5.辺境伯の弟嫁
「リリア‼
あんた、ダレンをあんな狭い籠に詰めるなんて‼
見なさい‼
あんな、ちんまりと‼
うちのダレンは、サンドウィッチじゃないのよ‼」
「プフッ」
…今、リース、吹き出しましたね?
すんっとしても駄目ですよ。
ですが、私も結構ヤバかったです。
こちらを仁王立ちして睨んでいるのは、叔父ダリオスの妻、ドロレス。
ダレンの母です。
鬱陶しい事この上ない女ですが、キラリと光るギャグセンスだけは、嫌いになれません。
ドロレス本人には、笑わせる気が全くないのがミソです。
叔父は必死でドロレスを黙らせようしていますが、暴走したドロレスは止まりません。
「大体あんた、ズルいのよ!
王太子殿下と婚約なんて‼
私だって、若い頃は『蝶のようだ‼』なんて褒められたんだから‼」
蝶は移り気の象徴ですから、『浮気者』って貶されたんですよ、それ。
「若い頃の渾名は『ベニスズメ』よ‼
ピンク色の、とっても綺麗な蝶なんだから‼」
「いや、ベニスズメは蛾…」
つい突っ込んでしまうと、隣のリースが耐えきれず、声を上げて笑い出しました。
む、私でもリースをこんなに笑わせられないのに。
ドロレスの体を張ったお笑いに、ちょっと嫉妬します。
「ダリオス、ダレンは疲れているのだから、早く連れて帰ってやりなさい」
見かねた父が叔父に声をかけると、ドロレスは父にターゲットを変えました。
「お義兄様、リリアはダレンを籠に詰め込んだんですよ!
ダレンは竜に乗れるのに‼」
「ダレンは3年、竜に乗っていない。
未熟者が無理に竜に乗れば、振り落とされて、おしまいだ」
うんざりしたように父が説明すると、ドロレスは斜め上の返事をしました。
「あら、それならダレンを竜に縄で括り付ければ良いじゃないですか?」
皆、竜に括り付けられたダレンを想像したのでしょう。
耐えきれず爆笑する人々の中で、不満気なドロレス。
リースなど、笑い過ぎで泣いています。
「そうか。
では、今日そなたはそのようにして、帰るように」
出ました。
ドロレスお仕置きタイム。
父は定期的にドロレスにお仕置きして、反省を促すのですけれど、ドロレスは反省せず、同じ事を繰り返します。
「そんな事ばかりしていると、ドロレス様みたいになってしまうよ」
が領内の親が子供を叱る時に、よく言う台詞だそうです。
ある意味、領内の子供の教育に役立っていますね。
叔父は慣れた様子で、ドロレスを竜に括り付けています。
その手際は、見事なものです。
ああ、叔父上。
父への忠誠心が強く、騎士として優秀で、父や私が不在中、立派に城代としての任務を果たされる貴方の妻は。
「…何て面白いの」
王都には、こんな面白い芸人はいませんでした。
見世物として、商売になるんじゃないかしら?
「ぎえええっ‼」
ドロレスが謎の鳴き声を発しながら、竜に括り付けられて、飛んで行きます。
その様子をリースと並んで見ながら、新たな商売を模索する私なのでした。