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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第十六話 【俺の妹の困惑】

 行幸みゆきの目の前にはメイド服姿の幸桜こはるが気を失って倒れていた。

 困惑する行幸みゆき。なぜここに幸桜こはるが現れたのか検討もつかない。

 

「おい! 何でここに幸桜こはるが居るんだよ!」

 

 幸桜こはるは両手をぎゅっと握り締め、怒鳴りながらリリアとシャルテのいる方を向いた。無意識に両手はプルプルと震える。

 行幸みゆきが二人を見ると、怒りが急激に収まる。

 リリアは幸桜こはるが現れて意気消沈した表情になっていたからだ。

 シャルテは動揺する事はなく、ただリリアを心配そうに見ている。


 もしかして、幸桜こはるがこの世界に現れた事は想定外だったのか?

 でも、目の前に現れたのは現実だよな。

 

「おい、答えろよ。どうしてここに幸桜こはるが居るんだよ」

 

 行幸みゆきは再度質問をするが、今のリリアはとてもじゃないが答えられそうな状態ではない。

 それを察してかシャルテがムッした表情で行幸みゆきを睨んだ。

 

「言っておくけど、リリア姉ぇは別にお前の妹を呼びたくって呼んだんじゃないんだ。これは一種の事故なんだ。そんな責めるような口調でお姉ぇを怒鳴るなよな」

 

 強い口調にもかかわらずシャルテの言葉に刺々しさは感じられない。

 どうやらシャルテもトンでもない事になったと思ってるのだろう。

 

「事故だと? これが事故で済む問題なのか? いいのかよ? この世界に俺以外の人間を連れ込んでも。そしてお前らの存在がばれてもさ」

 

 半分脅すような行幸みゆきの言葉に、シャルテは言葉に詰まった。

 

「こ……この世界を消失させます……」

 

 真っ青な表情のリリアの力の無い震える声が聞こえた。

 その言葉を聞いたシャルテが慌てた表情でリリアの方を振り返る。

 

「な、何を言ってるんだよ! この世界を消失させるって? それじゃあ今までの苦労はどうなるんだよ? これでこいつに用件を伝えれば全て終わるんだろ?」

「シャルテ……それは私が人間界に行って改めてみゆきさんにお話をすればいいだけですから……」

「リリア姉ぇ! 何を言ってるんだよ! 約束したじゃないか、人間界に降りるのはあの一度きりにするって! あの時だって僕は反対したんだぞ! 僕たちが人間に姿を見せちゃ駄目なんだぞ! 今回のこれだってそうだよ! 解ってるの? ねえ! お姉ぇ! 僕たちは…」

 

 シャルテはそこで急に言葉を止め、俺の方をチラリと見た。

 

「……もういい、この話はここでは止めとく」

 

 シャルテは話の途中にも関わらず会話を完全に止めた。

 行幸みゆきは疑心暗鬼な表情で二人をじっと見ていた。


 何をこいつらは言ってる? 人間界に降りる? 何だそれ? こいつらの正体ってなんなんだよ。

 

「おい、お前らは何者なんだよ? 人間界に降りる? 姿を見せる事が駄目? どういう事なんだよ。どうして俺が女にされたのか含めてちゃんと説明しろ」

「すみませんみゆきさん……その問いには今はお答え出来ません……この続きはまた後日で」

 

 リリアは行幸みゆきには理解の出来ない呪文のような言葉を唱え始める。

 それから急に石造りの建物も赤い絨毯が見えなくなり、行幸みゆきの目の前は真っ暗になった。

 いや、違う。行幸みゆきにはリリアやシャルテ、そして幸桜こはるの姿が見えていた。という事は暗くなったのでは無く、視界にあった全ての物が消えたという事になる。

 

「おい待てよ! これはどういう事なんだよ? なんで真っ暗になるんだよ? 結局この場所に俺を呼んだのはどういう意味があったんだよ? 俺や幸桜こはるはどうなるんだよ!」

