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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第十二話 【俺の目の前にいた小悪魔②】・

 行幸みゆきすみれの手を握って自転車置き場へ向かって走った。

 目指す駐輪場は人通りの激しい大通りを横切り数十メートル離れた場所にある。

 行幸みゆき達は後ろを振り返らずに、とにかく全力で走った。

 いつもひっかかる信号が行幸みゆき達を待ち構えていたかのように今日は青へと変わる。そして普段は邪魔になる人混みが割れるように行幸みゆき達の通路を開く。それもあって二分で駐輪場へと到着した。


 行幸みゆきは到着してすぐに後ろを振り返る。

 息をきらしながら確認すると、そこにはあたり前のように人はいなかった。

 行幸みゆきは続けて駐輪場の中も見渡す。

 駐輪場には数人の人はいるが、ストーカーっぽい人物はいない。そして、先程のようなマニアックオーラを感じる人もいない。


「はぁはぁ…大丈夫そうだな」


 そう言ってふと横を見るとすみれが「はぁはぁ…」と息を切らしながらしゃがみこんでいるジャマイカ。

 左手で胸を押さえて顔色まで悪い。相当に辛そうに眉間にしわをよせている。


 何でこんなに苦しんでるんだ? 俺も苦しいけど、そんなになる程は苦しくないぞ?

 こいつ、パソコンとかやりすぎてるから運動不足なんだろう。


 じっとすみれを見ていると、突然行幸みゆきをジロリと睨んだ。その目を見て『ドキッ』とする行幸みゆき


 まさか俺が運動不足だって思ったのが解ったのか? ってそんな事あるはずないよな。こいつは超能力者じゃない。


「なんだよ?」

「はぁはぁ…なんだよ…じゃ…ないわよ! はぁはぁ…何で…全力…疾走…」

「あの場から逃げる為だろ?」

「あと…その…手…そろそろ…放してくれないかな?」

「あっ」


 言われ見れば、俺はずっとすみれの右手を握ったままだった。

 やばい、いまごろ女子の手をずっと握っていた事実に気がついた。

 …すみれの手って…思ったより柔らかいんだな。


「は…放してよ」

「あっ、ごめん!」


 行幸みゆきが手を放すと、すみれは数回深呼吸を始めた。

 何度か深呼吸をしている間に呼吸がだんだんと整ってくる。

 しばらくして、やっと落ち着いたのか、立ち上がり大きく息を吐いた。


行幸みゆき、もうちょっと優しくしてよね…私だって一応は女なんだから…」


 すみれはそう言いながら先ほどまで俺が握っていた右手をじっと見ている。

 まさかとは思うが、その表情は少し照れている様にも見えた。

 そして俺も自分の左手を見る。手にはまだすみれの手の感触が残っている。すみれの手は暖かく、そしてやわらかかった。そう、まさに女の子の手だった。

 女の子の手を握るなんて何年ぶりだろう? 俺が女を意思していなかった時代、そうだな小学校以来か? あっ…妹は除外だけどな。

 しかし、何で俺は躊躇ちゅうちょもせずにこいつの手を握ったんだ?


 じっとすみれを見ると目が合った。すぐに視線を外して耳を赤くするすみれ


 おい待て! 何だその態度は? やばっ…今更になって俺も恥かしくなってきた。


「ちょ、ちょっと! 聞いてるの?」 

「聞いてるよ。だからあれは、あれだ…あの場からお前を連れて逃げる為に無我夢中で握ったんだ。だから力加減なんて考えてる余裕はなかった。それだけだ」

「…私を連れて逃げる為?」

「だから、そうだって言ってるだろ?」

「………わ、わかったわよ。その件はもういい…でもね? 一緒に逃げた私が言うのもおかしいんだけど、別にあの場から逃げなくっても良かったんじゃないの?」


 はい? こいつは何を言ってるんだ?


