第7話 お化け屋敷のクオリティが、ガチすぎてR-18G
学園祭実行委員としての初仕事。
僕とシルフィに任されたのは、クラスの出し物である『お化け屋敷』の小道具作りだった。
「お化け屋敷……。つまり、迷宮の再現だな?」
「まあ、そんな感じかな。客を怖がらせて楽しませるんだ」
「なるほど。恐怖こそ最高のエンターテインメント……。任せろ、私の故郷には『死霊の森』という一級危険地帯があった。あの空気を再現すればいいのだな」
シルフィが不敵に笑う。
嫌な予感しかしない。
◇
放課後の美術室。
段ボールや絵の具が散乱する中、シルフィは一心不乱に作業をしていた。
彼女の周りには、禍々しいオーラが漂っている。
「できたぞ、ハルト。まずは『生首』だ」
彼女が差し出した物体を見て、僕は悲鳴を上げそうになった。
「うわっ!? なんだこれ、リアルすぎだろ!!」
それは、粘土と絵の具で作られたはずなのに、血管の一本一本まで浮き出ており、肌の質感も妙に生々しい。目玉がギョロリとこちらを見ている気がする。
「ふふん、錬金術の応用だ。少し魔力を混ぜて、質感を出してみた」
「魔力混ぜるな! これじゃ警察呼ばれるよ!」
「むぅ……。では、こちらの『動く骸骨』はどうだ?」
彼女が指を鳴らすと、理科室から借りてきた骨格標本がカタカタと動き出し、ブレイクダンスを始めた。
「すごいけど! すごいけどダメだ! 心霊現象だから!」
「ええい、注文の多い男だな! じゃあ何を作ればいいのだ!」
シルフィが頬を膨らませる。
彼女なりに頑張っているのはわかるが、方向性が「ホラー」ではなく「スプラッター」か「オカルト」なのだ。
「もっとこう、手作り感のある、可愛いお化けでいいんだよ。白い布被ったやつとか」
「そんな子供騙しで、玲奈様が喜ぶと思うか!?」
「えっ」
シルフィの動きが止まる。
彼女は真剣な眼差しで僕を見つめた。
「玲奈様は実行委員長として、全出し物を視察に来るはずだ。その時、我々のクラスが低クオリティなものを見せれば、あの方は失望するかもしれん……。私は、あの方に『すごい』と言わせたいのだ!」
その言葉には、純粋な熱意がこもっていた。
ただのオタク心だけじゃない。彼女は彼女なりに、天道玲奈の役に立ちたい、認められたいと必死なのだ。
「……わかったよ」
僕はため息をつきつつ、覚悟を決めた。
「じゃあ、折衷案だ。シルフィの技術を活かしつつ、怖すぎないラインを目指そう。僕が監修するから」
「おお! やってくれるか、ハルト!」
「その代わり、魔力は禁止な。あと、グロテスクなのもNG」
それから数時間。
僕たちは二人三脚で作業を進めた。
シルフィの器用さと色彩感覚は本物だ。僕が「ここはもっとポップに」「血の色は赤じゃなくて紫にしよう」と指示を出すと、彼女は完璧に修正してくる。
夕日が差し込む美術室。
並んで作業をする僕たちの影が、長く伸びている。
「……ふぅ。こんなものか」
完成したのは、不気味だけどどこか愛嬌のある、ファンタジー風のモンスター人形たち。
これなら怖がらせつつも、楽しんでもらえるはずだ。
「うむ。悪くない出来だ」
シルフィも満足そうに頷き、顔についた絵の具を袖で拭おうとする。
「あ、待って。ほっぺたに赤いのついてる」
「ん? どこだ?」
「ここ」
僕はティッシュを取り出し、彼女の頬を拭いた。
ふと、手が止まる。
夕日に照らされたシルフィの横顔が、あまりにも綺麗だったからだ。
「……?」
シルフィが不思議そうに僕を見上げる。
その距離、数センチ。
彼女の碧眼に、僕の顔が映っている。
「……ハルト?」
「あ、いや……取れたよ」
僕は慌てて手を引っ込めた。心臓がうるさい。
シルフィはキョトンとしていたが、すぐにニッと笑った。
「ありがとな。……貴様と作業するのも、案外悪くない」
その笑顔は、天道玲奈に向けられる「崇拝」の表情とは違う。
もっと自然で、等身大の女の子の顔だった。
「……僕もだよ」
小さく呟く。
その時、ガラッとドアが開いた。
「お疲れ様です。進み具合はどうで――」
入ってきたのは、見回りに来た天道玲奈だった。
彼女は僕とシルフィ、そして完成した小道具たちを見て、目を丸くした。
「すごい……! これ、お二人が作ったんですか?」
「は、はいっ! ハルトと共に頑張りました!」
シルフィが直立不動で答える。
天道さんは小道具を手に取り、感嘆の声を上げた。
「プロみたいですね。これならきっと、学園祭の目玉になりますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。期待していますね」
天道さんはニコリと微笑み、去っていった。
バタン、とドアが閉まる。
「…………」
「…………」
「やったぁぁぁぁぁ!!」
シルフィが歓喜の声を上げ、僕に抱きついてきた。
「褒められたぞハルト! あの方に期待された! これも貴様のおかげだ!」
「ぐえっ、苦しい……!」
抱きしめられる強さが、エルフの怪力すぎて肋骨が軋む。
でも、その痛みさえも愛おしいと思ってしまう僕は、もう完全に手遅れなのかもしれない。
学園祭本番まで、あと一週間。
僕たちの「共同作業」は、まだ始まったばかりだ。




