはるには行幸みゆきに直接聞く勇気は無かった。

 

 俯き頭を悩ませる幸桜こはる


 私は行幸みゆきが好き。

 例え恋人同士になれなかったとしても、いつか行幸みゆきに彼女ができても、それでもこの好きに変わりは無い。

 そう、私は行幸みゆきお兄ちゃんを本当に好きなんだ……


 ぎゅっと胸を押さえた。キュンっと胸が痛んだ。


 だから聞くなんてできない。もし好きだと返ってくるとショックを受ける事はわかりきっている。

 そう、私はそれが怖いんだよ。

 

「おい、行くぞ」

 

 行幸みゆきの声に幸桜こはるはハッと我に帰った。

 ふと行幸みゆきを見ると、ダボダボのパーカーにブカブカのジーパン姿で部屋の中央に立っている。

 

「え? ど、何処へ行くの!?」

「買い物だよ。幸桜こはるがつきあってくれよ」

「わ、私が?」

「そうだよ、何か用事でもあるのか?」 


 用事? 私の?


 意表をついた誘いに動揺する幸桜こはる

 そして、実は幸桜こはるにはリアルで用事があったりした。それは塾だ。

 今日は学校が休みとはいえ、大学受験を控えており勉強は疎かに出来ない。

 幸桜こはるは昼から塾へ行こうと思っていたのだ。

 

「よ、用事なんて……あるけど。でも、お兄ちゃんの頼みなら仕方ないわなぁ……一緒に行ってあげる!」

 

 しかし、幸桜こはるは思わすそう言ってしまった。いや、故意にそう言った。

 

「ん? 用事あるのか? ならいいや。俺、一人でがんばってみるからさ」

 

 幸桜こはるの頬がヒクリと動く。

 

行幸みゆき、人の話を聞いてた?」

「あ、ああ、用事があるんだろ?」

 

 そっちじゃ無いだよ! 後の方の台詞を聞いてよ!

 相変わらず鈍感すぎ! 超鈍感!

 女の子が……そ、そりゃ私は妹だけどっ! でも、それでも女の子だよ?

 その女の子が買い物に一緒にいってあげる! って言ってあげてるのに「ならいいや」とか言うか! 言うの?


 幸桜こはるは拳を握り締めた。

 思いっきり後頭部を殴りたくなった。しかし幸桜こはるはその怒りに耐えた。

 

「だ、だから一緒に行ってあげるって言ってるでしょ? お兄ちゃんは全然まったく聞いてないよね?」

「何だよ、その言い方。用事があるって言ってたじゃないか! 別に無理して来なくっていいって言ってるだろ!」


 カチンとちょっと幸桜こはるは切れた。


「無理だったら行かないっていうの! それに行幸みゆき一人でどうやって下着とか選ぶのよ! お兄ちゃんに選べるの!?」

「う、煩いな! 俺だって選べる! 店員に聞けばいいだけだろうが!」

「色々な質問をされたらどうするのよ! あんた女として受け答え出来る訳!? ねぇ! どうなの?」

「あ、あんただと!? 実の兄貴に向かってその口の利き方はなんだ!」

「あんたはあんたでしょ! 兄だってあんたなの! もういいわよ! 言い直すわよ! はいはい! 行幸みゆきお兄様っ! これでいいの!?」

「なんだそれ! あームカツク!」

「私の方こそムカツク!」

「俺の方がもっとムカツク!」

「もうっ! 馬鹿ぁ!」

「馬鹿!? 今度は馬鹿かよ!」

「馬鹿だよ! だって私……お兄ちゃんの事がすっごく心配なんだから! だから一緒に行ってあげるって行ってるのにぃ…… 馬鹿っ! 本当に馬鹿っ! もう…もう……ばかぁ……」

 

 幸桜こはるは瞳を潤ませながら口をへの字に曲げた。

 ツンツンした態度はとっていたが、内面では頼って欲しいという気持ちが強かった幸桜こはる

 おかけに、行幸みゆきと一緒に何処かへ行くなんて数年ぶりだったから余計に一緒に出かけたかった。

 それを否定される事が悔しくって泣きそうだった。いや、実はちょっと泣いていた。

 

「ば、馬鹿、泣くなよ!」

「心配なんだから……」(ぐすん)

 

 俯いて目を擦る幸桜こはる

 流石の行幸みゆきもこんな妹をほっておけるはずもない。

 

「く、くそ…解ったよ。じゃあ……一緒にいくぞ」

 

 行幸みゆきは少し恥ずかしそうに幸桜こはるを誘った。

 その台詞を聞いて一気に幸桜こはるの表情が笑顔になる。

 頬を桃色に染めて両手で口を押さえた。

 

「し、仕方ないから一緒に行ってあげるんだからねっ!」

 

 ちょっと照れくさそうに、怒っているのだけど、それでも笑顔がその中で漏れてくる妹の表情。怒りの中に嬉しさが満ちている態度。

 まさにこれこそツンデレだった。

 そう、幸桜こはるのツンデレ台詞が光臨したのだ!


