青ボタン、赤ボタン、どちらを押しますか? 世界投票の結果ダンジョン世界になりました
須一牡丹。
どこにでもいるような中学二年生の黒髪少女だ。
少し変わったところは、祖父が多趣味なので影響されているということだろうか。
なので――。
『これから世界投票を実施します。赤ボタンか、青ボタンのどちらかを一日以内に押してください。人類の50%以上が青ボタンを押したら何も起きません。50%未満の人類が青ボタンを押したら、赤ボタンを押した人だけが無事で、青ボタンを押した人間はダンジョンに囚われます』
突然、目の前にVRゲームのようなメッセージと、半透明なボタンが出現したときもこう思った。
「お爺ちゃんとよくやった〝思考ゲーム〟ってやつか。面白い夢だね。ダンジョンって何かわからないけど」
即決で赤ボタンを押した。
理由としては赤ならダンジョンに囚われない=死ぬ確率は0だからだ。
これは分かりにくくルールを書いているから勘違いしやすいが、青を押せば全員助かると強調されていても――。
「でも、50%以上が青を押さなかったら、青だけ死ぬかもってことじゃん。赤はどうやっても死なない。普通、自殺願望がなきゃ青なんて選ばないでしょ」
そう考えて、牡丹は赤を押したのだ。
「夢でも結構楽しめたよ、ありがとう」
メッセージに冗談めいたお礼を言った直後、家の中にいた家族が騒いでいるのが聞こえた。
「ぼ、牡丹も変なのが見えた……?」
「え?」
母親がそう言うと、テレビを付けた。
そこには速報で『全人類に現れた赤ボタンと青ボタン』とテロップが出て、ニュースキャスターが慌てて説明をしていた。
「妙にリアリティある夢だね……」
「バカ!! 夢じゃないよ!!」
「で、でもそんなに慌てなくていいんじゃない……? 赤を押せば絶対に死なないし……」
「あ、あんた……まさか赤を押しちゃったのかい!?」
「そりゃ押すでしょ、死にたくないし」
母親は絶望の表情を見せていた。
意味がわからなかった。
だが、まだ年端もいかない幼い弟がヨタヨタと歩きながら覚えたての言葉を言ってきた。
「あお、おした~!」
「えっ、青って……押したら死ぬかもしれないじゃん……」
牡丹は考えていなかったのだ。
青を押してしまう人もいるということを。
身内でそれを知ってしまう。
残酷な現実が襲う。
目の前が暗い。
「う、嘘でしょ……」
赤ボタンを押した人間が半数以上なら、青ボタン――弟は死んでしまうのだ。
「私が……弟を殺しちゃう……」
「ぼ、牡丹……まだ死ぬと決まったわけじゃない。みんなで青を押せば助かるし、それによくわからないがダンジョン? に囚われると言っても死ぬとは明言されてないじゃないか。もしかしたら、これはイタズラか何かで、実際は何も起きない可能性だって……」
慌ててやって来た父親が早口でフォローしてくる。
牡丹はそんなこと耳に入らない。
状況もわからずに無邪気にキャッキャと笑っている弟。
――数時間で状況がわかってきた。
日本政府は有識者を集め、議論の末に結果を出した。
『日本国民の皆さんは青を押してください! 他の各国も連携して青の意思を表明しています!』
牡丹は安心した。
学校でも友達たちは青を押すと言っていた。
みんな青を押すつもりなのだ。
これで弟は助かる。
そして運命の時間。
家にいたはずの両親と弟は消えた。
「どうして……なんで……みんな青を押すはずだったのに……」
あとからわかったのだが、官僚なども死亡のリスクを避けるために赤を押していたそうだ。
そして一番大きな要因が――カルト集団が終末論を煽って赤を押すように世界に向けて発信したことだという。
***
――二年後。
日本に出現した大型ダンジョンの中でカルト集団メンバーたちが笑いながら宝箱を漁っていた。
「ゲヒャヒャ、世界投票のおかげだぁ。神様はこんな宝が落ちているダンジョンを作ってくれて、しかも多すぎる愚民共も消してくれるなんてサイコーだぜぇ」
そこへ定期的に来る謎のメッセージとボタンが出現した。
『これから部屋内投票を実施します。青ボタンか、赤ボタンのどちらかを五分以内に押してください。部屋内の全員が青ボタンを押した場合は追加の宝を得ることができます。一人でも青ボタンを押してなかったら、青ボタンを押していた人類は死亡します』
ここにいるのはカルト集団のメンバーだけだ。
どうするかは決まっている。
「おい、追加の宝のためにぜぇったい青ボタンを押せよ」
「へへ、わかってますよ」
「ここで赤ボタンを押すバカはいませんって」
次々と青ボタンを押したという報告をしていく。
そして最後の一人が――。
「せっかくだから私はこの赤を押したよ」
「なっ!? 正気かお前!? いや、そもそも誰だ……教団で見たことがない……」
「私の名前は牡丹。絶対にあんたたちを許さない」
すぐにカルト教団メンバーたちの身体は弾け飛んで、牡丹は返り血を浴びていた。
それはまるで赤いボタンのようだった。




