第一章 七話目
〜月斗視点〜
スマホから聞こえる二人の会話が一度落ち着いた事を知らせてくる。
胸を撫で下ろす間もなく、嫌な予感が湧き上がってきた。
「なんだよこれ……」
冷や水を浴びた様に冷えていく体。
まだ、何かある。
耳に聞こえてきた神社の一言。
行かなければと焦るのに一つのミスも許されない感覚。
カタン……
静寂な室内に響く乾いた音。
出所に目を向ければ視線の先には仏壇。
「ばあちゃん……?」
引き寄せられるように歩を進め、仏壇を見れば祖母の写真が倒れている。
その倒れた方向に視線を辿らせると棚の上に置いてある自分の御守り袋。
近所の氏神さんで買った、家内安全のやつ。
「ばあちゃん、ここに行けって言ってる?」
肯定するように、柔らかな線香の香りが鼻腔を擽る。
写真を直して、御守りを握り締めると妹とちょっと気になっている妹の友達を助けるために家を飛び出す。
自転車なんか乗ってられない、走った方がいい。
キュッと靴紐を結び直して目的地まで全力疾走する。
近づくにつれて空気が重いのを感じる。
下に辿り着けば、階段の上でどうにもならなくなっている可愛い妹の後ろ姿とその前には鳥居の境内に入って懸命に手を伸ばす咲ちゃんの姿。
翼の後ろを黒いモヤが覆う。
それは手から伸びて全体に広がっているように感じた。
あの手に持った袋をとって、賽銭箱に入れる。
それぐらいならオレにも出来る。
ばあちゃんと約束したんだ、オレは。
妹を守るって。
深呼吸して一気に駆け上がる。
「頑張ったね、あとはお兄ちゃんに任せなさい」
一言だけ声を掛けて、その手にある袋をスルッと引っこ抜いてそのままの勢いで鳥居を潜る。
賽銭箱に半ば叩きつける様に投げ込むと柏手を打って真剣にお願いした。
リビングで簡単に説明したあと、自分の部屋に引っ込んだオレは左の手のひらを開く。
そこには真っ赤に霜焼けのようになった10円玉の痕。
「名誉の負傷、かな」
痛みを絆創膏と塗り薬で何とか隠すと、自分の力の無さにムカついてくる。
翼はこれをずっと握っていた。
それこそ、咲ちゃんの部屋からずっと。
それなのに自分と同じようにはなっていない。
冷たく感じはしただろうが、こうはならなかったことを思えば自分との差に溜息が出る。
でもーー
「守るよ、ずっと」
リビングから聞こえる二人の楽しそうな声を応援歌がわりにして、決意を新たに顔を上げた。