シャルテエンド そのⅡ(全6部)
待ち合わせの喫茶店で僕は行幸を待つ。
気持ちは冷静なのだが、体はまったく冷静じゃないらしい。
心臓の鼓動がすっごく強くなって、手には汗をかいて、なんだか気持ち悪くなってきた。
押しつぶされそうな何かに僕の気持ちは最初から諦めムードへと移行しそうになっている。
テンションが急降下する。いや、急上昇しているのだが急降下しているのだ。
駄目だ! こんなんじゃ負けるだろ! 負けるな僕。
自分で自分に言い聞かせる。
シャルテ、お前には自分のやりたい事があるんだろ?
実行に移すんじゃないのか? 今日はやり遂げるんだろが!
僕は汗の滲む拳をぎゅっと握りしめた。
ドアの開く音が聞こえる度に僕はそちらを見てしまう。
他人だったらすごくがっかりする。
何度かそれを繰り返して、ついに行幸がやってきた。
行幸の表情はどこか曇っており、そして身構えているのが解る。
そう、僕から告白されるんじゃないかって思っているんだ。
そして、そう。僕は今から告白をする。
「おまたせ…」
「あ、うん…時間を取ってもらってすみません…」
やばい…心臓が口から出そうだ。
まともに行幸の顔が見れない。
今日の朝まで普通に見れたのに…
「で、用事って何だい?」
「お、お話があります」
「うん」
「ちゃんと…聞いてもらえますか?」
「ああ…もちろん」
今にも倒れそうにくらくらしてきた。
でも、僕は…言うんだ。
「はっきりと言いますね。私は高坂さんが好きです。付き合ってください」
言った。はっきりと言った。
僕はついに行幸に告白をした。
でも、行幸は嬉しそうな表情は見せなかった。
当たり前だ。
彼女がいるのに、他の女性から告白をされても困る。当然の反応だ。
でも僕は波状攻撃で行幸を攻める。
それもこれからは聖崎としてじゃなく、シャルテとして攻める!
「ずっと前から好きでした。そう、一年前からずっと…」
「へっ? 一年前?」
行幸の表情が変わった。驚いている。
出会ってから半年の人間が一年前から好きだと言えば、反応はそうなるか。
「そうです。私は…いや僕は一年前から…行幸の部屋で話をしてから…好きになっていたんだ」
行幸の口が開いたまま固まった。
困っているというよりは、訳がわからなくなっているように見える。
「え、えっと? 聖崎さん? 何を言っているのかな?」
まぁ、そう聞くよな。
「行幸は気がついてないのかな? 僕は本当は聖崎なんて名前じゃない。僕の本当の名前は…シャルテだ」
「……!?」
行幸の口がもごもごと動くが言葉が出ない。
相当驚いたみたいだ。
「行幸。僕は行幸を2月14日に諦らめたって言った。でも、本当は諦められなかった。そして6月にまた堕天したんだよ。いつまでの行幸が僕の心から出ていかなかったから…行幸が好きだったから…」
「いや…ええと? 本当に…シャルテなのか?」
「嘘を言ってどうするんだよ? 口調だって元に戻してやっただろ?」
「……」
行幸の顔が真っ赤になった。
これは恥ずかしいからだけじゃない。混乱して真っ赤になったんだ。
でも、こういう反応するっていう事は…
行幸は僕に少なからず気がある!
ルートⅠで結果が出る可能性はあるのか?
「ずっと、ずっと我慢してたんだ。堕天している間に告白をしたりすると行幸から引き離されるから。態度でだけずっと好きだって伝えてきた」
「あ…まぁ…見ててなんとなくそうは思ってたけど…」
「だろ? だって…僕はどんな容姿をしていようがお前を好きなんだからな…」
「でも、俺に告白してどうするんだよ? 告白したら引き離されるんだろ? それにこれは2月14日に決着がついたんじゃないのか? 俺と幸桜がカップルになって終わった。だから俺は男に戻れたんじゃないのか?」
僕は首を振った。
「決着したんじゃない。決着させたんだ。僕が行幸を男に戻した。このまま幸せになるんだろうなって予想して。でも、でも何かが違った。確かに幸桜は恋愛対象者だったし、行幸は幸桜を選んだから恋人同士になった。でも…何も進展しない。それより何より、前よりもぎこちなくなっているじゃないか」
「な、何だよ。俺と幸桜はうまく行ってないとでも言いたいのか?」
見るからに目の前の行幸の表情が険しくなった。そして、怒ってる。
そりゃそうだろうな。恋人との関係がうまくいっていないなんて言われてうれしいはずなんてない。
「そうだよ。今の関係じゃ駄目だと思っている」
「だから? だからシャルテは告白したのか? 俺の恋人になりたいのか?」
「なりたい! 僕は行幸の彼女になりたい! 恋人になりたい! はっきり言って、僕はお前に一生ついていく覚悟がある! お前になら何をされてもいいと思ってる! お前のすべての性癖を知っている僕は、行幸がエロゲーをしようが、エッチなビデオを見ようが大丈夫なんだ! お前のすべてを受けれるのは僕しかいない!」
「ちょ、ちょっと待て! 声がでかいって!」
「でかくっても構わないだろ! 僕は僕の告白を誰に聞かれても恥ずかしいなんて思っていないんだから! そうだよ。もう一度言ってやる。僕は行幸が大好きなんだ!」
僕が大きな声で告白すると、なぜか周囲からパチパチと拍手が聞こえた。
振り返れば、お店にいたカップルやら、お客さんやら、店員やらが拍手をしている。
というか、これはさすがに恥ずかしい…いまさら恥ずかしくなった。
「ま、まぁ…そういう覚悟があるって事だから…」
「……でも俺はやっぱり幸桜を裏切れない」
「…」
「俺は幸桜を選んだんだ。今がうまくいっていないように見えるのなら、俺はうまくいくように努力をする」
真剣な表情で行幸はそう言ってくれた。
その言葉は僕の心に突き刺さる。痛い。本当に痛い。
「あはは…さすが行幸だな」
「? 何がさすがなんだよ」
「行幸はやっぱりそういう気持ちなんだなって思ってな…」
そう。最初から解っていたんだ。こういう展開になるって。
まぁ、僕は最初から玉砕覚悟だった訳だし、いいんだ。仕方ない。
これでルートⅠは見事に粉砕されたな。
でも…だけど…まだ別ルートが残ってる。それが本命…
「二人とも…そろそろ出てきて貰えるかな?」
僕が後ろを向いてそう言うと、僕らの二つ後ろの席に座っていた二人の女性が立ち上がり僕の横に座った。