言葉の森の精霊
【Scene 1:静寂の森へ】
朝の光が差し込む中、三人は巨大な森の前に立っていた。
木々は空を覆うほどに高く、枝には淡い青い光の花が咲いている。
セリアが地図を見ながら呟いた。
「ここが“言葉の森”……。
古代、言霊を司る精霊が棲んでいたって伝承が残ってるわ」
ガルドが頭をかく。
「言葉の精霊、ねぇ。しゃべる木でも出てくんのか?」
リュウは笑いながら言った。
「でも、ちょっと楽しみだよ。どんな“言葉”が待ってるんだろう」
三人は森の中へと足を踏み入れる。
そこは、音のない世界だった。
鳥の声も、風の音もない。
ただ、静寂だけが支配している。
【Scene 2:言葉が消える】
数分歩いたとき——
リュウの口が動いた。
「セリ……」
……声が、出ない。
驚いて周りを見渡す。
セリアもガルドも、声を発しようとしているが、音が出ない。
(声が……出ない!?)
すると、地面に刻まれた古い文字が淡く光りだした。
【この森では、無意味な言葉は消える】
リュウは眉をひそめる。
(無意味な言葉? じゃあ、意味を持たない言葉は……)
“ありがとう”と心の中で呟いた瞬間、
胸の奥でスキルが反応した。
【スキル“ありがとう”が反応しました】
【感情共鳴:発動】
光が一筋、森の奥へと伸びる。
セリアが指差す。
(あっちだ!)
三人は無言のまま、光を追って走った。
【Scene 3:精霊との邂逅】
森の奥。
巨大な湖が広がっていた。
その中央、青白く輝く存在が宙に浮かんでいる。
それは、少女の姿をした“言葉の精霊”だった。
髪は光の糸のように流れ、瞳には無数の文字が揺れている。
「……ようこそ、“言葉の森”へ」
声が……届いた。
セリアが驚く。
「あなた、声が……!」
「ここでは、“意味を持つ声”だけが届くのです」
精霊は穏やかに微笑んだ。
リュウが一歩前に出る。
「僕たちは、“言霊”の力を学びたい。人を救うために」
精霊の瞳が揺れる。
「あなたの中に、“響き”がありますね。
それは感謝の力。“ありがとう”という最も古い祝詞」
リュウは息を呑む。
「祝詞……?」
「あなたの言葉は、ただの音ではない。
“心の真”が宿っている。
しかし——その力は、光にも闇にもなる」
森が静まり返る。
「あなたに問います。“言葉”とは、何のためにあるのですか?」
【Scene 4:リュウの答え】
リュウは、しばらく考えた。
“言葉”とは何か。
——異世界に来てから、彼は何度も「ありがとう」を言い、言われた。
その度に、心が繋がった。
「言葉は……人を、繋ぐためにあると思う」
精霊の瞳が光る。
「なるほど。では、試しましょう」
瞬間——世界が歪んだ。
周囲の木々がうねり、黒い靄が広がる。
【言霊試練:虚言ノ魔】
虚言から生まれた魔物が、リュウたちに襲いかかる。
【Scene 5:虚言ノ魔との戦い】
ガルドが斧を構える。
「来やがったな! 今度はでけぇぞ!」
セリアが詠唱を始めるが、魔法が弾かれる。
「言葉が、通じない……!?」
リュウが前に出る。
「ありがとう!」
しかし、光は出ない。
虚言ノ魔が笑う。
「その言葉に“真”がない」
リュウは歯を食いしばる。
(僕の“ありがとう”は、形だけだったのか……!?)
ガルドが叫ぶ。
「リュウ! お前の言葉で、俺は変われた!
あの“ありがとう”は本物だったはずだ!」
セリアも叫ぶ。
「私も……あの言葉に救われた!」
その瞬間——
胸の奥で何かが弾けた。
【スキル“ありがとう”が進化しました】
【新スキル:“心響”が発動】
リュウが拳を握りしめ、叫ぶ。
「“ありがとう”ッ!!!」
轟音と共に、黄金の光が放たれ、
虚言ノ魔が一瞬で浄化された。
静寂。
風が戻る。
【Scene 6:精霊の言葉】
精霊は微笑んでいた。
「あなたの“ありがとう”は、もう祈りになりました」
リュウは息を整えながら聞いた。
「これが……“心響”の力……?」
「ええ。あなたの心が、他者の心と響き合ったとき、
世界さえも癒す言葉となるでしょう」
セリアがそっと呟く。
「……まるで、“言葉の勇者”ね」
リュウは笑う。
「そんな大層なもんじゃないさ。ただ、ありがとうを伝えたいだけだよ」
精霊は頷いた。
「その気持ちこそ、力の源です」
そして、光となって消えていった。
【Scene 7:夜の帰り道】
森を出る三人。
月明かりが差し込み、静かな風が吹く。
ガルドがぼそりと言う。
「なあリュウ。
俺、明日からちゃんと“おはよう”言うようにするわ」
リュウが笑う。
「それはいいね。じゃあ、俺も“いただきます”を大事にするよ」
セリアがくすっと笑う。
「じゃあ私は……“ごめんね”を大切にする」
三人は歩きながら、夜空を見上げた。
星々が、まるで“言葉”のように輝いていた。