 

 しかしリリアとシャルテは無言のまま行幸みゆきの目の前から姿を消した。

 その瞬間、周囲が明るくなり行幸みゆきの意識は飛んだ。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

「ここか…行幸みゆきのアパートは…」

 

 店長は腕組みをしながら目の前に聳え立つアパートを見上げる。という程立派なアパートじゃない。というか……本気でボロアパートです。

 

「よし、店長、行幸みゆきの部屋に突入しよう!」 

「おう」

 

 すみれと店長は行幸みゆきの部屋へ向かうためにアパートの金属製の階段を上る。

 コツンコツンと響く二人の足音。ドキドキと鼓動するすみれの心臓。


 緊張する……初めての行幸みゆきの部屋だ……

 どんな部屋なんだろう……行幸みゆきの部屋って……


 ここですみれはある事を思い出す。

 

「ねえ、店長」

「何だ?」 

行幸みゆきの部屋なんだけど……」 

「部屋がどうしたのか? 部屋番号ならばっちりだぞ?」

「違うわ。あれだよ、もしも鍵がかかってたらどうするの?」

「え? か、鍵?」

「そう、鍵」

 

 店長は顔を引きつらせて無言になった。

 どうやら鍵がかかっていたらという事はまったく考えていなかった様子だ。


 しまったわね、私も慌てて来たからそこはまったく考えてなかった。

 ここはどうみても管理人も居ないような小さいアパートだし、鍵をぶち破って入るのもここの住人に警察へ通報されるレベルだし、どうしようかな……

 

「だ、大丈夫だ! 多分かかってない!」

 

 店長は何を根拠にしてか自信満々である。

「何でそう思うの?」

 

 店長はニヤリと笑みを浮かべると自信ありげに言う。

 

「それは……男の感だ!」

 

 すみれは思わず頭を抱える。


 駄目だ……店長の感とかかなり信用出来ない……

 

「店長の感なんてあてになるはずないでしょ? 店長の発注したエッチなゲームだって売れ残ってるし。うーん、普通だったら鍵を閉めるよね? あーあ、どうしようかな。ここまで来たのに鍵が閉まってたら最悪だよね」

すみれ、そう深く考えるな! なせば成る!」 

「いや、ちゃんと考えるべきでしょ」

 

 楽観的な店長と慎重になったすみれ

 二人が無駄話をしている間に部屋の目の前に到着。

 そこで横の小窓からは光が漏れているのがわかった。


 どうやら中に誰かはいるみたいね。

 行幸みゆきかどうかは解らないけど。

 

「一応……ノブを廻してみるね」

 

 すみれはゆっくりとドアノブに手を伸ばした。そしてゆっくりと廻してみる。すると……

 行幸みゆきの部屋の鍵はすみれの予想を良い意味で裏切ってくれた。

『カチャリ』と音をたててドアノブは廻って扉が開いたのだ。

 すみれはドアノブをゆっくりと元に戻すと一度手を離した。

 

「店長、空いてたわ……」

「お、そうか! それじゃあ突入だな」

 

 店長は嬉しそうな顔をして躊躇も無くドアノブに手を伸ばす。

 

「ま、待って! いきなり入る気? せめてノックくらいした方がよくない?」

「ノック? わざわざ? 行幸みゆきの部屋なんだぞ? それにこれは緊急事態だろ? もしかすると中に行幸みゆき以外に女が、それも行幸みゆきの携帯に勝手に出るような女がいるかもしれないんだぞ? ノックしてたら逃げられるかもしれないじゃないか」

 

 そうだった。この部屋には行幸みゆき以外の誰か、そう、女がいるかもしれないんだった。

 

「店長、もし私の知らない女がいたらどうすればいいと思う?」 

「……そうだな、入ってから考えよう」

「えっ? ま、待って!」

 

 店長は躊躇なくドアノブを廻し、そしてドアを開けた。

 その瞬間、いきなり漂うカップ麺の匂い。

 

