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どうしてこうなるんだ!  作者: みずきなな
【どうしてこうなるんだ!】
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第九十三話【俺のクリスマスイブⅡ】

 悪い予感は何故か良く当たるものだ。


「俺、みゆきさんが好きです!」


 そして、俺は見事に告白された。


「一目見た時から素敵な人だなって思ってたんです! 話しをしていると楽しいし、可愛いし…俺とは釣りあわない素敵な女性ひとだって解ってます…でも、でも言います! 俺と付き合ってください!」


 真剣な表情で告白を完了した男性客。行幸みゆきは予想はしていたが、まさかの告白に動揺の色を隠せない。


行幸みゆきさん? だ、駄目ですか?」


 じっと行幸みゆきを見詰める男性客。手に汗握る行幸みゆき


 考えてみればこの人は最近になってよくこの店に来るようになった。そして必ず俺に声をかけてきた。

 実は前からもしかして俺に気があるのかなって思ってたりした。

 けど…まさか正解とは…


行幸みゆきさん!」


 答えを待つ男性客。顔まで熱くなってきた行幸みゆき

 いつまでもこの状況を続ける事は出来ない。行幸みゆきは息を吐くと唾を飲んだ。


 いくら告白されても俺がOKを出せるはずがない。そう…答えは最初っから決まってるんだ。 


「ごめんなさい!」


 行幸みゆきは頭を下げた。


 ここに来てまさか自分がヒロインの立場に立つとは思ってもなかった。

 しかし、断るのも心が痛いもんなんだな。マジで胸が苦しい。


「何でですか? 俺じゃ駄目なんですか? 見た目がオタクだからですか?」


 うぐっ…食い下がっただと?

 諦めが悪いな。良くいえば根性がある奴だな。

 だが、俺は告白しても拒絶確定で絶対に落ちないヒロインなんだ。


 ゆっくり頭を上げると真剣な顔の男性客が視界に入った。


 だけど…こいつはこいつなりに一生懸命に告白をして来たんだろうな。

 その勇気はたたえないといけない。俺には無い勇気だ。俺は告白なんてした事が無いんだからな。

 よし、俺はその勇気を称えてちゃんと断ろう。お前は悪くないってな。

 俺様はヒロインなりきりロールプレイモード全開で対応してやる!


 行幸みゆきのオーラが変わった。先ほどまでの男らしさが消え、女性らしいオーラを纏う。

 これぞ行幸みゆきの得意とするヒロインなりきりモード。これのお陰でネカマがバレなかった。


「貴方が悪い訳じゃないです。私はオタクだからとか、そういう事で人を判断しません。そうじゃなきゃこんなお店では働きませんよ? 貴方が勇気を出してこんな私に告白をしてくれてとても嬉しいです。でも…ごめんなさい。私は事情があって貴方の彼女にはなれません。でもこれだけは言えます。私は貴方が嫌いではない。いえ、逆に勇気を出して告白の出来る素敵で尊敬出来る方だと思います」


 ニコリと微笑む行幸みゆき。まさにヒロインだ。

 横の店長がちょっと引いている気がするが…


「…でも…やっぱり駄目なんですか?」


 なりきりモード解除。

 ありゃ? まだ食い下がる? うまく断ってるつもりなのに。

 そして店長、何だその目は? 何でお前、どうする気だよ! って目で見るんだ! しかし、困ったな…


「すぐにじゃなくってもいいんです。友達からでいいんです! お願いします!」


 右手を出してきたぞ!

 こういうのってどっかの番組で見た事があるな?

 この台詞の後で断る場合は、確か『ごめんなさい』って言うんだよな?

 って、さっき言ったし!


「ええと…」


 行幸みゆきは流石に困り果てた表情になった。そんな行幸みゆきの目の前に店長が割り込む。


「て、店長?」


 店長はいきなりその男性客に頭を下げた。そして幸桜こはるの予想外の台詞を吐く。


「申し訳ありません、こいつ、ハッキリと言えないみたいですが、こいつと俺はつきあってるんです」


「「へっ?」」


 行幸みゆきと男性客が同時に声を上げた。


「えっ? 今なんて?」

行幸みゆきは俺の彼女なんです…」


 動揺する男性客が店長と行幸みゆきを交互に見る。


「ほ、本当に付き合ってるんですか?」


 行幸みゆきは店長の後ろで動揺中。顔を真っ赤にして心臓はドキドキだ。

 自分に対する助け舟だと理解は出来たが、それでも不意打ち彼女宣言。

 結論=軽いパニック状態に陥っています。

 そんな行幸みゆきを見かねた店長は、振り向いて小声で話しかける。


(お前が動揺してどうする)

(あ、えっと…)

(断りたいんだろ? 合わせろ)

(は、はい)


 行幸みゆきは小さく頷いた。


「本当に申し訳ありません…店員同士でそういう関係だという事をあまりオープンにはしたくなかったので…」


 店長が頭を下げると、流石の男性も「そうですか…」と一言。

 そこへ行幸みゆきがトドメを刺す。


「ごめんなさい…そういう事なんです…」

「いえ…俺もそうとは知らなくってごめんなさい。恋人の横で告白なんて失礼な事をしちゃって…本当にごめんなさい」


 深々と頭を下げる男性客。

 そんな彼を見ていると行幸みゆきは心が痛くなった。


「じゃあ…帰ります」


 寂しそうな背中が見ていて辛い。


「店長…ちょっとごめん」


 行幸みゆきはカウンターを飛び出した。そして男性客の肩を叩く。

 驚いた表情で振り向く男性客。


「聞いて下さい! 私は貴方にとっての本当のヒロインじゃない! でも、貴方にはきっと素敵な彼女が出来ます! だって貴方は自分の意志を人に伝える事の出来るとても素敵な人なんですから!」

