転生したら挨拶スキルだった
【プロローグ】
真っ白な空間。
音も、風も、何もない。
あるのはただ、どこまでも広がる“無”。
「……あれ、俺、寝落ちした?」
声を出した瞬間、前に光の人影が現れた。
女とも男ともつかない、透明な存在。
「おめでとうございます。あなたは異世界転生に当選しました」
「……え?ガチャか何かですか?」
「人生ガチャ、です」
いや、うまいこと言うな。
笑う余裕はないけど。
「スキルを授けます。“挨拶”です」
「……挨拶?」
「ええ、“こんにちは”や“おはようございます”など。
それを極めれば、あなたはきっと——」
光が強くなり、言葉が消える。
「——世界を変える挨拶ができるでしょう」
「そんなフラグっぽいこと言われても困るって!」
俺の叫びは、光に飲み込まれた。
【Scene 1:目覚め】
目を開けると、俺は草むらの上にいた。
空は青く、鳥が鳴いている。
……うん、どう見てもファンタジー世界。
「転生って、本当にあるんだな……」
手の甲には薄く光る文字が浮かんでいた。
【職業:村人A】
【スキル:挨拶Lv.1】
「いや、せめて“戦士”とか“魔法使い”にしてくれよ!」
その瞬間、草むらの向こうで女の悲鳴が聞こえた。
【Scene 2:スライム襲来】
「やめて!誰か、助けて!」
振り向くと、青いスライムが少女を飲み込もうとしていた。
俺の頭は真っ白になった。武器もない。魔法も知らない。
……いや、あるじゃないか。
“スキル:挨拶”
「こんにちはァァァーーーッ!!!」
俺の叫びが響いた瞬間、
空気が震え、スライムが爆発した。
爆風で木の葉が舞い上がる。
俺「……うわ、マジで爆発した」
少女「な、何それ……!?」
【スキル『挨拶』が覚醒しました】
【新スキル:超音波あいさつLv.1】
「……あ、やっぱりバグってる」
【Scene 3:出会い】
少女は長い銀髪のエルフだった。
緑のローブをまとい、杖を抱えている。
少し怯えながら、俺を見上げた。
「……あなた、何者?」
「えっと、村人Aです」
「その爆発、村人が出せる威力じゃないと思うんだけど」
彼女は眉をひそめて言った。
「名前は?」
「あ、リュウ。相川リュウ」
「私はセリア。魔導士よ」
彼女はため息をつきながらも、俺の腕を引いた。
「とりあえず、村まで来て。あの辺り、魔物の巣になってるの」
「はい、ありがとうございます!」
【スキルが反応しました】
【“ありがとうございます”の波動で周囲の草花が咲きました】
「……おい」
セリアが無言で俺を見つめる。
「何その花咲か挨拶……」
「俺にも分からない」
【Scene 4:村の夜】
焚き火の前。
セリアがスープをかき混ぜながら、ちらりと俺を見る。
「あなた、神に会った?」
「うん。“挨拶のスキルを授けます”とか言われて」
「……普通、“炎の魔法”とか“剣術”とかだよ。挨拶ってなに。」
「俺も聞きたいよ!」
彼女は笑った。
少しだけ、柔らかい笑みだった。
「でも……変ね。あなたの“言葉”には、力を感じる」
「言葉に力?」
「ええ。昔、この世界では“言霊”が信じられていたの」
「ことだま……」
セリアは空を見上げる。
「けど今は、魔王が“沈黙の呪い”を広めている。
人々は次第に言葉を失い、心を閉ざしているの」
火がパチリと弾けた。
「……リュウ。あなたの“挨拶”は、きっとこの世界を変える」
「俺の“こんにちは”で、世界を?」
「ええ。皮肉だけど……可能性はあるわ」
風が吹き、焚き火の火が揺れた。
俺はその炎を見つめながら、思った。
——この世界、本当に“挨拶”で救えるのか?
だが胸の奥が、不思議と熱くなっていた。