 まさかの実の妹からのツンデレ台詞がキタぁぁぁ!

 これこそリアル女からは聞く事が難しいと言われているツンデレ台詞だよな?

 くっ、これが妹でなければ……


 幸桜こはるはぐっと拳を握りしめた。

 しかし、それと同時に実は妹がツンデレだった事実を知った。


 今までずっとツンツンはしてたけど、まさかデレもあるとは思ってもいなかったな。

 

 そんな事を考えながら幸桜こはるを見ると、右の人差し指で唇をなぞっているじゃないか。

 幸桜こはるを見て行幸みゆきはドキッとしてしまう。

 さっきまで潤んでいた幸桜こはるの目は虚ろになり、何かを思い出しているかのように見えたからだ。

 だけど、行幸みゆきの視線に気がついたのが、ビクリと体を震わせて唇を触るのをやめた。

 そして、いきなり怒り出す。

 

「あ、あのね!」

「な、何だよ」


 瞳はいつの間にか普通に戻っていた。


「あ、あのキスはやっぱり無効だからね! 無効! だって今は行幸みゆきの姿じゃないでしょ! だから無効!」

「へ?」

 

 突然のキス無効宣言がここでキタ。

 

「あーよかった…実の兄にファーストキスを奪われたとか、友達に言えないし」

 

 そして一方的に会話終了宣言。

 幸桜こはるはそのまま洗面のある風呂場へと消えて行った。

 

 行幸みゆきは目が点になる。

 何だろう? 何かこう、幸桜こはるという人間が解らない。

 さっきはキスだと認めてた癖に、それもファーストキスだと認めた癖に、だけど今はまったく認めてるように見えないし無効だとか言っている。

 いや、別に無効でいいんだけど? それはそれで好都合だし。

 でも何だ? なにを考えてるんだ?

 あの危ない昨日と同じ雰囲気はなんだったんだ?

 ま、まあいいか……今は普通に戻ってるし、彼女が出来た時にファーストキスが妹となんて言えるはずがないしな。

 

 そんなこんなで風呂場で着替えたのか、制服姿の幸桜こはるが戻ってきた。

 久々に見る幸桜こはるの制服姿。

 昨日の夜はどたばたしてよく見ていなかった。

 というかあれだな……幸桜こはるも普通に可愛いじゃないか。

 

「お、おい、そういえば制服で買い物っていいのか?」

「大丈夫だよ。日中なら何も言われないよ」

「そうなのか?」

「というか、行幸みゆきの方こそ、そのだっさい服を早くどうにかしないとね。だから早く服を買おうね! よしっ! そうと決まったら出発!」

 

 幸桜こはる行幸みゆきの手をぎゅっと握った。

 

「あ、ちょっ!? 引っ張るな!」

 

 笑顔の女子高生に手を繋がれて買い物へ向かう兄の姿。(今は女ですが)


 なんというか、これってすげー照れるな。でも……


 行幸みゆきの心には自分に対する嫌悪感があった。

 幸桜こはるの記憶からは消えているけど、俺の記憶には残っている。

 こいつは俺が好きだという事実。

 だからだよな? だからこんなに楽しそうなのか?


 幸桜こはるは満面の笑みで行幸みゆきの手を握っていた。


 きっと幸桜こはるは俺には好きだと解らないようにがんばってるんだろうな。頑張って普通の笑顔を見せてくれているんだよな。

 でも俺は知ってしまった。


 笑顔の幸桜こはるを見て行幸みゆきも笑顔を返した。そして誓った。

 俺たちは兄妹なんだよな……

 そうだ、意識せずに普通に仲良くしよう!

 こいうの想いは俺の心に仕舞っておこう!

中途半端に作者からの一言

ほぼ遊び感覚で始まったこの小説も何時の間にかメインの小説を抜いてしまいました。まさに『どうしてこうなるんだ!』という心境です。

私も最近は小説を読んだりしている影響か、初期の書き方と大分違ってきてるなーと思っています。

そんな私の小説を読んで頂いている皆様に感謝です。

何かここらでキャラ投票とかしてみたいなんて思ってたり。そのうち気が向いたら何かするかもしれません。宜しくお願いします。

そしてこの小説も架橋に入ります。がんばって執筆しますのでこれからも宜しくお願いします。

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