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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第九十六話【俺の最後の聖戦Ⅱ】

 行幸みゆきはゆっくりと瞼を開いた。

 目の前に広がるのは見覚えのある空間。

 それは赤い絨毯がひき詰められた石造りの建物。そう、ここはリリアの魔法で作られた世界だ。

 行幸みゆきは周囲を確認した。しかしリリアの姿が見えない。そしてすみれの姿も幸桜こはるの姿も無い。


幸桜こはる? すみれ? リリア! リリアは居ないのか!」


 急に天井から光が差す。

 行幸みゆきが見上げると上空からリリアが舞い降りてくるじゃないか。


 リリア…何故に俺の真上から降りてくる?

 真上から降りる=言わなくてもわかるよな?

 そう、今日も白だった。


『いらっしゃいませ、私達の世界へようこそ』


 ふわふわとゆっくり降りて来たリリアはやさしい笑みを浮かべて行幸みゆき達の前に着地した。


「おい」

『はい』

「俺はこれからどうすればいいんだ?」


 険しい表情の行幸みゆき。しかし、リリアはまた笑顔をつくる。


『早速、行幸みゆきさんの恋愛対象者を一人に絞り込む作業に入りましょう』

「早速って早すぎじゃないのか? まだ二人とも転送されて来てないじゃないか。何を慌ててるんだよ」

『私は慌ててる?』

「そうだよ。だいたいこういう一大イベントの前には何か派手な演出とかあるのが普通じゃないのか? さっきは俺を無視しやがるし…」

『そう言われましても、行幸みゆきさんがここの世界に来た目的は恋愛対象者を一人に絞る事ですよね? 派手な演出を楽しむためでも、私の下着を覗く為ではありませんよね?』


 行幸みゆきの目がぱちっと見開かれた。


「な、何の事だ? 俺は別に…お前の下着なんて見てなんか…」


 くそ! チート能力を発揮しやがって!


『チートではないですよ?』


 笑顔を浮かべるリリア。


「何度も言わせるな! 十分チートだ! あと、リリアが俺の真上から降りてくるのが悪いんじゃないか! サービスか! 俺にサービスなのか!?」

『はい♪』


 即答だった。


『では、早速始めますね』

「だから、まだ二人が来てないって言ってるだろ!」


 リリアは行幸みゆきの言葉には耳を貸さず、手に持ったロッドをくるんと回した。すると赤い絨毯の上に茶色い木製椅子が現れる。


「い、椅子?」

『さぁ、行幸みゆきさん、その椅子の後ろへ移動して下さい』

「俺が椅子の後ろに移動する? 何でだよ?」

『移動するのに理由が必要ですか?』

「必要だ!」

『ええと…移動して貰わないと私が困るからです』

「……リリアが困るから?」

『はい』

「それだけ?」

『何かご不満でも?』


 リリアは満面の笑みで微笑んだ。


「わ、解ったよ…移動すればいいいんだろ」


 何だかよく解らないけどもういいや…めんどくさい。


 行幸みゆきはリリアの言う通りに椅子の後ろへと移動した。

 するとシュルシュルと赤い色のロープが木製の椅子から出てくるじゃないか。それはまるで触手の様にうにゅうにゅと動いている。


「お、おいリリア!何だよこれは!」

『ああ、ロープです』

「見ればわかる! でも動きがオカシイだろ! まるで触手みたいじゃないか!」

『はい? 何か問題でもありますか?』

「ある! ありすぎる!」


 そう言った瞬間、ロープは行幸みゆきに巻きついた。


「リリア! 巻き付いて来たぁぁ!」

『はい、巻き付かせました』

「何故ぇぇぇ!」


 そのままグルグルと体を縛られてゆく行幸みゆき


「何で俺がロープで縛られなきゃ駄目なんだよ!? それに縛りかたがおかしいだろ!」


 きゅきゅっと亀の甲羅のように締め付ける紐。

 そう、これぞ究極の亀甲縛りだ。


『喜んで頂けましたか? 行幸みゆきさんの趣味に合せてみたのですが』


 本気で笑顔のリリア。しかし行幸みゆきの顔には一切笑顔はない。真っ赤になっている。


「待てぇ! 俺にそんな趣味は無い!」

『あら? 行幸みゆきさんの秘蔵コレクションの中にそういうものがあったはずなのですが…』

「えっ? ちょ、ちょっと待て! いつ俺のコレクションを見たんだよ!?」

 ※秘蔵コレクションとは、行幸みゆきが押し入れの奥に隠した永久保存版のエロゲである。


 嘘だろ? リリアの奴、いつの間に俺の押し入れの奥まで探ったんだよ!?


