第十七話 【俺が見た夢・男に戻るには?】
幸桜に全ての説明が終わった。
真っ暗な顔で俯いている幸桜。
沈んだ表情でそれを見ている菫と店長。
はたして、説明を聞いて幸桜は納得できたのだろうか?
その表情からはとてもじゃないが納得が出来ているとは思えない。
ただただ、ショックは受けているようだが。
だけどこれが事実なんだ。いくら幸桜が信じなくても俺が今こうして女になっているのは事実なんだよ。
「幸桜、以上で説明は終わりだ。納得が出来たか?」
「え…えっと……」
やはりイマイチ納得出来ていない様子だ。
「おい、幸桜…さっきの質問攻めで俺が行幸だって納得したんじゃないのか?」
「うん…そうなの……そうなんだけど……でも…やっぱり…」
幸桜は唇をぐっと噛んだ。
そんな悔しそうな幸桜の表情を見て行幸は考えた。
もしも俺の目の前に男の子が現れて、その子が幸桜なんだと言った時に俺はそれを事実だと受け止められるのか?
……否だ。
そうだよな、俄にこんな事が信じられるものじゃない。
店長や菫がやけに物わかりが良かっただけで、と言っても時間はかかったけど。
でも、幸桜よりは物わかりはよかった。
いや違うな。二人は物わかりがいいんじゃない。こいつらはアニメとかゲームとかで、そういった非現実的な世界を知ってるからだ。
その世界の中で起きる出来事、それは性転換であり変身だったりもする。
その特殊な状況を今の俺に被せて考えてくれているんだ。
オタクだからこそ俺が女になった事を受け入れやすかっただけだ。
という事は……普通の人間はなかなか信じないって事になるよな。
という事は幸桜は普通の女の子だから……
「私はゲームの罰とか、そんな非現実的な事で女の子にされるなんて……やっぱりあり得ないと思うんです。やっぱり信じられない……」
行幸の予想通りだった。
幸桜は困惑した表情で頭を抱えた。
「幸桜、それでも俺は行幸なんだ」
「ねぇ、本当の本当に貴女が行幸なの?」
幸桜は少し潤んだ目で行幸を見る。
そんな幸桜を店長と菫が優しく説得を始めた。
経緯の説明の事例がちょっとマニアックだったが、その説明をずっと聞いていた幸桜も流石に納得せざるえない状況になったみたいだ。
最後には小さくわかったと言っていた。
「ええと、ちゃんとは信じないけど……でも信じる」
幸桜によって今日ここに意味不明な日本語が完成した。っていうかどういう意味だよそれ。
「貴方はたぶん行幸」
たぶんって何だよ。
「たぶんじゃなくって俺は行幸なんだって」
「え…あ…じゃあ…み、行幸…かも」
「かもって……」
「……み、みゆ……みゆ……行幸?」
「なんかポケモンのキャラみただけど、何だよ」
「あのね、もしも今まで言っていた事が事実だとして、行幸は男には戻れないの?」
男に戻る方法を聞かれた。
それが解るならば俺も知りたい。
だいたい俺は何で女にされたのか?
本当に天罰だったのか?
その理由も知りたい。
誰か教えろ! 俺はどうしてこうなったんだ!
その時、俺の脳裏に一人の女性が思いだされた。
その女性は銀色の長い髪で、まるで天使のような女性だった。
そしてもう一人男の子みたいな女の子も思い出した。
「あれ? そういえば俺ってさっきどこか違う場所に居たような……」
俺がそう言うと三人は『え?』という表情で俺を見る。
「何を言ってるんだ? お前は気を失ってそこにずっと横になってたぞ?」
店長が指差す。
「あ…えっと…私がここに来た時にはもうリビングで横になってて…で…それから色々あって…で…あ! 私がその人を触ったら感電したの!」
「感電?感電……っていうかその人って言うな! お前の実の兄だ! 行幸だ!」
「え…だって…」
くそ、まだ信じ切れてないのかよ。
でも何だ? 感電? そういえば俺はアパートに戻ってからパソコンをやりつつカップラーメンを食べようとしたら……
確かに『ゾクゾク!』と俺の体が震え上がったな。
そうだ、思い出した! 俺も感電して気を失ったんだ! そして…そうだ! そして石造りの建物で目を覚ました!紅い絨毯が広がってた……
鮮明に蘇る記憶。
脳内で一気に解凍される。
いや待てよ? あれは夢だったのか?
いや違うだろ! すごくリアルだったし、はっきりと記憶がある。
そうだよ、夢にしてはリアルすぎた……
だいたいここまで夢をはっきりと覚えているとかありえない。
そうだ、色や声色まではっきりと覚えている!
