シャルテエンド そのⅤ(全6部)
俯いた僕に行幸は語り続ける。
僕の心臓はすごく激しく鼓動したままだ。そして顔がすごく熱い。
「お前ら天使に殴られるかもしれないけど、俺は菫とも幸桜ともシャルテとも両思いなんだ」
「ま、何だよそれ…どこのエロゲだよ…このハーレム展開」
「あはは…確かに…エロゲみたい…って! 何でも例えをエロゲにするな!」
「……だって…お前はエロゲが好きだし…」
「世の中の健全なる男子はみんな興味あるんだよ!」
「………行幸が健全とか…」
「なっ? 俺は健全だ!」
「…………ふっ」
「なんだその笑い方はっ!」
行幸は僕が俯いたせいか、緊張を解いてくれようとしているのか、会話の内容をわざと軽くしてくれた。
僕も少しだけ気分は楽になってきた。
でもまだ顔を見る事が出来ない。
「…だって…行幸なのに健全なんて…」
「いやいや、だから、俺は健全だ。俺が健全じゃなかったら、全国の男性は全員が健全じゃない」
いやいや、言い過ぎだろ。全国の男性に謝れ。
「まぁ…わかった…行幸がエッチだって事は…」
「おいっ! ……っていうかいいや。俺はエッチだし」
「……み、認めるな」
「いや、そうだから認める」
「むぅ…」
行幸の癖になんだか生意気だ。
「ちょっと話題はそれたけどさ…ともあれ…そういう事だから…」
「うん……ありがとう。嬉しいよ。行幸が僕を…うん…素直に嬉しい」
「だから残れ」
「駄目だ。僕は天界に本当に戻るんだ…」
「絶対にか?」
「絶対にだよ…」
「…じゃあ…俺が女になれば天界に戻らなくてもいいとかないのか?」
「なっ? 女になる? そ、そんな事が出来るはずないだろ? 何を言ってるんだよ馬鹿」
「でも…こうなったのは俺の責任だ。あの時の俺は男に戻る権利なんてまだなかったんだ。だから…最後の手段としてなら…女に戻ってもいいよ」
「そんなの…せっかく男になったのに…菫や幸桜が悲しむだろうが!」
僕がそう言った後、僕の視界に映る行幸の足元に女性の足が入ってきた。
「私は…嫌だよ? 折角行幸が私を選んでくれたのに、今更リセットされるのも、そして行幸が女になるのも…」
僕がゆっくりと顔を上げると、行幸の右からすっと姿をあらわした幸桜の姿が目に入った。
まさかと思い左を見ると、そこには菫の姿まである。
どうやら行幸が飛び出した後から追いかけて来たみたいだ。
「私も嫌だよ。本当に嫌よ。せっかく行幸との関係に踏ん切りがつきそうだったのに…」
そして、二人とも賛成はしてはいなかった。
そう、僕が残る事も、行幸が女になる事も賛成してないんだ。
「ほら、二人とも嫌だって言ってるじゃないかだから…」
そこまで言った所で僕の口が幸桜に押さえられた。
行幸ではなく幸桜に。
「でも…今の行幸は駄目駄目なんだよね。何を考えているのかわからなし、踏ん切りがついてないというか…私の好きだった行幸とちょっと違うの。だからこそ私は願うの。本気で私を愛して欲しいって…だから…シャルテさん」
そう言いながら幸桜は僕の目を見た。そして行幸へと視線を移す。それも笑顔で。
なんて強い子なんだろう。いや、強くなったんだろう。
「いや…俺は幸桜を本気で愛してるって…」
そしてこのシチュエーションで愛してるとか言う行幸。
へたれだったのに…こいつも成長してたのか? それとも取り繕ったのか?
「へぇ…私を愛してるの? 本当に? じゃあ、何で私の体をいつまでも清いままにしているの? 私は毎日が勝負下着なのに!」
先ほどまでの笑顔が消えたかと思うと、幸桜は頬を膨らませた。
「い、いや! 駄目だろ? そういうのは結婚をする相手とだな…」
「えっ? じゃあ行幸は私と結婚をする気が無いって事なの!?」
「い、いやっ!」
墓穴を掘ったな…行幸。
「結局は踏ん切りがついてないから私に手を出さないんでしょ! そういう所は固いよね? お兄ちゃんは…」
「お、お兄ちゃんって…行幸って呼び捨てでいいんだぞ?」
「やだ。ちゃんと恋人としてみてくれないのに呼び捨てなんていてあげない。今からはお兄ちゃんって呼ぶ」
「うぐぐ…な、何だそれ」
何だろう。こういうやりとりを見ていると心が和んでくる。
そういう和むシーンではないのに…なんでだろう。
「まったく、二人は仲良しだな。何で完全にひっつかないのか信じられないぞ。やっぱり行幸はへたれなのか? ちょっとだけへたれじゃなくなったかと思ってたのに」
僕がそう言うと、行幸は照れた真っ赤な表情で僕を見た。
面白い。楽しい。そしてやっぱり大好きだ。
でもやっぱり僕はもうここには居られない。
そろそろ時間かな…
「じゃあ…僕は戻るから、後はちゃんとやるんだぞ?」
「えっ? 戻るって?」
「天界だよ。さっきから言ってるだろ? それ以外に何処があるんだよ? 僕が行幸の家に戻って、僕の処女でも奪ってくれるのか?」
「なっ!? しょ、しょ、しょじょじ?」
お寺かよ!
すごい動揺をする行幸。すごく面白い。
そして、菫と幸桜も呆気にとられている。
まぁ、僕はこういう台詞を言うキャラじゃないからな。
でも、サービスだ。最後だからサービス。
ちょうどその時、僕の頭上から光が差した。
リリア姉ぇが降りてきたみたいだ。
そして、リリア姉ぇは僕にしか見えない。
そして、僕は三人の前から消える。
「リ、リリア!?」
と思ったら、行幸がリリア姉ぇの名前を叫んで天を見上げた。
見上げた?
なんで?
なんで行幸にリリア姉ぇが見えるんだよ!?
『お久しぶりですね。行幸さん。そして幸桜さんに菫さん』
な、何を悠長に挨拶してんだよ!
リリア姉ぇは僕を迎えに来たんじゃないのか?
「リリア姉ぇ! 何やってんだよ!」
『何って? 挨拶ですが?』
「それは見れば解るけど、何で姿を見せてるんだって言ってるだ!」
『ええと…行幸さん達にシャルテを宜しくとお願いしておこうかと思いまして…』
「へっ?」
何だそれ? どういう意味だ? 何だ何だ?
僕は今から天界に戻るんだよな? なのになんで?
『シャルテ。貴方は天界に戻れなくなりました』
「は、はい?」
天界に戻れない? 地上にまだ居ろっていうのか?
でも僕は行幸に告白したし、もうここにはどちらにせよ居られないはずじゃ?
『天使長様の命令です』
またあの天使長が何か悪巧みを?
って…ま、まさか…まさか!
その瞬間だった。僕は目撃してしまったのだ。
目の前の行幸がまた…また女に戻った。いや、女になった。
まったく前の容姿のままの行幸になってしまったのだ。