『なるほど、押入れの奥ですね。今度見てみますね』


 ゆ、誘導尋問だと!?


 リリアは今日一番の笑みを浮かべた。


「リリアさん、行幸みゆきを縛って何をする気なの?」


 行幸みゆきがハッとして声の方向を見れば、幸桜こはるすみれの姿があった。

 いつの間にかこの世界に現れたすみれはちょっとお怒りモードでリリアを睨んでいる。


すみれさんも幸桜こはるさんもいらっしゃいましたか』

「私は行幸みゆきに何をしているのかを聞いてるんです」

『紐で縛って椅子につなぎ止めているのです』

「椅子? その椅子は何なの?」


 確認してみれば、確かに紐は椅子に繋がっていた。


『はい、ではこれからこの椅子を使って行う事のご説明をいた…』『ここからは私が説明するのじゃ!』


 リリアが説明をしようとした時、別の女性の声が重なりリリアの声を打ち消した。

 行幸みゆきは後ろから聞こえる声に気が付き首を回す。


「て、天使長?」


 そこには天使長の姿があった。


『天使長様、何故ここに!?』


 リリアまで驚いた表情で天使長を見ている。

 どうやら天使長が現れたのは予想外の事だったらしい。


『天使長様、ここは私に任せて頂けるというお話だったはずです!』


 やはり天使長は来る予定ではなかったようだ。


『そう思ったのじゃが、やはりここは私が説明すべきだと思ったのじゃ』

『いえ、ここは私だけで十分です!』

『いや、リリア、ここは私に任せておくのじゃ…いや、任せて欲しいのじゃ』


 リリアは少し納得のゆかない表情を浮かべる。しかし、天使長に逆らえるはずもない。いやいやだが、最終的には天使長が説明する事を承諾をした。


『こほん…では説明するのじゃ』


 天使長は椅子の横まで歩み寄ると椅子に手をかけた。


『まず、この椅子は行幸みゆきに対する愛情度を数値で見る事の出来る椅子じゃ。この椅子に座った人間がどれほど行幸みゆきを好きなのかを計れるのじゃ』


 行幸みゆきはその説明を聞いて首を傾げた。


 あれ? 俺に対する愛情度の数値? あれ? そういう話だったか?


 すみれもおかしく思ったのか首を傾げている。


「あの…前に聞いていた話と違いませんか? 確か今日は行幸みゆきが私達のどちらが好きかを選ぶはずではないのですか? 何で行幸みゆきに対する愛情度を計る必要があるのですか?」


 天使長は軽く咳払いをする。


『我ら天使の役目はあくまでも恋愛対象者の手助けじゃ。よって行幸みゆきが誰をいくら好きなのかは問題では無いのじゃ』


 説明を聞いて行幸みゆきは怪訝な表情になる。


「待て待て! 俺が二人のどちらかと相思相愛にならないと元に戻れないんだろ? だったら俺が関係ないとか無いだろ!」


『確かに、相思相愛にならねば行幸みゆきは男には戻れぬし、そういう風に考えれば関係もある。しかし、今日は行幸みゆき個人の恋愛感情は関係ないのじゃ』


 行幸みゆきの目が点になった。

 言ってる事が違うだろ? 俺に話していた事とまったく違うじゃないか!

 これはどういう事だ? おいおい!


