第4話 加害者への裁き
2時間後。車は山奥の薄暗い場所に到着した。そこには一切窓がない、2階建てアパート大で直方体の建物が建っていた。車を降り、黒スーツの男に案内されるまま、継ぎ目のない壁の前に立たされる。すると継ぎ目が現れ、ゆっくりとドアが開く。中へ入ると真っ直ぐ通路があり、黒い床、黒い壁が白い光に照らされていた。美咲は黒服の男の後に続き、廊下を進む。どこへ行くのかは分からないが、一歩踏み出すごとに、あの加害者に会えると思うと、過去に経験したことがない程、鼓動が高鳴る。両手は爪がめり込むほど握りこぶしを作り、頬も引きつっていた。
すぐに一つの部屋の前に案内された。黒いドアには「1」と書かれ、黒いスーツの男がドアを開く。中にはマジックミラー越しに、後ろ手に縛られ、正座のまま縄と鎖で拘束された加害者の男女がいた。
美咲の頭に一気に血が駆け上る。こめかみの辺りで血管がキレるのではないかというほど、脈を打つのが分かった。目は見開き、殺意をむき出しにしていた。
「あいつらに会わせてください」
「勿論です」
返事をすると、黒いスーツの男は美咲に注意を促した。
「注意点がございます。いくら拘束しているとはいえ、彼らと話せるよう、口には何もつけていません。噛みつき攻撃の危険から身を守るために、内側に引いてある赤い線より向こう側へ行かないでください」
「分かりました」
美咲は加害者から目を離さず頷く。
「部屋へ入る前に、こちらをお選びください」
差し出されたタブレットを見ると、そこには様々な武器の写真が表示されていた。
「お好きなものをタップしてください」
美咲は日本刀を選ぶ。
「銃の方が扱いやすいですが、日本刀でよろしいのですか? もちろんあとで、銃もお渡しすることは可能ですが……」
「いいんです。あいつらに痛みを感じさせるには、これがいいと直感で感じたので」
もう一人の黒スーツの男が、妖刀のように怪しい雰囲気を醸し出す刃文の付いた日本刀を手渡す。
「扱いにはくれぐれもご注意ください。トンッと置いただけで、肉まで切れますので……」
頷くと、刀の柄をしっかりと握りしめる。初めて持つ日本刀の重さに驚いたが、笑みがこぼれる。
これなら私でも簡単に、アイツらを殺せそうだわ……。
加害者が拘束されている部屋に入ると、2人は訝しげな目で美咲を見上げる。
男がどすの利いた声で問う。
「誰だテメェ」
女は握られている日本刀を見て怯えながら問う。
「な、何をする気!?」
美咲は血を吐くような声で言った。
「あなたたちが殺した家族の、生き残りです」
女が震えながら叫ぶ。
「ご、ごめんなさい! でも私は何もしてないのよ! コイツ本当にクズでどうしょうもないよね! 私もあなたの気持ちがわかるわ! これだけニュースになっているのに煽り運転なんて、社会のクズよね!!」
男が女を睨む。
「何言ってんだテメェ! お前もあの時、映画みたいな死に方でウケるーって言ってたろ! そもそもお前があの車うざいから煽っちゃえよ! って言ったんだろうが!」
「そ、そんなこと言ってないわよ! ほ、本当よ!コイツお金は持ってるけど、頭はおかしいから、絶対に信じちゃだめよ!」
「いや、俺の言う事が真実だ。お前……キミは真実を知りに来たんだろう? これが真実だ! だから殺すならこの女をやれ! こいつが真犯人だ!」
「馬鹿言わないでよ! 何であたしが死ななきゃいけないのよ! 運転してたのはあんたなんだから、あんたの罪でしょ!」
向かい合い、相手に全責任を押し付け合い喧嘩する二人を見て、美咲はボソリと呟いた。
「醜い人たち……」
