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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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雑多な小噺

救い

「神に祈れば、救われる」

 その言葉を信じて、今日も私は祈りを捧げます。


 私の家はとても貧しかったです。

 家の中を隙間風が常に駆け巡り、硬いパンを大事そうにかじっていました。

 そんなある日、神殿により私に聖女の才能があることが発覚。私は連れて行かれました。


 聖女としての生活は、夢のようでした。

 今まで何も出来なかった自分が、人々の怪我・病気の治療という形で世に貢献する事が出来る上、パンを毎日1つ食べることができ、野菜や肉も偶に付いてくるのです。

 今までの生活から環境が劇的に改善されたことを神官様に感謝しようとしたら、神官様に

「感謝は神にするのです」

 と言われました。その日から、私は神様に毎日お祈りを捧げるようになりました。




「あの聖女、元は平民だったのですって?」

「治療遅いくせに高額な治療費を請求されるらしいぜ、医者に診てもらった方がマシだとよ」


 最近、治療を受けに来る方々の雰囲気がよくありません。早くしろ、とか色々言われます。どうやら、治療の速度を早めないといけないみたいです。精進しなくてはいけませんね。

 また、高額な治療費を払ったのにこれだけかよ、と言われたこともあります。事務の方で何か変更があったのでしょうか。治療費に見合った治療が出来るように、努力しなければいけませんね。




「偽聖女!お前を連行する!」

 ある日、私は唐突に連行されました。

 どうやら、私は魔女だったらしく、無意識に神託を捻じ曲げてしまっていたようです。

 本物の聖女の方は…とても綺麗な方でした。こんな薄汚い魔女とは比べ物にならないくらい。聖女として、相応しい容姿をしておりました。

 裁判の結果、私は暫くの拷問の後に極刑に処されることとなりました。穢してはいけないものを穢してしまったのですから、当然の報いというものでしょう。

 拷問されている間は、常に神様に謝り続けました。

 尤も、赦してもらえることなど、有るわけがありませんが。




 拷問最終日…処刑前日。

 神官様がやって来て、私に言いました。


「神なんてものはな。存在しないんだよ」


あざわらうかのように、はなたれた、そのことばで。

わたしのあたまは、まっしろに、なりました。




「偽聖女!」「金を巻き上げやがって!」「死んで償え!」

 私の今までの祈りは、何だったのでしょうか。

 今までの奉仕活動は、何だったのでしょうか。

 そう思いながら、処刑台に上がります。


「っ…え?」


 目の前に居たのは…


「お父…さん?お…母さん?」


 眠っているかのように冷たく固まっている、両親でした。


 …私の記憶は、その瞬間から暫くの間、曖昧になっています。

 ただ、がむしゃらに、自分でも分からないまま、自分が分からなくなるくらい、暴れていた記憶は、何となくあります。

 …そして、記憶がはっきりしてくる頃には、周りのものは、跡形も無く消え去っていました。すぐ近くに居た筈の処刑人も、両親だった死体も、私に怒りをぶつけていた方々も…記憶が正しければ、処刑台から数キロ離れた場所にある筈の王城も。周りにあるのは、草1つ無い更地。

 それらを一通り認識した途端、私の意識は途切れました。






 …目が覚めると、知らない場所に居ました。

「…あ、目が覚めた?よかった…!」

「…あの、此処は…?」

「貴女の居た王国の隣の帝国よ。巨大な魔力暴走が観測されたから調査してみれば、人が瀕死の貴女1人しか居なくて…」

「え…魔力、暴走………っ!!」

 途端に、曖昧だった思考が全てを思い出しました。そうだ、私はこの忌々しい力で、周りの方々の尊い生命を―――

「ーーー!!!」

「え、ちょっ!?何処行くの!?」

 まだ、気持ちが落ち着かない、けど。私のした事は、死んで償うだけでは赦されません。

 自分の魔力を意図的に暴走させて。

 ひたすら、苦しめてやる。

 一時の感情に任せて人々を皆殺しにした、こんな屑なんて。

 死ぬより酷い目に遭ってしまえば


「何やってるの!!!!!」

「…っ、離してください!」

「離す訳無いでしょう!?なんで急に死のうとしてるの!!」

「…こんな屑に、生きる価値なんて無いからですよ」

「………どうして、そう思うの?」

「………私は、大勢の人々の尊い生命を、奪ってしまいました」

「それに関しては知ってる」

「っ…だったら、理解るでしょう!?“早く”その手を、離して…」

 

 …あれ、なんで。


「ちょ――――なた、だい―――ぶ!?」


 なんで、急に、苦しく、なって―――。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………






 …あれ?