「馬鹿か! お前は感じなかったのか? あの危険な視線を! お前だって「なんか視線が…」とか言ってたじゃないか」

「ああ、うん、確かに言ったわ。あの時はそう思ったから」

「じゃあ逃げるだろ?」

「逃げないよ。それと逃げるは別だから」 

「どうしてそうなるんだ? いや、マジであの視線は危ないって。あいつらに襲われたらどうするんだよ?」


 すみれ行幸みゆきの顔を見ながら「ふぅ」と溜息をついた。


「何それ? 危険な視線を感じたのは確かだけど、あの人達が襲って来るはずないでしょ?」

「な、何でそんな事が言える?」

「だって見た目こそマニアなオタクかもしれないけど別に犯罪者って訳じゃないじゃん。コスプレの時に来てくれる人も、見た目はちょっと危ない人もいるけど、でも内面はいい人が多いんだからね?」


 何という冷静モード。確かにすみれの言う通りかもしれないな。


行幸みゆき、人を見かけで判断するとか一種の差別だよ?」

「う…いや…それは…」


 これは言い返せない。

 考えてみれば俺が男の時の普段の格好はどうなんだ? 十分に怪しく見られそうじゃないか。

 という事は、俺もあそこにいた奴らと同じ立場になる可能性だってある訳だ。

 そう考えると…もし俺があいつらの立場だったら今さっき俺がやった事をどう感じた?

 目の前でいきなり『乳』とか叫んだ女が自分を見て逃げる。 

 なんで逃げるんよ! って思うよな?

 俺ってそんなに怪しいか!? って凹むよな?

 やばい…俺はとんでもなく申し訳無い事をしてしまったかもしれない。最低最悪な奴は俺だ。

 今から戻ってまでは謝る気は無いが…心の底では謝るよ。

 すまん! 同士よ! これでOKっと。


「そうだ。すみれの言う通りだ」


 行幸みゆきが深刻な表情になると、途端にすみれの態度が一変した。


「で、でもね? そうは言ったけどあれは私の意見だから。さっきの場面の場合だと、普通の女子なら危険な視線を感じて逃げると思うんだ」


 何でいきなり意見を崩す? そして、それは自分が普通じゃないって認めてるんだぞ?

 すみれの話はまだ続く。


「だから、えっと、行動的には完全に間違ってる訳じゃないと思うよ? でもね、何が言いたいかって言うと、行幸みゆきの反応はまさに女の子の反応だったという事なの。本当に本物の行幸みゆきなの? もしかして着ぐるみって疑いたくなちゃう位だよ」


 俺を落として俺を持ち上げるとは…何がしたい? で、最後の着ぐるみってなんだよ。


「あのな? 俺は本物の行幸みゆきだ。で、俺の反応が女の子だって言うが、あれは今の俺が女だからだから、女のとしてあのシチュエーションの時は逃げるべき。レイプなんてされたら最悪だって恐怖感が先行したからだ。店長のあの件もあったからな」


「なるほど…そうね…でも結局それってやっぱり自分を女として考えたって事でしょ? あと、あそこでレ…レイ…襲う人なんて犯罪者以外いないから。ちょっとエッチなゲームのやりすぎ」

「なっ? いや、わかんねーだろ? 世の中は何が起こるか何てわからない!」

「…まぁそうだけど」


 すみれの表情がまた急に変化する。今度はすごく寂しそうになった。


「ねぇ…やっぱり体が女になると心も女になっていくのかな?」


 何だ急にまた!?


「いやいや、そんな事は無いだろ? さっきのだって確かに反応は女っぽかったかもしれないが、だけど完全に『女』として意識した行動じゃない。男の俺が女をやらされているからこそああいう行動に出たんだ」

「…なるほどね…そういう考えもあるんだ」


 そう言いながらすみれは小さく頷いた。

 俺の言いたい事を少しは理解出来たのか?


「でも、やっぱり逃げる必要は無かったと思う」


 やっぱりこいつ解ってないな。


「おい、すみれ、元を正せばお前が悪いんじゃないか。いきなり『乳』とか言うから」

「何それ? どうしてそうなるの? 私は『乳』だから『乳』って言っただけじゃないのよ! それとも何? その『豊満な乳房』が垂れるよ。とでも言ってほしかった訳?」


 またキャラが変わった!?


