第6話 下僕扱いは、プレイの一種だと思われている
「下僕作戦」が開始されてから三日が経った。
シルフィの行動は徹底していた。
「おいハルト、喉が渇いた。購買で『いちごオレ』を買ってこい。あの方が好物だと聞いた」
「ハルト、日差しが強い。影を作れ」
「ハルト、靴紐が解けた。結べ」
教室でも廊下でも、彼女は女王様のように振る舞った。
その態度は堂々たるもので、まさに異世界のエルフ姫の威厳に満ちている。
しかし、周囲の反応は彼女の予想とは違っていた。
「ねえ、見た? 白森さん、鈴木くんにだけワガママ言ってるよね」
「あー、わかる。心を許した相手にだけ甘えるタイプ?」
「ツンデレかよ。尊いな」
逆効果だった。
クラスメイトたちは、僕らの主従関係を「高度なイチャつき」として解釈していたのだ。
昼休み。屋上にて。
僕は焼きそばパンをかじりながら、シルフィに報告した。
「……というわけで、みんな『仲良しだね』って言ってるよ」
「な、なぜだ!? これほど冷酷に扱っているのに!」
シルフィが頭を抱える。
彼女の手には、僕が買ってきた『いちごオレ』が握られている。結局、自分で飲んでるし。
「お前の演技が下手なんだよ。『買ってこい』って言ったあと、『すまん、恩に着る』とか小声で言うなよ」
「だ、だって……貴様をパシリにするのは心が痛むのだ……。貴様は私の大切な……」
「大切な?」
「……きょ、協力者だからな!」
シルフィは慌てて言い直し、ストローを強く吸った。
耳が赤い。嘘をつくのが下手すぎる。
その時、校内放送が流れた。
『ピンポンパンポーン。1年B組の白森シルフィさん、鈴木遥斗くん。至急、生徒会室まで来てください』
僕とシルフィは顔を見合わせた。
生徒会室。つまり、天道玲奈の呼び出しだ。
「……まさか、また説教か?」
「いや、今回は違う気がする。私の『エルフの勘』が告げている」
「お前の勘、当たったことないけどな」
◇
生徒会室の扉を開けると、そこには天道玲奈が一人で座っていた。
紅茶の香りが漂う優雅な空間。
彼女は書類から顔を上げ、僕たちを見て微笑んだ。
「よく来てくれましたね。どうぞ、座ってください」
勧められるままソファに座る。
シルフィは緊張でカチコチになり、ロボットのような動きで着席した。
「今日は、お二人に頼みがあって呼びました」
「た、頼み……?」
シルフィが裏返った声で聞き返す。
天道さんは、一枚のポスターをテーブルに置いた。
『学園祭実行委員 募集中!』
「来月の学園祭で、私が実行委員長を務めることになりました。ですが、人手が足りなくて……」
彼女は少し困ったように眉を下げた。
「お二人はいつも一緒に行動していて、チームワークも良さそうですし……ぜひ、私の補佐をお願いできないかしら?」
ドクン。
シルフィの心臓の音が聞こえた気がした。
憧れの聖女様からの、直々のスカウト。
しかも「補佐」ということは、彼女のそばにいられるということだ。
これは、シルフィにとって千載一遇のチャンス――!
「やります!!」
シルフィが食い気味に叫んだ。
机に身を乗り出し、天道さんの手をガシッと握る。
「私にお任せください! この身が朽ち果てようとも、玲奈様のために尽くします! ドラゴンでも魔王でも討伐してみせましょう!」
「ええと……討伐はしなくて大丈夫ですが、頼もしいですね」
天道さんは苦笑いしながらも、握り返してくれた。
シルフィは感極まって、今にも昇天しそうだ。
「鈴木くんも、いいかしら?」
「あ、はい。僕でよければ」
断れるわけがない。
こうして僕たちは、学園祭実行委員に任命された。
帰り道。
シルフィはスキップしながら(身体能力が高すぎてジャンプ力がすごい)、上機嫌で語った。
「聞いたかハルト! あの方が私を求めたのだ! これは実質、プロポーズではないか!?」
「違うよ。人手不足だって言ってたろ」
「ふふん、照れるな。貴様も私の『バーター』として役に立ったぞ」
「バーター言うな」
でも、まあ。
あんなに嬉しそうなシルフィを見るのは悪くない。
学園祭の準備期間、彼女と一緒にいられる時間が増えるのも、正直ちょっと嬉しい――なんて、口が裂けても言えないけれど。
「よし! まずは学園祭で『聖女様親衛隊』を結成し、あの方を崇める祭壇を作るぞ!」
「仕事しろよ! 真面目に!」
僕たちの学園祭は、波乱の幕開けとなりそうだ。