「あ、ありがとうございます…」

「女なんて捨てる程いるんです!」

「は、はい…」

「貴方なら絶対に良い女性ひとと巡り逢えます!」

「ありがとうございます…本当に」

「いえ…えっと…これに懲りずにまた…買い物に来て下さいね?」


 行幸みゆきはちょっと照れつつもニコリと微笑んだ。それを見て男性客も笑顔を作る。


「はい、もちろんまた来ます! そして…いつか…貴方を! みゆきさんを俺の本当のヒロインにしてみせます!」

「へっ!?」


 半分は冗談であろうが、男性客はそういい残して店を後にした。

 店長は男性客が去ったのを確認すると、小さい溜息をつく。

 そして、行幸みゆきの横まで歩いて来ると、頭にぽんと手を載せて苦笑いを浮かべた。


「お前は馬鹿か? 最後の一言で余計に惚れさせやがって…俺が睨まれちまっただろうが…まったく」

「い、いや…あまりにも可愛そうだったから…」

「可愛そうだからってな…そういう優しさが仇になる事だってあるんだぞ?」

「やっぱりそうですかね」

「まったく…しかし、お前はもてるな…大人気じゃないか」

「えっ? いやいや、もてないですって!」

「何を言ってるんだ? お前は自覚が無いのかもしれないが、最近になって男性客が増えたのはお前のせいなんだぞ?」

「へっ? 俺のせい?」

「何だ? お前はやっぱり鈍感なのか?」

「えっ? そんな事ないですって!」

「いやいや鈍感だろ。すみれがあんなに好きオーラを出してたのに全然気がついてなかったし」

「えっ…えっと…それは…」


 実はもしかしてって前から思ってた。でも、もしそれが勘違いだと恥ずかしい事になるから気にしないようにしてたんだ…なんて言えない。


「ともあれな、男性客にとってお前はまさにヒロインなんだよ」

「お、俺がですか?」

「そうだ。お前だよ。うちのお客層は言わばオタクだよな?」

「まぁ…そうなるんですかね?」

「そして、エロゲを買いにくる奴も多いよな?」

「そうですね…ここは裏通りですし、レジが奥にあって、私服なら年齢確認しない穴場ショップですからね」

「考えてみろ、オタクでエロゲームをやってる男は女には好かれづらいだろ?」

「そうかもですね…」

「なのに、お前は何の抵抗も無しで率先してエロゲの話題にも入るし、オタク臭が満点な奴にでも普通に相手が出来る」

「まぁ…元がエロゲ好きな男ですし」


「エロゲの話が出来て、パソコンが好き。なおかつ変な目もせずに普通に話しをしてくれるアニメキャラみたいな可愛い女の子なんだぞ?」

「……なるほど」

「まさにオタクにとってはヒロインだろ。そんなお前にフラグを立てたいと思ってる男性客が何人いると思ってるんだ? フェロモンとかいうのが出てなくっても、お前は十分にモテるんだよ。 気をつけないと夜道で襲われかねないぞ?」

「ひぃぃぃ」


 行幸みゆきはぶるぶると震え上がった。


「ともあれ男に対して少しは抵抗を見せろ。お前はガードが甘すぎる」

「な、なるほど…確かにそうなのかも…」

「お前が居ない時に、お前に彼氏がいないかって何度聞かれたと思う? この数日で七回だぞ?」

「マジですか…」

「まぁ、だからこそ俺は俺なりに考えたんだ。お前に悪い虫がつかないようにするには、俺が彼氏役をすればいいじゃないかってな」

「な、なるほど…でも、店長にそこまでしてもらうのも…」


 店長は深く溜息をついた。


「じゃあ、お前は自分でどうにか出来るのか?」

「え、えっと?」

「お前はいい奴だから、どうせさっきみたいになるだろ?」

「まぁ…傷つけたくないですし」

「甘いぞ! そんな事をしてたら、マジでストーカーされるぞ? 襲われるぞ?」

「は、はい…気をつけます。そして宜しくお願いします」


 行幸みゆきは小さい声で返事をした。


「で、今日は何時なら暇があるんだ?」


 行幸みゆきはハッとした表情になる。

 そうだ! その話の途中だったんだ!

 でも何でそこまで? やっぱり告白? いやいや、さっき店長は俺の彼氏のフリをするって言ってた。っていう事は、間違いなくそれはない。じゃあ何で?


「えっと…何か私に重要な用事でもあるんですか?」

「何だ? 理由が聞きたいのか?」

「はい。気になって」

「なるほど」


 行幸みゆきは緊張した表情で唾を飲んだ。

 店長は腕を組むと、まったく照れる様子も見えない。


「いや、シングルベルをお互いに過ごすのもつまらないじゃないか。だからな」

「えっ? それって俺に気を使って?」

「気を使うというか、去年も誘ったよな?」

「あっ!」


 思い出した! 去年、俺は店長とすみれと三人でクリスマスに食事をした!

 なんだよ…それだけか…


「もしかして、すみれとデートか?」


 店長の顔がニヤける。


「えっ? いや、待ち合わせはしてますけど」

「何だ、デートか。それならそれって言えよ。俺は邪魔なんてする気は無いんだからな」


 そうじゃないんですけど…って言えない。

 まぁ…いっか…


「じゃあ、俺はちょっと事務処理してくるから」


 店長は事務室へと戻っていった。


続く

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