「ち、違う! そういう意味じゃない! そういう事を露骨ろこつに言うなって事だ!」


 行幸みゆきがそう言うとすみれはムッとした表情になった。

 そして眼鏡の縁を右手で持ちながら行幸みゆきを睨む。


「な、何だよ? そんなに睨むなよ」


 今度は両手で顔をおおってうつむいた。


行幸みゆきの…馬鹿…」 

「お、おい…馬鹿って…」

「私は…行幸みゆきの事を考えて言っただけなのに…そんなに強く言わなくってもいいでしょ……ぐす」


 すみれは小さく肩を震わせている。そして鞄からハンカチを取りだした。

 何だよ。こいつ泣いてるのか? 何でここで泣くんだよ。俺はそんなに酷い事を言ったか? 言ってないだろ…


「おい、すみれ?」


 しかし返事が無い。ただの屍の…って違う。


すみれ?」


 うーむ…やっぱり返事をしてくれない。これは謝らないといけないフラグなのか? しかし何で俺が謝るんだ?

 今日のすみれはマジでおかしい。感情がむき出しというか…これほど喜怒哀楽が激しい奴じゃないと思うんだけどな…


 しばらくすみれ様子を伺ったが、ずっと俯いたまま。この場の空気がかなり悪い… 

 ……そうだよな…俺も男だ…そしてこんな奴だけど一応は女だ。

 やっぱり男が女を泣かしたらダメだよな…ここは俺が折れて謝るか…納得はいかないが…


すみれ、わかったよ、俺が悪かった…強く言ってすまん」


「ぐす…本当にそう思ってるの?」

「ああ、本当だ。悪かったよ」

「じゃあ…下着もちゃんとつけてくれる?」

「え? 下着? えっと…つけた方がいいのなら…か、買うよ…買えばいいんだろ…」

「ぐす…うん…」


 すみれは相変らず俯いたたままだ。


「えっと…明日だよな…明日か……あれだ、俺は、その…下着とか…服とか…そういうのを買うのにどういうのを選べばいいかわからないし…すみれ、買い物につきあってくれよ…」

「……買い物…私が必要なの?」

「あ、ああ…俺一人じゃ買えないし、女物なんて俺にはわかんねぇし」

「………仕方ないわね…付き合ってあげる…」


 すみれはゆっくりと顔を上げた。


「…で…俺はどうすればいいんだっておい!」


 何で満面の笑み!?


「えっとねっ! 私がスケジュールを組み立てるから! そうね! 今日の夜にでも電話するからさ!」


 マジでこいつについていけねぇ…もういいい。取りあえず合わせとくか。


「了解…じゃあ俺は電話を待ってればいいんだな? ちなみに、さっきの涙は嘘泣きって事でいいのか?」

「さて、記憶にございませんが?」

「いやいやすみれさん。さっき泣いてましたよね?」

「記憶にございません」


 やっぱり嘘泣きかよ…くそぉぉぉ…すみれに騙された…

 これが女の武器っていう奴なのか…なんという卑劣な…この小悪魔め…


「おい、すみれ…俺はそういう人を騙すような行為はダメと思うんだが?」

「じゃあ後で電話するからね! ゲームに夢中になって気が付かないなんてないようにね! じゃあまたねー!」


 すみれは俺の話を聞かず、言いたい事だけ言うと自転車置き場から走って出て行こうとする。


「おい! ちょっと待て! 俺の話を聞け!」


 行幸みゆきの声が聞こえたのか、すみれは自転車置き場を出た所で立ち止まった。そして振り向く。

 行幸みゆきは確認すると慌ててすみれに駆け寄った。


「おいすみれ、嘘泣きとか無いだろって言ったんだ。何か言う事はないのか? 今日のお前は…」


 行幸みゆきの話の途中にも関わらず、それを無視して一方的に話を始めるすみれ


「そうだ! 言い忘れたけどお買いものに付き合うお礼はランチゴチでいいからね!」


 そう言い残してすみれは凄い勢いで駅の方向へと走り去った。


「お、おい! ちょっとまて!」


 行幸みゆきの懸命の叫びも時は既に遅く、すみれの姿は既に見えなくなっていた。


「な、何だよあいつ…自己中すぎだろ!」


 何だかすごく悔しい。悔しいけど自分が情けない。


「でもあれか…明日はすみれと買い物に行く事になってしまったのか…しかもあいつにランチをおごるとか。何でそうなるんだ? しかしまぁ、確かにこんなにダブダブの服をずっと着るのもあれだし、下着だっているのか? な?」


