6.辺境良いとこ一度はおいで
私は辺境に帰還したその日、次期辺境伯への復帰を果たしました。
ダレンは当然ですが、騎竜の練習からやり直しです。
そして、帰還の翌日、私とリースは結婚式を挙げました。
父に「王太子から、側妃になるよう迫られた」と話すと、「すぐにリースと結婚式を挙げなさい」と言われました。
また王令でも出されたら、たまりませんからね。
結婚式は身内だけの、ささやかなものにするつもりでしたが、配下達は『王太子が我らがお嬢を婚約破棄するつもりだ』という情報を掴んですぐ、辺境に知らせ、私とリースが帰還次第、結婚式を挙げられるよう準備をしていたそうです。
思わぬ盛大な結婚式を挙げる事になり、領民達から祝福されて、私とリースは夫婦になりました。
それから半年後、王都は魔物のスタンピードにより、壊滅状態になったそうです。
やはり、パウラ嬢の結界は役に立たなかったようですね。
我が父である辺境伯は、騎士団の少数精鋭を伴って王都に登り、瞬く間に魔物を制圧しました。
父は私を『ド田舎の女』と散々馬鹿にした、王族や貴族達への嫌がらせとして、態と王宮や貴族の屋敷があるエリアを後回しにして、先に平民達を救った為、王都民の間で、父の人気が鰻登りになったそうです。
王宮が頑丈な造りだった為か、王宮にいた貴族や王族達は無事でした。
王は父を見るなり「貴殿の娘と王太子を、もう一度婚約させよ」と王令を出しました。
ですが、父は拒否。
そして、
「王と王妃、王太子を廃し、幽閉せよ。
そして、我が辺境伯家の者への王令の発令を、今後100年の間、禁ず。
それが守れぬなら、辺境伯家は今後一切、他領の魔物討伐を行わない」
と宣言しました。
慌てたのは他領の領主達でした。
領主達はこぞって、王家に
「早く辺境伯の要望を飲め!
うちの領を潰す気か‼」
と迫ったそうです。
王家は父の要望を飲む他なく、程なく王と王妃、王太子は幽閉されました。
父は『今後100年間、王令に従わなくて良い』という誓約書を受け取り、ご機嫌で辺境に帰って来ました。
ああ、王族や貴族達の悔しそうな顔、見たかったな。
本当なら、私が王都の魔物を制圧しに行く筈だったのに。
それが出来なかったのは、私が妊娠中だったからです。
討伐隊最強の男であるリースは、繁殖力も強かった。
子供が産まれるまで働けなくなった私の代わりに、リースは次期辺境伯代理として、バリバリ働いています。
あ、パウラ嬢はスタンピード直後、母親と一緒に忽然と姿を消したそうですよ。
あの美貌と男を手玉に取る技術があれば、どこでもやっていけるでしょう。
「それにしても、婚約破棄の半年後にスタンピードが起きるなんて、タイミングが良すぎないか?」
と思われるでしょう。
当然です。
私がそう調整したのですから。
パウラ嬢の結界が弱いと、バレるのは時間の問題でした。
そうすればまた、王は私と王太子を婚約させようとするでしょう。
私とリースが結婚していても、何らかの妨害で離婚させようとするかも知れません。
そうならないよう、王家を弱らせる必要があったのです。
私が王都にいた3年の間、父が一度も王都近くの森に討伐隊を派遣しなかったにも関わらず、スタンピードは起きませんでした。
王はパウラ嬢のお陰だと思ったようですが、それは違います。
私とリースが2人で、魔物討伐していたからです。
だって、暇だったんですもの。
王太子妃教育は早々に終了し、やる事といったら、貴族令嬢達とのお茶会、夜会の出席。
最初は情報収集の為、精力的に参加していましたが、すぐに飽きました。
貴族令嬢や令息の考えている事なんて、お洒落や出世、結婚や少し先の将来の事ばかり。
辺境での他国の者達や商人との、ピリピリするようなやり取り。
私の言動によって、国の存亡が左右されるかも知れない、緊張感。
そんなものが一切ないやり取りなど、全く面白くありません。
相変わらず王太子や王妃が、仕事を押し付けようとして来ましたが、彼らの為に小指一本動かす気はありませんでしたし。
暇だったのです。
なので父にお願いして、王都近くの森の魔物討伐をやらせて貰いました。
討伐隊が派遣されず、王は半狂乱でしたが、知った事ではありません。
『王太子が私との婚約を破棄しようとしている』という情報を掴んでからは、魔物討伐の数を減らし、ぎりぎりスタンピードが起きないラインを保っていました。
なので、私が王都を離れればすぐ、スタンピードが起きる事は、最初から分かっていたのです。
父は早くも祖父馬鹿を発揮し、王都で私のお腹の子へのお土産を探そうとしたそうですが、壊滅状態だったので無理でした。
それはそうでしょう。
産まれる前からこれでは、子供が産まれたら祖父馬鹿が炸裂しそうですが、リースは父を止める所か、一緒になって親馬鹿を発揮しそうなので、不安しかありません。
母が生きていてくれれば、父をぶん殴ってでも止めてくれたでしょうに。
仕方ありません。
お母さんが頑張りますよ。
だから無事に産まれて来て下さいね。
私の赤ちゃん。
後の歴史書にはこう記されている。
王都の壊滅より100年後、早速度を越えた王令が発令され、激怒した当時の辺境伯は即座に王都に登り、王を廃して自らが王になった。
アンドリュース王朝の始まりである。
王は自らの出身地である辺境を生涯愛し、引退後は妻と共に辺境の城に帰り、終の棲家とした。(終)