辛い飴
商店街のくじ引きで、ハバネロ味のアメを二つ貰っちゃった。
一つ食べたけど、かなり辛くて。とてもじゃないけど舐めきれなかった。
もう一つ残っているけど、家族は誰もいらないって言うし。捨てるのも勿体ないから、学校ででも誰か欲しい人いないか聞いてみようかなぁ。
翌日、部活の朝練のため早く学校に向かった。昇降口の所で、野球部の男子生徒数人に会う。
「おはよー、ねぇ誰かハバネロ味のアメいらない?」
いらねぇ、誰か食べてみろよ、という声が飛び交う中。
「彼女が辛いの好きだから、頂戴」
そう言ってきた彼にあげた。見かけた事はあるけれど、話した事はない。名前も知らない。
「ヒュー、やさしーい」
「うるさい」
他の男子にからかわれてるけど、彼女思いの良い奴じゃないか。
***
朝練後、教室に向かうとさっき飴をあげた彼が出てきた。クラス違うのに。
「あ、さっきは飴ありがと。辛かったけど、うまかった」
「あれ、結局自分で食べたんだ」
「うん、まぁ、うん」
「辛いの好きなの?」
「いや、そんなに好きじゃないけど。甘さもあったから。じゃ」
甘さなんてなかったけど、種類によって違ったんかな。まぁ気に入ったなら良かった。
教室に入ると、友達が口元を抑えながら俯いている。
「おはよ。どしたの? 顔真っ赤だけど、具合悪い?」
「ううん……辛い飴食べてんの。ホワイトデーのおまけって、貰って」
そういえば今日はホワイトデーだったっけ。とくにバレンタインに誰かにあげたりしなかったし、忘れてた。
よく見れば彼女の手元には、プレゼントらしき小さな箱があった。それとは別に飴を貰ったのか。
「あれ、辛いの好きだっけ? じゃあさっきの飴もあげれば良かったな。すっごい辛くて……ん?」
今この教室には、私と彼女しかいない。
あの飴をあげた彼は、彼女にあげると言っていた。けど、自分でも食べたらしい。
目の前にいる彼女は、口の中に辛い飴が入っているという。
私は友の顔を見るも、彼女は目を合わせようとしない。
……アイツ! 人のあげた飴でイチャつきやがった!