 もにゅっと自分の胸を揉んで見る行幸みゆき


「き、きっと必要なんだ…そうだ…って考えよう…」


 行幸みゆきは釈然としないまま自転車を漕いで自宅へと向かった。 


 それにしても嘘泣きとか普通するか? 健全な男子を騙して何が面白いんだ? 俺って素直でいい奴だし、このままだと女に騙されて不幸な人生を歩んでいきそうだな。

 マジでやばい。これを教訓にしてこれからは女の騙しテクには気をつけないと。

 そんな事を考えながら今度は泣いていた時のすみれを思い出す行幸みゆき


 でも、あの時はマジで涙が出てたよな…あれが嘘泣きなのか? マジ泣きに見えたんだけど…わかんねぇ… 

 それにしてもどうして今日のアイツは俺にこんなにもチョッカイを出してきたんだ? 俺が男の時はこんなにチョッカイを出してこなかったのになぁ。


 ………


 あいつ実は心配性なのか? お節介やきとかなのか? それとも女になった俺の事が好きなのか? 無いよなぁ…わからん…全てにおいてわからん。


 ……… 


 態々《わざわざ》嘘泣きまでして俺と買い物に行きたいとか普通はしないだろ?

 あいつ何かを企んでいるのか? それがランチを奢ってもらう事なのか?


 ………


 俺の妄想は尽きない。

 色々な妄想をしているとふとメイド姿の格好をさせられていた事を思い出した。

 まさか…すみれは俺にコスプレをさせようと思ってるんじゃないよな? 買い物とかいいつつ危険なコスプレショップに連れて行って俺を変な道へと誘い込む気じゃ…って疑っても仕方ないか。

 まぁ…とりあえずはなりゆきに任せよう。もし俺の不利になるような状況になったら逃げればいいしな。

 とか考えているうちにアパートに到着。


 行幸みゆきは夕暮れのアパートを見上げた。とは言っても夕日はまったくアパートには当たっていない。

 目の前にあるのは薄暗く首都高のほぼ真下にある外に洗濯物すら干せないアパート。

 日当たりは最低。

 騒音は抜群。

 まじで腐ってるアパート。でも仕方ない。なんせ家賃が激安だから。

 ちなみに、このアパートには独身のオタク系男子しか住んでない。

 ちなみに引っ越して来た時に全員の容姿は確認済だ。住人の数人とは今でもたまに話をしている。

 俺の想像だが、全員きっと彼女もいないし女に縁のない人ばかりだろう。

 人は見かけによらないと言うが、多分俺の予測は当たっていると思う。


 そういえば隣の六号室のあの人…この前の夜にアダルトゲームだと思われる音声が思いっきり俺の部屋まで聞こえてきてたよな。

『あ、あーん…』とか『私の×××に…』とか…

 それって普通のアパートだとクレームじゃ済まないだろ。でも俺の住むアパートでは通用する。


 ………


 ちょっと待てよ? 今俺は重要な事に気が付いた…

 そうだ、今の俺は女子! このアパートの男子に俺の事がばれたらどうなるんだ? もしも住人が皆で俺の部屋に押しかけてきたら?


 (行幸みゆき妄想モード突入)

 俺はまず口を押さえられる。そして手を後ろで縛られ…

 数日にわたり拉致監禁されてあんな事やそんな事を強要させられる!?

 そうだ、あのゲームの展開みたい玩具にされて…

 もしそうなったら? 無理矢理エッチな事とかされたら俺はどうなるんだ? いや、あれより酷いパターンもありえる…


 【ハードに妄想中】


 うわあああああ! やめてくれー!


