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魁!でんぷん娘♪

作者: 葵さくらこ

カラン


店のドアを開けた。「いらっしゃいませ」とここまでは普通の店と同じ。


しかし違っている点があったんだ。メニューが全て「でんぷん」だというところ。



「素敵なお店でしょ。すごく気に入ってるの。」



僕は粉がならぶメニューを喜々として見つめながら、「うーんどれにしよう…」とキュートに悩んでいた。愛らしい女の子の姿。


選んでいるものが「でんぷん」でさえなければ。



「私は釧路片栗にする。悠人は?」



僕に聞かれた。「じゃ僕も同じものを」と言った僕を彼女は落胆の表情で見つめる。



「独創性の無い人…。」



言いたい事は分かる。



ただ、でんぷんなんて詳しい男いるか?



出てきた。



正真正銘単なる粉だ。皿の上にそれが載る。



食べ方がまるで不明。意味わかんない。



きっと何か水で溶いて食べるのだと思うのだが、溶くべき水らしきものが見えない。



「何してるの?早く食べないの?さめちゃうよ。」



って、おいおい!何がどう冷めるんだ???




とにかくよくわからないが、僕はどうやって食べたらいいかサッパリ分らないので、そのまましばらく待つ事にした。



「僕は女性が先に食べるのが正しいマナーだと思うんだ。」とかなんとか言っちゃって。



彼女に先に食べる事を薦めた。




彼女はそのまま更に顔をつけ、舌ででんぷんを舐めすくった。






…そっそれでいいのか。。本当にそれでいいのか…。。。




オレはオチョくられてるのだろうか…???




「このお店、すごい人気でね、予約取るのも大変なんだー」と彼女。





こんな素っ頓狂な変態料理好むバカがこの子以外にも大量にいるって事か????謎だ!世の中とても謎だ!!!!




ただ、このまま食べないってのもどうかと思うので、オレも同じように皿を舌でぬぐった。




「ああーっ!それじゃだめぇーっ!!!!」と彼女。




っておいおい!何がどう違うんだっ!!!!



彼女が言うには、



・まず、周辺に飛び散った微妙な粉を舌で拭う。


・その後、「ほどよい山型」にでんぷんを整え、中央部に微妙なくぼみを作る。


・その後、そのくぼみの一部に、小さい切れ目を作り、そこが微妙に崩れるのを見て楽しむ。


・その後、大胆に山の麓から、一気に崩すように食す。





…だそうだが、そんな事、このコもさっきやってただろうか…。。



オチョくられてるのだろうか?という一抹の不安を心で感じつつ、この高度な舌技を駆使する事を僕は強いられる事になるのだが、当然だが、上手く出来ない。




落胆の表情を見せる彼女。




「慣れてないの?こういう店?」と、一気に "残念な人" を見るような目つきで俺を見つめる彼女。逆に聞きたい!慣れてるヤツなんているのか!?!?



「別の料理も食べたいな♪」



と、とびきり陽気に言ってみた。もう無理。粉は無理。




メニューを出してもらったら、やっぱり全部『でんぷん』だった…。サイドメニューすら無い。




この店はどうかしている。クレイジーだ・・。





「オススメは斜里郡斜里町でんぷん!」と彼女。




僕はどこまでこの子に合わせる必要があるのだろうか…。。粉以外に素敵な食べ物が山のようにある(例えば牛タンとか本マグロとか)という事をこの子の伝える必要があるのではないか…




「でんぷん以外にも素敵な食べ物はあるよ…」僕は言ってみた。




「でんぷんは…、、嫌い・・???」




今日一番の落胆の表情を見せる。どうして人は自分と同じ嗜好の人を求めるという傾向があるのか?嗜好が違うという事は、致命的にダメな事だろうか?



僕にはその答えは分らない。永久に分らない。



ただ、間違いなく言える事は、この子にとって、『でんぷん』は何事にも代え難い重要なファクターで、それが分らない人間は永久にNOだという事実だ。


つまり僕がこのコをモノにする為には、でんぷんをクリアしなければならないという点だ。



「水とかって…もらえないかな…。。」僕は水をお願いした。



さすがに粉だけじゃツライ。乾いてもう死にそうだ。



「水って…。。分った。水ね!水を頼めばいーんでしょ!?!?」




と彼女。もう落胆を越えて、怒りに似た表情になった。



何故だ!何故水もダメなんだ!!!




「でんぷんを食べてる時、一番のマナー違反は水なの!それはでんぷん農家に対しての最大限の侮辱なの!カレーを食べてる時に水を飲むのと一緒!それがカレー職人に対しての最大限の侮辱だというのと同じぐらい侮辱なの!カレーを食べる前、福神漬けを最初にスプーンですくうのと同じぐらい侮辱なの!ラーメン食べる時にシナチクから最初に食べるのと同じぐらい侮辱なの!分かる!?!?」




いや、わかんねw




もうアカン・・。危険信号が点滅しているが、僕の中で何か諦めきれないもうひとりの僕が "がんばれ!" とつぶやいている。がんばるのか!?!? がんばらなきゃダメなのか!?!?




ただ、ひとつの懸念は、もし仮にこの子と上手く行き、今後一緒に暮らす事になったような暁には、僕は毎日、この意味不明瞭な『粉』を食わされる事になるのだろうか?それを強いられる事になるのだろうか???



それは謎だ。そうなってみないと分からない。何も分からない。




ただ、ここで諦めちゃいけない!ここで逃げ出しちゃいけない!!!せめて今この状況を打破出来るだけの、何らかの秘策!つまり何らかの『素敵発言』によって、彼女のハートをガッチリ鷲掴みしなくては!!!!



僕は以下のように告げた。




「俺って、イタリア移民でサ、」




彼女真に受ける。多少罪の意識が…




「粉は絶対パスタにしないといけないという土地柄なんだ。だから僕のいた土地には粉をそのまま食べるという習慣が無いんだ。。粉を粉のまま食べると死刑だったからね。ただ僕は今、日本にこうして移り住んでいる。だからこそ僕は日本の良さをもっと知りたいんだ。アニメとヲタクと電気製品だけの国じゃない、古き良き伝統を持つ、日本古来のでんぷん食のすばらしさをね!」



と僕は付け加えたら、彼女の口元に再び笑みが戻った!よかった!回復だ!!!



日本古来のでんぷん食なんてモンがあるかどうかなんて知らない。



ちなみに「イタリアのどこ?」と聞かれたので、「ソレンツァーノ地方、叔父はサルバトーレ・ゴレッツァという詩人で、サッカーはクラブ・レマンターレノのファンだ!」と言ったら、全て真に受けていた。もちろん全部デタラメ。素直ないいコだ。



「こんどもっといいでんぷんのお店教えてあげるから!」




そんな感じで、この粉粉でんぷん娘との恋が始る事となったのだ!!!!





次回予告!:え!一家まるごと粉まみれ!(嘘





(えー、続きませんw)





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― 新着の感想 ―
[一言] ぷぷっ、面白すぎる……(*´д`*)
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