「な、何だこのカップ麺の匂いは? 凄まじいぞ」

「本当だわ」

 

 店長は左手で鼻をつまんだ。

 すみれはとりあえずは行幸みゆきを呼んでみる。

 

行幸みゆき? いるの? 行幸みゆき?」

 

 しかしまったく返事は返って来ない。

 

「おいすみれ、奥の部屋からゲームの音が聞こえるぞ。きっと奥にいるんじゃないか?」

 

 店長はそう言うと靴を脱いでダイニングキッチンを奥へと進んで行く。

 耳を澄ませば確かに行幸みゆきのやり込んでいるMMOの街の音楽が聞こえている。


 行幸みゆきは中に居るって事なの?


 すみれも靴を脱いでダイニングに上がる。するとそれと同時に奥から店長の声が聞こえた。

 

すみれ大変だ! はやく来い!」

 

 すみれは慌てて奥の部屋へと入って行った。

 そこには見るも無残なカップラーメンの残骸が散乱していた。

 そして、行幸みゆきが横たわり、そしてその上には被さるように二人の知らない女性が倒れている。

 倒れた二人は息はしている様子だ。


 死んではなさそうだけど……でもこの女性は一体だれなのよ?

 すみれの心臓が先ほどとは違う緊張で高鳴ってゆく。

 

すみれ行幸みゆきの上で倒れているこの女って誰だと思う?」

「そ、そんな事を私に聞いても知ってるはずないでしょ」

 

 本当にこの女性は誰なんだろう……

 行幸みゆきの部屋に入っているという事は、どう考えても行幸みゆきの知り合いよね?

 やっぱり彼女なの!?

 でも、そんな話は一度も行幸みゆきから聞いてないし……

 でも、でもやっぱ彼女かもしれないよね?

 もしだよ? もしもこの女性がもしも彼女だとしたら、この女性が私の恋のライバルになる訳?

 それに、よく見ればまだこの子は高校生位じないのよ!

 何なのよ? 行幸みゆきってついに女子高生に手を出したの?

 も、もしかして好みは年下だったりする?

 しかも何なの? 行幸みゆきは女になったのにこの子は平気って事なの?

 そんなに信用信頼が出来る関係なの!?


 ぶつぶつと独り言を言い放ちつつ青くなるすみれ

 

「おいすみれ? お前どうしたんだ? 俺の話を聞いてるか?」

「え? あ……な、何よ?」 

「何よって……だからとりあえず行幸みゆきを起そうって言ってるんだ」 

「あ、ああ! そうね、起そうか」


 起こしてちゃんと聞けばいいのよね?

 私、こんな事で動揺しちゃだめ。がんばれ。

 

 店長とすみれは被さっている女性をゆっくりと行幸みゆきの上から移動させた。

 そして、行幸みゆきを揺さぶり起しにかかる。

 

「おい、行幸みゆき、おい!起きろ! 行幸みゆき

 

 店長が軽く揺すっていると「うーん」と言う声を出して行幸みゆきが目を開く。

 

「おお、行幸みゆき! 起きたか!」

 

 店長の顔を見てびっくりしたのか、行幸みゆきはきょとんとした表情で、何があったんだ? と言わんがばかりの表情で状況を確認した。


「えっ? な、なんで?」 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 

 ここは何処だろう……

 何も見えない……

 俺はどうしたんだろう?


『・・・・・・・き』


 何だろう……誰かが俺を呼んでる声が聞こえる?

 

「おい、行幸みゆき…」

 

 待ってくれよ、俺はここに居るからさ……今から起きるから。


 行幸みゆきはゆっくりと目を開いた。

 

「おお、行幸みゆき! 起きたか!」

 

 目を開いた行幸みゆきの視界には店長とすみれの顔が飛び込んできた。


 っていうか……何でこの二人がここに!?

 あれ? 確か……俺はこの部屋で気を失って……それでどうしたんだっけ?

