シャルテエンド そのⅥ(全6部)
「な、何で俺が女になってるんだよ!」
今まで以上に慌てふためく行幸。
着ていた男ものの服がダボダボになっていた。
『あら? 先ほど行幸さんが言っていたのですよ? 女に戻ってもいいからシャルテに残ってほしいと』
行幸の口がパカンと開いた。
「た、確かに言った…」
何を考えているんだよ! 天使長は!
これじゃあ僕の決死の大作戦が水の泡じゃないか。
僕は残る事なんてまったく想定してなかったんだぞ?
『シャルテ』
「なななななな、何だよ」
『貴方こそ素直になりなさい』
「すすすす素直? だぞ?」
ヤバイ、緊張と動揺でラッパーみたいになってる!
『シャルテは行幸さんが好きなのですよね? ずっと一緒にいたいのでしょう? なのに自己犠牲のつもりなのですか? シャルテ。貴方は自分の気持ちを押し殺して逃げ出すのですか?』
「逃げてない! 僕は恋愛担当の天使だから…職務を全うしようとしただけだ!」
『嘘つきですね。例えそうだとしても、シャルテ、あなたは天使にはなれない。だって行幸さんが好きで、きっと忘れるつもりはないのだから』
全部…お見通しかよ…くそ…くそぉ…
「リリア! 俺は最終手段として女になってもって言ったけど、何でいきなり予告もなしで女になってるんだよ!」
『それは、それしか手段が無かったからです。という事にしておけと天使長様が言ってました』
うわぁ…天使長が完全に仕組んだのか…半端ないな。
「あいつか! あつの策略かよ!」
『策略ではありません。そういう判断だったというだけです』
「しかし…うーん」
『もう終わった事ですし、諦めましょうね、行幸さん』
リリア姉ぇが屈託のない笑顔で行幸を見ている。
リリア姉ぇ…すごいよ…姉ぇは…
「終わったって! 勝手に終わらせたんだろうが! もう少し選択肢を選ばせろって!」
『選択肢? これはゲームではないのですが?』
「ゲームじゃねぇのは解ってるよ! でも、いきなりこれは…俺も覚悟を決める前だったし…」
『あらっ? では、覚悟も決めていないのに、その場の気分でシャルテをここに残れと? 俺が女になってもいいとおっしゃったと?』
顔がカーっと真っ赤になる行幸。というかリリア姉ぇがすごい突っ込む。
「…わ、解ったよ…解った! 俺の責任だし…ここは妥協…したくないけど…する」
「おい、いいのかよそれで? 何なら僕が天使長様に直談判してもいいんだぞ?」
そうだ。これでいいなんてない。
僕は本当は天界に戻るはずだったのだから。
天使長様に僕のシナリオをボロボロにされる理由はない。
だったら僕が天使長様に言ってやる。
「もういい。女でいいや」
「な、何だよそれ? さっきまで嫌だって言ってたじゃないか」
「まぁ…嫌は嫌だけどな」
「じゃあ…」
「俺は男として責任は取る。こういう形でも、天使長は俺にもう一度見直す機会を与えてくれたんだろ? だったらそれを良い方向に取るしかないだろ」
何だよ? 何でポジティブになってるんだ?
「ん~っと…それにな? 女になったら…いいこともあるぞ? ほれ…これとか触り放題だし」
そう言って大きな胸をぽよんぽよんと掴んで揺らす行幸の馬鹿。
こんな状況下で何をやってんだよ! 何を考えてるんだよ!
「このどスケベがっ!」
僕の目の前で菫が行幸の頬を叩いた。
もう一度繰り返そう。菫が行幸の【頬】を【平手打ち】しました。
「痛たたた…」
「変態! すけべ! おっぱい星人!」
「何だよ! 俺の体なんだから何をしてもいいだろうが!」
「だめっ! 行幸は男なんだから…駄目なの!」
「男は女の裸体に興味があるのが普通なんだよ! それに俺はこの体の事なら隅々までもう知ってるっていうの!」
そう言った瞬間、今度は幸桜が行幸を叩いた。
もう一度繰り返そう。幸桜が行幸の【頬】を【往復びんた】した。
「こ、幸桜!? 何するんだよ!」
「だって…女の裸体に興味があるんなら私の裸体も見てよ! それに何? 隅々まで知ってるって…どういう事なの? そうだ! 行幸が女性だった時に、鏡で何かしようとしてたよね…ま、まさか?」
行幸の苦笑がすごい。
もう言葉が出てない。
まさに修羅場。何でだろうか修羅場になっている。
「いや、えっと…幸桜の裸は…何度か…拝みました」
「えっ?」
真っ赤になる幸桜。そして両手で顔を押さえた。
「こ、幸桜ちゃんに何をしたのよ!」
「いや、菫? 何もしてない! 見ただけ!」
という僕は思いだした。
僕は…行幸の裸体を見ている事実を…
そしてエッチな事をしてしまったあの記憶を…
「お、落ち着け! お前ら落ち着け!」
そして…5分が経過した。
落ち着いた。
僕は全員の顔を見渡して溜息をついた。
「お前ら馬鹿だな」
「ああ、馬鹿だよ。だから…こんな馬鹿な俺だけど…お前を絶対に恋人に出来る訳じゃないけど…もう一回シャルテを含めてリスタートさせてくれないか?」
「何だよ、まるでゲームじゃないか」
「ああ、そうだな。何だかんだとゲームだよな」
「ちゃんと結果…出せるのかよ? 同じエンディングに辿りつくんじゃないのか?」
「いや、同じにはならない。だって、あの時と今とは皆の気持ちが違うからな。変わらないのは俺はへたれで優柔不断という所だけだ」
そこを威張っていうか…でも…
「………仕方ないな」
「そうだよな? 仕方ないよな?」
「僕はこんな事をする為に天使に生まれた訳じゃないんだけど…」
「そうだな」
「仕方ないから…付き合ってやるよ」
「…サンキュ」
どうしてこうなるんだろうか?