やっぱりさっきの出来事は夢じゃない! もしかしてさっき思い出したあの二人の女は実在するんじゃないのか?
「行幸? どうしたの?」
菫が心配そうに行幸を見詰める。
「俺、もしかすると男に戻れるかも…」
行幸の言葉に再び『え?』という表情で一斉に見詰める。
「何かの条件さえクリアすれば俺は男に戻れるのかもしれない」
「条件!? 何それ? 何なの? お兄ちゃんが元に戻る条件って何なの? 何かしないといけないの? 何処か行かないとダメなの? どういう方法なの!?」
幸桜が形相を変えて質問を浴びせる。
「行幸、ホント!? 戻れるの? ねえ!」
菫は両肩を持つと激しく前後に揺さぶる。
「す、菫! 吐く吐く! やめてくれ! もう今日は散々揺らされたんだ!」
行幸がそう言うと菫は顔を赤くして俺の両肩を離した。
でもそのお陰でまた思い出した。
銀色の長い髪の女性の名前はリリアだ。
そしてもう一人の女の子がシャルテ!
二人は姉妹だった。
そしてリリアは言っていたな、『ここは私の作った魔法世界です。今の貴方は思念体で、本当の肉体は現実世界に貴方の部屋にいます』って。
確信した! さっきのは夢じゃない! 魔法で作られた仮想世界での出来事だったんだ。
そして俺はその仮想世界でシャルテに殺されたんだ!
くそ…あいつめ……って、今は違う、そうじゃない!
今はそんな事を思い出してる場合じゃない!
そうだ、あの時に俺は男に戻る方法を教えろって言ったんだ。
するとシャルテが言った。リリアが説明すると。
確か、幸桜がその仮想世界にイキナリ現れたからリリアは世界を消失させたんだ。
最後に言ってたな、男に戻る為にどうすればいいかを話しをしてくれるって。
「おい、みゆき? どうした? そんな怖い顔で考え込んで? 何かを思い出したのか?」
「あ、ああ、少しね」
しかし…この事を話すべきか?
実は俺は魔法で造られた仮想世界に行って、そこで男に戻る方法が聞けるはずだったんだ!
そんな事を言ってもなぁ……いくら話してもこれは信じてくれねぇよな。
っていうか、余計に話がややこしくなりそうだし…ここは…
「俺が男に戻る方法はあるかもしれない。だけどまだ店長達には話せない」
「え? 何でだ? 俺には話せないのか?」
店長は不満そうに俺を見る。
「まだ確信もないし方法も正確に聞いてないからかな」
「聞いてない? って誰にだよ?」
「まぁ、そこはちゃんと解ったら話すよ」
「だけど、男に戻れる可能性はあるって事よね?」
割って入ってきた菫が真剣な顔で言った。
「可能性はあるかもしれない……そういうレベルだ」
「おい、教えてくれ。俺達はみゆきに男に戻って貰いたいんだ!」
店長は真剣な表情を浮かべたいた。菫も幸桜もだ。
でも、やはり今は話すべきじゃない。行幸はそう判断した。
いや違うぞ? これって何だ? 心の奥にある何かが他人には教えるなと訴えかけてきてる気がするんだけど。
「店長ごめん、確信が持てないのもあるけど、きっとこれは俺以外の人には教えるべきじゃないのかもしれない。俺の中の何かが他人に教えたら駄目だって言ってる」
「何だそれは!?」
「わからない」
「店長、それ以上突っ込んじゃダメだよ。行幸だって考えがあって言ってるんだし、ここは行幸の言う事を聞こう」
菫がそう言うと店長は理解をしてくれたのか、それ以降は質問をしてこなかった。
幸桜は一人無言で俺達の会話を聞いている。
そしてしばらくして店長と菫はアパートを出て行った。
あれそう言えば?
店長と菫がアパートを出てから行幸はふと思う。
そう言えば……店長がすっげー普通だった。菫も普通だったよな?
どうしてだろう?
今日の店長はかなり崩れて怪しかったはずだよな? 暴走してたよな?