 

行幸みゆき? 大丈夫? ねえ? わかる? 私、すみれだよ」

 

 すみれが心配そうに俺を見ているんだけど……

 思い出せない……俺は何で寝てたんだっけ……

 

「おい、行幸みゆき、どうなってるんだよ? 俺が携帯に電話したらお前じゃなくって変な女が出るし……多分そこの女だと思うが……あとあれだ! すみれが電話すると今度は誰も電話に出なかったらしい。だから俺とすみれはお前が心配で様子を見に来たんだ。そうしたら何だこれは? そこの女の子と行幸みゆきは一緒になって寝てるし」

 

 何? 電話した? そうか、俺が気を失っている間に店長とすみれは俺に電話をしてきてたのか?

 でもって何だ? そこの女の子って?


 行幸みゆきはふと横の見た。するとそこには妹の幸桜こはるが横になっているじゃないか。

 その瞬間に行幸みゆきは先ほどまで起こっていた出来事を一気に思い出した。

 

「そうだ! リリアは!? シャルテは!?」


 唐突に部屋を見渡す行幸みゆきすみれが逆に動揺する。

 

「な、何? どうしたのよ行幸みゆき? リリアとシャルテって誰? 何なの?」

 

 横で気を失っていた幸桜こはるが目を覚ました。

 

「うーん……」

「こ、幸桜こはる?」

 

 行幸みゆきは咄嗟に幸桜こはるの名前を口にした。

 幸桜こはるは名前を呼ばれたからかなのか、行幸みゆきの方を見る。

 

「え? な、何!? 何があったの? っていう何で人が増えてるの? どうなってるの? 確か私は体がしびれて……あれ? あれれ?」

 

 幸桜こはるは混乱状態に陥っている。

 

「おい行幸みゆき、この子は何だ? お前の何なんだ?」

 

 店長が幸桜こはるを見ながら行幸みゆきに問いかけた。

 

 そうか、店長もすみれ幸桜こはるを知らないんだ。

 そして幸桜こはるは店長とすみれと面識が無いんだ。

 

「え、あっと……こいつは俺の妹で幸桜こはるって言うんだけど」

「え? い、妹!? この子は本当に本物の行幸みゆきの妹なのか?」

 

 店長とすみれは信じられないという表情で幸桜こはるを見た。


 本物ってどういう意味だよ! よく意味がわかんねーし!


 幸桜こはる本人は目を点にしてじっと行幸みゆきを見ている。

 

「何なの? 何を言ってるの!? 私は貴方の妹なんかじゃないから!」

 

 そうだった。幸桜こはるは混乱真っ最中というか女になった俺を兄貴だとまだ理解が出来てないんだ。

 そりゃそうだよな、女になったって説明もしてないし、理解出来ないのは当たり前だよな……ちゃんと説明しないと。


 行幸みゆきがそう考えて幸桜こはるに説明しようとした時だった。

 幸桜こはるがいきなり顔を真っ赤にして頭を抱えながら叫びだした。

 

「も、もしかして貴女と行幸みゆきは既に籍を入れているとか!? じ、実は……け、結婚していて……そそそそ、それで私を妹とか言ってるとか!」

 

 おい待て! どうしてそういう解釈になる!


「わ、私は認めてないからっ! 貴女をお姉ちゃんって呼ばないんだからっ!」

「馬鹿か! 何で俺がお前に報告も無しで結婚するんだよ! というか待て! 俺に先に説明させてくれ!」


 幸桜こはるの動きが止まった。

 

「……説明って何? 何の説明なのかな? もしかして行幸みゆきとの関係の話? 結婚相手じゃないとすると……友達? 彼女? それとも……もしかして……か、体だけの関係とか……俗に言うセ・・・セフレなの!?」

 

 幸桜こはるは茹で上がった蛸のように顔を真っ赤しながらとんでも無い事を言っている。

 よく見れば店長やすみれまで顔が真っ赤になっている。っていうか俺もすっげー顔が熱い!