 【頭をかかえてアパートの前で叫ぶ変な女の図】 


 ちょ、ちょっと待て……俺は何を変な妄想してるんだ…

 さっきの件もあるだろ…あまり人を疑うなよ…

 そ、そうだよ。彼らもきっと俺と同じ健全な男子なはずだ! 変な事なんてはしない! そうだ、人を信じるんだ!


「彼らなら大丈夫、彼らなら大丈夫、彼らなら大丈夫…」


 おいまて! 俺はシン○か! って自分でツッコンでどうする…

 …そういえば俺って健全だっけ?


 【健全じゃないと自覚するオタク】


 行幸みゆきは自転車に急いで鍵を掛けると慌てて自分の部屋へと入った。


 

 ☆★☆★☆★☆★☆


 

 行幸みゆきはアパートの部屋に入るとまず真っ先に玄関の鍵を閉める。

 よし、これで安心だ。


 安心した所で次の行動はパソコンの電源を入れる事。

 行幸みゆきはパソコン起動の優先順位が高い。何よりも先にまずは電源を入れる。

 電源ボタンを押すと『ピッ!』という起動音と共にパソコンのファンが動き出した。そして次に部屋の電気をつけてお湯を沸かし始める。

 お湯というのはヤカンの事。フロなど後でいい。いざとなれば入らなくてもいい。


「今日は何にしようかな…」


 そう言って開いたキッチンの上の袋の中には大量のカップ麺が入っていた。

 行幸みゆきはその中から今日の晩ご飯をチョイスする。これは何時もの作業。そう、夜はカップ麺が基本だ。 


 昼を食べてないしな…ボリュームがある方がいいよな…


 行幸みゆきは袋からワンタン麺、麺二倍増量を取り出した。 

 お湯は一人分だから速攻で沸く。それを素早くカップ麺へ入れる。

 入れたカップ麺の上に割り箸と後入れスープを載せてから、それをパソコンの机へと置く。


 ラーメンを避けつつ、ウィンドウズの起動画面でパスワードを入力。パソコン起動完了。ディスクトップが表示された。

 ちなみに言っておくが、背景画像はアニメとかエッチ画像とかじゃないぞ? いや、嫌いじゃないが、たまに妹がくるからな…


 行幸みゆきはディスクトップからメールのアイコンをクリックする。


 相変わらずくだらない勧誘メールがいっぱい来てるな。

 あれ? 何だこれ?

 大量に来ているメールの中に無題のメールが一つある。

 無題はよくある事なのだが、何故か迷惑メールに振り分けされていない。何故だ?

 行幸みゆきはウイルスチェックをしてからそのメールを開いてみた。 

 何だ? これって中国語か? 

 内容は色々と書いてあるが、中国語か知らない文字で読めない。


 もしかしてこの前のアダルトサイト? 確かあれって海外アダルトサイトで、瞬間的に中国語のサイトに飛んだよな…

 まさかあの時にスパイウェアでも仕組まれてメールアドレスを吸い出されたのか?

 確かこの前チェックした時にはスパイウェアなんて感知しなかったが…

 まぁいいか…ウイルスも無いし。

 よし、中国語なんてわんねーし、放置だ! どうせ請求なんて来ないだろうし、来ても架空だろ。

 後はっと…その他はに目立ったメールは無いな… 


 次はMMOの起動だ。アイコンをダブルクリックっと… 


 ディストップにあるMMOのアイコンをダブルクリックすると起動メニューが開く。

 そして告知事項などがあればその時に表示された。

 今日は需要なお知らせが出ている。


『アップデートファイルがあります。臨時メンテナンスを行います』


 何だ? 通常のメンテナンスは明日だろ? 何で今日なんだ?

 えっと…十四時から十五時迄の予定って、もう終わってるな。

 アップデート内容は何だったんだ?