だけど、さっきの店長は普段の店長に戻ってた。
菫も普通に戻ってたというか……まぁ今日は少し感情的になってただけだけど。
行幸がそんな事を考えていると、部屋に残っている幸桜がそっと語りかける。
「ねえ、たぶん行幸」
「……まだタブンとか言うか?」
「じゃあ…行幸かもしれない人」
「かもって何だ! まだ信じないのか!」
「ううん…信じたけど信じてないだけだよ」
だからそれって意味不明だろ。
「で…何だよ」
「さっきの事…男に戻れるかもっていう事さ……私にも教えられない事なのかな?」
行幸は幸桜には教えるべきかを考えた。
だが考えてみればリリアは幸桜が仮想世界に現れたからあの世界を消したんだ。
そう考えると例え妹であっても教えるべきじゃないんだろう。
「ああ、教えられない」
「そっか……」
幸桜はとても寂しそうにそう答えると膝を抱えて部屋の隅でまるくなった。
「幸桜?」
幸桜は返事も無く、ただただ背中を震わせていた。
☆★☆★☆★☆★
幸桜はあれから一時間も動かなかった。
しかしいきなりだった。さっきまでの姿が嘘のようにいきなり元の元気な妹に戻った。
少し話しをした所で幸桜は俺に終電が終わったから泊めて欲しいと言ってきた。
流石に俺も幸桜を一人でタクシーで帰す訳にもいかないので仕方なくOKをした。
しかし……ここで気がつくべきだった。
そう、まだ終電なんて終わってなかったんだ!
え? 何があったのか? それは……
数時間前
「ごめんね、泊まる事になっちゃって」
「いや…別にいいけど」
「初めてだね、行幸の部屋に泊まるのって」
部屋を見渡しながら幸桜は笑顔をつくった。
本当に立ち直ったようで行幸もちょっと安心する。
「そうだな。っていうかさ、妹を俺の部屋に泊めるとか普通に考えれられないだろ? 俺は男だしお前は女なんだぞ?」
行幸がそう言うと幸桜は目を細めて俺を睨む。
「それってどういう意味かな? それって何か変な事を考えてるのかな? ねえ…ねえ?」
しまった! 余計な事を言ってしまったかもしれない!
行幸は思わす後すだりをする。
するとその拍子にパソコンの横のラックへぶつかり、中に入っていた秘蔵十八禁エロゲコレクションがボタボタと床に落ちた。
散乱する卑猥な画像が載った裏表紙
妹の視線はそれに釘付けになる。
「え…えっと……これは違うからな!」
何が違うのかさっぱりだが、行幸は慌ててラックへと秘蔵コレクションを戻し始めた。
「ね、ねぇ、その『妹と僕の秘密の関係』って奴なんだけど、それってどんなゲームなの?」
うわぁ! タイトルすっげー見られてた!
それも一番見せたらダメっぽいやつ!
「いや、こ、これは店長に借りてさ、まだやってないんだよ。あははは」
うわ……自分でも誤魔化しきれてないってわかるだろこれ。
「ふーん……じゃ、じゃあ一緒にやる?」
「え?」
「内容……見てみたいかも……お兄ちゃんと……」
ちょっと頬が赤い幸桜の表情を見て行幸の心臓がドキドキと脈打った。
「こ、幸桜!?」
「じょ、冗談だよ……でもっ!」
幸桜は行幸の秘蔵コレクションが隠してあるラックを漁り始めた。
焦るのはそれを見た行幸だ。
「ま、待て! 幸桜やめろ! そこはお前が見ちゃダメなものがいっぱいあるんだ!」
しかし幸桜は漁る事をやめない。
そして何本かの秘蔵コレクションを手に取ってソフトの裏に書いてある説明を凝視している。
「ある日、貴方の部屋に突然訪ねて来た女性……その女性は貴方と一夜を…」
「読むな! お願いだから声を出して読まないで!」
やばい、変な汗が全身から吹き出る。
ただでさえ無かった兄としての威厳が完全に無くなるぞこれ。
行幸はヘタリとその場に座り込んだ。
作者と対談①
作者「はい、作者です。今日は主人公の行幸さんに来て頂いております」
行幸「おい作者、何だこれは?」
作者「対談です」
行幸「何の意味があるんだよ」
作者「ええと…ちょっと行幸さんの妹について質問が来てまして」
行幸「幸桜に対する質問なら俺にするな!本人を呼べ!」
作者「まぁまぁ…ちょっと本人には聞けないから」
行幸「むう……で?何だよ」
作者「質問です。幸桜さんは処女ですか」
行幸「ゲホ!ゴホゴホゴホ」←お茶を吹き出す
作者「あれ?どうしたんですか?」
行幸「な、何て質問だ!っていうか俺が知るか!何で俺がそんな事を知ってるんだよ!だいたい何の意味があるんだよ!」
作者「気になっただけです。では次の質問」
行幸「もういい!俺は帰る!あ!作者!」
作者「呼び捨てにしないで貰えます?これでも作者なんですから」
行幸「知るか!この台詞だってお前が書いてるんだろ!」
作者「あ、触れちゃダメな部分に…」
行幸「とりあえず俺は絶対に男に戻せよ!わかったな!」
行幸退出
作者「はい…全然対談になってなかったけど…読者の皆様、これからも宜しくお願いします。あと、質問とか感想とか受付てます。キャラ個人に対しても可能ですので宜しくお願いします」