何でこうなったんだろう?
この世の中って読めない事ばかりだ。
それとも僕がまだまだ未熟なんだろうか…
『では…私は戻りますね』
「リリア姉ぇ…また迎えにきてくれ」
僕がそう言うとリリア姉ぇはニコリと微笑んだ。
そして…
《迎えには来ませんよ? だってシャルテは行幸さんと幸せな一生を送るのでしょ?》
なんて思念を残して消えた。って…なななななな何だよそれ! ぼ、僕は…
《行幸さん、ゲットだぜっ!》
そのフレーズ…
《では…さようなら、シャルテ》
リリア姉ぇは光になって消えた。
「…みんなごめん…こんな事になってごめん!」
行幸が皆に頭を下げた。すごく真剣に頭を下げた。
本当に…こいつは馬鹿だな。
「本当だよ…でも、今度はちゃんと私を選ばないと殺すからね」
幸桜は笑顔でそう言った。
「………正直…私は動揺しているし、迷ってる。でも…私は今でも行幸が好き。これは事実…だから…今度は私を振る時は、完膚無きまでに振りなさいよ?」
菫がそんな事を言った。そして…
「でも…私を彼女にしてもいいから…ね?」
なんてぼそりとつぶやいた。
そして僕は…
「まったく…行幸、今度こそちゃんと選べよ?」
なんて言っておいた。
そして再び喫茶店へと戻る。
今度は四人で。
道中、幸桜が僕の耳元でつぶやいた。
「私…シャルテさんには負けないですからね? 正直強敵だけど…一度は選んでもらったんだもん。今度も絶対に選んでもらう。ううん…今度こそちゃんと選んで貰いますからね」
そして今度は菫が僕の耳元でつぶやいた。
「シャルテさん…私は貴方に感謝してないからね? でも感謝してる。まぁ…そういう事だから…そして、うん。私、ちょっと本気だすからね? 貴方には負けない」
そう言うと笑顔で行幸の腕を掴みに行った。
有言実行とはこの事なのか?
そして僕は…僕は…
心の鎖は正直まだ切れない。
どこかに足枷があって前に進むには時間がかかるかもしれない。
でも…僕は…自分の気持ちをもう行幸には伝えているんだ。
そう、僕も行幸と幸せになりたい。
そう思っているんだから。
しかし…行幸は僕の容姿が何度も変わっているのに何でそこには抵抗感がないんだ?
もしかして行幸って女なら誰でもいいのかな? エロゲーマーだし…(全国のエロゲーマーに謝れ)
あれか。真相は行幸しか知らないって事でOKか。
「シャルテ~早く来いよ」
「ああ、行幸、僕の事は『ゆりか』って呼んでもらえるかな? 僕は今は聖崎ゆりかっていう名前だから」
「えっ? ああ、そっか。じゃ、じゃぁ…ゆ…ゆるか」
「ゆりかだっ!」
まぁ…細かい事を気にしちゃ駄目だよな。
うん♪
終わり
あとがき
『どうしてこうなるんだ!』を執筆初めてから3年の月日が流れました。
途中で何度も挫けそうになったりしましたが、ここまで来る事が出来ました。
一度は完結したとか言っておいてまた書いてごめんなさい。
そして、読者の皆様は菫はどうした! 菫エンドが無いじゃないか!
なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。
まぁ…そうですね…うん。(答えになってない)
菫エンドを書くのならば、シャルテエンドから先かなって思っています。
シャルテエンドはシャルテが行幸と恋人同士になるまでには至ってません。
しかし、シャルテエンドで初めて行幸へ想いを本気で伝えるシーンを入れました。
幸桜と菫はデートがあったんですが、シャルテは何もありませんでしたので、ここでシャルテにも頑張ってもらいました。
そして、行幸にも好きと言ってもらえて…幸せでしょうね。
行幸は最終的にはハーレムエンドになっちゃいましたが、この先には必ず誰かを選択しなければなりません。
そして、今度はタイムリミットはありませんのでいつ男に戻れるやら…
最終的にどうなるかは読者の皆様のご想像にお任せしましょう。
方向性ではどのヒロインにも転ぶ可能性がある訳なので。
リリア? ああ、リリアね…
まぁ…あるかもしれませんよ?(笑)
そんなこんなで、続きは書く予定はありませんが、またこういう感じの小説を書いてみたいと思います。
(それとも続きを見たいって思う方がいるのでしょうかね…)
『俺が魔法少女ルナだ!』と『ぷれしす』も宜しくお願いします。
それでは、失礼いたします。
2013年12月10日
みずきなな