 やばい! やばいぞ! ここは俺が行幸みゆきだと早く説明しないと!

 

「聞け幸桜こはる! 俺だ! 今は女の姿だけどお前の兄貴の行幸みゆきなんだよ! 正真正銘のお前の兄貴なんだよ!」

 

 幸桜こはるは首を横にふった。


「嘘だ……貴方が行幸みゆきな訳ない」

「俺が行幸みゆきなんだって!」


 すっと右手を伸ばした幸桜こはる

 柔らかい行幸みゆきの頬に触れると無表情な笑みをつくった。

 

「あの……いいですか?」 

「な、何だよ……」

「大変申し訳ないのですが、そのようなリアリティの無い嘘はやめて頂けますでしょうか? 私なら大丈夫ですから……例え貴女が行幸みゆきのセフレであっても……私は……私は受け入れます……ぐす……ぐすぐす」

 

 幸桜こはるは目に涙を浮かばせた。

 

「こ、こら待て! だから俺はマジで行幸みゆきなんだって! セフレなんかじゃない! だいたい俺にこんなに可愛いセフレがいるはずないだろ! いたら本気で俺は喜んでる! 幸桜こはるならわかるだろうが! 俺はゲームオタクなんだよ! モテナイ男なんだよ! 彼女なんて出来ない男なんだ!」

 

 ああ、モテナイとか彼女なんて出来ないとか自分で言うとなんかすっげー悲しくなるな……


 ここで行幸みゆきは突き刺さるような視線に気が付いた。

 ふと見上げるとそこには蔑んだ目で俺を見るすみれの姿。

 しかも、目は潤んでいて頬を膨らませているのは何故だ?

 

「み、行幸みゆきの馬鹿……」

 

 何だ? なんですみれにまで俺が馬鹿って言われなきゃいけないんだ?

 

「馬鹿って何だよ? なんで俺がすみれに馬鹿って言われないといけないんだ?」 

「あんたが鈍感馬鹿だからに決まってるじゃん!」


 俺が鈍感馬鹿!? え? よく意味がわかんねぇ……

 あれだぞ? 俺は恋愛ゲームで鍛えた感性の持ち主なんだぞ? 鈍感な訳ないだろうが。と、不遇な言い合いをしても仕方ないな。

 ここはぐっと押さえよう。

 

「ま…まぁいいさ……良くないけどさ。いい……というかさ、あ、あれだよ。すみれと店長も幸桜こはるに俺が行幸みゆきだって言ってくれないか」

 

 行幸みゆきがそうお願いすると店長は行幸みゆき顔をじっと見返した。

 

「な、何だよ店長?」

「お前にもう一度確認しておきたい事がある」

「確認? って何ですか?」

「本当にこの子はお前の妹なのか?」


 店長の目は疑っている目だった。

 

「な、何ですか!? 俺を疑ってる系? マジです! マジでこいつは正真正銘の俺の妹の幸桜こはるだから!」


 店長は小さく微笑んだ。

 

「よし、わかった……信じよう」

 

 そのまま店長はゆっくりと幸桜こはるの前にしゃがみ込むと、少し怯えている幸桜こはるに向かって笑顔で話しかけ始める。

 

幸桜こはるちゃんだっけ? 大丈夫だ、俺は行幸みゆきの働いているバイト先に店長だから。ほら、この声を覚えてないか? さっき俺と携帯で話をしたじゃないか」

 

 店長の話を聞いた幸桜こはるはハッとした表情になった。

 

「そ、そういえば……この声はあの電話の人の声?」

「ははは。覚えててくれてありがとう。でね、行幸みゆきの事なんだけどさ、ここにいる女性……本当に行幸みゆきなんだよ。嘘じゃない、本当に……」

「嘘ですよね? 冗談ですよね? 店長さんも行幸みゆきと一緒になって私をからかってるんでしょ? 本当の行幸みゆきは何処なんですか?」

 