 急に、苦しくなくなって………


「…ごめんね、気付いてあげられなくて」


 私は、抱きしめられていました。


「…どう、して?」


 返答は、来ませんでした。




「改めて自己紹介するわね。私はアリア、この国の皇女よ」

「え…さ、先程は、無礼な発言をしてしまい―――」

「あぁ、気にしないで。それより、貴女の名前は?」

「あ、す、すみません!私はリリィと申します」

「リリィちゃん、ね。王国…元王国で何があったのか、説明できる?出来れば、貴女の身の上話も話して欲しい」

「…分かりました」

 …私は、全てを話しました。今までのことを。

「そういう訳で、私は…」

「…ねぇ。おかしいとか、思わなかったの?生活環境はまぁいいとして、治療費の話とか、偽聖女の話だとか」

「あの頃の私は、神様第一だったので…今では、明らかにおかしいなと思います」

「…そう」


 暫しの沈黙。それを破ったのは、皇女様の方でした。


「行くあては有るの?」

「無いことは無いです。何処か適当な場所で、贖罪しながら野垂れ死ぬつもりです」

「…正直、貴女には何の罪も無いと思うわ」

「…大勢の人々を殺したのに、ですか?」

「その人達は、貴女に暴言を吐くだけ吐いて、一生懸命治療をしていた貴女の事を助け「一生懸命?笑わせないでくださいよ」


 一生懸命やっていたら、人々から文句など言われなかった筈だ。


「明らかに技量不足修練不足の治療の何処が一生懸命ですって?」

「…一生懸命と言うのは、その時出来ることをがむしゃらに精一杯行う様子の事よ。貴女は治療を一生懸命やったんじゃないの?」

「………」


 その定義なら、確かに私は一生懸命やったのかもしれない。だけど…


「…じゃあ、どうして神官は、『お前が一生懸命やらないからだ』なんて言ったのでしょうか…」

「単純よ。貴女が何も知らずに無駄な努力をする様子を見て楽しんでいたのよ」

「………」


 ………


「………」

「貴女、何処に行くの?まさかまた死ぬ気じゃないでしょうね?」

「こんなどうしようもない屑に、生きる価値などありませんから」

「………」


ぎゅっ


「っ…?あの、離してください」

「やだ」

「お願いです、離してください。それ、やられると、何だか、おかしいんです…!」

「…ある所に、小さい子が居たのよ」

「…え?」

「その子は、親と弟と侍女から毎日のように『お前は出来損ないだ』って言われていたの」

「…酷い」

「そう言われて育ったから、その子の自己認識も“出来損ない”だったのよ」

「…その子は、どうなりましたか」

「本来有るべき家族の元に帰れたわよ。だけど、まだ自分を出来損ないだと信じて疑わなくて…1回、自分で自分の生命を棄てようともしたの」

「えっ…」

「けど、妹が止めてくれて。今まで知らなかった“愛情”っていうのを知ったの」

「…綺麗な話ですね。私には似合いそうもない」

「あら、そうかしら?私は、意外と近い状況だと思うけど?」

「え」

「貴女は、小さい時から『貴女は聖女だ』と言われてきたのよね?」

「あ…」

「その間、誰かから愛された事はあった?」

「…え」

「そう、だから、近いのよ」

「あ、あの、抱きしめる力、強めないでください!なんか、からだの中の、なんかが、変で、おかしくなりそうで…怖いんです………!」

「今まで、辛かったね。苦しかったね。もう大丈夫。我慢しなくていいよ」

「わ、私、別に、我慢なんて―――」

「泣きながら言っても説得力無いよ」

「ふぇ!?あ、ぁの、抱きしめながら、頭、撫でないで、ください!なんか、ふわふわして…!」






 ―――数年後。

「本当に良かったのでしょうか…」

 聖女時代に鍛えた治癒の力で、魔導診療所を開くことになりました。

「ううん、きっと、これで良かったのだと思います」

 自分にそう軽く言い聞かせ、開業。


 …正直、まだ不安です。他の医療機関と相談したとは言え、かなり高めの治療費となってしまいました。

 最初の患者様は、どうやら建設現場で腕を骨折されたようです。即時回復を希望だったので、治癒の能力で骨を繋げ、傷付いた筋繊維を修復します。

「いやぁ、助かったよ!お釣りは要らねぇ、ありがとな!」


 …治療で、初めて、お礼を言われました。

 って、ちょっ…!?


「10金貨…!?」


 治療費は3金貨だったんだけど…って、1つだけ金貨じゃない。金属箔と…


「…チョコ」


 その人はもう行ってしまったので、お釣りもチョコも有難く頂きました。

 ………人から感謝を伝えられるって、こんなに嬉しいことだったのですね。


「リリィ、調子どう?」

「あ、アリア様!」

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