刹那、両手でしっかりと握り、踏み込む。憎しみを込めた全力で日本刀を振り下ろす。
ドスッ……
鈍い音と共に、男の両足太ももから血が噴き出す。正座した男の両太ももは、完全に切断されていた。
一瞬の間をおいて、状態を把握した男は悶絶して叫び声を上げる。
「ぎゃあああああああああああっ!! ぶわぁかかテメェッ! ふざけんなボケェ! 俺の足をッ!! ぎゃあああああああッっぐうううううううううううっ!! も、元はと言えば、追い越し車線をちんたら走ってたテメェの車が行けないんだろうが! あそこは俺みたいなイケてる奴しか走ったらダメなんだよ! ファミリーカーは端っこを走ってりゃいいんだよ! 死んで当然だクソが! ざまあみろ! ネットにもそういうことを書いてるやつが沢山いたぞ! 世間は俺たちの味方なんだよ! ぐううううううううッ……フーッ、フーッ!」
「その足がなければ、私がこんなに苦しむことはなかったのに! 私たち家族が、辛い思いをしなくて済んだのに!!! こうなる事もなかったのに!!!」
美咲は鬼の形相で男を睨む。
その迫力に男は気圧され目をそらし黙るが、痛みに引き戻され、絶叫する。
「ぐうううううううっ、ぎゃあああああああああっ!! 痛ぇ! 痛ぇえぇぇぇえぇぇぇっ!!!」
あまりの痛さに、男はうずくまる。腕で傷口を押さえたいが、繋がれた鎖がジャラジャラと音を立ててそれを阻止する。男の血を浴びた女は、次は自分がこうなる版だと悟り、一縷の望みをかけて美咲の目を見て話す。
「や、やめて! 本当に私は無罪よ! ただ乗っていただけなの! こいつがさっき行ったことは真っ赤な嘘よ! あなた、罪のない私を殺したら、絶対に後悔するわよ! 本当に、神に誓って私は関係ない! 助けて! 助けてください!」
「どうでもいいです。あなたもそいつも、この状況で一言も”謝る”という事をしないんですね。だから許しません。それと煽り運転の同乗者は同罪です。止められなかったのだから。同罪です。以上」
美咲は男と同じように、女の太ももに全力で刀を振り下ろした。刀の刃は地面まで到達し、ガキンッ! と音を立て火花が散った。
女は切り離された自分の足を見て絶叫。
「ぎゃあああああああああああああああああっ! 私の足が! この世で一番綺麗な私の足が!!」
そう叫ぶと、そのまま白目を剥いて後ろに倒れ、ビクビクと痙攣していた。
男は顔を歪ませながら、最後の力を振り絞って叫んだ。
「もういいだろ!? これ以上はお前も俺と変わらない人殺しだぞ!? 早く治療して、助けてくれぇええぇぇっ……」
この状況でも謝る事をしない男を、美咲は侮蔑的な表情で見下ろした。そしてゆっくりと、男の腕や肩、脇腹を、次々と切り刻んでいった。
「ぐううっ……」
男はもう、叫ぶことすらできず、涙を流し、言葉にならない言葉を発していた。
美咲はニヤニヤと笑いながら、男に見えるよう、女の首、胸、腹、を貫いた。
その光景を見て、男は現状をようやく受け入れ、目を閉じ、静かになった。
静寂――。
「お前らは、死んで当然なんだよ! お前らは人間じゃない! 悪魔だ! うわあああああああああっ!! 死ね! 死ね! 死ねええええええええええええええっ!!!」
狂ったように叫びながら怒りに任せ日本刀を振り回し、2人をバラバラに切り刻んだ。
はあ、はあ、はあ……。
気づくとそこには、血まみれの美咲と、二人だった者の肉片が転がっていた。
美咲はシャワー室に通され、用意されていた中から選んだ服に着替えた。
部屋の外で待っていた黒スーツの男が静かに美咲に近づき、通帳を手渡した。
「これが、彼らの全財産です」