「さっきから説明が矛盾してねぇか? お前らが俺に二人のうちの一人を選べっていうから俺は一週間すっげー考えたんだぞ! なのに何だその俺は関係ないって!」


 行幸みゆきは真っ赤な顔で天使長を怒鳴った。

 しかし、天使長は冷静沈着だった。


『今日の本当の目的は恋愛対象者を一人に絞る事じゃ。本来であれば同時に存在する事のない恋愛対象者を一人にするのが目的なのじゃ。そして先程も説明をしたが我々天使は恋愛対象者の味方じゃ』

「じゃあ何だ? お前は俺に嘘をついてたのか? 天使は嘘をつかないんじゃないのかよ!」

『天使は基本的には嘘はつかぬ。しかし、時と場合によってはつく事もあるのじゃ』

「なんだそのご都合主義は! そんなんで納得いくかよ! じゃあ何だ? すみれ幸桜こはるの俺に対する恋愛度の数値を見て、数値が高い方と俺が付き逢う事になるのか? 俺の気持ちは関係ないのか?」

『そうじゃ』


 天使長は即答した。


 行幸みゆきは頭を抱え…れない。

 ロープで雁字搦がんじがらめな行幸みゆきは頭を抱える事すら出来ない。


「おい…そういう判断はおかしいんじゃないのか? 俺達は人間だぞ? 感情は常に変動していくんだぞ? それなのに今の数値で決めるっていうのはおかしいんじゃないのか?」

『仕方ないのじゃ』

「何が仕方ないだよ! これはゲームじゃないんだぞ? 人間の恋愛をパラメーターで判断するな! そんな事をするのはゲームだけで十分だ!」


 これはゲームじゃないんだ!

 昼間に俺に告白をしてくれたあいつだって恋愛対象者にはなってないけど俺を誰よりも好きなんだなって俺は感じた!

 万が一にでもこのまま俺が女でいたら、いつかあいつと恋人関係になる可能性だってあったかもしれないんだ! ………いや、あるか?

 …やっぱり前言撤回。それは流石にない。

 でも、でも天使の考えている判断方法は間違ってる!

 何で同じ天使のシャルテはまともな考えだったのに、こいつはこんなに機械的に考えるんだよ…


『公平で確実に決定する方法。それは数字で判断をする。何にしても数値は正直じゃ。そうは思わないか?』


 確かに、それも一理はある。数値は正直かもしれない。でも、さっきも言ったが、人間の感情は常に変化する。ゲームみたいに安定したパラメーターを持っているなんてあり得ない! あと…


「何で俺にデートをさせたんだよ? まったく意味ねぇじゃないか!」

『それは恋愛対象者二人の恋愛度数の最終調整のためじゃ』

「な…何だそれ! 調整って何だよ? マジでお前は俺達の恋愛をゲームだと思ってるのか?」

行幸みゆきよ、私はそうは思ってはおらぬぞ? それに我々も本来であればお主には普通の恋愛をして欲しいと思っておった。しかし、今はそういう状況ではなくなったのじゃ』

「マジで納得いかねぇ…俺が女になった事より納得いかねぇ」


 今まで黙って聞いていたリリアが突然声を上げる。


『私だって…私だって行幸みゆきさんには普通の恋愛をして欲しかったのです。 出来れば私達の存在も知って欲しくなかった…でも貴方は特殊だった。二人の恋愛対象者を同時に存在させてしまった。私もなんとか元に戻したいと思い色々と頑張っていました…しかし…そうはうまくゆかなかった…私も考えが甘かったのです…』


 リリアはぐっと唇を噛み締めた。瞳が潤んでいるのは気のせいか。


「リリア、だからって数値で判断するのは間違ってるよな?」


 そうだよ…こんなの間違ってる。

 こんな判断は間違ってる。


 でも…そうさせた原因はもしかして俺にあるのか?

 だったとしたら俺の何が間違ってたんだ?

 ネカマをしてMMOで愛想を振りまいていたから?

 すみれ幸桜こはるの気持ちに気づいてやらなかったから?

 それとも単純に運が悪かったのか?


『そうじゃな…行幸みゆきは運が悪かった』

「!?」


 しまった! チート能力かよ! っていうか運か!


 続く

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