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第一章 一話目


「降霊術しよ?」


きっかけは、咲のそんな言葉だった。


「は? 何、唐突に」

「だっておすすめにあったんだもん」

「“おすすめしない”じゃなくて?」

「ん? おすすめしか見てないからわかんない」


……ああ、こいつはこういうやつだ。


三原咲ーー高校に入ってからできた友人。いや、親友って言ってもいいかもしれない。

ゆるふわ可愛い系の童顔で、背中まである黒髪をゆるくまとめて、女の子から見ても“守ってあげたくなる”タイプ。

でも中身はというと、ホラーとオカルトに目がなくて、趣味は読書。ただし読むのは怪談か実録霊障体験談、口を開けば「この心スポの話知ってる?」なんて言い始めるというガチ勢寄り。

おかげでクラスではちょっと浮いてる……けど、まぁそれであたしと仲良くなったわけだ。


それにしても、「降霊術しよ?」って開口一番で言い出すあたり、懐いてるっていうか……うん、あたしの“特性”をフル活用する気満々なんだよね。


そう、あたしには、“人に見えない存在”が視える。

生まれつきそうだったし、あたしの兄ちゃんもぼんやりとなら視える。

なんならばあちゃんもそうだったらしいから血筋かな?父さんは視えないらしいけど聞こえるんだって言ってた事がある。

まぁだからこそ、あたしや兄ちゃんが変なこと言っても気持ち悪がられなかったわけだけどさ。


「で?色々あるわけだけど、何したいのさ」

「んふふ、よくぞ聞いてくれました! あのね、コックリさん!」

「よし、帰ろう!」

「ああぁ! 待って待ってぇぇっ翼ちゃぁんっ」


椅子から立ち上がってカバンを持ったあたしに咲はいつものように机越しに抱きついて来た。

こっちが振り払わないとわかっているのと、ただ単にくっ付きたいからだとは知っている。


「くっついてたら私にも視えないかな?」

「そんな都合良くいくか。ったく、なんでよりによってコックリさんなんだか……」


可愛い顔で首を傾げてもこちとら女だからときめかないが、うん、憎たらしいぐらいに可愛い。

自分にない可愛いさと提案された内容にため息をついて軽く咲の背を叩いてやる。


「 ほら、あたしんち行くよ。学校じゃ人目あり過ぎ」

「はぁい」


いつものことながら折れるしか無いと提案すれば笑顔で離れて、自分のバッグを抱えて早々と教室の出口へ向かって行った。

少しでも周りに迷惑が掛からないように学校から近い自分の家へ移動することにしたのはいいけど、あたし、咲に弱すぎか?


あたしはいくらボーイッシュな服を着ていても男に間違われることはない、主に邪魔でしかない胸部装甲のせいだろうけど。

ショートカットにダークブラウンの地毛、吊り目がちに小顔だから見た目は普通?なんだと思う。

でも身長の低い咲と並ぶとどうしても百合カップルに見られがちではある。

咲からしたらいい男避けにもなってそうだけど、本人にそのつもりはないからなぁ。

ただちょっと距離感が変な天然入ってるだけで。

ぼんやり歩くと横からスカートを引っ張られて視線わ向ければ、頬を膨らませて自分を見上げてくる咲。


「もうっ! 翼ちゃん聞いてないでしょ!」

「あー、ごめん。ボーっとしてた。で、何?」

「だからっ、どうしてコックリさんやりたいって言ったのかちゃんと説明してたのに!」

「おすすめだからじゃなかったっけ?」

「それもだけど、エンジェルさまやってみたけどダメだったから本家のやつやってみたいの!」

「はぁ?!」


思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を手で覆うと咲の手を掴んで走り出す。

目的地である家につけば、靴を慌ただしく脱いで急いでいてもクセで揃えると咲を自分の部屋へ押し込み、後ろ手でドアを閉めた。


「なになに、どうしたの? なんかいた?!」


意味もわからずに走ったことが何かあったのかと期待を込める目で見つめてくる咲に首を振って否定してその場にズルズル座り込む。


「なぁんだ、違うのかぁ。じゃあどうしたの? あと、下着、見えちゃうよー」


指摘され、軽くスカートの裾を引っ張り胡座をかいて座り直すと背筋を伸ばして咲をじっと見つめーー息をついた。


「なんで1人でそんな危ないこと……」

「1人で出来るやつあったから。でも動かないしちょっと不安になっちゃって……」

「不安になるならやらなきゃいいじゃん」

「やだ! もし動いても私じゃ居ても視えないからわからなくて不安だよ!」

「あんたはそういうやつだったわ」


真剣に取り憑かれてないか視て損したと肩の力を抜いて、ならどうして一人でもやりたがったのか。

そこまでして心霊に触れたいのもあるだろうけど、ゼロ感の咲じゃどうにもならないのは理解してるはず。


「何がそんなに気になんの?」

「知りたい……ううん、違う、気になるの」

「何が」

「月斗さん」

「6月6日生まれの雨男、うちの2年で今17才。見た目は完全優男で身長172センチ、ひ弱に見えるけどそれなりに力は強くて真面目なわりに柔軟な考え方。趣味は読書とあたしたちの世話焼き、最近ちょっと料理に目覚めたかも? って以外に?」

「私たちの世話って……そうじゃなくて、うーん、尊敬はしてるの。前からね? でもなんか……もう少しモヤモヤ? わからないからわかりたいの」


曖昧過ぎる答えによく分からないなぁと腕を組んで考えてみるも、答えは出ない。

わからないからコックリさんで知ろうとするのもどうかと思うけど、答えが出ないままにしないところをあたしは気に入ってるし、滅多なことはないだろうと付き合うことにした。

余程のことがなければ、そこら辺の浮遊霊程度だろうし。

カバンを手繰り寄せ、ルーズリーフでも出そうと開けたところで正方形の机に何かが出されたのが視界に入る。

ふと顔を上げれば良い笑顔でA4サイズの紙にしっかりと文字や数字、鳥居まで書かれたものを差し出す咲。


「用意してたのかぁ……」

「付き合ってくれるって信じてたもん」

「あー、はいはい。やるよ、もー……呼び出しは、あたしがやる。いいね?」

「うん!翼ちゃん大好き!」

「知ってる」


真っ白な用紙に書かれた文字達を眺めて何となく不安が過ったのを気のせいにして、鳥居に10円玉を置く。

二人で視線を合わせて人差し指を乗せればあとは唱えるだけ。

一つ二つ、深呼吸して眼を開く。


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