『昨日、販売した強化アイテムの性能がゲームバランスを崩すとのご意見が多数来ております』


 そりゃそうだろ…


『弊社の対応としまして、昨日販売したアイテムは…』


 まさか効果を無効にするつもりか? そうなったら俺が持ってる分は現金で払い戻しして貰わないとな。

 と言っても俺が買った訳じゃないんだけど…


『調べた所、販売数が十個未満でした。ですので効果はそのまま残します。ただし、今後は販売の予定がございません。ご購入を健闘されてましたプレイヤーの方にはご迷惑をおかけしました』


 そうか、回収とかは無いのか。しかし、ゲームバランスを崩すアイテムでも、販売数が少しならいいのかよ。運営が良いのならいいんだろうけど…

 まぁ確かに普通の奴だったらあの金額のアイテムはなかなか手が出ないよなぁ…


 ん?まだあるぞ…


『転売や取引などが出来ないように設定しました』


 なるほどね…まぁ転売する予定なんてないし、使うのも勿体ない位だしな。当分は倉庫の肥やしになるのかな…

 でもフロワードの奴、「どうだった? みゆき?」とか聞いて来るんだろうな。

 まだ使ってないって言えばいいか…


 お…アップデート完了!

 パスワードを入れてっと…よし起動!


 起動すると二十四型ワイド液晶ディスプレイの画面いっぱいにMMOの画面が表示された。所謂いわゆるフルスクリーンという奴だ。


 という所でカップ麺にお湯を入れて三分経過したな。よし、いつものように食べながらやるか…う…ん? な? 何かがいつもと違って食べずらい…

 俺はいつもカップ麺を左手に持ち、そして脇を締めてから食べている。 

 食べずらい理由。それは胸が邪魔だから! と言うか、待てよ…おい俺…


 行幸みゆきはカップ麺を机に置いて立ち上がった。


 待て、俺…よくよく考えたら何で部屋に戻ってからすぐにパソコンつけてカップ麺つくって普段の日常と同じ行動をしているんだよ…

 俺は女になったんだろ? それを解決する方法を真っ先に探さないといけないんじゃないのか?


 そうだよ!その通りだ!

 じゃあその為には何をすべきかを考えろ…まず何をする…何をするべきか…の前にカップ麺がのびる。

 そうだ、食べながら考えよう…のびたらまずいしな…


 行幸みゆきは椅子に座るとカップ麺を再び左手に持った。


 しかし…どうするかな…女に戻る方法なんてそう簡単に見つかる筈もないし…

 すみれは今頃何をしてるのかな。無駄にググってるのかもしれないな。

 ふとMMOの画面を見ると同盟チャットで挨拶をされている。画面の右端にあるメールアイコンが点滅している。 

 行幸みゆきは同盟チャットで挨拶を返す前に、メールのアイコンをダブルクリックした。すると二件のメールが届いている。


 一つは『同盟オフ会のご案内』 

 もう一つは『男に戻る方法』

 以上二件だ。

 って待て! 男に戻る方法だと!?


 行幸みゆきは慌てて差出人を確認する。


 無名だと!?

 このゲームのシステムだと無名でメールなんて送れないはずだぞ? ゲームのシステムを無視したメールを送れるのは運営の人間か…まさか…昨日のあいつか? 

 行幸みゆきはそのメールをダブルクリックした。

 するとその瞬間、俺の体に電撃のようなものが走る。


「痛い! いたたたた!」


 痺れた左手からカップ麺が落下。ばしゃっ!という音と共に床に散乱した。だがそれ所じゃない! やばい、昨日の電撃の比じゃない! すげー痛い!

 くそ…意識飛びそうだ…ぐ…ダメだ…


 行幸みゆきはよろよろと椅子から立ち上がると懸命にベットの方へと歩く。


 な…んだよ…くそ… 


 そしてベットまであと少しの所で目の前が真っ白になり、そのまま意識を失った。


 続く

高坂行幸が駐輪場を借りている理由

以前はお店の横に自転車を停めていたのだが、ある日盗難にあってしまう。

それから行幸みゆきは駐輪場を借りるようになった。

ちなみに交通費はお店から支給で、ちゃんと両国から秋葉原までの定期代金を貰っている。

乗っている自転車は9980円で購入したママチャリ。

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