 幸桜こはるは辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

幸桜こはるちゃん……冗談ならいいんだけど……これって冗談じゃないんだよ……行幸みゆきは訳あって女の子になっちゃったんだよ……それが現実なんだ」

 

 幸桜こはるはゆっくりと行幸みゆきの方を向く。そして二人の視線が合った。

 行幸みゆき幸桜こはるの目を見ながら小さく頷いた。

 

「えっ……う、嘘……じゃあこの女性が本当に行幸みゆきなの?」

 

 真剣に話す店長の言葉と行幸みゆきの真剣な顔もあって、流石の幸桜こはるも少しは理解をした様子だ。

 しかしその表情はまだ完全には信じきれていないという感じもある。

 いや、信じたく無いのかもしれない。

 

幸桜こはるちゃん……私だって信じたくなかったんだよ……行幸みゆきがこんな姿になっちゃうなんて……」

 

 すみれが震えるような声で言った。

 そんなすみれを横目に幸桜こはる行幸みゆきに向かって話しかける。

 

「あの……本当に行幸みゆきお兄ちゃんなんですか?」

 

 行幸みゆきは頷いた。


「ああ……」 

「やだ……そんなの信じたくない」


 不安そうな表情で口を覆う幸桜こはる

 

「でもな、これは現実なんだよ」 

「何で? 何で行幸みゆきがそんな姿になったの? もしかしてやっぱり嘘なんでしょ? そうよね? ありえないもん! 皆で私をからかってるんでしょ! 本当の行幸みゆきなら私の誕生日とか家の住所とかあれとかこれとか全部言えるはずだよ? 貴女は言えないでしょ!」

 

「全部……言えるけど……言えば信じてくれるのか?」

「嘘だ! 言えない! じゃあ私の血液型から答えてみてよ!」

 

 行幸みゆきはムキになって質問してくる幸桜こはるの問いに全て完璧に答えた。

 みるみる表情が青くなる幸桜こはる。声は振るえて手も震えている。

 

「じゃ……じゃあこれは解る? 私が小学校の時に大好きだったぬいぐるみの名前……わ、わからないよね? これはお兄ちゃんしかわからないはずだもん」


 行幸みゆきは微笑んだ。


「俺がUFOキャッチャーで取ってきた茶色い熊のぬいぐるみだよな? 確かおばあちゃんの家に行く途中で電車の中に忘れてさ、お前は後でずっと泣いてたよな。確か、あのぬいぐるみには名前は無かったと思うけど? つけていたのか?」

 

 幸桜こはるは口を空けたままガクリと頭を垂れた。


「やっぱ名前ないんだな? びっくりしたよ。問題で名前を当てろとか言うからさ」 


 行幸みゆきの優しげな言葉に幸桜こはるは耳を塞いだ。


「信じれないよ……何で……何でなの? 何で女の子になっちゃったのよ……」

「何でって…俺にもよく解らないんだ……だけど……」

 

 行幸みゆき幸桜こはるに昨日の夜に起こった出来事をすべて話した。そして、幸桜こはるは瞳を潤ませながら耳を傾けたのだった。

後書き人物紹介!⑪

リリア 年齢不詳 見た目は二十代前半

髪の色 銀色で腰まであるストレートヘア(現実世界でも同じ)瞳は透き通るような青色

身長 165センチ 行幸みゆきの予想では170センチの身長だが、実はヒールで高く見えただけである。

体重 ??キロ 容姿端麗でまるで女神?

シャルテの姉で清楚なイメージの女性で行幸みゆきを自分の作った世界?にいざなう。

魔法で仮想世界を構築できる程の魔力の持ち主。行幸みゆきの妹である幸桜こはるが自分の世界へ転送されてしまい、責任感ですぐに世界を消してしまう。おかげで行幸みゆきは男に戻る方法を聞けないで終わる。

この先の物語における重要な人物である。

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